障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

20年8月23日更新

2020年「すべての人の社会」8月号

2020年「すべての人の社会」8月号

VOL.40-5 通巻NO.482

巻頭言 新しい生活様式のなかで障害者の社会参加をすすめよう

NPO法人日本障害者協議会理事 伊東 良輔

 令和2年4月7日、新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき緊急事態宣言が発令されました。

 コロナ禍により学校・会社が休みや少人数での運営となり、大人数の集まる会議や研修会も中止となり、感染拡大防止の視点から提案された「新しい生活様式」により我が国ではパラダイムシフトが起きていることに注目したいと思います。

 緊急事態宣言発令中、「密閉・密集・密接」、いわゆる3密を避けるために企業では自宅で業務を行う「テレワーク」や「Web会議」を導入する企業が多く出現しました。

 テレワークを行うためにはインターネット環境や必要となるハードの準備が必要ですが、通勤の必要ない業務が存在することを認識する良い機会となりました。

 今まで職場に出勤しデスクについて仕事をすることが当たり前であった社会でしたが、通勤の必要のない「テレワーク」が一般的に認識されるようになり、集合して開催することが当たり前であった会議が資料を事前にEメールで送信し、当日はWeb会議で端的に議論するスタイルになりました。これにより、通勤時間の削減や業務効率化が図られ、長時間会社に在籍していることを評価されるのではなく、どのような業務を行なったのかという能力(成果)主義に変化してきました。

 私は視覚障がい生活訓練等指導者(通称:歩行訓練士)として、白杖歩行訓練をはじめ調理訓練、音声読み上げパソコンの利用等のコミュニケーション訓練、調理や掃除などの日常生活動作訓練等を行う視覚障がいリハビリテーションという分野で現在も視覚障がい者支援に携わっています。今回のコロナ禍における在宅ワークの推進に一般企業はもとより就労系サービス事業所にも取り組んでもらいたいと考えています。

 なぜなら、私が支援する視覚障がい者の多くは外出時に同行援護という外出支援のサービスを利用しているためです。同行援護とは外出時の移動の支援と情報提供を主とする視覚障がい者の障がい特性に対応したサービスですが、このサービスは経済活動に関する利用は禁止されています。移動に困難を感じる視覚障がい者が社会参加する手段の一つとしてテレワークが普及することを願います。

 今後、テレワークをはじめとするリモートワークが一般的となり通勤の必要のない仕事が社会に増えてきた時には、外出が困難な障がい者がテレワークを行えることで社会参加できるよう、私たち支援者は社会に働きかけていかねばならないと強く感じています。

視点 教育に「愛と手」を-文科省・有識者会議 ICT政策に思う-

NPO法人日本障害者協議会副代表 薗部 英夫

 コロナ禍が続く中、知的障害のある娘さんのお母さん(85歳)からメールが届いた。「パソコン通信」時代からの四半世紀をこえるつながりだ。数えると、わが母と同じ年齢なのだと気がついた。

 メールにはこう綴られていた。「コロナウイルス、おまけに豪雨、大変な世の中になりました。こうしてキーを打ってる間も危険にさらされている人たち…。今、無事でいることが奇跡のように感じます。娘の入所施設は、面会謝絶。お母さんはどうして来てくれないのか、と思っていることでしょう。見えないウイルスを知らせたくて、でも、どのように描いて見せるかで悩みました。その小さな絵本を届けてもらった…でも、読んでやることはできません。娘は56歳、時はゆっくりゆっくり過ぎていきます」

 お母さんは、施設の面会謝絶が続く中でも、絵本に託して、娘さんにコロナのことを伝えたいと願った。「知的障害」といっても、「軽い」「重い」「重複」などなどさまざまで、それぞれの難しさがある。暮らしていくにはいろいろな支援が必要だ。

 そんなことを感じているときに、文科省「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」が、「これまでの議論の整理(案)」を出した。「案」は、つぎの5点を柱にしている。

Ⅰ 特別支援教育を巡る状況と基本的な考え方
Ⅱ 障害のある子供の学びの場の整備・連携強化
Ⅲ 特別支援教育を担う教師の専門性の向上
Ⅳ ICT利活用等による特別支援教育の質の向上
Ⅴ関係機関の連携強化による切れ目のない支援の充実

 なかでも「Ⅳ ICT利活用等による特別支援教育の質の向上」は、かなり力が入っていると読める。

 たとえば、「2.ICT活用による指導の充実と教師の情報活用能力」で、「あらゆる障害種に対し、その指導の充実に大きく寄与している」とある。でも本当に「あらゆる障害種に対し」「指導の充実に大きく寄与」しているのだろうか?たとえば、重度の知的障害、重症心身障害のある子どもたちの場合など、まさに「あらゆる障害種」に対して、教育の論理で、実践方法含め、総合的な調査、研究が必要ではないのか。

 また、「Ⅱ障害のある子供の学びの場の整備・連携強化」では、「3.特別支援学校における教育環境の整備」(特別支援学校のセンター的機能の強化)で、「小学校等に在籍する子供が特別支援学校の教師のICTを活用した遠隔からの専門的指導を受けたり」とある。視覚や聴覚に障害のある子どもたちが、"小学校の段階"で"ICTを活用した遠隔"指導を受けることが可能なのだろうか?実態に即した教育的な吟味が必要だろう。

 スウェーデンの友人によれば、コロナ禍の下でも、特別支援学校含めて小中学生には学校での対面での集団を大切にした授業を継続し、高校、大学においてはオンライン授業が徹底されているという。現場を訪問した際に痛感したが、電子黒板やインターネット環境の完備にとどまらず、小中学校でのICT教材は、発達障害に限らず、知的障害含め、さまざまな障害や実態を考慮した研究開発があった。ICT教材を利用する教員間での実践的な集団検討もされていた。

 JDF(日本障害フォーラム)は、この「議論の整理(案)」に対して、障害者権利条約、差別解消法、バリアフリー法の観点から、つぎの意見を提出している。「視覚障害、聴覚障害、盲ろう、肢体不自由、知的障害、発達障害などがあるすべての児童・生徒が利用できているのかどうか、アクセシビリティの問題や、使える子/使えない子といったデバイドが生じていないか検証が必要」。

 パソコン通信の時代、花田春兆JD副代表(当時)などと「愛(I)と手(T)」革命を!と政府に要請を重ねた。その肝は「手」だった。「助け手」「支え手」が大事なことは今のいまも変わらない。

2020年7月の活動記録


What's New! 駅の無人化とノーマライゼーション

―さいたまの運動から― 加納 友恵(虹の会事務局長)




障害のある人と扶養義務制度

藤井 克徳(日本障害者協議会代表)




連載 優生思想に立ち向かう

第17回 いのちの重みを胸に
林 優子(あかしあ労働福祉センター利用者)




連載 VHO-net20年の歩み④つながっているからできること

学び、つながり、地域に活かす-障害者団体とVHO-net-
阿部 一彦(社会福祉法人仙台市障害者福祉協会会長)




コロナ禍の影響調査

コロナ禍で進む居宅支援事業の危機
今治 信一郎(社会福祉法人ゆたか福祉会 ライフサポートゆたか所長)




トピックス・各地のうごき・読書案内



ひろがれ!『えほん障害者権利条約』英語版

Ghulam Nabi Nizamani(ASHAコーディネーター、シンド州、パキスタン)




聞こえない、聞こえにくい人の本当のバリアフリーをめざして

~「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」成立~ 佐々木 良子(一般社団法人全国手話通訳問題研究会理事)




連載 エッセイ 障害・文化・よもやま話

第21回 「優生思想」に悩んだ障害者たち―「歌」で触れる手術の痛み― 荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




表3 JD講師派遣事業・・リモートでの講演も



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