障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

20年5月28日更新

2020年「すべての人の社会」5月号

2020年「すべての人の社会」4月号

VOL.40-2 通巻NO.479

巻頭言 コロナ禍に思うこと

NPO法人日本障害者協議会理事 木太 直人

 新型コロナウイルスが世界中を席巻しています。私たちの日常生活の景色は一変し、誰もが成しえなかった世界制覇を超微小な病原体が一時的とはいえ成し遂げようとしています。それにしても、ヒトをはじめ生物の体内に取り込まれることではじめて増殖できること、無症状者からも感染の可能性があること、少しずつ遺伝子変異が起こることなど、その生存戦略は相当なものです。

 このウイルス禍によって、市場主義を基本とするグローバル経済社会の脆弱性が露呈しました。孤立や孤独が社会問題とされてきましたが、感染拡大防止の観点から今はすべての人に社会的距離(ソーシャルディスタンス)を取ることが求められています。ウイルスは誰もが感染可能性があり、誰もがそのことに不安や恐怖心を抱いており、その意味では平等と言えます。しかし、残念ながら高齢の人、障害のある人、低所得の人など社会的に弱い立場におかれた人ほど、生活にかかる困難性が増していき、更なる不平等が発生します。また、不安や恐怖心が蔓延すると、そのはけ口は感染してしまった人に向けられ、差別的な発言や行動をいとも簡単に誘発します。その人もすでに感染しているかもしれないのに。

 そんな中でも、私の仲間である支援者は、行政機関で、医療機関で、そして障害福祉サービス事業所で奮闘しています。保健所に勤務するある精神保健福祉士は、通常の精神保健業務に加え、感染症の患者や検体の搬送、濃厚接触者のリスト作成や健康観察、資料作りやマスコミ対応、医療機関のバックアップなどに奔走しています。休みも取れない状況にあって、市民からのPCR検査の問い合わせ対応や、感染者の住所を教えろなどの自分よがりの電話への対応は、彼をして精神的にぎりぎりのところまで追い込んでいきます。こうした支援者たちへのバックアップ支援も必要なことです。

 目に見えない存在に、今、私たちの社会のあり様が試されています。コロナ禍が収束して人々が安寧を取り戻したとき、世界はどのような景色を描いているでしょうか。国境も人種も民族も性別も性差も世代も障害の有無も超えて、すべての人を包み込む社会を作るために、改めて連帯や寛容、そして希望が世界共通のキーワードとなっていることを願ってやみません。

 そのときには、ウイルスとの共存も忘れないように。

視点 コロナ禍から考える「当たり前の暮らし」

NPO法人日本障害者協議会 副代表 石渡 和実


 今、世界中、全ての人々が「見えない敵」と闘わざるをえなくなっている。新型コロナウィルス、これほどまでの猛威を振るうとは、誰も予測していなかったのではないだろうか。

 2 月、横浜港でクルーズ船の乗客に感染が相次ぎ、自分の部屋から出られない日々だと聞いて思い出した言葉があった。2014 年7 月、新潟県燕三条で開かれた日本ケアマネジメント学会大会で、拉致被害者であった蓮池薫氏による講演である。「生きるとは選択の自由が保障され、夢を実現させ、自らを輝かせることである。拉致によって自分の力では何一つ決めることが許されず、家族との暮らしさえ断たれて、人生の目標・夢をすべて断ち切られた」。

 蓮池氏は終始、穏やかな口調で話されていたが、この時ばかりは会場全体に凍り付いたような緊張感が漂った。「選択できる自由」「自己決定」の重要性を、自らの厳しい体験から私たちに呼び覚まさせてくれたのである。クルーズ船の人々が置かれている状況は、質的に違いはあるにしても思いとしては同じだと、まだこの時は「他人事」として考えていた。

 しかし、4 月7 日に7都府県に緊急事態宣言が出て、4 月16 日には全国が対象となった。ひたすら、「Stay home!」が叫ばれ、「選択の自由」は大きく制限されることになった。立場や地域によって切迫感に違いはあるが、誰もが息苦しさや閉塞感を感じている。そして、この間のわが国の「指導者」と呼ばれる人々の決断には失望するしかなかった。マスクの全戸配布など、この人たちには厳しい状況にある人々の生活は全く理解されておらず、「思い付き」で政治判断がなされ、どんどん追い詰められてしまっていると考えざるをえなかった。

 JD の4 月の理事会は初めて書面表決となり、藤井代表による文書での挨拶が届いた。2 点を強調している。第1 に、「何よりの感染防止策は、『動かないこと』『集まらないこと』の二つに尽きます。…考えてみれば、この二つはJD が日頃から大切にしていることとは真逆のことです。」(思わず笑いも…) 第2 に、このような状況下での障害者の生活に触れ、話題になっている「命の選別」にも言及している(改めて気持ちの引き締めが…)。

 JD はコロナ問題に関して、4 月20 日安倍総理・加藤厚生労働大臣宛てに要望書を提出した。ホームページに掲載されているので、ぜひ一読していただきたい。

 こうした中で、JD とも関わりが深く、「福祉のまちづくり」のパイオニアであった日本大学教授・野村歓先生の、20 年余り前の言葉も思い出された。「『社会的弱者』という言葉はなくならなくてはならないが、最後まで残るのが『交通弱者』と『災害弱者』だと思います。」 2011 年3 月11 日の東日本大震災の後、一瞬にして厳しい状況に陥った人々との「連帯」が叫ばれ、様々な行動が展開された。今、「ワンチーム」が強調され、「世界を1つに」といったキャッチフレーズも広がっている。

 全ての人が厳しい体験をした後だからこそ、「弱者」と呼ばれてきた人々に思いを馳せ、自分の生き方を自分で決める「当たり前の暮らし」が、誰にも行き届く社会を一丸となって実現していかなければならない。津久井やまゆり園事件にこだわる立場からも、「事件を悲劇に終わらせるのではなく、これを機に社会がどう前に進むか」を考え続けている。今回のコロナ禍も同じである。ヨーロッパ人口の三分の一以上が亡くなった中世のペスト禍の後、あの輝かしいルネッサンス期が誕生したという。今度は何を生み出すことができるか、改めてJD にも、社会全体にも問われている。

2020年4月の活動記録・講師派遣


コロナ禍を乗り切る

トリエステからテレフォン精神保健のすすめ
大熊 一夫(ジャーナリスト)




教育と福祉のあゆみと今後

子ども期の課題の独自性に注目して
中村 尚子(全国障害者問題研究会副委員長)




連載 優生思想に立ち向かう

第14回 人間なき合理とやまゆり園事件
最首 悟(和光大学名誉教授)




災害と障害者

豪雨災害時における重度障害者避難の現状と課題
―令和元年台風19号による障害者支援施設初雁の家の被災から―
内山 智裕(社会福祉法人けやきの郷総務部長兼災害対策副本部長)




新連載VHO-net20年の歩み①

つながっているからできること VHO-netの誕生から20年
出会い つながり 創り合う
増田 一世(日本障害者協議会常務理事・やどかりの里)




トピックス・読書案内



JD40周年⑤

災害時には支え合い、政策実現のためには手をつなぎ結集
荒木 薫(JD事務局長)




私の生き方

第70回 当事者、支援者、そして研究者として歩んでいきたい
山森 一希(筑波大学大学院人間総合科学学術院)




表3インフォ 「共用品」検索サイト今秋リニューアル!



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