19年8月19日更新
VOL.39-5 通巻NO.470
NPO法人日本障害者協議会理事
一般社団法人日本作業療法士協会会長 中村 春基
この度、新しく理事に就任いたしました日本作業療法士協会会長の中村春基と申します。これから2年間、JDの活動に積極的に取り組んでまいりたいと存じますので、どうぞ宜しくお願い申し上げます。
さて、当協会の2018年度定時社員総会におきまして、協会による「作業療法の定義」の改定案が承認されました。新たな定義は、「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。」というものです。健康の側面から生活に困っている全ての人を対象に作業療法を提供していくことを宣言し、地域共生社会、インクルーシブ社会の実現を目指す国策に沿ったものであると自負しております。
その一方で、作業療法に対する国民の理解度を見ますと、一般的にリハビリテーションという言葉は機能訓練を意味するものと認識されており、「活動」と「参加」という生活機能全般の向上を専門とする作業療法についての理解は進んでいないのが実情です。趣味や仕事、地域活動など、その人にとって価値のある作業の遂行が健康の維持・向上に役立つことは多くの国民が認識しているところですが、その考え方が障害のある方の生活にまでしているかといえば、まだまだ多くの障壁があるように思います。
そのようななか、本年7月13日・14日に岡山で開催された「第9回重症心身障害児(者)の生活を支援する作業療法フォーラム」において紹介された事例は、当事者の尊厳を守り、当事者の自己選択・自己決定をいかに支援し保障するか、問題とされる行動も実はその人にとっての表現手段であり、支援者はその見方を変える必要性があること、重度の四肢麻痺で人工呼吸器を装着している方でも、瞬きや視線の動きでコミュニケーションをとることで「参加」の支援が可能なことなど、多く報告がありました。今後もこのような取り組みをJDのなかで発信させていただき、「人は作業を行うことで健康になれる」という作業療法の考え方を国民に広め、リハビリテーション専門職として地域共生社会の実現に取り組み寄与してまいりたいと存じます。
引き続きのご指導とご鞭撻をお願い致しまして、ご挨拶とさせていただきます。
NPO法人日本障害者協議会 副代表 石渡 和実
2016年7月26日、津久井やまゆり園で元職員の植松聖によって入所者19人が命を奪われ、27名が負傷した事件から3年が経った。しかし、5月28日には川崎市で登校途中の小学生ら2人が亡くなり18人が負傷、7月19日には京都アニメーションが放火され35人が亡くなるなど、理不尽な事件が今も続いている。誰もが大きな衝撃を受け、悲しみにくれているが、こうした事件を「悲劇」に終わらせてはならない、というのも切実な声である。やまゆり事件から3年の神奈川県内などの動向を紹介し、私たち福祉関係者には何が求められているかを考えてみたい。
注目されるのは、まず、やまゆり園再建関連である。今、横浜市で暮らしている131人の生活の場として、①津久井の施設、②横浜の施設、③グループホーム、などの選択肢が用意されることになった。そして、本人がどのような生活をしたいかについて「意思決定支援チーム」により、それぞれの意向を確認する作業が進められている。その結果、グループホームに移行した方も出て、これまで障害が重度で意思表明ができないとされていた人々への新たな支援が展開されている。確実に本人の意思に沿った支援が実現できるのか、しっかりと経過を見守り、今後の地域生活支援のあり方を考えなくてはならない。
こうした意思決定支援をチームで展開する手法を県下の他施設にも広げていくために、JDが講師派遣を引き受けて研修を実施している。また、7月10日・11日に横浜で開かれた知的障害者福祉協会(以前の愛護協会)の第50回関東大会では、津久井やまゆり園事件を機に今後の施設支援を考える分科会が開かれ筆者も講師を務めた。会場に入りきれないほどの参加者で、フロアから若い職員の前向きな意見が次々に出されていた。
神奈川県教育委員会では、今年4月、『かながわ「いのちの授業」ワーク集』を発行した。事件を機に県が定めた『ともに生きる社会かながわ憲章』の理念を広め、共生社会の実現をめざすために中学・高校で教材として活用される。あらゆる差別をなくすアメリカでの教育体験に触れた「RespectOthers」という中学生の感動的な作文、障害者権利条約の合理的配慮や社会モデルに注目した文章なども掲載されている。身近なテーマについて集団で議論し、国連のSDGs(持続可能な開発目標)の理解までめざそうとする。うまく活用され、あらゆる「いのち」の尊さを若い頃から実感してほしいと願わずにはいられない。
また、相模原市に隣接する東京都町田市では6月21日、障害児の親たちが事件について考えるセミナーが開かれた。衝撃が大きかっただけに話題にできないままだったが、3年が経とうとする中でようやく議論できるようになったという。親へのアンケート結果も紹介され、「刃が向けられるのでは」と本人や家族が抱いている大きな不安、「障害者は不幸を作るだけ」という考えにどのような発信をすべきかなど、今も悩み続けているという。ここにはやまゆり園家族会の尾野剛志さん、元職員の太田顕さんなども参加してくださり、親御さん達に心強いメッセージを送ってくださった。
事件から3年。「風化」などの言葉も聞かれるが、神奈川県内や身近な人にとっては今も緊迫した、切実な想いが湧き上がってくるのはどの立場も同じである。だからこそ、その気持ちを共有し、力を結集して、地域を少しずつでも良い方向に、と歩みを続けている。JDとしてもさまざまな形で事件後の活動に関わり、多くの方々と協働していきたい。
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障害者権利条約、基本合意・骨格提言の実現をめざす 基本合意10年全国集会(予告)
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