障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

17年12月18日更新

2017年「すべての人の社会」12月号



2017年「すべての人の社会」12月号

VOL.37-9 通巻NO.450

巻頭言 アジアの障害者政策と現状

NPO法人日本障害者協議会理事 公益社団法人日本発達障害連盟会長 金子 健


 2017年11月18日から23日までの6日間、バングラデシュの首都ダッカで、第23回アジア知的障害会議が開催された。アジア知的障害連盟の主催によるもので、隔年に会員国持ち回りで開催されている。1973年にフィリピンのマニラで第1回が開かれてからすでに40年以上が経過したことになる。日本発達障害連盟が会員となり1975年の第2回が東京で、2003年の第16回がつくば市で開催された。会員は日本をはじめ、フィリピン、韓国、台湾、インドネシア、スリランカ、シンガポール、インド、香港、マレーシアなどで、知的障害、発達障害の分野における政策や研究、実践の情報交換や協働において成果をあげてきているが、会費納入の遅滞や中国の参加をめぐる課題も抱えている。
 アジアのいわゆる途上国の多くでは、つい最近まで障害のある家族を座敷牢に閉じ込めておくような状況があった。その存在を恥じてという側面と同時に、家族で支えるという自助の概念でもあり、狭い範囲の近隣で支え合うという共助の認識でもあった。そこに当事者運動や国際的運動の影響を受けつつ、公助を求める動きが芽生えてくるのである。
 近年の大きなテーマは、それぞれの国での個人の権利や学校教育の保障、社会参加の促進、インクルーシブ社会の構築などであり、その根底には常に国連の障害者権利条約が意識されている。
 バングラデシュは、日本の約4割の国土に1億6千万の人口を抱え、人口密度は世界最高のレベルだという。成人の識字率は70%程度だが、学校教育は近年整備されつつある。
 障害者政策は民間主導で、DPIのメンバーであるバングラデシュ障害者福祉協会や、今回の主催団体であるバングラデシュ知的障害者協会などが、国際組織と連携して活動してきた結果として、政府も福祉分野に力を入れるようになった。この国の障害者権利条約の批准は2007年12月で、2013年には国内の障害者権利擁護法を制定している。
 今回の会議のテーマは、「受容、アクセシビリティ、インクルージョン:持続可能な発展に向けてのカギ」。国連のSDGsを意識してのテーマ設定であり、参加国に共通した課題である。「誰一人取り残さない」というフレーズもたびたび聞かれたが、ダッカの市内に出ると、車も人も我先にと先を争う激しい渋滞があり、路上の物乞いのほとんどは障害者という現実がある。どこの国にもある様々な格差をどう解消していくか、私たちすべてに課せられている。

視点 エマとアンダースの合理的配慮 ガレゴス議長のおもい

NPO法人日本障害者協議会副代表 薗部 英夫


 南スウェーデンの海辺の町・イースタッド(Ystad)は人口2万8000人の自治体だ。顔の見える程度の小さな町で障害者がどう暮らしているか訪ねて、この秋14度目の北欧の旅となった。
 知的障害者のグループホーム「ベレヴュー 15」には8人が、スタッフ9人の支援を受けながら「アパート」で暮らしている。
 住人のエマさんがにこやかに語ってくれた。33歳という彼女は、ウイリアム・シンドロームにより知的障害があり、心臓病もある。
 「肺には血栓があって肺炎にもなった。二度ほど死にかけたけど“女性のサムライ” としてがんばった」「ガクトの歌が私を救ってくれたの。日本のみんなと会えて嬉しい!」。彼女は、日本のシンガーソングライターGACKTの大ファンなのだ。
 「これ以上のいい住まいはないと思ってる」「いままで三度里親を替わったが、ひどい扱いもされた」「ここは人間性のある人たちばかりで、なによりも私を障害者としてではなく、一人の人間として接してくれる」。
 エマさんの「家(アパートの一室)」を見せてもらう。リビングやベッドルームを案内してくれた。
 「料理は自分でします。得意です。夜は簡単な肉団子、ハンバーグ、パスタをつくる。お菓子を焼くのも得意!」「この間は友だちがここに来て、泊まってってくれたの」。
 「いま楽しいことはなんですか?」と聞くと、「コーヒーショップ、映画、ショッピングが好き。一週間に一度は学校(特別支援学校内にある成人の特別学級。難民も対象)で、英語やスウェーデン語、歴史を勉強してる。楽しいよ!」。
 スウェーデンでは、1968年教育を受ける権利が確認された。1994年、LSS法(障害者への援助及びサービスに関する法律)が実施され、45平米の住まいやパーソナルアシスタントが保障された。
 訪問の様子を見ていたアンダースさんが「オレの部屋も見てもいいよ」と言ってくれた。ブルーで統一されたシックな部屋。サッカーとハードロックが大好きだと言う。すてきな女性と一緒の写真が飾ってあったので、「彼女?」と聞くと、隣の部屋に目線を移して赤くなった。
 「サッカーの日本代表は一足先にロシア行きを決めたよ」と言うと、彼は、「来週はトットナムのゲームを見に行くんだ」。夜勤専門のスタッフ含め4人でロンドンにサッカー観戦に行くのだそうだ。
 「早期年金」としての障害者年金は、同年齢の市民と同等とされ、「失業保険」とほぼ同額が支給されている。



 10月、障害者権利条約特別委員会のルイス・ガレゴス初代議長との意見交換会に参加した。どうしても聞きたかったことを質問した。
 「権利条約の画期的な概念として、“リーズナブルアコモデーション(合理的配慮)” と“アファーマティブアクション(積極的差別是正措置)” がある。日本では“リーズナブル” が強調され、なかなか積極的に合理的配慮が位置づけられていない。ぜひアドバイスを欲しいのです」。
 ガレゴスさんは、つぎのように熱っぽく語ってくれた。とても印象に残っている。
 「“リーズナブル” は相対的なもので、明確に規定したものではない。それを実現するためには国内法の整備が必要だ」「今後は、知的障害や自閉症など“目に見えない障害” のいろいろな問題に対して“合理的配慮とはなにか” を考える必要がある」。
 北欧の小さな町で出会ったエマとアンダース。権利条約の立役者のガレゴス議長。とりくんでいるのは社会を変えること。多様性を認め、インクルーシブな社会にどう変えていくか。羅針盤は権利条約、課題は世論を興し、政府をどう動かしていくかだ。

2017年11月の活動記録・講師派遣

Echo What's New

映画「精神病院のない社会」を見て思うこと鷺原 由佳

あたりまえの医療を鈴木 和美


連載 日本国憲法と私

第15回 日本国憲法前文が教えてくれること赤平 守


連載 他の者との平等 -メディアの可能性-

第2回 分かりにくい価値どう伝えるか 市川 亨


連載 わたしの子育て体験

第4回 安心感を支える「ババの子育て支援」岡田 久実子


連載 差別と抑圧の歴史

第20回 精神医療史のなかの私宅監置(2)
-「病院か、病院外か」をめぐる議論 橋本 明


連載 障害者権利条約パラレルレポートへの道

第6回 日弁連のパラレルレポートへの取り組み 野村 茂樹


障害・文化・よもやま話

第5回 「信濃路」を思う(その1) 荒井 裕樹


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