障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

17年11月21日更新

2017年「すべての人の社会」11月号



2017年「すべての人の社会」11月号

VOL.37-8 通巻NO.449

巻頭言 総選挙で障害者政策は語られたか?

NPO法人日本障害者協議会理事 杉本 豊和


 波乱のあった衆議院総選挙が終了しました。今回も障害のある人に関する政策が取り上げられることはほとんどなかったと思います。
 立候補のあった各党の政策の中から、障害者に関するものを拾い上げてみると、紙幅を割いて詳細に述べている党もあれば、数行しか述べていない党もあります。JDが実施した政党への公開質問状の結果を見ても、回答のなかった政党もあり、質問状には答えず政策集を送付してきた党もあり、誠実にお答えになっている政党もあります。
 2016年7月26日に相模原事件が起きました。自らも重度の障害者である東京大先端科学技術研究センターの熊谷晋一郎准教授は、「私たちの普段の生活からは重度の障害者は除かれている。相模原の事件のあった施設のように大勢の障害のある人を私達の生活から追いやって、それが当たり前であるかのように生活している。そうして今の社会が成り立っている。」というような趣旨のことを話されていました。その通りだと思います。普段、障害のある人と関わりのない人からすれば、その存在は消されているのであり、またそのことによって安定が保たれているかのように勘違いをしています。
 相模原事件を受けて、精神保健福祉法が改正されようとしていました。その審議の途中で突如衆議院が首相の意向で解散され、廃案となりました。今回の容疑者は過去に措置入院をしていたり薬物依存があったことから、法改正をして退院後の監視策を強めるといった方策がとられようとしていました。しかし、いくつかの報告書を読む限り、今回の容疑者に対する対応は精神保健指定医の不正取得や、その後の警察を含む関係機関の対応のまずさが問題点としてあげられます。現行規定がしっかり果たされていたならば、状況はちがったのではないかと感じさせるものでした。もちろん一番大きな問題は障害のある人を排除して成り立っている社会のあり方にあると思います。
 障害分野だけでなく、憲法の議論など多くの重要な課題があった今回の選挙だったと思いますが、選挙制度の問題があるとはいえ結果的には選挙前の与党がそのまま政権を執ることとなりました。政権の担う政党の障害者に関する政策を改めて振り返るとともに、どうしたら障害のある人々の課題が重要政策として議論されるようになるのか、障害のある人々の暮らしにスポットがあてられるようになるのか。障害のある人本人の活動がその鍵になるような気がします。
 今年度より日本障害者協議会の理事となりました。何卒よろしくお願いいたします。

視点 戦後第三の節目をどう迎えるのか 求められるひと固まりの運動

NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世


 大義なく始まった衆議院総選挙、日本列島を縦断するように台風が駆け抜ける中、総選挙が終わった。秋雨前線に続く台風の被害を受けた地域もあり、台風一過のカラっとしたという気分には程遠い選挙後となった。憲法改正が現実味を帯びてきており、改めて日本国憲法を守らなければと心底思う。

 周囲を見渡すと、診療報酬・介護報酬・障害福祉サービスの報酬が同時改定となる2018年を迎えるにあたって、報酬改定をめぐる話題が尽きない。一方、児童の分野、高齢の分野、障害の分野で共通の課題が人材不足だ。何しろ人がいない、職員配置はぎりぎりで余裕がない、研修に出したくても現場が回らない……という悲鳴のような声もあちこちで聞かれる。ある高齢者施設の人からは、この人材難でITロボットの導入や外国人研修生の導入を考えているといった話も聞く。しかし、それが人材不足の抜本的解決になるとは思えない。本誌前号(10月号)で、「障害者支援事業所職員労働実態調査(3,637人が回答)」(きょうされん)の報告が掲載された。障害者支援事業所で働く約6割の人が年収300万円以下であり、厚生労働省の「働きやすい・働きがいのある職場づくりに関する調査」では、年収3 0 0 万円以下の人は16.7%、明らかな格差がある。報酬の低さは専門性の否定にも通じる。高齢者福祉・障害者福祉・児童福祉…それぞれの専門性が軽視されていく。
 社会保障費の自然増分を抑えるという国の方針があり、結局、かつてよく聞かれた「羊羹の切り分け論」(全体の予算は同じ、その予算をどう切り分けるかだということ)から脱してはいない。その中で報酬改定といっても、人材不足の問題は解決するはずがない。こちらを増やせば、どこかは減らさざるを得ないということだ。

 本コーナーでも触れたことがある「我が事・丸ごと」地域共生社会に向けて、3つのワーキンググループが設けられ、その1つである地域力強化検討会の最終とりまとめが発表された(2017年9月12日)。高齢分野で取り組まれてきた地域包括ケアの考え方を、障害のある人、子どもにも広げていくこと、従来の福祉施策だけではなく、産業、経済も含めた取組にしていくこと、そして、「福祉サービスを充実させることが、支えられながらも支える力を発揮する機会や、地域のつながりの中で困りごとを支え合う土壌、サービスの対象にならない課題に目を向けていくという行政や福祉関係者の姿勢を弱めてきたことを認識すべし」とある。自助・互助を大事にして、地域で支え合うことを推進すべきだというのである。社会制度が人々の支え合いの阻害要因だともいわんばかりだ。
 ちょっと待って欲しいと思う。制度の谷間に陥る人々がいることは事実だ。障害のある人の場合、既存制度にその人のニーズが合えばよいが、必要な支援や制度は創り出していくものだった。そして、谷間をなくすために制度を求めてきた。制度の谷間をなくすことは、政治の役割であり、行政の責任なのではないか。この地域力強化検討会の最終とりまとめの最後に「国民皆保険制度を前提にした社会保険制度、措置から契約への介護保険制度の創設に次ぐ、戦後第三の節目だととらえてもよいのでないだろうか」とある。

 「介護の社会化」を謳ってスタートした介護保険制度だが、介護のための離職が社会問題化し、貧困を拡大している現実があり、国の掲げる骨太方針に「介護離職ゼロ」を謳わざるを得ない状況なのだ。一方では「介護職の離職ゼロ」こそ求めたいという現実もある。こうした現実と突き合わせると「我が事・丸ごと」地域共生社会の実現がどんな社会を到来させるのか、想像に難くない。だからこそ、「我が事・丸ごと」を逆手にとって、障害分野を越えてひと固まりの運動こそが求められている。  

2017年10月の活動記録・講師派遣

What's New  監獄型治療装置と決別するための映画

大熊 一夫


なるほど!ナットク2 障害のある人と共にある街

星川 安之


連載 日本国憲法と私

第14回 答えは憲法のなかに
薗部 英夫


新連載 他の者との平等 -メディアの可能性-

第1回 たとえ少しでも、確実に 夫 彰子


連載 わたしの子育て体験

第3回 周囲の人の支えに感謝秋保 喜美子・和徳


連載 差別と抑圧の歴史

第19回 精神医療史のなかの私宅監置(1)
-私宅監置制度のあけぼの 橋本 明


連載 障害者権利条約パラレルレポートへの道

第5回 デンマークのパラレルレポートから 佐藤 久夫


トピックス+読みたい1冊

インフォメーション

JD 2017年度連続講座
憲法25 条・生存権に基づく障害者施策のあり方を問い直す!



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