この節では、2章の訪問調査結果から見えるものを考察していくことする。
(1)訪問先19か所の事業形態の概要
19か所中多機能型事業所が14か所、B型事業所単独は5か所と、多機能型が多く、就労を希望する人が就労移行支援事業、障害の重い人たちは生活介護といったように障害のある人のニーズや障害の状態によって、ひとつの事業所の中に役割分担を行っていく傾向があった。
一方、B型事業所には就労経験のない人が直接利用することができないために、就労移行支援事業を加えている事業所もあった。
(2)工賃水準の高い事業所での取り組みや工夫
@ 法人内の連携
大規模法人の場合には法人内の他の事業所との連携で仕事を確保し、工賃に還元している。
事例1 神奈川ワークショップ(神奈川県)
法人全体で職員350名が雇用されており、高齢者から児童まで多様な事業を行っている。法人内の入所施設の入所者の洗濯を仕事にしたり、農園で作った農作物が法人内の食堂や給食用に購入されるなど、さまざまな形で法人内の連携が図られている。
事例2 木次事業所さくらんぼ(島根県)
小規模作業所を経営する運営団体3か所が一緒になってB型事業所を設置。3つの事業所がある。JAから葬儀に使用する飾り物作りを委託され、2つの事業所で分担して取り組んでいる。また、集積所に集まった資源回収を3事業所で交代で行うなど、連携しながらリサイクル事業を行っている。
A 自治体との連携
市からの安定的な委託事業が主軸の事業になっており、売上からの工賃還元率が高く、工賃水準も高いなど、優先調達法の効果が表れている事業所もあった。
また、自治体の補助金で、新たな企業型の取り組み(社会的事業所)の開始も見受けられた。
事例3 むつみ作業所(静岡県)
御殿場市からの委託事業として、リサイクルセンターの業務の一部を受託。資源回収車が集めてきたものの仕分け等で、毎日7人が作業に従事している。年間契約であり、景気動向に影響されない。JAとの連携で、EM菌を混ぜたぼかしを製造し、道の駅やJAなどで販売。市の助成もある。県レベルでは、オールしずおかベストコミュニティという組織があり、作業所と行政、作業所と企業をつなぐ役割を果たしている。
事例4 希望の家ワークセンター(兵庫県)
仕事確保に宝塚市等、近隣の市役所への営業活動を実施、地元色のある缶バッチなどの新商品の提案も行う。
事例5 きれいサポートステーション(三重県)
三重県が、2015年から社会的事業所の運営に補助金を出すことになったことから、社会的事業所の開設を予定している。県(市)は3年間、雇用した障害者1人あたり、年間60万円の補助金を出す。B型事業所から社会的事業所に移行する仕組みを作りたい。
B 企業との連携
菓子製造は企業が運営するA型事業所が行い、袋詰め以降の作業を企業から受託して行っている。委託費として支払われているため、原材料費などの負担が少なく、工賃へ還元できる率が高い。
企業から仕事を受注する際には、見積書を作成し、仕事の採算が取れるかを確認して、受注している。生産管理体制を強化し、不良を出さない努力も行っている。
事例6 九頭竜ワークショップ(福井県)
下請けを受注する際には見積書を作成し、採算が取れるのかどうかを考えることを大事にしている。親会社からの指導があり、企業と同じやり方で管理していくことを基本としている。職員がフォークリフトの免許を取得したり、成形技能士の講習を受けるなど、企業では当たり前のことを行っている。
機械化も進め、プラスチック成型機を10台設置、24時間体制で稼働している。企業側にも施設に外注することのメリットが必要である。
事例7 キララ女川ひかり(鳥取県)
かりんとうを製造、販売する企業と企業が運営するA型事業所との連携で、B型事業所は、かりんとうの袋づめ、シール貼り、箱詰めを担当する。生産ラインの中での役割分担が明確になっており、障害の重い人でも集中して取り組むことができる。売り上げは、企業からの委託金の形で支払われている。
C 仕事の選択
福祉葬祭事業など利益率が高いものを選択し、営利企業に比べ価格を抑えるなど、他と差別化できる事業に新たに取り組むことで高工賃を確保している。
また、印刷事業、情報処理事業など、機械整備による効率化や専門性の高い事業を選択し、専従の営業職員の配置、職員の専門技術の習得、職員の意識改革を図るなどで、売り上げの確保を行っている。下請けでなく発注者との直接取引が多いのも特徴である。
事例8 きれいサポートステーション(三重県)
不安定な企業下請けから、自分たちでできることをと考え、「葬祭事業」と「便利屋事業」を軸に取り組んでいる。高齢化が進み、市場規模が大きいこと、地域貢献ができること、利益率が高いこと、他の障害者事業所との差別化を図ることなどに取り組んできた。
事例9 コロニー東村山(東京都)
主力である印刷事業の収益を上げることにより、利用者の工賃を維持・向上させる体制がある。年々印刷事業の経営環境の厳しさは増しており、固定費の削減等で収益をプラスに転ずる努力を行っている。
事例10 米子ワークホーム(島根県)
印刷事業は収益性が高く繁忙期があるが、安定的である。事業所の生産規模1億円の内、印刷事業が9700万円を占める。職員には「印刷と福祉」のプロになることを求めている。
事例11ワークハウスとなみ野(富山県)
砺波市労働組合、よさこい祭りの衣装、夜高(田祭り)の法被をかたどるコースター等のまとまった注文がある。
D 生産性向上の工夫
企業からの委託事業中心だが、機械化を進めていたり、短期間で大量の作業に対応できるように生産性向上のための工夫を行っている。
事例12 チャレンジャー(東京都)
封入作業をはじめ、企業から受託した作業など、機械化を進め、短期間で大量の作業に対応できるように作業の動線や作業手順など、生産性向上のための工夫を行っている。利用者が親から離れて暮らすことを目指しており、時給600円(月額82,000円程度)、障害基礎年金、都の特別手当15,000円を加えると、グループホームに入居(約8万円の費用)し、生活ができる。現在8人がグループホームに入居している。
(3)企業などへの就労について
B型事業所で働く人たちの希望は、今の事業所で長く働くことであると回答する事業所が圧倒的に多かった。多機能型の事業所の場合には、B型で働いていた人が、就職を希望した場合には、就労移行支援事業に移っていくことになっている。つまり、B型事業所で継続的に働くことに自信をつけた上で就職に向かって準備するといった流れになっている。
就労移行支援事業の3年制限や再利用不可の課題、またその後の行き場が無いケースなどが見られた。また、就職への支援は、B型事業所が単独で行うのではなく、他の機関、相談支援事業所や就労支援センターなど他機関との連携で行われている場合が多い。
地域によっては、就労先がなかったり、通勤手段がないなどで、B型事業所で働きたいというニーズを受け止めざるを得ない場合もある。また、B型事業所で働くまで、すでに就労経験者のなかには、企業就労ではない働き方を求めてB型事業所を選択する人たちもいる。その結果、企業就労から事業所に戻ってくる場合も想定してその受け皿を準備している事業所や、就職後のフォローを自主努力で継続している事業所があった。
事例13 トーコロ青葉ワークセンター(東京都)
大学校舎の清掃の仕事にグループ就労として、4人の精神障害のある人が雇用された。技術レベルの高さが評価された結果であり、定着支援も事業所が継続して行っている。
(4)B型事業所の地域での役割
@ 地域における障害者の社会参加の場の提供
人口規模の小さな自治体では、事業所の数が限られていることから、多方面に送迎車を出して、障害のある人の就労支援に加え、日中活動の場を提供するなど、社会参加の場としての重要な役割を果たしている。利用相談や放課後デイなど、社会資源として重要な役割を果たしている。
事例14 あいゆう(青森県)
人口1万人ほどの地域に唯一の障害者施設で、利用者は広域にわたる。希望するすべての人を受け入れ、車両9台を用意し、その地域を回り送迎している。
事例15 ぎんが工房(山梨県)
交通の便が悪く、生活介護とB型事業所利用者に朝晩の送迎サービスを実施(就労移行支援事業の人の場合には、企業への通勤能力をつけるために自力通所を中心に)している。
事例16 オフィスきらり(北海道)
障害のある人が就労しながら、自分らしい生活を続けるために、買物、通院、サービス利用書類作成、金銭管理などの生活支援を行っている。
A 地域との連携
高工賃には結びつきづらいが、自治体との連携や地域の地場産業との連携により、地域のお祭りなど、その地域に結びつきが強い商品の注文などで仕事の確保を行っている事業所もある。
事例17 とっと工房(秋田県)
市内の数少ない社会資源として、地域とのつながりを大切にしている。農野菜の栽培、いぶりがっこの加工・販売を行っている。比内の湯(温泉)、とっと館(道の駅)などの公共施設での販売、コンビニへの卸、各種イベント出店などを行っている。
事例18 自立支援センターひまわりの里(熊本県)
熊本の老舗菓子店のチェーン店として技術指導を受け、地場の名物である「いきなり団子」を製造販売している。長洲町は金魚の町として有名で、「金魚と鯉の郷広場」にある金魚の館の喫茶コーナーでの販売・接客・清掃や鯉のえさの販売も行っている。地域福祉センターの清掃も長洲町からの委託を受け、実施している。
事例19 長門福祉作業センター(山口県)
収入の大きな割合を占める印刷事業では、教育委員会を通じて通知表や広報誌などの発注がある。ハウスクリーニングは、不動産会社とタイアップして仕事の確保をしてきた。
事例20 第2はぐるま共同作業所(神奈川県)
地元にある特別養護老人ホームの1階の地域交流室を活用した喫茶店を開いていたり、20年以上の常連客のいる地区への販売を行うなど、利用者の選択を大切にしながら、地域に密着した仕事を展開している。
(5)共通の課題
B型事業所は、基本的には働く場であるが、働く場の提供だけではなく利用者の今後の住まいや入院対応など生活全般にわたる支援を行っている事業所も多かった。しかしながら、給付費収入だけでは必要な常勤職員が確保できない現場が多く、職員の非常勤化の実態もあった。
また、地域資源の不足もあり、利用者は増えていくが、それに比例した仕事量が確保できない場合もあり、利用者が増えることで分配される工賃が下がるという状況もあった。
@ 利用者増により工賃が減少するといった問題を克服し、高賃金につながる安定的な仕事の確保
A 求められる就労支援の質の向上 そのための財源(障害福祉サービス給付の日額制から月額制へ)および職員の確保
B 高齢化や障害の重度化に対応するための生活支援拡充の必要性
C 企業就労へ移行する人が少ないため、就労継続の長期化に伴う、処遇のあり方(個々の利用者に先が見えるような個別支援計画づくりの課題)
(6)課題解決に向けて求められる取り組み
@ B型事業も含め現行の就労支援事業のあり方について
イ 利用者は働いているという実態があり、本来は労働者とみなし、雇用の範疇にいれるべきではないか。労働法も適用すべきである。
ロ 働くことに特化したB型事業とゆったり働く事業を整理していく必要があるのではないか。
ハ 多機能型で進めるのではなく、それぞれの専門性を高めた事業を進めていく必要がある。
ニ 福祉的就労の場は必要(一般就労の難しい人もいる)だが、改めてその明確な位置づけ、定義づけが必要である。
ホ A型、B型という事業所の分け方について検討するべきである。
ヘ 就労移行支援事業の利用後就職できない場合、同じB型事業所に居続けるのでなく別のB型で別の訓練を行うようなあり方の検討。
ト B型事業所の将来がどうなっていくのか。先が見通せない、制度の安定性が必要である。
チ 法改正後、計画や記録が求められ、加算の仕組みが不透明。障害者総合支援法における支援とは何かを考える必要がある。
リ 利用定員が増えると単価が下がるといった経営を苦しめる制度は再検討すべきである。
ヌ 工賃を払うだけがB型の目的ではない。役割のある張りのある生活。仕事だけでなく、選択肢のある、多様な日中活動なども必要である。
A 仕事の確保−高賃金確保につなげるための優先調達法の見直し(雇用率制度とリンクしたみなし雇用も含む)とB型事業の経営能力の向上強化など
イ 企業のラインの一部を丸ごと請け負うなどの新しい受注の仕組みが必要
ロ 優先調達推進法がもっと実効性のある制度になっていくことが必要。自治体が数値目標を立てることと合わせて、事業所側の受注対応能力や経営能力を高める必要がある。合わせて民間企業の発注義務付けも望まれる。
B 所得保障のありかた (工賃+障害基礎年金+所得保障(賃金補てん)により、地域での生活を可能とするための所得保障のあり方)
イ B型事業所の工賃水準は、障害のない人との格差は歴然としており、地域で自立した生活を維持するための所得保障策が必要である。
ロ 障害基礎年金+3万円以上の工賃がないと自立生活は難しい。年金のない人の自立は不可能。
ハ 親から独立して暮らすための工賃水準を担保していく。
ニ 最低賃金の適用はよいが、それがクリアできない場合にその不足分を補う公的制度の構築が必要である。
C 制度改革に向けて(労働と福祉を一体的に展開できるようにする、法制度や行政組織等の見直し。社会支援雇用制度創設との関連)
イ 厚生省と労働省が合わさって厚生労働省となったが、実態は連携が取れていない。
ロ 介護保険への制度の狭間で、本人主体でない実態がある。
ハ 年金と、セーフティネットである生保の整合性の見直しが必要。
ニ B型事業所に就労する障害のある人に労働法の全面適用は難しいが、労働法の一部適用は必要。
ホ 日払い報酬を月払いにして、職員の安定確保を図れればと思う。
ヘ 2016年4月1日に施行される障害者差別解消法では、合理的配慮が公的機関では義務化されたが、民間事業者は努力義務に留まっており、見直しが必要。
(7)まとめ
19か所のヒアリング調査から見えてきたことを以下に整理した。
@ 低工賃の理由
イ 生活支援を大切にしている
B型事業所の成り立ちにより、事業所の主たる目的が違う。日々の生活を安定的に送るための支援が優先され、高工賃を求めるのであれば、A型事業所で働く選択肢を利用者に提示するといった事業所もあった。
ロ 工賃そのものよりも生きがいを求める活動としている
生産性よりも働きがいを重視した活動を行っている場合。
ハ 仕事獲得のための職員不足
企業の業績低下に連動する形で事業収入が下がるのに対し、他の事業への仕事の転換を試みるが、職員不足(営業職員が配置できない、技術をもつ職員の配置ができない)、利用者の状態などで、高工賃につながる仕事づくりができていない。
ニ 法人内での役割分担
法人内にA型事業所を開設し、最低賃金を目指す人はA型事業所を利用する態勢を整えている。さまざまな障害の状態やニーズも幅広く、その多様性に応える支援をしている。
ホ 下請け作業の低収益性
効率も悪く、かつ年間を通しての発注量が限られている。
A 低移行率の理由
イ 地域的に働く場(一般企業など)が絶対的に少ない
ロ 一般就労よりも安心して働ける場を求める本人・家族が多い。
ハ 今の事業所を就職先として考え働いている。
ニ 一般就労からB型事業所に来る人もおり、一般就労を希望しない。
ホ 事業所として一般就労への移行は基本的に考えていない
ヘ 公共交通手段の欠如
自宅から最寄り駅までの交通手段がないこと。通勤のための人的支援があれば一般就労への道も開ける。
ト 2年間という就労移行支援事業の訓練期間が短すぎる問題
B 高工賃の理由
イ 機械化を進め、短期間で大量の作業に対応できる態勢がある。
ロ 下請け業者との取引ではなく、企業と直接取引を行う。
ハ 大量の仕事を短期間に行うために法人内の他事業所と連携する。
ニ 企業及び企業が運営するA型事業所と連携する。
ホ 機械化された事業で収益を上げている。
C 高移行率の理由
イ 就職希望者に自分でハローワークに行き仕事を探すように促している。
ロ 同じ事業所の利用者が就職することにより、他の利用者も就職意欲が高まる。
ハ 雇用率が上がったことなどで企業の受け入れが進み、合わせて就職した人たちの働きぶりが企業に評価されている。
ニ 障害のある人の技術力の高さが雇用された要因となった。
ホ 就職情報などの情報提供を日常的に行っている。
ヘ 就労支援機関との日常的な連携がある。