(3)職員調査

 

 職員調査では調査対象事業所の職員298人からの回答があったが、この調査では各質問項目についてできる限り具体的な内容を記した自由記述による回答を得ている。以下、ここではこうした自由記述による回答の内容を整理、分析した結果、見えてきたことがらについて考察する。

 

@ 属性について

職員の属性について

職員の年齢は、30代が35%、40代が25%、50代が20%で30歳未満が15%であり、男女比はほぼ半々であった。職種は職業指導員・生活指導員が最も多く82%となっていて、直接処遇する立場の職員の回答となっている。

職員としての経験年数は5年以上の経験年数が58%と半数以上を占めた。その中でも10年以上は33%となっている。職歴は、福祉系の職歴がない職員が62%、福祉系の学歴がない職員が63%となっており、過半数は福祉系以外の学歴や経験者から構成される。

 

調査回答者の事業所について

多機能型でB型事業所を設置しているところが73%である。B型以外では就労移行支援事業を設置しているところが64%で最も多い。利用定員、利用登録者数、平均利用人数はいずれも41人以上60人以下が多く、次いで21人以上40人以下となっている。

 

A 事業・組織について

理念と目的の共有化が求められる。

今回の調査(Q3,Q5)では、工賃や利用者の就職率の低さについてはどちらも「低いがやむをえない」といった回答が多かった。なぜ「やむをえない」といった回答が多いのかを分析していくと、利用者の意識が低いといった答えが多く、利用者に問題があるとしている。事業所の理念や目的に「働く」ことが位置づけられていれば、その共有化を図ることで事業を展開していき、「働く」ことの充実化に向けて組織全体で進んでいくはずである。そのことが充分にできていない現状が、「やむをえない」といった回答に表れていると考えられる

 

事業の迅速性、即効性が必要である。

前述の通り、B型事業所は文字通り「働くことを支援する」ことが目的のひとつ

である。調査結果によると業種は、清掃、洗濯、食品製造、販売、軽作業、農業、自主製品等多岐にわたっている。しかしながら、B型事業所の事業が迅速性と即効性に欠けているということが、調査から読み取れる。例えば、今行っている業種を収益率が低いことを理由に変えたいと感じていても、なかなか変えることができないでいる、といった回答が多い。

また、経済活動の知識や技術が職員として不足していることは、認識していながらも改善策を持つことができずにいる。B型事業所の職員は、福祉に関する知識だけではなく、一般労働市場における知識やノウハウを身につけ、事業所の実践を向上させる努力が必要である。しかしながら、経済活動に関する研修の機会が少ないこともあり、職員だけの責任に言及することはできない現状がある。今後は、PDCAサイクルに基づき、実践の効果を随時検証し、より効果的に生産性を上げることが求められる。B型事業所の経済効果を上げるために、一般労働市場からも信頼されるような実践を進めることが必要である。

 

仕事の確保について

仕事の確保の重要性は、調査の回答全体からも大きな課題であることが、随所に表れている(Q3、Q4、Q6、Q7、Q8)。就労支援事業所における仕事の開拓と確保は、従来からも言われ続けてきた課題である。また、B型事業所の事業展開の在り方について最も重視することとして「仕事の確保と開拓」があげられている。

しかし、現状は、いわゆる内職レベルの下請け作業といった仕事が主に行われており、当然ながら単価が安く、社会的価値が低く、良質な仕事とはいえない。利用者ができる工程が少なく、作業の大半を職員が行っていて職員負担が大きいことも調査の結果に表れている。

また、現在行っている仕事が決して満足のいくものではないことは、職員も十分承知していながらも、変えたくても変えられない事情や悩みを抱えていることが、調査結果から見てとれる。やはり、工賃向上のカギは仕事の確保に他ならないといえる。それは、利用者の能力に見合った仕事であると同時に、社会的にも価値のある仕事で、利用者にとっても誇りややりがいの持てるものであるべきである。

 

B 障害のある人がB型事業所で働くことについて

イ「働く」ことの価値や理解を共有する。

充分に働くことのできる利用者と、働くことが日中活動の柱になりにくい利用者が、B型事業所で混在している現状がある。B型事業所を居場所と働く場、あるいは趣味・生きがい活動と生産活動を渾然一体として「働く」ことを捉えてしまうことで、「働く」ことの価値や理解を共有し、その仕組みを充分に作ることができていない現状となっている。社会において「働く」ことの意味と権利を明確にしない限り、就労支援事業所において、経済活動の必要性の有無の段階で、あるいは理論武装の弱さでゆらぎ続けてしまう。働くということを権利として捉え、それを理論的に裏付けることが大切である。

 

労働、事業、利益、分配の連動性の仕組みも理解が必要である。

調査結果では人手不足、実務に追われる、生産に追われることが職員の業務上の悩みとして上がっていて、利用者の労働を権利として捉えることができていない現状がある(Q6,Q7)。作業活動については、就労支援事業所の日中活動と捉えると、それは支援内容となるが、利用者の方々のライフステージから考えると、作業活動は労働であり、収入を得るための活動である。また、人として当然の働く権利であり、学び、努力して活動する機会であると捉えられる。すなわち利用者への就労を支援しながら、同時に事業所全体でより多くの収益を得て、事業を拡大し、より多くの利益を工賃として利用者に分配する使命が課せられている。事業所内の福祉的側面だけでなく、社会や人のライフステージ全体に視野を広げ、それらをよく理解しておく必要がある。

 

C 利用者について

毎年工賃アップを望むというあたりまえの要求がある。

調査の結果では「他施設よりも高く支払っている」「全国あるいは県の平均より高い」といった理由で現在の工賃額を妥当とする回答が多かった(Q3,Q4)。

さらには、売り上げ目標金額や工賃に対する設問に対して「わからない」といった答えが多かった。  

利用者調査にも表れているが、働くことの結果として工賃があり、工賃アップを利用者が望むのは働く者として当然の権利であり、要求である。障害のある人が「働く」ことを特別視するのではなく、あたりまえに考えていく必要がある。

 

労働環境の整備が重要となってくる。

B型事業所では、利用者の働く能力に見合った仕事の提供、生産ラインの構築、作業内容、作業手順など総合性と個別性が重要になってくる。そのためには、環境整備が障害のある人が働くうえで必要不可欠になってくる。職員の多くは、主として言葉で説明をする傾向がある。しかしながら、環境整備の条件は、言葉による説明だけではなく、障害のある人が主体的に仕事に取り組むために、視覚的にわかりやすい環境を作り、先の見通しができるようにすることが職員にとっての重要な責務と言える。

「物理的・空間的理解(どこで何をするのか)」「時間の理解(いつ何をするのか)」「作業手順の理解(どのようにするのか)」「作業課題の理解(何をどのくらい行うのか、いつまでに終わるのか)」というような視点で働く環境を見直し、手順書や具体的な目標数などを示すことが大切である。こうした働きやすい環境の整備を通じて、働く意欲を高め、「理解力」「技術・技能力」「確認力」を育てるとともに、働くうえで必要な「態度」の形成につなげることができる。障害のある人にとって尊厳のある労働を保障するためにも、労働環境の整備は極めて重要である。

 

働く能力の客観的な評価が必要である。

調査結果によると、公平性を期すため、利用者の工賃を一律にしているB型事業所もある。また、調査の回答では、工賃設定の方法、利用者の働きをどのように評価するかが課題としてあげられていた(Q4)。作業評価についても、公平・客観的な評価が求められている。どのような作業を・どのように・提供するのかを考える前提には、当然利用者個々の「働く能力」が把握されていなければならない。利用者個々の働く能力を把握するためには、一定の尺度・基準に基づいて客観的に評価する必要がある。 働く能力を見極めた上で、作業工程を分解し、より利用者が力を発揮できる場に配置することで、生産性が向上することは自明のことである。

  

 

D 職員について

職員の意識改革の必要性が求められる。

調査結果には、利用者が働くことに対して「低工賃でも仕方がない」あるいは「利用者はそれほど働くことを望んでいないのではないか」という職員の諦めと思い込みが如実に表れた回答が多くあった(Q4)。これは、長いこと、福祉的就労の場で「働く」ことの本当の価値や権利を追求することなく、あいまいなままにしてきた結果ではないかと考える。

また、現場では常に課題になってきたことではあるが、利用者支援と経済活動が両立しないという意識である。経済活動に力を注ぐと利用者支援に手が回らない、あるいは利用者支援の充実を図ることが経済活動に困難をきたすといった理由となり、どちらも「言い訳」として使われてきたことである。職員の意識改革のために必要なこととしては、利用者支援と経済活動の両立を目指すことが重要となってくる。これは、利用者支援と経済活動が対立するものではなく、利用者を総合的に支援することを前提にして両者の充実が図られるべきということである。利用者支援と経済活動を両立させながらこれまでサービスの提供に活用されることのなかった企業等とも相互に連携、協力を行っていくような仕組みづくりが必要とされていくものと思われる。

 このような仕組みが出来上がっていけば、職員は利用者支援と経済活動を分離した状態で捉えるのではなく、両者を充実させていくことがB型事業所の役割と機能の広がりとなり、総合的な支援につながっていくという意識に変わっていくはずである。

 

 

B型事業所の支援力の向上と明確な位置づけが求められる。

社会における経済活動に対する認識や経験が浅いB型事業所にとっては、「働く」ことの支援について困難な思いを抱くことが多いのではないかと思われる。職員自身の仕事のやりがいについては、「障害者の自立」「社会とつながること」とする人がもっとも多く、「利用者の笑顔や満足」という回答も多かった。売り上げアップや工賃の向上をやりがいとする人は少なかったという調査結果からも、B型事業所職員の多くは、福祉活動は対人サービスが中心であり、経済活動にかかわる業務は副次的であると考えている場合が多いのではないだろうか。あるいは、経済活動による支援の必要性は低いという認識もあるのではないか。また調査結果からは46%の人が常に人手不足でゆとりがないとしており、積極的な経済活動を進められないという状況も推察できる。

 B型事業所には多様な役割が期待されているなかでの役割を「働く」という視点で明確に位置づけ、「働く」ことの権利保障の視点から利用者を捉えていく必要があるのではないだろうか。つまり労働活動を中核に、労働を前提として福祉的な支援を行う場としてB型事業所を位置づけ、役割や機能を明確にしていくのである。その視点が明確でないために、B型事業所の果たすべき役割や機能が曖昧になってしまうという現状がある。

B型事業所には、制度上では工賃3,000円以上の支払いを求めているが、その水準の定め方自体が、B型事業所をきわめて曖昧な位置づけにしているといえよう。

 

ハ 工賃アップができる制度設計が求められる

業務上の悩みや困難への回答(Q6−2)には、人手不足で余裕がない134人(46%)、生産性向上に追われる116人(40%)、実務が多い99人(34%)、利用者の多様なニーズに対応しきれない95人(33%)と続いている。

工賃を上げようと努力すると確実に職員の労働条件が悪くなるという実態がある。また、職員の労働条件を維持しようとすると工賃は上がらず、下がってしまうという現状もあるのではないだろうか。つまり一方をよくしようとすると他方は下がってしまうという現象が生まれているのである。

この現実は、B型事業所が抱える根本的な課題であろう。福祉的就労の場として位置づくB型事業所の制度設計の課題が浮かび上がってきているのである。利用者支援と経済活動を両立させていくためには、この現状を打破していく新たな仕組みが必要である。例えば、経済活動を充実させ、工賃アップにつなげた職員の努力を職員給与にも反映させるといったインセンティブの導入なども検討されるべきではないだろうか。

 

 


 

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