(2) 事業所調査(管理者もしくはサービス管理責任者)

 

障害者就労事業所に求められているものへの対応ならびにその結果としてどのような変化が認められるのかを6つの特徴から考察し、その課題などを考えることとする。

 

@ 障害福祉サービス事業実施事業所の特徴

社会福祉法人とNPO法人による運営が大半で、多機能型の事業所が圧倒的に多   い。多機能事業では就労移行支援事業が64%と最も多く、次いで生活介護となる。同じ就労継続でもA型事業は5%と少ない。移行前の事業は知的通所授産、小規模作業所、身障通所授産の合計が過半数を占め、6年以上就労支援を実施しているところが82%と多い。事業所の規模としては60人以下のところが83%を占める。その中でB型事業については40人以下のところが87%を占める。

2006年(平成18)年に障害者自立支援法が施行され、ほぼ現在の障害福祉サービスの基本事業が整った。それにより小規模事業所等などは統合整理、新制度への移行や法人格の取得など大きな変革が求められた。平成25年度には障害者総合支援法に変わったが、新たに設立された事業所より圧倒的に旧来から事業を行ってきた事業所からの回答が多かった。

特徴としては日額払い等の影響からか、単価が低い就労継続B型事業だけで運営しているところは少ない。他の事業との多機能型が多い。それは、職員兼務も可能なことから、個別ニーズに対応するためという事もあると思われる。多彩なニーズに対応するために単一機能ではカバーしきれないという実態がうかがえる。

 

A 事業所の利用者像や職員体制などの特徴

今回の回答の中では障害種別による割合は身体と精神が各4分の1、知的が半数2分の1という状況。年齢層は40代以下でほぼ80%を占める。

職員数は10人以下が最も多く、定員数と重ねるとほぼ法定職員数とみることができる。

一方では常勤職員の他事業との兼任率について、何らかの形で他事業と兼務している割合は多機能型を実施しているところを分母とすると70%となる。非常勤職員の兼任率は80%と常勤を上回るものの兼任率は低く10%以下が63%を占める。

指定基準以外職員配置事務職36%、次いで就労支援事業専門職23%となる。

職員配置基準には事務職は想定されていないが、実績日払いへの変更をはじめ、要件や条件による煩雑な加算の体系などにより複雑化する事務作業に対応して事務員配置をしなければならない実態がうかがえる。B型事業においては特に工賃アップのための“目標工賃達成指導員配置加算”が設けられているが、就労支援事業の専門職については、これが該当すると推察できる。配置要件が細かく求められていない加算内容であるにもかかわらず23%しか配置できていないのは、事業規模の問題か、加算額の問題かのいずれにしろ、人件費に充当するには不十分ではないかと思われる。

 

B 事業所の規模などの特徴

事業所建物の所有形態では自己所有が64%、賃貸・不明が36%で、これはほぼ法人形態の割合と一致する。

事業所の建物としては平屋もしくは2階建てが全体の86%を占める。施設全体の面積は500平米以上が最も多いが、B型事業単独で見ると100平米以上200平米未満が多い。定員数と併せてみると決して広さにゆとりがあるわけではない。間取りは2〜3室が多いことから、10名から15名くらいで作業をしているというところが多いのではないかと推察できる。

相談室・食堂などは兼用しているところが過半数となるが、更衣室は専用のところが多い。食堂を作業室として活用している場合もある。事務室及び更衣室の兼用については、他の目的とどのように兼用しているのか、明らかではない。相談室についてはプライバシーの問題があるはずだが、これも他の目的とどのように兼用しているのか、明らかではない。さほど広くないところでも実施できる事業を行っているという事なのだろうか。また、賃貸の割合と事業主体がNPOである割合とがほぼ同じである。

規制緩和により、第二種社会福祉事業については賃貸でも事業を行えるようになった。このことにより自由度が上がったのは良いが、アメニティやプライバシーの面などが後退してはいないだろうか。背景には家賃の厳しさがある。東京都などは家賃補助等があるが、地方も含めて普遍的な対応が必要である。

 

C 「働きたい」の実現と配慮・支援の特徴

作業内容については、軽作業を実施しているところは73%に達する。食品加工・販売・清掃は各40%くらいが実施している。リサイクルは30%が実施している。こうした中で最も多くの利用者が関わっている作業は軽作業で、次いで食品加工となっている。

利用者の1日当たり平均就労時間は4〜6時間が最も多く、66%を占める。

週当たりの就業日数は5日が最も多く、次いで4日となっており、これらで全体の約9割を占める。

有給休暇制度が全体の12%で行われていることは、現行制度から見ると決して少ない割合ではないといえる。

通勤支援を行っている事業所は77%となっている。

事業所全体の92%が傷害保険に加入している。

B型事業所の最も特徴的な部分は、さほど設備投資が必要のない事業が多いこと、週当たりの労働時間は20時間から30時間が最も多いこと、(できる限り通常の就労に近づけようとするためか支援体制の維持のためかは本調査からは読み取れない)、通勤支援の割合が高いことから、身体障害に限らず、通勤など交通機関を使用した移動に支援が必要であることなどがうかがえる。こうしたことから、B型事業所の利用者が一般企業にチャレンジするには、通勤支援などの制度化や週当たりの就労時間への配慮などが必要と思われ、現在それらをサポートできる企業は決して多くないのが実情と思われる。

 

D 工賃支給に関する特徴

年間売り上げは100万円から1000万円の範囲が最も多く、全体の半数近い48%である。一方、工賃支払の総額は100万円から500万円が最も多く、全体の半数近い45%である。売上額と工賃支払額の関係については本調査からは読み取れない。

2012年の月額平均工賃は5000円から2万円の範囲に全体の62%が入っている。工賃の全国平均を中心とした分布にマッチする。2011年から2012年にかけての月額平均工賃の変化を見ると、1万円から2万円の層が若干厚くなってきている。

工賃の計算方法は時給が最も多く49%を占める。また工賃支給に際し何らかの形で賃金査定をするための評価をしているところが全体の68%を占める。何らかの手当を支給している事業所は全体の48%となるが、その中でも通勤手当を支給しているところが多い。他は何らかのモチベーションにつなげるような手当、名称が多い(頑張り手当・努力手当など)

B型事業所に求められている、現状の工賃を上げることを目指して、利益率の高い作業は行っているが、売上が低いことから工賃支給額が上がらないという事も低工賃の理由の一つである。作業時間を延ばして週40時間をベースにしたとしても、現状の倍には届かない(労働時間との関係から読み取れる)。工賃を上げるには、いかに高い売り上げのある商品開発をし、一定以上の売り上げを確保するか、もしくは競争の中での受注ではなく随意契約等による一定の保護策の下での受注が必須となるのではないだろうか。。

 

E B型事業所の事業から見た就労移行への取り組みの特徴

基本的には、B型事業所の事業においては一般就労、雇用を目指すという取り組みはほとんど見られない。事業そのものは軽作業を中心とした事業が多くみられ、大規模な事業は少ないと推察できる。

法定配置職員ギリギリで行っている事業所が多いと読みとれる。複雑化してくる事務職には法定外であっても専任者が必要な状況であると感じている事業所が多い。

制度的には高工賃を目指すための施策が行われているが、具体的な結果には至っていないようである。

B型事業所からの就労移行(一般就労、企業就労を実現する)は、本調査カテゴリーからは読み取れない。前述の通勤支援の制度化や週当たりの就労時間への配慮など、現状では一般企業においては制度上実施困難な支援が多く、こうしたことをクリアできないと雇用には結びつかないと思われる。また高工賃を目指す取り組みについても、障害者施設等製品優先調達推進法をどのように活用していくかを現状の競争入札原則などとは切り離した領域で検討していく必要があると思われる。


 

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