3章 考察
3−1 一次調査 アンケート調査結果から見えたもの
この章では、2章のアンケート調査結果から見えるものを、「利用者調査および一般就労者調査」と「事業者調査」および「職員調査」の3つの視点で考察していくことする。
(文中の“利Q*”は利用者アンケートの調査結果Q*を、“就Q*”は一般就労者アンケートの調査結果Q*を、それぞれご参照いただきたい)。
(1)利用者調査 および 一般就労者調査
@ 属性に見るそれぞれ(B型事業所利用者と一般就労者)の特徴
イ 本人の属性
年齢を見ると、一般就労者は「20歳以上〜40歳未満」が64%と比較的若い分布であるが、B型利用者の場合の同年齢層は47%であり、その上の「40歳〜60歳未満」も40%に近く、「60歳以上」も1割以上利用していることがわかる(利Q1、就Q1)。
障害については、いずれも知的障害が最も多く半数を超えている。若干B型利用者のほうが障害等級は重い傾向にあるが、全体から見るとさほど大きな相違はない(利Q6、就Q6)。
ロ 就労への経路
現在の就労の場の就労年数は、一般就労者は「1年〜3年未満」が80%で大変に短い。B型利用者で多いのは「5年以上10年未満」が22%、「10年以上15年未満」が18%、「20年以上」も1割となっており、3分の1の方が10年以上の長期在籍である(利Q8、就Q9)。
B型利用者の経路は、「学校」と「家庭」を足すと4割にのぼるが、「就労移行支援事業所」を経由してきた人はわずか4%であった(利Q4)。また、現在通所しているB型事業所を探した方法も半数が「特別支援学校」と「家族」というデータ(利Q13)からみて、多くのB型利用者は、その入り口で、就労支援機関との関わりや労働に関する専門的な評価を受けることなく、ストレートにB型事業所に入っていることがわかる(現在は、就労経験があるか、「就労移行支援事業所」を必ず経由するように制度設計されている)。
一般就労者の就職への経路を見ると、「所属していた機関・施設以外も利用した」が7割を超しており、8割が「ハローワーク」も利用していることから、一般就労への移行には地域資源の連携利用が不可欠であることがわかる(就Q12)。一方で、65%の人は1回〜4回働く場を変わっており、データからは雇用実態の厳しさもうかがえる(就Q10)。
A 「働く」実態に見るそれぞれの特徴
イ 就労状況
・仕事内容
「一番多くやっている仕事」内容は、割合は若干異なるが両者とも、「軽作業」「清掃」「食品加工」であり、さほど差はない(利Q7、就Q8)。
「現在の作業が自分にあっているかどうか」を問う設問では、利用者は81%、一般就労者は74%が「あっている」と答えている(利用Q12、就Q11)。しかし、同時に、「新しいところで働きたい(あるいは迷っている)」と答えている利用者も4割以上おり、そのうちの半分近くがその理由を「好きな仕事や自分にあった仕事がしたい」とも回答している(利Q19)。一般就労者も、転職希望者のやはり4割程度が同じように答えていることから、双方とも働くことへの希望と現実が微妙に入り混じっていることがみえる(利Q19、就Q23)。
・就労日数・時間
利用者も一般就労者も、8割近くが「週5日」就労、6割以上が「週20〜39時間」の作業をしている。作業時間を更に詳細にみると、双方とも3割が短時間勤務に該当する「週20〜29時間」となっており、ほぼ同じ傾向である(利Q14、就Q14)。このことにより、B型利用者も労働時間においては十分雇用につながり得ることがわかる。
労働時間に加えて、前項目で見たように仕事内容でも大きな差がないケースでは、それまでに受けることができた職業リハビリテーションや支援の機会の違いだけで福祉と労働に分かれ、その後も交差することがないまま後述のような所得等の大きな差がもたらされていると推察される。
ロ 雇用の契約状況
一般就労者の雇用契約をみると、8割以上が「非正規雇用」である(就Q13)。障害のない人も加えた一般の労働者の非正規雇用の割合が37%であることを考えると(2014年版労働経済白書)、障害のある人はさらに厳しい状況である。回答者の1割以上は必須であるはずの労災保険に入っていないと回答しており、3割弱の人には、非正規でも法的には付与されるはずの有給休暇がない(就Q15)。給与は64%が時給契約であるが、14%は最低賃金を割っており、75%は賞与がない(就Q28)。
処遇面については、4割近くが「障害のない従業員との差を感じている」と回答しており、特に「給与」「賞与」面についてそれを感じている人はそれぞれ40%である(就Q22)。
このように雇用実態は厳しく、時に労働者として当たり前の権利を与えられていないケースがあることがわかる。
B 「働く」ために受けている配慮・支援の特徴
イ 制度的支援や環境の調整
今回の一般就労者調査では身体に障害のある方の割合が2割と少なかったこともあり、事業所の建物や移動に関する配慮を必要としている人は少なかった。多かったニーズは「仕事上の工夫」(109%※1)、「勤務日や勤務時間の配慮」(64%)、「人の支援や応援」(56%)といった人的なものであった(就Q20)。
必要な支援制度においてB型利用者と大きな差があったのは、通勤(通所)の支援である。一般就労者のうち「送迎を受けている」人は「受けたい」人と合わせても15%しかいなかったことに比べ、B型利用者の8割は通勤支援が必要と言っている(利Q16、就Q16)。
つまり現在の「障害者雇用」の対象は、通勤支援を受けなくてもよい人たちであり、この点だけを見ても、現状の支援策のままでは、一定数以上の人々は雇用のステージに立てないことがわかる。
(※1 複数回答であるため100%を越している)
ロ 人による支援
今回の一般就労の調査の中で、支援・調整を最も受けていたのは「仕事上の工夫」であったが、更に小分類では「わかりやすい説明」「質問しやすい環境」を必要としているという声が格段に高かった(83%)。「気軽に相談できる環境」(33%)を合わせると、働く時に必要な配慮は圧倒的に「人による支援」であると、今調査からは受け取れる(就Q20)。
では、現在それを誰が担っているかであるが、「辛いときの相談相手」の設問では、利用者の70%が「現在の事業所職員」と答えており、一般就労者においても「会社の人」(50%)を抜いて64%が「以前の施設職員」と答えている(利Q18、就Q18)。別設問の「就職後に施設にしてほしい要望」では、「職場に来て」(30%)、「もっと相談にのって」(28%)等が多く、B型事業所に寄せる切実な声が聞こえる。
これらは一般就労しても社会との繋がりが広がっていない現実とも言えるが、同時にそれはB型事業所の持っている対応力、専門性の裏付けでもある。特に重い障害のある方の「やる気やモチベーションを引き出す力」は一般企業ではなかなか持ち合わせにくい。しかし、本調査で訪問したB型事業所では、作業や評価の工夫の中で確かにそれらが醸成されていることを感じることができた。
「就職後に施設にしてほしい要望」では、一般就労者の3割以上が「働けなくなった時の相談」をあげていることは注目したい。支援が一過性のものでなくシームレスに一生を通じて継続していくものであることを示すデータである(就Q32)。
C 「暮らす」実態に見るそれぞれの特徴
イ 工賃と給与
利用者の工賃収入(月額)は「1万円〜2万円未満」が35%と最も多く、まさに全国平均に近い13,580円前後が中心であった。全体で見ると、87%が「4万円未満」であり、B型事業所の工賃収入だけでは経済的自立は困難な状況が明確である。時給では37%が「100円〜200円未満」、36%が「200円〜400円未満」、「0円〜100円未満」も13%であった(利Q22、就Q26)。
一般就労者の給与(月額)は「4万円〜8万円未満」が52%で最も多い。(2)Aの雇用契約の回答結果にあわせて、これらの人を「最低賃金時給で短時間勤務」と仮定すれば、この金額の層になるであろう。障害のない人も加えた一般の労働者の平均賃金(月額)が26万4千円(2012年「毎月勤労統計調査」)であることを引き合いに出すまでもなく、この収入で住宅費も含め、地域で自活することは難しい。
2つの働き方で最も特徴が出ているのは賞与についてである。前述のように、一般就労者では75%の人に賞与が出ていないが、B型利用者では逆に75%に賞与が支払われている(利Q24、就Q28)。利用者の賞与は額にすればその7割が「5万円未満」ではあるが、その他にもB型事業所では評価給や経験給を設けているところも多く、生産や効率を重視したいわゆる「労働」型の評価法を取り入れているケースもある。その反面、皆勤手当や努力手当のような必ずしも効率だけでないところでの評価も取り入れ、生産性の低い人への工賃増額の工夫や、やる気を引き出す方策の検討も見られた(職員調査、および訪問調査記録を参照)。
ロ 所得保障
利用者も一般就労者も共にその8割が障害(基礎)年金を受給しており、いずれも9割以上が「その他の収入はない」と答えている(利Q27、就Q30)。利用者では9%が、一般就労者では6%が生活保護を受けているが、一般の生活保護率1.70%(2013年)からすると高い傾向にあることがわかる。今回の調査対象には家族同居が多いことを考慮すると、単独での生活になれば、もっと大きな数字になることも予想される。
利用者の1割の人は親や兄弟から仕送りをしてもらっており、生活保障を求める声が自由記述にも多くあがっている。
ハ 住まい、同居者
家族同居は、利用者が67%、一般就労者が58%であり、結婚はいずれも94%がしていない。一般の生涯未婚率は男性が20%、女性は10%であるから(2012年子育て白書)、両者とも家族(主に親)依存の傾向であることが推測される(利Q2、就Q2)。
利用者も一般就労者もグループホーム利用(※2)は3割程度であるが(利Q4、就Q4)、(1)@の属性調査で利用者の半数が40歳以上であったことを踏まえると、今後の家族による支援の継続の難しさは必至であり、福祉的サポートのある住まいの場が早々に望まれる(※2 調査時は「ケアホーム」、「通勤寮」の語彙も使用した)。
D 本人の思いと制度上の課題
イ 本人の思い
本調査では、制度や保障の度合いは違えども、いずれの就労形態においても「働く」という価値において当然与えられるべき権利が一部希薄である実態があった。しかしながら、(2)@でも見たように、B型利用者も一般就労者も実に90%が「仕事にやりがいがある」と回答しており(「とてもある」「少しある」を足して)(利Q17、就Q17)、B型利用者においては57%が「一般就労への支援を希望していない」と答え、一般就労者においては73%が「転職を考えていない」と答えている。工賃や賃金がきわめて低く、障害のない一般労働者との処遇上の大きな格差を感じているにもかかわらず、現状を変えたい人は少ない。
一見矛盾するこうした回答の理由については、他を知らないゆえの選択肢の少なさが予想されるが、全設問における中間的回答(「どちらでもない」「どちらかといえば」等)の多さからは、意識的あるいは無意識のうちの「あきらめ」、「現状維持」、「逡巡」などの気持ちもくみ取れる。
ロ 制度上の課題
後述の職員調査や訪問調査では、「B型事業所で働く人たちの希望は、今の事業所で長く働くこと」と回答する方が多かった。もちろんデータからはそうした意思も読み取れるが、中間的な回答が多かった今回の利用者調査の全体のトーンからは、それは積極的な意味ばかりではないように思われる。また、一般就労者や障害のない一般労働者との処遇上の格差を目の当たりにすれば、利用者が長く働くことを希望する事業所は、今のままのB型事業所を延長したものではないだろう。
今回の調査対象の利用者は、その多くが就労移行支援や専門的な相談援助を入口で受けておらず、また事業所に入ってからは長期在籍であった。現在の制度は、逆に一般企業への「移行ありき」に焦点があてられており、「B型事業所で力を溜めてから一般就労にのぞみたい」という思いの実現は難しい。
このように、労働人生が制度に振り回されるような現状は、変える必要がある。新しい就労支援の仕組みは、継続的な就労や訓練で自信をつけた人が、何度でも別の働き方にチャレンジできるといった、多様な選択肢が保障される必要がある。福祉的就労の場か一般就労の場かを問わず、誰もが適切な評価を平等に受けたうえで、その時々の必要なサポートを受けて働ける仕組みの構築である。それは、労働施策と福祉施策、それぞれの良いところをいかした一体的展開がどのように実現できるかにかかっている。