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●解説

  嵯峨野の隠君子いんくんし

   御所の図書寮を抜け出た若い公家くげが一人、あわただしく
  馬を急がせ始めます。
   向かうのは西。都を出外れると、嵯峨野の静けさがあたりを
  包みます。やや盛りを過ぎた秋草が、一層の趣きを添えていま
  す。
   やがて、その人影は緑濃い竹の林の中へ吸い込まれます。主
  人公を偲ばせるようなひっそりとした家。でも、どこかに貴族
  の風格を漂わせる家に入って行きます。
   公家は図書寮からの使いで、なにか重要な学問の教えを請う
  ているようでした。
   が、書物らしいものが覗けるだけで、御簾みすの奥の主はつ
  いに姿を見せませでした。胸を病んでいるのか、人目を避ける
  障害の身なのかも、定かではありません。
   知られているのは、<嵯峨野の隠君子>と呼ばれていること
  と、都の学者たちが教えを請うほどの大学者だ、ということで
  した。
   平安時代になると、障害者は歴史に登場しなくなります。貴
  族の障害者たちは<隠君子>や蝉丸のように洛外の別荘で暮ら
  したとして、庶民はどうしたのでしょう。
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