3章 考察
3−1 一次調査 アンケート調査結果から見えたもの
この章では、2章のアンケート調査結果から見えるものを、「利用者調査および一般就労者調査」と「事業者調査」および「職員調査」の3つの視点で考察していくことする。
(文中の“利Q*”は利用者アンケートの調査結果Q*を、“就Q*”は一般就労者アンケートの調査結果Q*を、それぞれご参照いただきたい)。
(1)利用者調査 および 一般就労者調査
@ 属性に見るそれぞれ(B型事業所利用者と一般就労者)の特徴
イ 本人の属性
年齢を見ると、一般就労者は「20歳以上〜40歳未満」が64%と比較的若い分布であるが、B型利用者の場合の同年齢層は47%であり、その上の「40歳〜60歳未満」も40%に近く、「60歳以上」も1割以上利用していることがわかる(利Q1、就Q1)。
障害については、いずれも知的障害が最も多く半数を超えている。若干B型利用者のほうが障害等級は重い傾向にあるが、全体から見るとさほど大きな相違はない(利Q6、就Q6)。
ロ 就労への経路
現在の就労の場の就労年数は、一般就労者は「1年〜3年未満」が80%で大変に短い。B型利用者で多いのは「5年以上10年未満」が22%、「10年以上15年未満」が18%、「20年以上」も1割となっており、3分の1の方が10年以上の長期在籍である(利Q8、就Q9)。
B型利用者の経路は、「学校」と「家庭」を足すと4割にのぼるが、「就労移行支援事業所」を経由してきた人はわずか4%であった(利Q4)。また、現在通所しているB型事業所を探した方法も半数が「特別支援学校」と「家族」というデータ(利Q13)からみて、多くのB型利用者は、その入り口で、就労支援機関との関わりや労働に関する専門的な評価を受けることなく、ストレートにB型事業所に入っていることがわかる(現在は、就労経験があるか、「就労移行支援事業所」を必ず経由するように制度設計されている)。
一般就労者の就職への経路を見ると、「所属していた機関・施設以外も利用した」が7割を超しており、8割が「ハローワーク」も利用していることから、一般就労への移行には地域資源の連携利用が不可欠であることがわかる(就Q12)。一方で、65%の人は1回〜4回働く場を変わっており、データからは雇用実態の厳しさもうかがえる(就Q10)。
A 「働く」実態に見るそれぞれの特徴
イ 就労状況
・仕事内容
「一番多くやっている仕事」内容は、割合は若干異なるが両者とも、「軽作業」「清掃」「食品加工」であり、さほど差はない(利Q7、就Q8)。
「現在の作業が自分にあっているかどうか」を問う設問では、利用者は81%、一般就労者は74%が「あっている」と答えている(利用Q12、就Q11)。しかし、同時に、「新しいところで働きたい(あるいは迷っている)」と答えている利用者も4割以上おり、そのうちの半分近くがその理由を「好きな仕事や自分にあった仕事がしたい」とも回答している(利Q19)。一般就労者も、転職希望者のやはり4割程度が同じように答えていることから、双方とも働くことへの希望と現実が微妙に入り混じっていることがみえる(利Q19、就Q23)。
・就労日数・時間
利用者も一般就労者も、8割近くが「週5日」就労、6割以上が「週20〜39時間」の作業をしている。作業時間を更に詳細にみると、双方とも3割が短時間勤務に該当する「週20〜29時間」となっており、ほぼ同じ傾向である(利Q14、就Q14)。このことにより、B型利用者も労働時間においては十分雇用につながり得ることがわかる。
労働時間に加えて、前項目で見たように仕事内容でも大きな差がないケースでは、それまでに受けることができた職業リハビリテーションや支援の機会の違いだけで福祉と労働に分かれ、その後も交差することがないまま後述のような所得等の大きな差がもたらされていると推察される。
ロ 雇用の契約状況
一般就労者の雇用契約をみると、8割以上が「非正規雇用」である(就Q13)。障害のない人も加えた一般の労働者の非正規雇用の割合が37%であることを考えると(2014年版労働経済白書)、障害のある人はさらに厳しい状況である。回答者の1割以上は必須であるはずの労災保険に入っていないと回答しており、3割弱の人には、非正規でも法的には付与されるはずの有給休暇がない(就Q15)。給与は64%が時給契約であるが、14%は最低賃金を割っており、75%は賞与がない(就Q28)。
処遇面については、4割近くが「障害のない従業員との差を感じている」と回答しており、特に「給与」「賞与」面についてそれを感じている人はそれぞれ40%である(就Q22)。
このように雇用実態は厳しく、時に労働者として当たり前の権利を与えられていないケースがあることがわかる。
B 「働く」ために受けている配慮・支援の特徴
イ 制度的支援や環境の調整
今回の一般就労者調査では身体に障害のある方の割合が2割と少なかったこともあり、事業所の建物や移動に関する配慮を必要としている人は少なかった。多かったニーズは「仕事上の工夫」(109%※1)、「勤務日や勤務時間の配慮」(64%)、「人の支援や応援」(56%)といった人的なものであった(就Q20)。
必要な支援制度においてB型利用者と大きな差があったのは、通勤(通所)の支援である。一般就労者のうち「送迎を受けている」人は「受けたい」人と合わせても15%しかいなかったことに比べ、B型利用者の8割は通勤支援が必要と言っている(利Q16、就Q16)。
つまり現在の「障害者雇用」の対象は、通勤支援を受けなくてもよい人たちであり、この点だけを見ても、現状の支援策のままでは、一定数以上の人々は雇用のステージに立てないことがわかる。
(※1 複数回答であるため100%を越している)
ロ 人による支援
今回の一般就労の調査の中で、支援・調整を最も受けていたのは「仕事上の工夫」であったが、更に小分類では「わかりやすい説明」「質問しやすい環境」を必要としているという声が格段に高かった(83%)。「気軽に相談できる環境」(33%)を合わせると、働く時に必要な配慮は圧倒的に「人による支援」であると、今調査からは受け取れる(就Q20)。
では、現在それを誰が担っているかであるが、「辛いときの相談相手」の設問では、利用者の70%が「現在の事業所職員」と答えており、一般就労者においても「会社の人」(50%)を抜いて64%が「以前の施設職員」と答えている(利Q18、就Q18)。別設問の「就職後に施設にしてほしい要望」では、「職場に来て」(30%)、「もっと相談にのって」(28%)等が多く、B型事業所に寄せる切実な声が聞こえる。
これらは一般就労しても社会との繋がりが広がっていない現実とも言えるが、同時にそれはB型事業所の持っている対応力、専門性の裏付けでもある。特に重い障害のある方の「やる気やモチベーションを引き出す力」は一般企業ではなかなか持ち合わせにくい。しかし、本調査で訪問したB型事業所では、作業や評価の工夫の中で確かにそれらが醸成されていることを感じることができた。
「就職後に施設にしてほしい要望」では、一般就労者の3割以上が「働けなくなった時の相談」をあげていることは注目したい。支援が一過性のものでなくシームレスに一生を通じて継続していくものであることを示すデータである(就Q32)。
C 「暮らす」実態に見るそれぞれの特徴
イ 工賃と給与
利用者の工賃収入(月額)は「1万円〜2万円未満」が35%と最も多く、まさに全国平均に近い13,580円前後が中心であった。全体で見ると、87%が「4万円未満」であり、B型事業所の工賃収入だけでは経済的自立は困難な状況が明確である。時給では37%が「100円〜200円未満」、36%が「200円〜400円未満」、「0円〜100円未満」も13%であった(利Q22、就Q26)。
一般就労者の給与(月額)は「4万円〜8万円未満」が52%で最も多い。(2)Aの雇用契約の回答結果にあわせて、これらの人を「最低賃金時給で短時間勤務」と仮定すれば、この金額の層になるであろう。障害のない人も加えた一般の労働者の平均賃金(月額)が26万4千円(2012年「毎月勤労統計調査」)であることを引き合いに出すまでもなく、この収入で住宅費も含め、地域で自活することは難しい。
2つの働き方で最も特徴が出ているのは賞与についてである。前述のように、一般就労者では75%の人に賞与が出ていないが、B型利用者では逆に75%に賞与が支払われている(利Q24、就Q28)。利用者の賞与は額にすればその7割が「5万円未満」ではあるが、その他にもB型事業所では評価給や経験給を設けているところも多く、生産や効率を重視したいわゆる「労働」型の評価法を取り入れているケースもある。その反面、皆勤手当や努力手当のような必ずしも効率だけでないところでの評価も取り入れ、生産性の低い人への工賃増額の工夫や、やる気を引き出す方策の検討も見られた(職員調査、および訪問調査記録を参照)。
ロ 所得保障
利用者も一般就労者も共にその8割が障害(基礎)年金を受給しており、いずれも9割以上が「その他の収入はない」と答えている(利Q27、就Q30)。利用者では9%が、一般就労者では6%が生活保護を受けているが、一般の生活保護率1.70%(2013年)からすると高い傾向にあることがわかる。今回の調査対象には家族同居が多いことを考慮すると、単独での生活になれば、もっと大きな数字になることも予想される。
利用者の1割の人は親や兄弟から仕送りをしてもらっており、生活保障を求める声が自由記述にも多くあがっている。
ハ 住まい、同居者
家族同居は、利用者が67%、一般就労者が58%であり、結婚はいずれも94%がしていない。一般の生涯未婚率は男性が20%、女性は10%であるから(2012年子育て白書)、両者とも家族(主に親)依存の傾向であることが推測される(利Q2、就Q2)。
利用者も一般就労者もグループホーム利用(※2)は3割程度であるが(利Q4、就Q4)、(1)@の属性調査で利用者の半数が40歳以上であったことを踏まえると、今後の家族による支援の継続の難しさは必至であり、福祉的サポートのある住まいの場が早々に望まれる(※2 調査時は「ケアホーム」、「通勤寮」の語彙も使用した)。
D 本人の思いと制度上の課題
イ 本人の思い
本調査では、制度や保障の度合いは違えども、いずれの就労形態においても「働く」という価値において当然与えられるべき権利が一部希薄である実態があった。しかしながら、(2)@でも見たように、B型利用者も一般就労者も実に90%が「仕事にやりがいがある」と回答しており(「とてもある」「少しある」を足して)(利Q17、就Q17)、B型利用者においては57%が「一般就労への支援を希望していない」と答え、一般就労者においては73%が「転職を考えていない」と答えている。工賃や賃金がきわめて低く、障害のない一般労働者との処遇上の大きな格差を感じているにもかかわらず、現状を変えたい人は少ない。
一見矛盾するこうした回答の理由については、他を知らないゆえの選択肢の少なさが予想されるが、全設問における中間的回答(「どちらでもない」「どちらかといえば」等)の多さからは、意識的あるいは無意識のうちの「あきらめ」、「現状維持」、「逡巡」などの気持ちもくみ取れる。
ロ 制度上の課題
後述の職員調査や訪問調査では、「B型事業所で働く人たちの希望は、今の事業所で長く働くこと」と回答する方が多かった。もちろんデータからはそうした意思も読み取れるが、中間的な回答が多かった今回の利用者調査の全体のトーンからは、それは積極的な意味ばかりではないように思われる。また、一般就労者や障害のない一般労働者との処遇上の格差を目の当たりにすれば、利用者が長く働くことを希望する事業所は、今のままのB型事業所を延長したものではないだろう。
今回の調査対象の利用者は、その多くが就労移行支援や専門的な相談援助を入口で受けておらず、また事業所に入ってからは長期在籍であった。現在の制度は、逆に一般企業への「移行ありき」に焦点があてられており、「B型事業所で力を溜めてから一般就労にのぞみたい」という思いの実現は難しい。
このように、労働人生が制度に振り回されるような現状は、変える必要がある。新しい就労支援の仕組みは、継続的な就労や訓練で自信をつけた人が、何度でも別の働き方にチャレンジできるといった、多様な選択肢が保障される必要がある。福祉的就労の場か一般就労の場かを問わず、誰もが適切な評価を平等に受けたうえで、その時々の必要なサポートを受けて働ける仕組みの構築である。それは、労働施策と福祉施策、それぞれの良いところをいかした一体的展開がどのように実現できるかにかかっている。
(2) 事業所調査(管理者もしくはサービス管理責任者)
障害者就労事業所に求められているものへの対応ならびにその結果としてどのような変化が認められるのかを6つの特徴から考察し、その課題などを考えることとする。
@ 障害福祉サービス事業実施事業所の特徴
社会福祉法人とNPO法人による運営が大半で、多機能型の事業所が圧倒的に多 い。多機能事業では就労移行支援事業が64%と最も多く、次いで生活介護となる。同じ就労継続でもA型事業は5%と少ない。移行前の事業は知的通所授産、小規模作業所、身障通所授産の合計が過半数を占め、6年以上就労支援を実施しているところが82%と多い。事業所の規模としては60人以下のところが83%を占める。その中でB型事業については40人以下のところが87%を占める。
2006年(平成18)年に障害者自立支援法が施行され、ほぼ現在の障害福祉サービスの基本事業が整った。それにより小規模事業所等などは統合整理、新制度への移行や法人格の取得など大きな変革が求められた。平成25年度には障害者総合支援法に変わったが、新たに設立された事業所より圧倒的に旧来から事業を行ってきた事業所からの回答が多かった。
特徴としては日額払い等の影響からか、単価が低い就労継続B型事業だけで運営しているところは少ない。他の事業との多機能型が多い。それは、職員兼務も可能なことから、個別ニーズに対応するためという事もあると思われる。多彩なニーズに対応するために単一機能ではカバーしきれないという実態がうかがえる。
A 事業所の利用者像や職員体制などの特徴
今回の回答の中では障害種別による割合は身体と精神が各4分の1、知的が半数2分の1という状況。年齢層は40代以下でほぼ80%を占める。
職員数は10人以下が最も多く、定員数と重ねるとほぼ法定職員数とみることができる。
一方では常勤職員の他事業との兼任率について、何らかの形で他事業と兼務している割合は多機能型を実施しているところを分母とすると70%となる。非常勤職員の兼任率は80%と常勤を上回るものの兼任率は低く10%以下が63%を占める。
指定基準以外の職員配置は事務職の36%、次いで就労支援事業の専門職23%となる。
職員配置基準には事務職は想定されていないが、実績日払いへの変更をはじめ、要件や条件による煩雑な加算の体系などにより複雑化する事務作業に対応して事務員配置をしなければならない実態がうかがえる。B型事業においては特に工賃アップのための“目標工賃達成指導員配置加算”が設けられているが、就労支援事業の専門職については、これが該当すると推察できる。配置要件が細かく求められていない加算内容であるにもかかわらず23%しか配置できていないのは、事業規模の問題か、加算額の問題かのいずれにしろ、人件費に充当するには不十分ではないかと思われる。
B 事業所の規模などの特徴
事業所建物の所有形態では自己所有が64%、賃貸・不明が36%で、これはほぼ法人形態の割合と一致する。
事業所の建物としては平屋もしくは2階建てが全体の86%を占める。施設全体の面積は500平米以上が最も多いが、B型事業単独で見ると100平米以上200平米未満が多い。定員数と併せてみると決して広さにゆとりがあるわけではない。間取りは2〜3室が多いことから、10名から15名くらいで作業をしているというところが多いのではないかと推察できる。
相談室・食堂などは兼用しているところが過半数となるが、更衣室は専用のところが多い。食堂を作業室として活用している場合もある。事務室及び更衣室の兼用については、他の目的とどのように兼用しているのか、明らかではない。相談室についてはプライバシーの問題があるはずだが、これも他の目的とどのように兼用しているのか、明らかではない。さほど広くないところでも実施できる事業を行っているという事なのだろうか。また、賃貸の割合と事業主体がNPOである割合とがほぼ同じである。
規制緩和により、第二種社会福祉事業については賃貸でも事業を行えるようになった。このことにより自由度が上がったのは良いが、アメニティやプライバシーの面などが後退してはいないだろうか。背景には家賃の厳しさがある。東京都などは家賃補助等があるが、地方も含めて普遍的な対応が必要である。
C 「働きたい」の実現と配慮・支援の特徴
作業内容については、軽作業を実施しているところは73%に達する。食品加工・販売・清掃は各40%くらいが実施している。リサイクルは30%が実施している。こうした中で最も多くの利用者が関わっている作業は軽作業で、次いで食品加工となっている。
利用者の1日当たり平均就労時間は4〜6時間が最も多く、66%を占める。
週当たりの就業日数は5日が最も多く、次いで4日となっており、これらで全体の約9割を占める。
有給休暇制度が全体の12%で行われていることは、現行制度から見ると決して少ない割合ではないといえる。
通勤支援を行っている事業所は77%となっている。
事業所全体の92%が傷害保険に加入している。
B型事業所の最も特徴的な部分は、さほど設備投資が必要のない事業が多いこと、週当たりの労働時間は20時間から30時間が最も多いこと、(できる限り通常の就労に近づけようとするためか支援体制の維持のためかは本調査からは読み取れない)、通勤支援の割合が高いことから、身体障害に限らず、通勤など交通機関を使用した移動に支援が必要であることなどがうかがえる。こうしたことから、B型事業所の利用者が一般企業にチャレンジするには、通勤支援などの制度化や週当たりの就労時間への配慮などが必要と思われ、現在それらをサポートできる企業は決して多くないのが実情と思われる。
D 工賃支給に関する特徴
年間売り上げは100万円から1000万円の範囲が最も多く、全体の半数近い48%である。一方、工賃支払の総額は100万円から500万円が最も多く、全体の半数近い45%である。売上額と工賃支払額の関係については本調査からは読み取れない。
2012年の月額平均工賃は5000円から2万円の範囲に全体の62%が入っている。工賃の全国平均を中心とした分布にマッチする。2011年から2012年にかけての月額平均工賃の変化を見ると、1万円から2万円の層が若干厚くなってきている。
工賃の計算方法は時給が最も多く49%を占める。また工賃支給に際し何らかの形で賃金査定をするための評価をしているところが全体の68%を占める。何らかの手当を支給している事業所は全体の48%となるが、その中でも通勤手当を支給しているところが多い。他は何らかのモチベーションにつなげるような手当、名称が多い(頑張り手当・努力手当など)。
B型事業所に求められている、現状の工賃を上げることを目指して、利益率の高い作業は行っているが、売上が低いことから工賃支給額が上がらないという事も低工賃の理由の一つである。作業時間を延ばして週40時間をベースにしたとしても、現状の倍には届かない(労働時間との関係から読み取れる)。工賃を上げるには、いかに高い売り上げのある商品開発をし、一定以上の売り上げを確保するか、もしくは競争の中での受注ではなく随意契約等による一定の保護策の下での受注が必須となるのではないだろうか。。
E B型事業所の事業から見た就労移行への取り組みの特徴
基本的には、B型事業所の事業においては一般就労、雇用を目指すという取り組みはほとんど見られない。事業そのものは軽作業を中心とした事業が多くみられ、大規模な事業は少ないと推察できる。
法定配置職員ギリギリで行っている事業所が多いと読みとれる。複雑化してくる事務職には法定外であっても専任者が必要な状況であると感じている事業所が多い。
制度的には高工賃を目指すための施策が行われているが、具体的な結果には至っていないようである。
B型事業所からの就労移行(一般就労、企業就労を実現する)は、本調査カテゴリーからは読み取れない。前述の通勤支援の制度化や週当たりの就労時間への配慮など、現状では一般企業においては制度上実施困難な支援が多く、こうしたことをクリアできないと雇用には結びつかないと思われる。また高工賃を目指す取り組みについても、障害者施設等製品優先調達推進法をどのように活用していくかを現状の競争入札原則などとは切り離した領域で検討していく必要があると思われる。
(3)職員調査
職員調査では調査対象事業所の職員298人からの回答があったが、この調査では各質問項目についてできる限り具体的な内容を記した自由記述による回答を得ている。以下、ここではこうした自由記述による回答の内容を整理、分析した結果、見えてきたことがらについて考察する。
@ 属性について
イ 職員の属性について
職員の年齢は、30代が35%、40代が25%、50代が20%で30歳未満が15%であり、男女比はほぼ半々であった。職種は職業指導員・生活指導員が最も多く82%となっていて、直接処遇する立場の職員の回答となっている。
職員としての経験年数は5年以上の経験年数が58%と半数以上を占めた。その中でも10年以上は33%となっている。職歴は、福祉系の職歴がない職員が62%、福祉系の学歴がない職員が63%となっており、過半数は福祉系以外の学歴や経験者から構成される。
ロ 調査回答者の事業所について
多機能型でB型事業所を設置しているところが73%である。B型以外では就労移行支援事業を設置しているところが64%で最も多い。利用定員、利用登録者数、平均利用人数はいずれも41人以上60人以下が多く、次いで21人以上40人以下となっている。
A 事業・組織について
イ 理念と目的の共有化が求められる。
今回の調査(Q3,Q5)では、工賃や利用者の就職率の低さについてはどちらも「低いがやむをえない」といった回答が多かった。なぜ「やむをえない」といった回答が多いのかを分析していくと、利用者の意識が低いといった答えが多く、利用者に問題があるとしている。事業所の理念や目的に「働く」ことが位置づけられていれば、その共有化を図ることで事業を展開していき、「働く」ことの充実化に向けて組織全体で進んでいくはずである。そのことが充分にできていない現状が、「やむをえない」といった回答に表れていると考えられる。
ロ 事業の迅速性、即効性が必要である。
前述の通り、B型事業所は文字通り「働くことを支援する」ことが目的のひとつ
である。調査結果によると業種は、清掃、洗濯、食品製造、販売、軽作業、農業、自主製品等多岐にわたっている。しかしながら、B型事業所の事業が迅速性と即効性に欠けているということが、調査から読み取れる。例えば、今行っている業種を収益率が低いことを理由に変えたいと感じていても、なかなか変えることができないでいる、といった回答が多い。
また、経済活動の知識や技術が職員として不足していることは、認識していながらも改善策を持つことができずにいる。B型事業所の職員は、福祉に関する知識だけではなく、一般労働市場における知識やノウハウを身につけ、事業所の実践を向上させる努力が必要である。しかしながら、経済活動に関する研修の機会が少ないこともあり、職員だけの責任に言及することはできない現状がある。今後は、PDCAサイクルに基づき、実践の効果を随時検証し、より効果的に生産性を上げることが求められる。B型事業所の経済効果を上げるために、一般労働市場からも信頼されるような実践を進めることが必要である。
ハ 仕事の確保について
仕事の確保の重要性は、調査の回答全体からも大きな課題であることが、随所に表れている(Q3、Q4、Q6、Q7、Q8)。就労支援事業所における仕事の開拓と確保は、従来からも言われ続けてきた課題である。また、B型事業所の事業展開の在り方について最も重視することとして「仕事の確保と開拓」があげられている。
しかし、現状は、いわゆる内職レベルの下請け作業といった仕事が主に行われており、当然ながら単価が安く、社会的価値が低く、良質な仕事とはいえない。利用者ができる工程が少なく、作業の大半を職員が行っていて職員負担が大きいことも調査の結果に表れている。
また、現在行っている仕事が決して満足のいくものではないことは、職員も十分承知していながらも、変えたくても変えられない事情や悩みを抱えていることが、調査結果から見てとれる。やはり、工賃向上のカギは仕事の確保に他ならないといえる。それは、利用者の能力に見合った仕事であると同時に、社会的にも価値のある仕事で、利用者にとっても誇りややりがいの持てるものであるべきである。
B 障害のある人がB型事業所で働くことについて
イ「働く」ことの価値や理解を共有する。
充分に働くことのできる利用者と、働くことが日中活動の柱になりにくい利用者が、B型事業所で混在している現状がある。B型事業所を居場所と働く場、あるいは趣味・生きがい活動と生産活動を渾然一体として「働く」ことを捉えてしまうことで、「働く」ことの価値や理解を共有し、その仕組みを充分に作ることができていない現状となっている。社会において「働く」ことの意味と権利を明確にしない限り、就労支援事業所において、経済活動の必要性の有無の段階で、あるいは理論武装の弱さでゆらぎ続けてしまう。働くということを権利として捉え、それを理論的に裏付けることが大切である。
ロ 労働、事業、利益、分配の連動性の仕組みも理解が必要である。
調査結果では人手不足、実務に追われる、生産に追われることが職員の業務上の悩みとして上がっていて、利用者の労働を権利として捉えることができていない現状がある(Q6,Q7)。作業活動については、就労支援事業所の日中活動と捉えると、それは支援内容となるが、利用者の方々のライフステージから考えると、作業活動は労働であり、収入を得るための活動である。また、人として当然の働く権利であり、学び、努力して活動する機会であると捉えられる。すなわち利用者への就労を支援しながら、同時に事業所全体でより多くの収益を得て、事業を拡大し、より多くの利益を工賃として利用者に分配する使命が課せられている。事業所内の福祉的側面だけでなく、社会や人のライフステージ全体に視野を広げ、それらをよく理解しておく必要がある。
C 利用者について
イ 毎年工賃アップを望むというあたりまえの要求がある。
調査の結果では「他施設よりも高く支払っている」「全国あるいは県の平均より高い」といった理由で現在の工賃額を妥当とする回答が多かった(Q3,Q4)。
さらには、売り上げ目標金額や工賃に対する設問に対して「わからない」といった答えが多かった。
利用者調査にも表れているが、働くことの結果として工賃があり、工賃アップを利用者が望むのは働く者として当然の権利であり、要求である。障害のある人が「働く」ことを特別視するのではなく、あたりまえに考えていく必要がある。
ロ 労働環境の整備が重要となってくる。
B型事業所では、利用者の働く能力に見合った仕事の提供、生産ラインの構築、作業内容、作業手順など総合性と個別性が重要になってくる。そのためには、環境整備が障害のある人が働くうえで必要不可欠になってくる。職員の多くは、主として言葉で説明をする傾向がある。しかしながら、環境整備の条件は、言葉による説明だけではなく、障害のある人が主体的に仕事に取り組むために、視覚的にわかりやすい環境を作り、先の見通しができるようにすることが職員にとっての重要な責務と言える。
「物理的・空間的理解(どこで何をするのか)」「時間の理解(いつ何をするのか)」「作業手順の理解(どのようにするのか)」「作業課題の理解(何をどのくらい行うのか、いつまでに終わるのか)」というような視点で働く環境を見直し、手順書や具体的な目標数などを示すことが大切である。こうした働きやすい環境の整備を通じて、働く意欲を高め、「理解力」「技術・技能力」「確認力」を育てるとともに、働くうえで必要な「態度」の形成につなげることができる。障害のある人にとって尊厳のある労働を保障するためにも、労働環境の整備は極めて重要である。
ハ 働く能力の客観的な評価が必要である。
調査結果によると、公平性を期すため、利用者の工賃を一律にしているB型事業所もある。また、調査の回答では、工賃設定の方法、利用者の働きをどのように評価するかが課題としてあげられていた(Q4)。作業評価についても、公平・客観的な評価が求められている。どのような作業を・どのように・提供するのかを考える前提には、当然利用者個々の「働く能力」が把握されていなければならない。利用者個々の働く能力を把握するためには、一定の尺度・基準に基づいて客観的に評価する必要がある。 働く能力を見極めた上で、作業工程を分解し、より利用者が力を発揮できる場に配置することで、生産性が向上することは自明のことである。
D 職員について
イ 職員の意識改革の必要性が求められる。
調査結果には、利用者が働くことに対して「低工賃でも仕方がない」あるいは「利用者はそれほど働くことを望んでいないのではないか」という職員の諦めと思い込みが如実に表れた回答が多くあった(Q4)。これは、長いこと、福祉的就労の場で「働く」ことの本当の価値や権利を追求することなく、あいまいなままにしてきた結果ではないかと考える。
また、現場では常に課題になってきたことではあるが、利用者支援と経済活動が両立しないという意識である。経済活動に力を注ぐと利用者支援に手が回らない、あるいは利用者支援の充実を図ることが経済活動に困難をきたすといった理由となり、どちらも「言い訳」として使われてきたことである。職員の意識改革のために必要なこととしては、利用者支援と経済活動の両立を目指すことが重要となってくる。これは、利用者支援と経済活動が対立するものではなく、利用者を総合的に支援することを前提にして両者の充実が図られるべきということである。利用者支援と経済活動を両立させながらこれまでサービスの提供に活用されることのなかった企業等とも相互に連携、協力を行っていくような仕組みづくりが必要とされていくものと思われる。
このような仕組みが出来上がっていけば、職員は利用者支援と経済活動を分離した状態で捉えるのではなく、両者を充実させていくことがB型事業所の役割と機能の広がりとなり、総合的な支援につながっていくという意識に変わっていくはずである。
ロ B型事業所の支援力の向上と明確な位置づけが求められる。
社会における経済活動に対する認識や経験が浅いB型事業所にとっては、「働く」ことの支援について困難な思いを抱くことが多いのではないかと思われる。職員自身の仕事のやりがいについては、「障害者の自立」「社会とつながること」とする人がもっとも多く、「利用者の笑顔や満足」という回答も多かった。売り上げアップや工賃の向上をやりがいとする人は少なかったという調査結果からも、B型事業所職員の多くは、福祉活動は対人サービスが中心であり、経済活動にかかわる業務は副次的であると考えている場合が多いのではないだろうか。あるいは、経済活動による支援の必要性は低いという認識もあるのではないか。また調査結果からは46%の人が常に人手不足でゆとりがないとしており、積極的な経済活動を進められないという状況も推察できる。
B型事業所には多様な役割が期待されているなかでの役割を「働く」という視点で明確に位置づけ、「働く」ことの権利保障の視点から利用者を捉えていく必要があるのではないだろうか。つまり労働活動を中核に、労働を前提として福祉的な支援を行う場としてB型事業所を位置づけ、役割や機能を明確にしていくのである。その視点が明確でないために、B型事業所の果たすべき役割や機能が曖昧になってしまうという現状がある。
B型事業所には、制度上では工賃3,000円以上の支払いを求めているが、その水準の定め方自体が、B型事業所をきわめて曖昧な位置づけにしているといえよう。
ハ 工賃アップができる制度設計が求められる
業務上の悩みや困難への回答(Q6−2)には、人手不足で余裕がない134人(46%)、生産性向上に追われる116人(40%)、実務が多い99人(34%)、利用者の多様なニーズに対応しきれない95人(33%)と続いている。
工賃を上げようと努力すると確実に職員の労働条件が悪くなるという実態がある。また、職員の労働条件を維持しようとすると工賃は上がらず、下がってしまうという現状もあるのではないだろうか。つまり一方をよくしようとすると他方は下がってしまうという現象が生まれているのである。
この現実は、B型事業所が抱える根本的な課題であろう。福祉的就労の場として位置づくB型事業所の制度設計の課題が浮かび上がってきているのである。利用者支援と経済活動を両立させていくためには、この現状を打破していく新たな仕組みが必要である。例えば、経済活動を充実させ、工賃アップにつなげた職員の努力を職員給与にも反映させるといったインセンティブの導入なども検討されるべきではないだろうか。