18年11月22日更新
○JDは、2018年11月21日付で、「優生保護法被害者に対する謝罪と補償等に関する提案書(第一次)」を与党旧優生保護法に関するワーキングチーム、優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟に提出しました。また、関係議員などに共有しました。
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2018(平成30)年11月21日
与党旧優生保護法に関するワーキングチーム 座長 田村 憲久 様
優生保護法下における強制不妊手術について考える議員連盟 会長 尾辻 秀久 様
優生保護法被害者に対する謝罪と補償等に関する提案書(第一次)
NPO法人日本障害者協議会
代 表 藤井 克徳
優生保護法(1948年~1996年)とその前後の関連政策による被害は、日本の障害関連政策史はもとより、人権に関する政策史にあっても最大かつ最悪の問題と断定できる。それは、被害者が知的障害者ならびに精神障害者に集中していることと深く関係する。つまり、被害者に共通するのは、①物事を主張できないか主張できにくい立場にある、②もともと社会の偏見や差別にさらされ、ニーズや実態が封殺されやすい状態に置かれている(家族や親族の「内なる差別」を含めて)、③被害者に女性が多いことは、女性障害者が被りやすい、いわゆる複合差別が重なっている、などである。
以上を踏まえるならば、この問題への対処に当たっては、既存の法制度の枠組みや慣行のみでは限界がある。これらを越えた観点が必要である。そのうえで、対処の第一歩として、国は、「すべての被害者に無条件で謝罪と補償を行う」ことを高らかに宣言すべきである。この宣言に信憑性があればあるほど、国と被害者の距離が縮まるに違いない。そうでなければ、準備されている「謝罪と補償、検証に関する法律」(以下、謝罪・補償法)は空疎なものとなり、歴史的な総括と教訓を得るはずが、一転して「歴史的な禍根」のさらなる増幅となってしまうだろう。
なお、今般の被害問題への対処は、日本の障害分野の行方にとっても重大な意味を持つ。すなわち、乗り越え方を誤れば、障害関連政策や人権に関する「基準値」が沈下したり変質してしまうのである。基準値を確かなものとしていくためにも、被害者はもとより、広く、多くの障害当事者が納得のいく考え方と方法で解決してほしい。このことは、今なお辛苦の状態にある被害者に対して、また無言のまま亡くなられたおびただしい数の犠牲者への誠実な向き合い方にも通じるはずである。
率直に言って、与党旧優生保護法に関するワーキングチームによる基本方針骨子(以下、基本方針骨子)は不十分と言わざるを得ない。今後の法律案の検討に際し、以下の諸点を反映するよう、切に要望する。
なお、被害者への告知の仕方を中心に、現時点で謝罪・補償法のあり方のすべてを断じることは難しい。今後、被害者や弁護団と、また当会の内外の障害関連団体と協議を重ねながら提案内容のバージョンアップを図っていきたい。本提案は、「第一次提案」ととらえていただきたい。
Ⅰ 法律の名称にならびに法律に盛り込むべき基本要素
1)法律の名称に次の文言を明記すべきである。①「被害者の人権と尊厳の回復」②「謝罪と補償」。
2)法律に次の基本要素を盛り込むべきである。①謝罪 ②補償 ③検証 ④再発防止。
Ⅱ 前文に欠かせない内容
1)優生保護法は違憲であったこと。
2)関連する国際規範(世界人権宣言、国際人権規約、女性差別撤廃条約、障害者権利条約など)に反していたこと。
3)最大の特徴が「無抵抗者への行政による強制手術」であることを踏まえ、優生保護法に備わる特異な非人権性、非人道性をはっきりさせておくこと。
4)誤った法律を創設し、また失効の好機を逃し続けてきたことの立法府の責任。
5)長年にわたり問題点を指摘されながらも、軽視、もしくは無視してきたことの政府の責任(不作為)。
Ⅲ 謝罪と補償の対象
1)優生保護法が効力を有した期間に強制手術を施された者(本人同意の有無にかかわらず、優生保護法に基づくすべての手術を施された者)
2)国民優生法(1941年から優生保護法につながる1948年まで)に基づく手術を施された者
3)優生保護法の有効期間、または失効したのちであっても、優生保護法の濫用もしくはその考え方の下で行われた断種手術や子宮摘出手術を含む生殖器関連の手術を施された者
4)上記の手術を施された者の配偶者
Ⅳ 認定について
1)被害者の認定の審査に当たっては、客観性や透明性は言うに及ばず、何よりも「被害者の人権と尊厳を守る」「謝罪の念を基調に据える」の観点が必須である。そのためには、何らかの公的な仕組みづくりが必要となり、その仕組みは強い第三者性が基本的な条件となる。少なくとも、現時点で、「違憲性を認めない立場をとる政府(厚労省)」に設置することには、客観性の担保という観点から賛成できない。設置の所管をどこに置くかについては、関係者と協議しながら、立法府として知恵を絞るべきである。
2)被害者をもれなく認定するために、認定に際しては、優生手術の実施に関する公的な資料が残っていない場合であっても、本人ならびに家族・親族等の証言、自治体職員や医療機関・福祉施設職員の証言、医師の所見等、ささいな証拠を含めてあらゆる方法から迫るべきである。
3)新たな認定のための審査の仕組みにあっては、その構成に一定数の障害当事者の代表を加えることとする。
Ⅴ 検証について
歴史的な重大性から、徹底した検証が必要である。従来ありがちな政府主導の検証体制では、徹底した真の検証は保証されない。少なくとも、下記の諸点について具体化すべきである。
1)謝罪・補償法において、検証体制についての設置規定を設けること。
2)検証体制については、①第三者性の確実な担保、②一定数の障害当事者の代表を加えること、③実質的で透明度を保つために、審議は公開とすることはもちろん、途中での公聴会の開催や中間報告を提出すること。
3)検証内容(主要なもの)
・優生保護法の立法過程(憲法との関係、国会審議など)
・施行後の政府ならびに立法府の対応
・自治体の対応(都道府県ならびに市町村、保健所、相談機関、公立医療機関など)
・マスメディアの対応
・優生保護法と市民社会との関係
・謝罪と補償政策が遅れた要因
・被害者が長期にわたって声を上げにくかった要因
・この他、検証の内容(項目)については、被害者や家族、弁護団に加えて、広く障害関連団体や人権関連団体などから意見や要望を集約すること。
Ⅵ 具体的な対応策
1)国会と政府は、本件の政策履行に先立って、「すべての被害者に無条件で謝罪と補償を行う」ことを宣言する(謝罪・補償法の前文にも明記すべき)。
2)補償の告知ならびに手続方法について
これに係わっては、以下の2点に留意する必要がある。
○被害者個々人のプライバシーの尊重
○すべての被害者に、謝罪と補償に関する情報(書類)が届くこと
以上の2点を両立させること、もしくはぎりぎりまで追及することが肝要である。そのためには、
①補償の手続き期間を定めるべきではない(基本方針骨子には5か年とある)。被害者の中には、謝罪や補償の意味を受け入れるまでに相当な時間がかかることが想定される。慣例的で、一般的な期限は適用すべきではない。
②まずは、いわゆる「手上げ方式」(被害者からの申告の受理)を実施すること。その際、政府や自治体の広報手段の最大限の活用は言うまでもなく、マスコミでの広報、また障害関連団体などの広報誌(紙)などにも協力を求めること。
③この「手上げ方式」を一定期間徹底し(2か年程度)、中間集約を行う。これ以降は、引き続きの「手上げ方式」と並行しながら、新たな方法を加える。具体的には、被害者宛の郵送方式が考えられる(郵送方式以外についても要検討)。
3)官民あげての相談体制の確立
①被害認定に関する第三者委員会のもとに、官民(障害者団体含む)一体で、総合的な相談窓口を設置する。相談窓口では、極力ハードルを低くし、被害者・関係者からさまざまな相談を受け、補償についての「通知方法」を含めたあらゆる相談にあたる。
②以上の方法を、2段階、3段階と講じていく。中間集約を行いながら、次なる効果的な方法を考案していく。
Ⅶ 補償金の支払い方法と水準について
支払い方法については、大別して、また海外の事例から一時金方式と年金方式が有力である。一長一短があり、一時金の場合、その全額が被害者に渡るかどうかが懸念され、被害者の年齢が総じて高いことを配慮すれば一時金の方が有効ではないかという考え方も成り立つ。これらを合わせ考えれば、
①「一定額を一時金とし、加えて年金方式で生涯を保証する。」という併用方式が有効であるように思う。ただし、被害者の意向を含めてさらに検討を加える必要がある。現時点で、一時金方式と決めつけるべきではない。
②被害者が味わった手術時の辛苦、子どもを持てなくなってしまったことの屈辱や絶望感などを合わせみれば、到底、金銭に置き換えられるものではない。この点を存分に踏まえたうえで、「そうとは言え、今となれば金銭で埋め合わせするしかない」という現実策に入るしかない。海外の事例(スウェーデンやドイツなど)があるが、あまりに低すぎる。国ならびに市民社会が真に謝罪を表すのであれば、格段に高水準の補償金とすべきである。
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