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18年10月18日更新

障害者雇用の「水増し問題」を契機に障害者の労働及び雇用制度の抜本的な改革を求める要望書

○JDは、2018年10月18日、障害者雇用の「水増し問題」を契機に障害者の労働及び雇用制度の抜本的な改革を求める要望書を内閣総理大臣、厚生労働大臣へ提出しました。
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2018(平成30)年10月18日



障害者雇用の「水増し問題」を契機に障害者の労働及び雇用制度の抜本的な改革を求める要望書


NPO法人日本障害者協議会
      代 表 藤井 克徳






 中央省庁の「障害者雇用の水増し問題」(以下、水増し問題)が報道されて間もない8月27日に、当会は、この事実は障害のある人への背信行為であり、当事者を含めた第三者機関による徹底した真相解明と障害者の労働政策の抜本的な改革を求める声明を出した。去る9月に厚労省内に設けられた検証委員会は、残念ながら当事者不在となっている。10月中に報告をとりまとめるとしているが、私たち当事者ならびに障害団体が求めているのは、範を示すべき政府機関において、「なぜこんなにも長期かつ大規模に障害者排除が行われてきたのか」という本質問題に立ち入ることである。
 同時に求めたいのは、障害者の労働及び雇用政策について総点検を加え、抜本的な改革を図ることである。いま大事なことは、形だけの法定雇用率をつくろうことではない。ここはいったん立ち止まり、水増し問題を、ほころびの多い障害者の労働及び雇用政策の大きな転機とすべきである。
 また、水増し問題によるおびただしい数の「固有名詞なき被害者」に謝罪すべきであり、障害当事者ならびに障害団体に対しても納得のいく説明責任を果たしてほしい。
 以下、障害者の労働及び雇用政策の抜本的な改革に当たっての着眼点と要望事項を掲げる。主として、中央省庁での改革を意識したものである。関係機関において、十分に配慮されたい。

1.改革の基調に障害者権利条約を
 障害者の労働及び雇用政策の総点検と改革に当たっては、日本も批准している障害者権利条約を基調に据えるべきである。とくに、「一般原則」(第3条)、「一般的義務」(第4条)、「平等及び無差別」(第5条)を踏まえるべきであり、わけても「公的部門において障害者を雇用すること」と明記のある「労働及び雇用」(第27条)を存分に生かしてほしい。

2.法定雇用率の検証と改定
 現行の公的部門2.5%、民間事業所2.2%は、国際水準からみても低すぎる(ドイツ5%、フランス6%。いずれも官民ともに)。とくに問題なのは、雇用率の算定基礎となる、「失業している障害者」の根拠が曖昧なことである。法定雇用率を適正な水準に引き上げるべきである。合わせて、重度の障害者をダブルカウントとする計算式については、障害当事者を中心に問題視する声が少なくなく、シングルカウントに戻すべきである(ダブルカウントは、法定雇用率を達成するための事業者側の論理でしかない。1人が2人分の枠を使ってしまうことに、雇用に就いている障害者の多くは心地よさを覚えていない)。

3.労働及び雇用政策における「障害者」のとらえ方の検討
 障害者手帳の不所持者を所持者と見立てた今般の「水増し問題」は、明らかな行政によるごまかし(法律違反)行為であり容認できない。責任の所在を明確にすべきである。
 そのうえで、労働及び雇用政策における「障害者」のとらえ方については、以前から関係方面から指摘があるように、改定が必要である。すなわち、手帳制度に基づく障害等級の判定と、労働及び雇用上の障害は連動せず、労働及び雇用政策からみた障害の判定方法の開発が求められる。その際、いわゆる「障害の社会モデル」(機能障害を有する者を取り巻く環境との相互作用)の視点を踏まえるべきである。

4.障害者雇用納付金制度を公的部門にも
 民間事業所を対象とした障害者雇用納付金制度を、公的部門にも適用すべきである。その場合、納付金の支出は当該部署の予算からとする。納付金を税金から支出するのは国民の理解を得られないとする見方があるが、国家賠償請求に基づく各種の賠償金は税金からの支出であり、これと同列とみることができよう。ちなみに、ドイツやフランスにおいては公的部門にも納付金制度が適用されている。仮に、納付金が難しいとすれば、これに代わる何らかのペナルティ制度を図るべきである。法律違反や脱法行為が何の咎めもなく行われることは余りに理不尽であり、国民感情及び障害当事者の立場からは到底納得できない。

5.第三者性を備えた監視のための仕組みづくりを
 法定雇用率の順守を中心に、中央省庁各機関における障害者の労働及び雇用の実施状況を監視するための機構を創設すべきである。その際に重要なのは、行政からの独立が担保されることであり、法律に基づいた権限が付与されることである。

6.障害の種別等を配慮した特別採用枠の創設や試験制度の改善
 能力検定を基本とする現行の国家公務員の試験制度にあって障害者が一般定数枠に入り込むことは極めて至難である。とくに知的障害者や発達障害者の多くは絶望的と言うほかない。実際にも、現状にあっては知的障害者や精神障害者、発達障害者は少数であり、雇用されている障害者の中のジェンダーバランスも十分とは言えない。これらを改善する手掛かりの一つとして、自治体で試みられている障害種別ごとの「特別採用枠制度」も有効と考えられる。また、障害者雇用と国家公務員定数法との関係についても、深い検討が必要である。なお、試験の方法についても、点字受験やルビ振り、試験時間の延伸だけではなく、障害の特性に配慮した方法を講じるべきである(例えば、知的障害者の場合は普段の生活を加味するなど)。

7.安定した就労生活を維持するために
 障害者の労働及び雇用を安定して保つためには、多様で継続的な支援策が不可欠となる。その際に、大きく二つの視点が重要となる。一つは、アクセシビリティーの観点に基づく省庁全体に及ぶ事前の環境整備である。例えば、出入り口を含む建物全体の段差解消、障害者が使いやすいトイレや洗面台、わかりやすい表示や休憩所の設置などがこれに当たる。もう一つは、個々に応じた支援としての合理的配慮の提供である。例えば、通勤時の支援や職場でのジョブサポーター(就労時の支援者)の配置、定期通院時の休暇の保障、時差通勤ができること、障害に合わせた簡易な仕事の確保や作業手順の改善などである。
 合理的配慮については、個々に応じてまさに千差万別であり、提供すること自体を制度化しておくことが肝要である。そのための予算確保は言うに及ばず、職場ごとの合理的配慮を受け入れるための雰囲気づくりも重要となる。
 また、通勤や長時間労働が困難な障害者に対しては、在宅勤務やテレワークなども視野に入れるなど、障害の種類や程度、性別に応じた柔軟で多様な働き方が求められる。

8.政策審議システムの根本的な改革
 障害者の労働及び雇用政策を発展させるためには、政策審議のシステムそのものを大きく改革する必要がある。例えば、前述の合理的配慮の提供を実質化するためには、労働分野だけのアプローチでは不十分であり、福祉分野(生活面など)を重ねての検討が重要となる。一方、現行の障害者雇用政策の審議システムは、旧態依然の労働部門(労働政策審議会・障害者雇用分科会)で行われている。今後の在り方としては、関連する審議会の合同開催、あるいは現行の労働行政所管の審議会に、相当数の福祉分野関係者等を加えることなどが求められる。また、審議会メンバーに関しては、障害当事者代表の枠を強化すべきであり、真に障害者の労働及び雇用政策に精通した者を加えるべきである。

           

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