障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

15年5月19日更新

障害年金の運用等に関する緊急要望書

○JDは5月15日、障害年金の運用等に関する緊急要望書を厚生労働大臣へ送りました。

【PDF版はこちら】


厚生労働大臣
 塩崎 恭久 様



                                                      2015年5月15日



                                                  特定非営利活動法人
                                                    日本障害者協議会
                                                    代表 藤井 克徳
                                                        (公印略)


                   障害年金の運用等に関する緊急要望書


 平素より、障害分野の発展ならびに当協議会の事業に理解いただいていることに御礼申し上げます。
本日は、障害年金に関して緊急に要望させていただきます。
 担当部局への伝達および現在行われております「精神・知的障害に係る障害年金の認定の地域差
に関する専門家検討会」へ反映されることも願っています。
 障害年金の運用に、地域格差や官民格差があることが明らかになっていますが、その是正を行う際
に、基準を厳格化する方向で統一化することに反対するとともに、障害年金受給の必要性がありなが
ら、社会保険の形式要件で受給できない者(無年金障害者)への救済措置を拡大してください。
 昨年8月の共同通信社の報道により、障害年金の不支給割合が都道府県により最大で約6倍の格差
があり、特に精神障害や知的障害の判定で格差が大きいことが明らかになりました。その後の厚生
労働省の調査により格差があることが確認され、さらに不支給の割合が2010年と2013年度では平均で
13.7%増加し、都道府県によっては2倍になっている県があることが明らかになりました。さらに今年の
3月には、共済年金に加入する国家公務員と一部の地方公務員では、障害年金の形式要件の一つで
ある初診日の証明が自己申告でよいとされていることが報道されました。
 これらの問題は、障害年金の診断書が、対象となる精神障害者や知的障害者の日常生活をよく知ら
ない医師によって機械的に評価される場合があることや、障害者に対する受給申請における適切な支援
がないこと、審査体制の不備など様々な要因が関係しています。日本障害者協議会は、「障害者の所得
保障と就労支援に関する2007年提言」で、所得保障制度の抜本的な改正を提言しており、矛盾が噴出
している今こそ、所得保障を必要としているすべての障害者が受給できる年金制度への制度設計を、
当事者団体との協議に基づいて行うべきです。
 その一方で、喫緊の課題として、現在の障害年金制度の運用上の格差への対応があります。4月の
新聞報道では、初診日の証明について、国家公務員等の共済年金について、自己申告ではなく証拠の
提出を求めると決定したと報道されました。初診日とは、保険料の納付期間に当該障害に関する初診日
があることが受給資格の要件となっていることですが、障害の発生日を確定することが困難なため技術
的に医療機関への初診日を発生日にみなしているにすぎません。そのため、精神障害のように厚生年金
加入期間に発症しても、病気で退職した後に受診して発病がわかる例が珍しくなく、無年金障害者を作り
出す制度設計上の問題点として長らく指摘されてきた点です。このように格差を画一的に厳格化する方向
で統一するのであれば、これまで以上に無年金障害者を生み出すことになりかねません。
 既に、日本年金機構は、障害の原因である傷病の初診日が20歳未満である場合、民生委員、病院長、
施設長、事業主、隣人など、初診日当時の状況を把握する複数の第三者の証明で初診日と見なすという
通知を出しています(2012年)。まずは、この通知を20歳以上の障害年金申請者の初診日の証明にも適用
させるべきです。
 加えて、障害年金の保険料の納付期間要件においても、国家公務員共済では、納付期間要件が求め
られませんが、障害基礎年金においては、保険加入期間の3分の2もしくは初診日の前々月以前の1年間
という納付期間要件が求められています。無年金障害者を救済するという観点から、納付期間要件を国家
公務員共済のように廃止してください。
 都道府県格差の是正も含めて、障害年金制度の本来の目的に立ち返り、当事者団体の意見を踏まえて、
無年金障害者をこれ以上増やさない方向での運用を行うべきです。
 そして、社会保険の形式要件で受給できない者(無年金障害者)への救済措置を拡大することを強く要望
するものです。そのために、「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」(2004年制定)の
附則第2条で定められている「日本国籍を有していなかったため障害基礎年金の受給権を有していない障
害者その他の障害を支給事由とする年金たる給付を受けられない特定障害者以外の障害者に対する福祉
的措置については、国民年金制度の発展過程において生じた特別な事情を踏まえ、障害者の福祉に関す
る施策との整合性等に十分留意しつつ、今後検討が加えられ、必要があると認められるときは、その結果
に基づいて所要の措置が講ぜられるものとする。」と定めた包括的な無年金障害者への救済措置の早期
検討実施を図るべきです。
 以上、障害年金をめぐる問題点を掲げてきましたが、その多くは基本的で構造的な課題であり、その解消
には一定の時間を要すると思われます。根本的な検討と並行して、表在化している運用面等の問題につい
ては速やかな改善が求められ、とくに以下の二点について緊急に対処いただきますよう要望します。

                                    記

1.障害年金の運用における、地域格差や官民格差を是正する際には、基準を画一的に厳格化する方向
で統一するのではなく、障害年金制度の本来の目的に照らして、受給の必要性がある障害者への支給を
柔軟に判断してください。
2.「特定障害者に対する特別障害給付金の支給に関する法律」(2004年制定)の附則第2条で定められて
いる包括的な無年金障害者の福祉的措置の検討を早期に実施して、社会保険の形式要件で受給できない
者(無年金障害者)への救済措置を拡大してください。
                                                                 以上


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