障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

21年3月19日更新

2021年「すべての人の社会」3月号

2021年「すべての人の社会」3月号

VOL.40-12 通巻NO.489

巻頭言 東日本大震災からの復興と防災減災に向けて-活動の反省から

NPO法人日本障害者協議会理事
NPO法人AAR Japan 支援事業部マネージャー 野際 紗綾子

 2020年12月中旬。岩手県の沿岸部も珍しく雪に見舞われた中、訪れた岩手県陸前高田市では、海岸沿いに高い堤防が築かれ、震災復興館で震災当時の様子が展示されていた。震災の恐ろしさを伝える動画や被災当時の様子を伝える展示が続いた。海のそばでは、サイボーグのような一本松が佇んでいた。

 街を見渡すと、低地には比較的新しい建造物がぱらぱらと立っていた。津波の恐れがあるため、高地の居住地と低地の商業地が分かれているのだろう。それにしても、そこで暮らす「人」が見えてこない。だんだん頭が混乱してきた。「これは、みんなが望んできた復興のかたちなのだろうか?」――どうしても消化できない。

 そんな中、希望の息吹を感じたのは、震災復興館に隣接する「あすなろホーム」のカフェの皆さんとお会いした時だった。大きな窓に洒落た漁網の照明と木材で囲まれた暖かな店内では、障がいのある職員がスイーツや軽食を販売していた。地元の八木澤商店の醤油とコラボで作られたゆずドレッシングは絶品だった。災害後に街のかたちが変わりゆく中でも、地縁を大切にしながら活動を続ける強さ、しなやかさを感じた。

 「復興」はどのように測るのか。2013年~22年までのアジア太平洋障害者の「権利を実現する」インチョン戦略には、災害の視点からの目標が初めて組み込まれた。果たしてその計画はどれだけ実行されたのか、日本を含むアジア太平洋地域の各国政府は検証を進めなければならない。そしてその中心にいるべきはもちろん障害者だ。

 防災・減災も重要だ。地球温暖化の影響もあり、毎年のように豪雨災害が続く中、また地震プレートの上にある日本列島では、どこにいても安心ではない。2021年2月13日夜には、震度6強の東日本大震災の「余震」もあった。

 2018年に日本身体障害者団体連合会が会員向けに実施したアンケートで、災害を経験して一番伝えたいことは何かという問いに対し、多かった回答が「地域とのつながり、助け合い、コミュニケーションづくり」であった。また、同団体の創立60周年記念誌では「当事者団体に加入している在宅障害者の割合は少なく、つながりのない多くの在宅障害者は、生活必需品や食料品を入手できず、さらに多大な不安と混迷を極める避難生活を強いられた」と震災を振り返っている。

 あれから10年、私たちは今、災害時にお隣さん、ご近所さんが助けに来てくれるような社会を築けているか。私の所属するAAR Japan(難民を助ける会)でも一部の自治体や社会福祉協議会等とも勉強会などを進めているものの、「グレーゾーン」の人々は常に課題となり、備えは十分ではない。一人ひとりに見合った災害対策が急がれる。

視点 ノーマライゼーションとインクルージョン、そして「暮らしの場」

NPO法人日本障害者協議会副代表 薗部 英夫

 「地域社会へのインクルージョンと暮らしの場」は、私が所属する全国障害者問題研究会が発行している「障害者問題研究」誌の最新特集だ。障害者権利条約19条の実現めざして、多様な実践と運動から、さまざまな視点や論点が提起されている。

 19条<自立した生活及び地域社会へのインクルージョン(包容)>はいうまでもない。「他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこでだれと生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと」であり、「地域社会からの孤立及び隔離を防止するために必要な在宅サービス、居住サービスその他の地域社会支援サービス(個別の支援を含む)を障害者が利用する機会を有すること」だ。「どこでだれと生活するか」の選択権は保障され、「特定の生活施設での生活」は強要されない。

 それは、「施設か地域か」といった択一を迫る問いではなく、第28条<相当な生活水準及び社会的な保障>とともに、どのような地域や居住形態であっても、人権が保障される暮らしが求められ、地域社会で障害のある人びとがエクスクルージョン(排除)されない条件整備、その法制度化と財政措置が必須であるということなのだ。

 平和と人権保障を基礎としたノーマライゼーション(障害のある人たちに、障害のない人と同じ生活条件をつくりだすこと、すべての人に自由と独立を)の考え方は、北欧・デンマークのバンク-ミケルセンが提唱し、隣国スウェーデンや北米に広がり、1981年の国際障害者年を牽引し、21世紀の障害者権利条約につながっている。

 日本ではノーマライゼーションは「脱施設化」として理解され入所施設の解体が強調される傾向が強く、同年齢の市民と同等の生活条件をつくる、他の者との平等な住まい、暮らしの場をつくる方向での政策化が弱かった。

 私は、1993年以降、16度にわたる北欧の視察から、自由やプライバシーが守られた「特別な住まい(家)」として、大規模入所施設のグループ住宅群への変容、地域のネットワークで支える小さな町のモデル、特別なケアのある多様なグループ住宅、高齢者住宅の近年の動向などの視点で、障害のある人びとの住まいと暮らしについて論じ、北欧におけるノーマライゼーションとインクルージョンの具現化の現実から、日本の現状と重ね合わせて考察した。

 北欧諸国では「住まいの権利」がすべての人びとに保障されているという土台がある。では日本ではどうか。国際的な動向と権利保障をめざす運動によって、地域生活のサポートやグループホーム制度がすすんだものの予算措置は乏しいままだ。「場の保障」は、親・家族への依存が前提だ。

 入所施設で「自分らしい暮らし」を模索し、「生活とは何かを問い、暮らしを見直してきた」福祉法人30年の歩みをスタッフと親が率直に語り合った座談会「暮らしの場に値する障害者施設をめざして」にはたくさんの気づきがある。

 「グループホーム制度30年と今後の課題」は、利用者数も入所施設を抜いたグループホームにあって制度を生かし尽くしつつ改善を求めてきた暮らしづくりの貴重な一面を論じる。より障害の重い人、医療的ケアや強度行動障害の人も、高齢化しても安心して暮らせる場に向けた制度設計が課題だ。

 障害の重度化のなかでの県営住宅での生活、「サポートを受けながら私らしく暮らしたい」というグループホームで暮らす当事者の手記や「障害児者の暮らしの場を考える会」の報告、北海道や鹿児島でともに暮らす人びとの存在の重さの指摘の数々。

 地域社会=コミュニティは共につくる共同体だ。共同体の中で、さまざまな小さな幸せは育まれる。「暮らしの場」の視点や論点を学び、大いに議論をすすめ、権利条約の日本での実現をはかりたい。

2021年2月の活動記録


連載 アートと障害者 No.5 

作品に込められた想い
大橋 紳雄(アートビリティ登録作家 大橋朋佳/父)




ささえあい つながり わすれない 東日本大震災から10年

「 逃げろ!」が届かなかった3.11 ~聴覚障害者の支援から~
桐原 サキ(全国手話通訳問題研究会理事)




連載 優生思想に立ち向かう ―やまゆり園事件を問う― 

第22回 ねがいは幸せな人生
髙山 和彦(社会福祉法人同愛会理事長)




What's New

新型コロナによる障害者作業所の工賃等への影響
赤松 英知(きょうされん就労支援部会長)




連載 社会の「進歩」は人々を幸福にするか? 

3.障害者自立支援法から障害者総合支援法へと続く時代の流れの中で
田中 直樹(全国精神障害者地域生活支援協議会副代表)




トピックス・インフォメーション・読書案内





連載 COVID-19のインパクト

第7回 東南アジア:カンボジアから
Samith Mey(プノンペン自立生活センター代表)




私の1冊

『太平洋戦争下の国立ハンセン病療養所』を読んで
藤井 克徳(NPO法人日本障害者協議会代表)




表3インフォメーション

JD40年の軌跡 国際障害者年前夜から権利条約が動き出すまで




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