20年7月22日更新
VOL.40-4 通巻NO.481
NPO法人日本障害者協議会理事 佐藤 久夫
新型コロナウイルスの影響で、日本を含め今年予定されていた条約の審査はすべて延期され、来年3月の可能性が強くなっている。現在までに初回審査は89カ国(EUを含む)、181の批准国(同)の約半数に対して行われた。障害者権利委員会のサイトに審査過程での文書(障害者団体等からのパラレルレポート/パラレポを含む)はすべて公開されている。その翻訳がJDのサイトで紹介されている(これまで20カ国の約50本)。筆者もこれに参加する中で、いろいろなことに気づかされた。
たとえば、スウェーデンの第2・3回合併審査に向けての障害者団体のパラレポでは、「裁判所職員の障害者権利条約の知識と教育が継続的に欠けたままである。」とある。最初は「ああ、日本と変わらないな」と思った。しかし注を読んで驚いた。スウェーデン裁判所管理庁は2012年から16年まで毎年裁判所職員への調査を実施し、裁判官の間でもそれ以外のスタッフの間でもこの条約や権利についての理解が、非常に低かったと報告している。その後は政府からの指示がないからという理由でこの調査は行われていない、という。
裁判所が社会の中で果たしている役割が日本とは違う可能性はあるが、こうした調査を政府が行なったことは日本にとって示唆的である。障害者の権利にかかわりの深い公務員の意識調査をし、教育・研修に生かすというスタンスを条約実施の調整役である内閣府がもつかどうかが鍵である。
同様なことは、グループホームで暮らす知的障害者の心臓発作やがんによる死亡率が高いという報告でも感じられる。実態を調査し、一般国民と比較して課題を明らかにし、施策の効果を測定しようとする姿勢。
この実態調査という点で、ドイツの最近の取り組みが注目される。2018年の第2・3回合併締約国報告によれば、新しい調査のサンプル数は在宅障害者16,000人、在宅非障害者5,000人、施設・病院5,000人、調査困難グループ1,000人(ホームレスなど)。調査項目は条約に基づく。2017年から5年間のパネル調査で、同じ人が5年間追跡され、社会参加の変化とその要因などを調べ、政策に生かすという。
条約が実現していないという点では日本と同じでも、前に進むために現状を調べようとするかどうか。
障害者権利条約は、国際審査とその透明化によって情報共有の新たな舞台を生み出し、障害者にかかわる政策・運動・研究にじわじわと影響し始めている。
NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世
2020年6月30日、大雨の中、原告北三郎さん(活動名)を先頭に東京地方裁判所への入廷行動が行われた。判決の日であり、これまで以上の数の報道各社が北さんの入廷にカメラを向けた。その後、傍聴券を求めて約80人の人が並び、Covid-19感染防止対策もあり、傍聴者は20人に限られた。
14時に開廷し、ほどなくして、当協議会の理事でもある藤木和子弁護士(優生保護法被害弁護団)が、「不当判決」と掲げて東京地裁前に現れた。まさに原告の請求を棄却する不当判決だった。裁判後にはリモート集会が開かれた。
仙台地裁判決より大きく後退
優生保護法仙台地裁判決では、優生保護法の違憲性が指摘された。しかし、東京地裁判決では、優生保護法の違憲性には踏み込まなかった。原告である北さんは、障害がないのに、自分の意思とはかかわりなく手術を受けさせられ、実子をもつかどうかの意思決定をできなかったという点で憲法13条違反を指摘した。そして、原告の損害賠償の請求権は当時はあったが、1996年に優生保護法が母体保護法に改正され、その時点を損害賠償の起算点としても、除斥期間である20年がすでに経過しており、損害賠償権は消滅しているとした。
厚生労働大臣または国会議員の不作為の違法性即ち、1996年の法改正以降、厚生労働大臣が優生手術を受けた者に対する救済措置をとるべきという法的義務も東京地裁判決は否定した。そして、昭和50年代には社会においても厚生省においても障害者に対する意識の変革が進み、1996年の法改正以降は障害の有無によって人を差別することは許されないという意識は国内に広く浸透していたとしている。
除斥期間の壁
地裁判決は、優生手術を受けた被害者は、1996年以降被害を訴えることはできたはずだとするが、JDはかねてから自ら意思表示が難しい人たち、あるいは被害を受けたことの認識が困難だったり、声をあげにくい状況があることを指摘してきた。しかし、裁判では除斥期間の壁が立ちはだかる。今回の判決では法改正時を損害賠償の起算点としたがそうではなく、北さんの起算点は、2018年の仙台地裁での最初の優生保護法裁判だろう。
「差別が許されないことが浸透」の嘘
中央省庁で障害者雇用水増し(ごまかし)問題が発覚したのは2018年。長年、障害のある人を雇用することを避けるために、さまざまなトリックを使ってごまかしが行われていた。中央省庁でさえ、障害者排除、障害者差別が行われていたわけだ。こうした事実がありながらも、差別は許されないという意識が国内に広く浸透していたといえるのだろうか。津久井やまゆり園事件犯人の、必要ないのちと不要ないのちの選別の思想は、決して犯人だけの特殊なものではない。
司法の場では、こうした社会のありようをどのように把握し、判断したのだろうか。障害のある人のおかれる実態をどれだけ知る努力をしたのだろうか。実態把握も不十分なまま、人の一生を左右する判決を下すのは許されることではない。
人権意識を問う優生保護法裁判
北さんは、「不当な判決で言葉が出ない。国は勝手に私の体にメスを入れた。しかし、責任がないという。許せるはずはない。本当に残念、この苦しみを墓場までもっていきたくない。私は控訴します。闘っていきます」と力強くメッセージを送った。
この裁判は、被害者の権利回復とこの国の人権意識を問い質す裁判でもある。仙台高裁での控訴審、札幌、静岡、愛知、大阪、神戸、福岡、熊本の各地裁での裁判が進んでいる。被害を受けた人たちの権利の回復は、日本の障害者施策の水準の向上につながる。この問題は私たちの問題でもあり、だからこそ、全国の仲間と闘い続けなければと強く思う。
“いのちのとりで"を守るために 雨宮 処凛(作家)
石渡 和実(日本障害者協議会副代表)
第16回 津久井やまゆり園事件からコロナ禍へ―立ち現われる社会の「意思」に抗う―
児玉 真美(フリーライター)
VHO-netに出会い、活動し、得たこと
照喜名 通(認定NPO法人アンビシャス副理事長)
第8回 ASEAN Enabling Masterplan 2025と障害者権利条約―障害者の権利の主流化―
佐野 竜平(日本障害者協議会理事/法政大学現代福祉学部准教授)
山崎 光弘(NPO法人日本障害者センター事務局次長)
―児童扶養手当と障害年金の併給調整見直しの朗報も― 白沢 仁(日本障害者協議会理事/障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会事務局長)
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