20年4月21日更新
VOL.40-1 通巻NO.478
NPO法人日本障害者協議会理事 赤平 守
3月16日、植松聖被告に死刑判決が出た。この原稿を書いている3月18日、共同通信との接見取材に植松は判決に「納得はしていない」「控訴はしない」と語ったが、結局反省の弁はなかった。彼自身の命が他人に奪われることの意味をどのように受け止めるのか。今は知る術がない。それにしても判決当日、夕方以降のテレビ等の報道が余りに短時間であっさりした内容であることには呆気にとられた。裁判そのものが、凶行に至る動機、植松の人格形成に踏み込めなかったという、答えの見いだせない不透明感を抱えたままで終わってしまったのは残念だった。
この裁判が結審した2月19日前後以降、日本のあらゆる報道は新型コロナウイルス一辺倒となった。マスクが不足しトイレットペーパーの買占めは未だ解決せず、これもまた不透明なままだ。9年前、東日本大震災の直後、日本国内で起こった愚行が今また起こっている。しかし、それは日本ばかりではなく、世界中で起こっている。日本人独特の行いと思っていたがそうではないようだ。人間はなぜ、同じ間違いを繰り返すのか?トイレットペーパーを奪い合い、マスクを不当な高値で売買する映像を見ていて、必然のように、ふと、相田みつをの『うばい合えば足らぬ、わけ合えばあまる』という有名な言葉が想起された。9年前、日本人は、その甚大な被害と人々の不幸を目の当たりにして、また福島で我が家を捨てなければならなかった被害者が「放射能がうつる」と加害者にされる理不尽を知って、それは愚行であると悟ったはずである。やはり風化ということなのだろうか。
話は変わるが、プロ野球ロッテのドラフト1位ルーキー佐々木朗希投手は震災当日、陸前高田市で被災し、父と祖父母を失った。そして当時9歳だった少年は9年後、プロ野球選手となり子どもたちの希望の存在となった。「今あることが当たり前じゃないと思ったので今という時間を昔よりも大切にするようになった」。18歳の少年に教わった気がした。
相田みつをの言葉はこう続く。『うばい合えばあらそい、わけ合えばやすらぎ』
施設職員の研修で私はこんなことをよく話す。「安全」は客観的なものであり「安心」は主観的なものである。だから「安全かつ安心」とは軽々しく言えない。ただ「安心」は個々別々にあるだけでない。「人が人を大切にする」時、「安心」は分かち合えるものだということを昨今の社会動向から知らされることとなった。
NPO法人日本障害者協議会 副代表 薗部 英夫
朝ドラ「スカーレット」で一躍有名になった滋賀県信楽。あざみ寮はその隣町の石部(湖南市)にある。寮生劇を楽しみにしていたが、新型コロナ情勢で中止となった。すごく残念がっているハズの元施設長・石原繁野さんを3月中頃に訪ねた。
あざみ寮は、「この子らを世の光に」を掲げた糸賀一雄さんらの近江学園、その知的障害のある女子の職業訓練をめざす私塾がはじまりだ。1969年大津から石部に移転し、入所更生施設・あざみ寮(30人)に授産施設・もみじ寮(男子寮、女子寮で50人)が併設され再出発している。ここからはじまった表現活動が「あざみ織」と「寮生劇」だ。
織物は作業・しごとであるとともに、「趣味」「人生を豊かにする」ものだ。織り上げ、作品とする充実感。作品を評価される喜び。応援してくれる人の輪。そして、讃えあいはなによりも宝ものだ。
寮生劇は、ひな祭りのころに、各寮が一つずつ劇を発表したのがはじまりとか。共同の生活の匂いをいっぱいに、一人ひとりの個性が発揮された。あざみ寮25周年のとき、全員で一つの劇にとりくんだのが「ロビンフッド寮生劇」。当時の糸賀房寮長がロビンフッドの物語を提案し、映画「夜明け前の子どもたち」の秋浜悟史、大野松雄さんらの協力で関係する若者たちも大勢が加わった。それから、本物の大舞台で5年ごとに7回上演された。
石原さんに聞くと、みんなは織物や寮生劇のとりくみで、絵を描くこと、劇で演じる夢、そのなかで字を書く力も獲得した。その獲得した力で、日記やメモ、喜びの手紙、意地悪な人への抗議の手紙など自信をもって自分をしっかり表現することができた。日常の中で学んだことを伝えることで仲間とつながり、さらに思いを広げていったそうだ。
京都大学教授で全国障害者問題研究会初代委員長の田中昌人さんは、「第三者を共有するということ、それから別の立場に自分を置き換えてみること。人間の発達にとっても、ほかの生物にはない、人間が人間を発達させてくる上でとても大切なこと」と寮生劇のとりくみを語っている。
安心できる毎日の暮らし。ハレの時間を持ち、人生の節目を想い出にしてきた仲間たち。でも、だれもが老いる。最高齢者は90歳をこえた。織物を始めたときの仲間の半数近くは亡くなっている。いまは、健康であること、美しいこと、働くこと、生産すること、家族と仲良くあること、みんなと同じであることなどに強い価値を置いているそうだ。 「もっと勉強したい」「なかまのため、人の役にたちたい」とみんなは言う。そこには信頼できる、共感できる仲間がいる。生きるしあわせがある。
「脱施設」が強調されて久しい。あざみ寮などのとりくみや北欧の現場を訪ねて考えてきた。「脱施設」とは、施設とは違った新しい暮らしの場。それは、独り住まいもあればグループでの住まい、必要なケアのある集合住宅などさまざまなニーズを実現する多様な暮らしの場づくりのことだ。
「重症者は生きている価値があるのか?」と重低音で問われる今日。糸賀らは、どの子もかけがえのないいのちがあり、絶対的価値がある。憐れみや慈善ではなく、この子らが輝く。この子らを世の光にできる社会を!と懸命に訴え運動してきた。優生思想への反撃は、経済的価値でなく、人そのものを輝かせるインクルーシブな社会づくりだ。
悪代官の圧政に苦しめられる住民たち。森に住むロビンフッドと仲間たちが悪代官をやっつける。
「みんながロビンフッドになればいいのだ」
「みんながロビンフッドになりさえすれば世の中は変わってゆくのだ」。寮生劇のセリフだ。
参考 =石原繁野他「あざみ寮の生活のなかでの表現活動」『障害者問題研究』第46 巻3号、全障研。大木会編『ロビンフッドたちの青春』中川書店。
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