20年3月25日更新
VOL.39-12 通巻NO.477
NPO法人日本障害者協議会理事 矢澤 健司
他の者との平等、障害のない同年齢の市民と同等の権利を認める障害者権利条約は、様々な具体的な問題を解決するときに、大きな力になります。
権利条約第30条「文化的な生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」について、私が代表を務めている、障害をもつ子どものグループ連絡会(以下、グループ連絡会)と余暇活動支援の取り組みを紹介します。
東京都は、国の1979年の養護学校義務制実施に先駆け、1974年から全員就学となりました。保育園での「障害児保育」も同時に実現しました。その後、グループ連絡会では、学校卒業後の働く場や放課後の生活を充実させる取り組みを続けてきました。現在の課題は、障害のある青年・成人期の余暇活動の支援が切実なものになっています。
全国の特別支援学校等に通う20万人以上の生徒が放課後等デイサービスを利用し、家庭、学校の他、「第3の場」として活用しています。放課後等デイサービスを利用している家庭の母親の50%は仕事をしているというデータもあり、母親にとっても、子どもにとっても有意義な活動ができる場になっています。
現状では学校卒業後のこのような「第3の場」が公的に用意されていません。しかし、東久留米市をはじめ、世田谷区、江東区、国分寺市、清瀬市などの地域では、それぞれの事業所の努力と自治体の協力もあり、青年・成人期の余暇活動の場を保障する活動を続けています。
そのためグループ連絡会は、2015年秋に余暇活動支援の公的な制度を求めることをよびかけ、東京都に請願を行いました。2016年2月に都議会厚生委員会で全会派が紹介議員になり採択され、3月の本会議で決議され、意見書が国の関係機関に届けられました。以降、文部科学省は、生涯学習施策に関する調査研究や有識者会議を実施しています。
2019年2月の衆議院予算委員会では障害者の余暇活動支援がとり上げられ、厚生労働大臣は全国の実態調査の必要性を表明しました。同年6月、東久留米市議会へ青年・成人期の余暇活動支援の請願を出し、厚生委員会で議論され、保護者から寄せられた切実な現状の訴えや強い要望が紹介され、継続審議になっています。
余暇活動支援は障害者のみならず、すべての国民に必要なものです。地域の中で安心して充実して生きるためには欠くべからざるものだと確信しています。
NPO法人日本障害者協議会 代表 藤井 克徳
本誌が購読者のみなさんに届く頃には、「やまゆり園」事件の裁判(横浜地裁)に判決が下されているに違いない。さすがに公判の期間はマスコミも動いた。気になるのは、判決という大きな節目の後がどうなるかである。風化が心配だ。裁判が終了となると、事件は社会の関心と記憶から一気に遠ざかるような気がする。
まずは、横浜地裁の結審を迎えた時点での感想を述べてみたい。ひと言で言うと、「肝心な事柄は何も解明されなかった」である。おそらく遺族や深い傷を負ったみなさんもそうだと思うが、私たち障害当事者と関係者にとって、最も知りたいのは、「なぜあのような事件を起こしたのか」である。言い換えれば、植松聖被告人の凶行の背景にスポットライトを当てることであり、事件の本質に迫ることだった。そこには現代社会と優生思想の関係、誤った障害者観と障害者政策の関係を掘り下げることも含まれる。裁判は、これらに向き合う数少ない好機だった。
しかし、好機は生かされなかった。検察の冒頭陳述に始まった公判は、一か月半で16回重ねられたが、残るのは虚しさと不全感だけである。その理由は、公判前の整理手続き(争点整理)の段階にあった。具体的には、最大の争点を、「刑事責任能力があるか否か」に絞り込んでいたことである。
判決は一つの区切りとなろう。しかし、私たちの心境は、「判決は下ったが、決着はついていない」である。植松被告人の言動を賛美する声は後を絶たない。優生思想や優生政策は強まる傾向にある。何より犠牲者の無念を晴らすためにも、簡単に事件に蓋をすることがあってはならない。これからが大切となろう。どう向き合うかであるが、少なくとも次の三点を大事にしたい。
一点目は、「事件を忘れない」である。「人権を守るとは忘却との闘い」という言い方がある。「やまゆり園」事件とは、ゆがんだ社会で育まれたゆがんだ男による最大級の人権侵害だ。問い続けることであり、万が一にもくり返すことがあってはならない。そのためには私たち自身が忘れないことである。同時に、社会に対して忘れないよう働きかけていかなければならない。掛け声だけの「忘れない」ではなく、形にどう表すかが問われよう。
二点目は、優生思想と対峙することである。相手は社会だけではない。自身に潜む「内なる優生思想」「内なる差別」も手ごわい。障害者権利条約には、「障害者に関する定型化された観念、偏見、有害な慣行と戦うこと」(第8条)とある。戦い方はいろいろあるが、すぐにできるのは学びだ。学ぶことの基本として、①過去のこと(戦時下の障害者など)、②現在のこと(障害者をめぐる看過できない事象など)、③障害当事者のニーズの三点をあげたい。
どう向き合うかの三点目は、障害のある人が置かれている状態の好転に展望を開くことだ。人間の意識は突然形成されるわけではない。目の前の事実が意識の輪郭をつくる。塀に囲まれた精神科病院を見て、人里離れた大規模施設を見て、どうしてまともな障害者観が生まれよう。逆に言えば、障害者が地域で生き生きと暮らし、社会のさまざまな場面に登場すれば、否が応でもポジティブな障害者観が醸成されよう。障害者観の好転の可否は、ひとえに障害者政策にかかっている。
権利条約の第17条には、「…その心身がそのままの状態で尊重される権利を有する」とある。事件を風化させないための、再発を阻止するための何よりの視座になるように思う。
八藤後 猛(日本大学理工学部まちづくり工学科教授)
第12回 いまだ闇の中― なぜ19人の命が奪われたのか
雨宮 処凛(作家)
第22回 本人の思いを出発点に
森本 美紀(朝日新聞記者)
第7回 障害者権利条約とミャンマーの動向
佐野 竜平(NPO法人日本障害者協議会理事/法政大学現代福祉学部准教授)
磯野 博(JD政策委員・無年金障害者の会 幹事)
荒木 薫(JD 事務局長)
第68回 普通に生きたいから頑張る
高岡 杏(筑波大学1年)
「権利条約」・「基本合意」・「骨格提言」をにぎって離さず、さらなる運動を!
白沢 仁(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会 事務局長)
■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
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