障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

20年2月17日更新

2020年「すべての人の社会」2月号

2020年「すべての人の社会」2月号

VOL.39-10 通巻NO.475

巻頭言 パラリンピックのこと

NPO法人日本障害者協議会理事 馬上 和久

 「TOKYO 2020」は、主に東京で、第32回夏季オリンピックが7月24日から8月9日の17日間、第16回夏季パラリンピックが8月25日から9月6日の13日間、同じ施設を会場として開催されます。オリンピック・パラリンピックとも、1964年に次いで56年ぶりに日本で2度目の開催です。

 オリンピックは勿論楽しみですが、障害をものともせず、力の限りを尽くして記録に挑む姿には美しささえ感じます。自身、40代半ばからの中途障害者であることもあり、1964年パラリンピックとは違った観方が出来るものと、今から楽しみにしています。

 そもそもパラリンピックは、ドイツ生まれのユダヤ人で、ナチの台頭で英国に逃れた神経外科医のグットマン博士が、障害者のリハビリテーションとして足が不自由な人の競技会を開催したのが始まりと言われています。博士は1948年、英国のストーク・マンデビル病院で、戦傷者のリハビリテーションを目的として競技大会を企画・開催しました。このストーク・マンデビル競技大会は毎年開催され、1960年に初めて英国以外のイタリア・ローマで開催されました。これが後に「第1回パラリンピック」とされ、第2回パラリンピックが東京で開催されたことは、記憶に鮮明に残っています。

 パラリンピックの競技種目には偏りがあるものの、欠損した身体の一部を補完・代替する補装具の開発や進化には、目を見張るものがあります。障害のない者が持つ記録を凌駕するものまで現れて、ビックリすることも最近では珍しくありません。

 昨今スポーツニュースで一番の話題が、N社の赤い厚底スニーカーの登場です。履いて走る人の多くが記録更新で、使用を禁止すべきでは等の噂で大騒ぎしています。進化する技術を以て、私たち障害を持つ者の補強や補助に貢献いただけたらと思います。

 先の国連総会(第74回)は、「東京オリンピック・パラリンピック」期間中の休戦決議を採択しました。今なお続く紛争国・地域は世界の各地にあり、「TOKYO 2020」を契機として、争いの無い平和な世界が実現出来ればと願っています。

 オリンピック・パラリンピック期間中は、テレビにくぎ付けになることでしょう。世界のアスリートが、頂点や新たな記録に向かって頑張ることでしょう。

 素晴らしい記録や思い出が残る「TOKYO2020」であることを期待します。

視点 運動の成果 病棟転換型居住系施設ゼロ

NPO法人日本障害者協議会 常務理事 増田 一世


 2014年6月26日、「生活をするのは普通の場所がいい STOP! 精神科病棟転換型居住系施設!!6. 26緊急集会」が、日比谷野外音楽堂で開かれ、全国各地から3,200人が集まり、精神科病棟転換型居住系施設に「NO!」を突き付けた。

病棟転換型居住系施設問題
 病棟転換型居住系施設とは、精神科病院の病棟を住まいに変えて、そこに入院していた人たちを退院したことにしようという政策だった。この提案は、2013年に厚生労働省が設置した「良質かつ適切な精神障害者に対する医療の提供を確保するための指針等に関する検討会」で行われ、「長期入院精神障害者の地域移行に向けた具体的方策にかかる検討会」(以下、検討会)で議論が進められた。そして、「病院で死ぬということと、病院内の自分の部屋で死ぬということには大きな違いがある」という発言があり、精神科病院の病棟転換について、検討が進められていった。

 日本は戦後、民間精神病院の設置促進のために精神病院開設国庫補助制度(1954)、一般病院よりも医師や看護師等が少なくてよいとする厚生省事務次官通知である精神科特例(1958)などで、民間病院の精神病床を増床してきた。精神障害のある人への施策を安上がりな民間に委ねたのだ。その結果、長期入院者を抱え込む精神科病院が広がっていった。そして作りすぎた精神病床の解決策として、病棟転換型居住系施設が浮上してきたのだった。

 一方、精神科医療の抜本的な解決なしに、患者の地域生活の権利を顧みないこれらの動きに危機感を抱く人たちが、「病棟転換型居住系施設を考える会」を組織し、問題提起の声を上げ始めた。その運動の山場が前述の日比谷野外音楽堂の集会だった。これらの動きは、新聞やテレビにも取り上げられ、各地で病棟転換型居住系施設に反対する集会が開かれ、声明・アピールが発表されていった。

地域移行型ホーム制度の消滅
 2014年7月の検討会では、障害者権利条約に基づく権利擁護の観点も踏まえ、一定の条件付けをしたうえで、病床削減を行なった場合に地域移行型ホームとして、病院敷地内への設置を認めた。地域移行型ホームの新規の指定は、2015年4月1日から2019年3月31日とされ、2018年度には地域移行型ホームの活動状況を踏まえて、地域移行型ホームの将来のあり方を検討される予定だった。

 しかし、この4年間、地域移行型ホームの新規の指定はなく、よって2018年度に地域移行型ホームの検討は行われず、2019年3月末に地域移行型ホームの制度は自動的に消滅していたのである。この制度への問題を指摘する声が広がり、地域移行型ホームを安易に開設できない仕組みとなっていたのだ。

大きな一歩を次に
 本人の意思とはかかわりなく、長年月、鍵のかかった精神科病院で生活することを余儀なくされた人たちが、その環境は何ら変わらないまま、退院したことにさせられてしまうという人権無視の制度は運動の力で消滅した。それは、大きな一歩だといえる。

 しかし、精神科医療が抱える問題の抜本解決には程遠い。精神保健福祉法には措置入院と家族の同意による医療保護入院という強制入院の制度があり、精神科病棟の多くは閉鎖的処遇が続けられている。

 そして、世界中の精神病床の2割が日本にあるという作りすぎた精神科病床をどうするのか、安上がりの精神科医療から脱却するために、精神科特例を廃止することなど、抜本解決のためのビジョンとその実現に向けた運動が必要だ。精神医療改革は遅々として進まないが、精神障害のある人や家族の声は年々大きくなっている。当事者・家族抜きに改革は進まない。当事者・家族を中心に広くつながり、世界の非常識を返上すべく、社会に訴えかける運動が必要だ。

2020年1月の活動記録・講師派遣


障害者自立支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会ニュース55



連載 優生思想に立ち向かう〈+プラス〉

「障害のある人と優生思想」を読んで
小林 せり愛(法政大学)、平井 喬(法政大学)、小田 幸奈(立教大学)、笹森 彩奈(立教大学)




連載 他の者との平等―メディアの可能性―

第21回 障害者雇用の「外注」から見える「共生社会」の未熟さ
山田 奈緒(毎日新聞記者)




JD仮訳にみる各国の障害者政策

第6回 イギリスの障害者政策
高島 恭子(長崎国際大学人間社会学部社会福祉学科教授)




米国連邦行政機関の障害者雇用への取り組み状況とその成果(2010~2015年)


松井 亮輔(法政大学名誉教授)




トピックス・インフォメーション



JD40周年走り続ける運動

荒木 薫(JD 事務局長)




私の生き方

第67回 難聴という障がいと向き合ってきた日々
吉田 翔(長崎メディカルセンター耳鼻咽喉科医師)




連載 エッセイ 障害・文化・よもやま話

第18回 「優生思想」に悩んだ障害者たち―「子宮摘出」を詠んだ歌―
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




表3インフォメーション

JD連続講座2019年度2020年、あやうい社会保障・暗雲の全世代型
-「権利条約」「基本合意」「骨格提言」を開花させるための行動を!-




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