19年12月4日更新
VOL.39-8 通巻NO.473
NPO法人日本障害者協議会理事 木太 直人
精神科病院のソーシャルワーカーを辞めてちょうど10年が経ちます。この10年間で精神医療の状況は変わったのでしょうか。試みに精神保健福祉資料(注)から2018年の精神病床における在院期間別患者数を見ると、在院期間が10年以上の超長期の精神疾患患者は約5万3千人います。このうち65歳以上の人が6割を占めます(その8割の主病名は統合失調症)。この5万3千人の人びとは私が退職する前から入院していたことになります。
10年前の2008年は約7万8千人でしたので、2万5千人減ったことになりますが、その多くは死亡退院や転院によるものです。これからも10年以上の在院患者数は減っていくでしょうが、残された時間を人としての尊厳を回復して過ごすことができることを願ってやみません。
振り返ってみると、私にとってのこの10年はとても短く感じますが、それでもいろいろなことが起きました。良いことも悪いことも。楽しいことも嫌なことも。そして新しい出会いもたくさんありました。その出会いは予期できない偶然としか言いようのないことであり、そうしたことは普通の暮らしの中にこそ起こりうるのだと思います。翻って10年以上入院していた人びとには、この間偶然と呼べる出会いはあったのでしょうか。
世の中全体の危機管理意識が高まる中、病院では精神科に限らず「安全」が最優先され、組織としてのリスクマネジメントが求められています。しかしながら「安全」の最優先が、身体的拘束をはじめとする人権の制限を必要悪として無原則に許容していく事態を招き、拘束される患者の尊厳は貶められていきます。
「リスク」という言葉はネガティブなイメージがありますが、本来は想定以上の好ましい方向への影響も含まれます。長期入院者の地域生活の実現にはリスクが伴います。しかしながら、かつてのアメリカの障害者自立生活運動では「リスクをおかすことの尊厳」(Dignity of Risk)が理念の一つに据えられていたことを、いま一度思い起こす必要があるのかもしれません。リスクには偶然の出会いも含まれるはずですから。
(注)国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所精神医療政策研究部.精神保健福祉資料.
(https://www.ncnp.go.jp/nimh/seisaku/data/).
NPO法人日本障害者協議会 副代表 薗部 英夫
秋のジュネーブは、温暖化の影響で暖かく24度を下回ることはなかった。レマン湖のはるか向こうにマッターホルンが顔を見せた。
障害者権利条約は、2年以内に締約国に条約の実施状況の報告を義務づけ、権利委員会と締約国との「審査(建設的対話)」を経て、改善課題などが「勧告(総括所見)」される。
2020年の日本の「審査」に向けて、権利委員会は「事前質問事項(締約国報告のここが知りたい。これは問題では?)」をこの秋に採択する。そのために権利委員会は市民社会からのパラレルレポートにもとづく「ブリーフィング(状況説明)」を開催する。これにJDF(日本障害フォーラム)は29人を派遣し(JDは薗部、佐藤、赤松、荒木など5人)、日弁連等含め総勢40人の大派遣団となった。
大きな活動は2つだ。一つは権利委員とのロビー活動。日曜日、プレスクラブを会場にして"事前ブリーフィング"に3人の委員が参加してくれた。どうしても参加できなかった一人の委員は、ブリーフィング開始直前の早朝に時間を割いて私たちの状況説明のポイントを聞いてくれた。それぞれの権利委員の日本の現状を知ろうとする熱心さ、質問のレベルの高さ、"ああ、この人たちとともに人権ベースとしての権利条約の実現をめざしているんだ"と実感した。
そして、最大の任務が「ブリーフィング」(90分)だ。結論的には、参加したすべての団体が、それぞれの意見を尊重し、全体として、権利委員に日本のリアルな現状を伝えることができた。
市民社会(障害者団体など)からの発言は45分。①JDFは15分で、竹下副代表が全体紹介・情報保障・5条、11条、33条を、他に手話言語・障害女性・精神障害・地域移行・教育について各担当が発言、②精神障害者権利主張センター絆(5分)、③国連に障害児の権利を訴える会(5分)、④公教育計画学会・全国連(5分)、⑤自立支援センターさぽーと(5分)、⑥日弁連(7分30秒)。その後、権利委員からの質疑と応答で45分。「それぞれの回答時間は1分以内で!」と内部で決めたが、すべて時間ピッタリで、発言内容も委員に伝わった手応えを感じた。
「里親や養子など施設入所を防ぐための措置は行われていますか?」「子どもを持つ家庭に対する早期介入のシステムとして、子どもが施設に入らずにすむための具体的措置は?」の権利委員から質問があり、回答は突然、私が指名された。
「里親制度の充実方向は、政府もキャンペーンはしているが民間の努力任せ。民法の扶養義務があるので社会的には広がっていない」「障害児の意見表明権のための資源や合理的配慮が確保されていない。これらが大きな課題です」。
この日の10日前、私はフィンランドで、ヘルシンキ大学附属病院の3人のソーシャルワーカーから「児童虐待の発見とその後の対応」の講義を受け、ヘルシンキ市営のファミリー・リハビリテーションセンターを訪問していた。「泊まり込みで(2~3カ月)虐待家族のリハビリ」の場と「最終の養護受け入れ施設(里親や施設)が決まるまで児童を養護する施設」の2つの機能を持つ。
ヘルシンキの人口は約60万人。17歳未満が10万人、うち約8千人が児童福祉サービスを受けている。8割が在宅ケア、2割が里親や施設で暮らす。予算は8割が里親や施設ケアに手厚く投入する。
80年代に大きな制度の見直しがあり、「児童を収容する」から「できるだけ家族のなかで、家族全体のこととして考える」へ。インクルージョンの考えが先取りされた。でも「猶予を許されない場合は保護や確保も」ある。
また、「虐待家族のリハビリ」は、「収容」や「罰」ではなく、あくまでもフツーの家族の関係を整えていくことだ。何度も何度も話し合うことが大切だと言っていた。
「できるだけ家族で一緒に」。そのための社会的サポート。それはインクルージョンを実現するための基本だ。
障害者の65歳問題の解消を!
天海 正克(天海訴訟原告)
基本合意10年の節目とこれからの運動
雨田 信幸(基本合意文書の完全実現をめざす大阪の会(きょうされん大阪支部事務局長))
出生前診断をめぐる現状
利光 惠子(立命館大学生存学研究所客員研究員/優生手術に対する謝罪を求める会)
丸山 汎(サンケイスポーツ編集局文化報道部社会面担当記者)
第5回 障害者権利条約とタイの動向
佐野 竜平(日本障害者協議会理事/法政大学現代福祉学部准教授)
村田 清司(ランナー)
第65回 2つのパートナーシップー支えてくれる存在と障害という相棒ー
山田 裕貴(大正大学大学院社会福祉学専攻修士課程2年)
JDとの40年、これからも共に
長谷川 三枝子(日本リウマチ友の会会長)
障害者権利条約の完全実施をめざして~2020年の審査・勧告でどう変わる、私たちの暮らし~
■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
■団体賛助会員・・・・・・1口10,000円(年間)
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