障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

19年11月12日更新

2019年「すべての人の社会」10月号

2019年「すべての人の社会」10月号

VOL.39-7 通巻NO.472

巻頭言 5つのモノサシ

NPO法人日本障害者協議会理事
法政大学現代福祉学部准教授 佐野 竜平

 わが職業人生における指針は「4つのモノサシ」です。いわゆる「師」と呼べる存在からの金言です。長い年月を経た今、私なりの理解や経験を交え振り返ってみます。

 まず「障害種別に限らずあらゆる障害を観ること」が1つ目です。仮に知的障害者に関する制度・施策や実践があれば、身体障害者や精神障害者、その他の障害のある方について必ず包括的に考えてみるようにしています。障害の社会モデルが認知されつつある今、ここから課題解決のヒントに辿り着くことは多々あります。

 次いで2つ目は「関連分野を比較すること」です。障害分野のみを考えるのではなく、児童分野、高齢分野、マイノリティ等にも連結点は必ずあると信じて深く掘り下げるようにしています。むしろ関係ないような話題や切り口の方が斬新な活動を生み出しやすく、それが結果的にインクルーシブ社会づくりに寄与できるのではないかと感じています。

 さらに「国内問題と国際問題を常に同時に見据えること」が3つ目です。今日、SNSや便利なアプリ、A I(人工知能)、高速インターネットやLCC(格安航空券)等の普及により、地球が実際よりも小さい感覚になることがあります。SDGs(持続可能な開発目標)など世界共通の視点もあり、国内外で起こっている何かが瞬時に目の前の課題になりえる時代です。言語や文化等の違いを超えて社会全体を俯瞰することが求められます。

 モノサシの4つ目は「障害のある人のニーズと現状のギャップを知ること」です。官民問わず障害分野の発展を願って様々な手立てが講じられていますが、どうしてもニーズとのギャップがあります。私自身まだ開発が不十分なアジアに長年身を置きつつも自らの障害の進行があり、もどかしさを抱えて日本に戻りました。ここから日本を含むアジアに貢献したいというのが今の立ち位置です。

 ここで、いずれ師に追いつくべく私なりの5つ目のモノサシを紹介します。それは「時間を行き来すること」です。我々は時に過去から学ばず未来を見てしまうことがあります。一方、制度が未成熟で細分化されていない分、大胆な発想ができる強みも併せ持っているのが開発途上国です。現代はいわゆる飛び抜けていることだけはなく、何かが不足していることも長所になりうる時代になってきているのではないでしょうか。

 上記を深め続けながら、JD理事として「師」や皆様と一緒に社会に向き合っていきます。引き続きご教示ください。

視点 全世代型社会保障改革に違和感

NPO法人日本障害者協議会 常務理事 増田 一世


 参議院選が終わり、内閣改造によって「全世代型社会保障改革」担当大臣が決まり、内閣官房に事務局が設置された。官邸主導だ。「全世代型社会保障」に違和感を覚えた。もともと社会保障は全世代の人々を対象にしているはずだ。障害分野ではなじみ深い憲法25条2項には「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなくてはならない」と書かれている。にもかかわらず、なぜ全世代型が強調されるのか。そんな疑問を抱きつつ、いくつかの政策文書を見直してみた。

骨太方針にみる「全世代型社会保障改革」
 2018年の経済財政と改革の基本方針(以下、骨太方針)では、社会保障は歳出改革の重点分野であり、持続可能な制度の確立、そのための社会保障制度の効率化を求め、行動変容等を通じた医療・介護の無駄の排除と効率化の徹底、健康寿命の延伸、医療介護等の分野の生産性の向上……。そして、文末に「全世代型の社会保障制度を構築する」とあった。

 2019年の骨太方針では、「全世代型社会保障への改革」が小見出しに昇格し、70歳までの就業機会確保に向けての法制整備、年金制度との関係に言及し、在職老齢年金制度の廃止も視野に入れる。年金制度が就労を阻害する障壁だとあった。その他、中途採用・経験者の採用の推奨、さらに紙数を割いているのは、「疾病・介護の予防」である。個人の健康を改善すること、健康寿命を延ばし、働き手を増やすことで社会保障の担い手を増やす、高齢者が地域社会の基盤を支え、健康格差の拡大防止のために保険者(自治体)に対し、疾病予防の取り組みにインセンティブを与え、介護予防の促進としては、介護インセンティブ交付金の抜本的な強化を図るとしている。アメとムチによる自治体コントロールだ。

 骨太方針に基づき策定されている厚生労働省予算概算要求(2020年度)には、人生100年時代に対応した全世代型社会保障の構築がキャッチコピーとなり、1.多様な就労・社会参加の促進、2.健康寿命延伸等に向けた保健・医療・介護の充実、3.安全・安心な暮らしの確保等の3つの柱が示されている。

健康寿命の延伸……
 誰もが活躍できる、健康寿命延伸、疾病予防、重症化予防、生産性向上に向けた医療・福祉サービス改革、地域共生社会づくりなどの言葉が随所に登場する。健康で長生きすることを否定するものではないが、これらの政策文書をみていくと、人は努力すれば健康を維持でき、やる気があれば働き続けられる、その努力をしないのは個人の責任と言われているように思えてくるのだ。健康を損ねたら、介護が必要な状況になったら申し訳ない、と思わせるそんな空気に覆われる社会は、多くの人にとって生きづらいはずだ。障害の自己責任論に通じる。本来政策とは、病気になっても、障害があってもその人らしく生きることを保障するための制度を構築することだ。国は共生社会を謳うが、それぞれのありのままの姿を認め合うところから共生が始まるのではないか。病気にならないことを強制することではない。

 現在急ピッチで介護保険法の改正(2020年度通常国会で審議予定)論議が進んでいる。一定所得以上の人は原則2割負担、ケアマネジメントの有料化、要介護1~2の人は介護給付から外され、総合事業(市町村が実施するもので、有資格者でなくとも研修を受けると元気な高齢者などが低賃金でデイサービスのような事業が行うことができる)の利用などが俎上に上がっている。これらの動きはまさに「全世代型社会保障」の一端であろう。障害分野も無関係ではいられない。

2019年9月の活動記録・講師派遣


基本合意10年

基本合意から10年の節目をステップに
太田 修平(障害者自立支援法違憲訴訟の基本合意の完全実現をめざす会事務局長)




私の65歳問題-現状と課題―

「私は、障害福祉サービスの利用を継続申請します」「要介護認定は受けません」
上田 孝(愛知県障害者(児)の生活と権利を守る連絡協議会副会長、愛知肢体障害者こぶしの会運営委員長)




連載:優生思想に立ち向かう

第8回 出生前診断の変遷と運動
佐々木 和子(京都ダウン症児を育てる親の会 グループ生殖医療と差別)




連載:他の者との平等-メディアの可能性

第20回 障害者の暮らしを丹念に追いかけたい
堀 英彦(福井新聞記者)




JD仮訳にみる各国の障害者政策

第4回 ニュージーランド第2回審査を前に
佐藤 久夫(NPO法人日本障害者協議会理事)




トピックス・読書案内



リカバリーの実現

障害があっても活躍できるぞ!…… 松本ハウスさんとの鼎談から
丹羽 真一(福島県立医科大学 会津医療センター)




連載エッセイ障害・文化・よもやま話

第16回 戦争と障害者⑩「飢え」に苦しむ患者たち(その2)
荒井 裕樹(二松学舎大学准教授)




インフォメーション

憲法・障害者権利条約とともに―深刻な実態をわかりやすく!課題の中に新たな方向を―



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