障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

19年7月31日更新

2019年「すべての人の社会」7月号

2019年「すべての人の社会」7月号

VOL.39-4 通巻NO.469

巻頭言 2030年の未来社会について考える

NPO法人日本障害者協議会理事
NPO法人難民を助ける会(AARJapan)プログラムマネージャー 野際 紗綾子


 多くの子どもたちに人気の『きかんしゃトーマス』は、第二次世界大戦のさなかに、イギリスの牧師が息子に聞かせるために書いた話が元になっています。

 原作の創刊から70年強が過ぎた今、日本でも、トーマス関連のおもちゃや映画は大人気。NHKのEテレでも毎週放映されていますが、この春から、登場する機関車や物語の内容が大きく変わりました。国連との協働で、「持続可能な開発目標(SDGs)」が物語にふんだんに取り込まれるようになったのです。

 SDGsには2030年までに達成したい17の目標が書かれていますが、その前文には「誰一人取り残さない」というスローガンが刻まれています。幼少の頃から、大好きなトーマスの物語を通じてSDGsに触れ、誰も取り残されることのない、すべての人のための社会について思いを馳せることができたらどんなに楽しいことでしょう。

 さて、こうした、インクルーシブな社会の実現に向けた取り組みは、国連と『きかんしゃトーマス』だけではありません。様々な場所で、様々な方法で、多様な人々によって推進されています。

 災害や紛争等の緊急人道支援の現場では、『スフィアハンドブック』という支援の手引書がNGOや赤十字等の関連機関によって作られ、7年毎に改訂されていますが、2011年の改訂版から、障害者が、すべての分野において配慮されるべきと明記されるようになりました。

 食糧、水衛生、保健医療、仮設住居といった緊急人道支援におけるどの分野においても、障害者の権利を認識する必要性を、「最低基準(最低限守らなければならない基準)」と定めたのは大きな一歩であったのではないかと考えます。

 加えて昨年、『高齢者や障害者のための包括的な人道支援基準』が『スフィアハンドブック』の姉妹本として発行されました。これらの基準の実践を通じた、障害者権利条約の第11条(危険のある状況及び人道上の緊急事態)やインチョン戦略の目標7(障害インクルーシブな災害リスク軽減および災害対応を保障すること)の実現への貢献を期待しています。

 SDGsが、誰一人取り残さない世界の実現を期限としている2030年は、奇しくも、JDが設立から50年を迎える年でもあります。「私たちを抜きにして私たちのことを決めないで」という精神を大切に、すべての人に優しく、強靭な社会になりますように。JDに課されたものは大きいですが、皆の力を合わせて取り組んでいけたらという思いを強くしています。

視点 障害者雇用率をめぐる新ビジネスの拡大に思う 得手を生かす仕事づくりこそ

NPO法人日本障害者協議会 常務理事
公益社団法人やどかりの里 常務理事 増田 一世


障害者雇用をめぐる新ビジネスか
 「障がい者が働く農園ができる予定です」「90名限定募集」「月給約11万円 障害者年金の継続受給可」「実働6時間~6時間15分、時間外労働なし」……こんな言葉の踊るチラシが障害のある人に届けられた。どんな仕組みかというと、A社が数千坪の土地に設置したビニールハウスで地域の高齢者や企業OBを農場長として3人の障害者が1つのグループとなって働く。しかし、雇用するのはA社ではなく、障害者雇用率未達成の企業である。1つのビニールハウスに○○会社の農園、××会社の農園が並ぶのである。同じ仕事をしながら、畝によって雇用する企業が違うのだ。

 そして、この農園で栽培される野菜は、市場には流通しない。商品としての質も求められない。○○会社の社員食堂や職員の福利厚生に利用され、そこで働く障害のある人たちが持ち帰るのである。販売に耐えられるものを作ろうとすると障害者に負担をかけることになるからということらしい。

 障害者雇用率未達成の企業が、障害者と農場長の賃金を負担し、A社に手数料を支払うという障害者雇用率達成を目的にしたビジネスモデルなのである。いくつかの地域では、A社は自治体と協定を結んでいる。ある市では、市の封筒で障害者手帳所持者に対し、部長名の文書とA社のチラシが郵送された。

 市から手紙が来たから、そこで働かないといけないのかと思う障害者がいたり、先々が不安な親が、11万円の給与が支払われることを知って、本人の意思に反し、ここで働くよう強く促すなど、さまざまな影響が出ている。また、農園での実習を終え、面接の際に幻聴があることを話すと、採用できないと告げられたり、毎日通えない人は採用されなかったり、障害者に合わせた職場づくりではなく、企業の都合に合わせた採用が進められている。

 障害者だけが集められ、生産者としての期待もされず、雇用率のために用意されたビニールハウスに送迎バスで通う。仕事ができてもできなくても拘束された時間の最低賃金が支払われる。隣の畝で働く人は別会社に所属している。働く仲間たちのつながりは生まれるのだろうか。

得手を生かす仕事づくり
 障害者雇用率は、障害のある人とない人の格差を埋めていくための積極的是正措置である。しかし、企業では障害者の仕事は清掃やコピー、シュレッダー処理など、限定的に捉えられがちで、仕事づくりが難しく、それならお金で雇用率を買ってしまおうということになる。これでは、企業の障害者雇用のノウハウも育たない。障害者の持つ多様な力にも気づけない。

 民間企業で長年働いてきた障害女性は、ある会議で、障害者雇用水増し問題に関連して「私は民間の会社で22年半仕事をしました。企業にとっては戦力となる労働者ではなく、障害者雇用率を達成するための数合わせとして仕事しました。お給料はいただきましたが、かなりつらい22年半でした」と語っている。雇用率の数合わせのための障害者雇用は、そこで働く人の誇りを奪い、ディーセントワークとは程遠い状況をつくりだしている。

 筆者は長年、精神障害のある人と働いてきた。障害ゆえの困難さ、例えば疲れやすさ、初めての経験への抵抗感等々、それぞれに得手不得手がある。でもそれは障害の有無に関係なく、だれにでもあることだ。実際は、働く経験を重ねることで体力がついてきたり、上手に息抜きができるようになり、自信を積み上げて新たな仕事にも挑戦していく。自分の持つ力を発揮していくのである。

 その人の強みを生かした仕事を一緒に考えていくことが、障害者雇用の第一歩だ。障害や苦手なことに着目する前にその人の仕事への意欲、経験、希望に着目することである。全国の大小の職場で障害のある人が働くことが当たり前になったとき、職場の環境は大きく変わるはずだ。障害者雇用はディーセントワーク実現の早道ではないだろうか。

2019年6月の活動記録・講師派遣

私の65歳問題

65歳を過ぎても、生きがいをもって暮らせる制度に秋保 喜美子


海外情報

東南アジアの平和な国、ブルネイにおける障害者政策佐野 竜平


学術団体における最近の動向…

「情報保障」から「参加保障」へ
―日本福祉のまちづくり学会大会における参加保障の取り組み―八藤後 猛


連載 他の者との平等―メディアの可能性―

第17回"さえない日常"の大切さを伝えたい岡本 晃明


公共放送の国際潮流

多様性ある番組をつくるために村井 晶子


JD仮訳にみる各国の障害者政策

第1回ノルウェーと第12条佐藤 久夫


フィロミナがみた夢

中澤 健


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JDサマーセミナ―2019 価値なき者の抹殺 優生思想―私たちはどう立ち向かうか―


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