障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

19年5月31日更新

2019年「すべての人の社会」5月号

2019年「すべての人の社会」5月号

VOL.39-2 通巻NO.467

巻頭言 国連・障害者権利委員会(ノルウェー審査)傍聴に参加して

NPO法人日本障害者協議会理事 佐々木 良子


 「国連で行われる障害者権利委員会の傍聴(ノルウェー審査)に行きませんか?」JD事務局からのメールにびっくり。「とんでもない」と思ったのですが、「こんな機会は二度とない」と一晩考え、出した私の答は、「行かせてください」でした。

 せっかく行くのだから、記録だけは作ろうと思っていました。英語のできない私に心強い味方・ベテランの日英通訳の方もいます。意気込んで始めたのですが、全く記録が作れません。聞こえてくる日本語が、理解できないのです。改めて、自分が、何もわかっていないことを実感しました。

≪ノルウェーの取組み≫
 そんな私でもわかったこと。それは、ノルウェーの方たちの熱い思いです。審査と言っても国連で行われるのは、審査の一過程です。まず、権利条約締結国は、権利条約の監視機関である国連・障害者権利委員会に報告書を提出します。国の報告書と共に大切なのは、パラレルレポート(パラレポ)です。ノルウェーでは、125の障害者団体等で構成された市民社会団体とオンブズマンがパラレポを作成し、提出しました。市民社会団体は、パラレポを作成するため、月1回程度の会合とオンブズマンとの意見交換を行なったそうです。障害者権利委員会が、国の報告書とパラレポを元に行う報告や質疑応答は建設的対話と言われ、その建設的対話の時間は、1日目の3時間と2日目の3時間です。この6時間を有効に使うために、色々な工夫がされています。

 ノルウェーでも、建設的対話の他に、障害者権利委員会による市民社会団体へ聞き取りや国別報告者との会合、「自己決定へのノルウェー障害者の権利」をテーマにしたサイドイベントも開催されていました。色々な団体で構成されている市民社会団体を一つにしたのは、「障害者権利条約をないがしろにしてはならない」という思いでした。

≪権利条約に恥をかかせないために≫
 今回、傍聴に参加してわかったことが、もう一つあります。権利条約は、締結したから終わりではなく、権利条約を生かすための取り組みが必要だということです。日本でも色々な方たちが、努力されてきたこと、今も努力されていることを知りました。

 最後に、えほん障害者権利条約の著者・藤井代表の詩から一部抜粋します。「わたしは負けない。たくさんの、「がんばって!」のつぶやきがきこえるから。わたし自身が自信を失いたくないから。日本のみなさん、わたしに恥をかかせないで。障害者権利条約に恥をかかせないで。」

視点 基本合意10年

NPO法人日本障害者協議会 副代表 薗部 英夫


 窓の外では桜が舞っている。新宿の障害者福祉センター調理実習室での会合は定刻通り始まった。
 不動の弁護士・藤岡毅さんは障害者自立支援法違憲訴訟弁護団要の事務局長。基本合意の完全実現をめざす会結成以来の事務局長太田修平さんは若作りだけど顔の皺は深くなったかな。元原告の家平悟さんがJD荒木薫事務局長のショートヘアの変化に最初に気づいて笑ってる。DPI事務局次長の白井誠一朗さんは、基本合意当時を直接知らない若手世代のリーダーだ。静かで熱いきょうされん事務局長多田薫さんは今日もここにいる。私は情報担当として2008年10月27日の「訴訟の勝利をめざす会」結成以来、538号の「めざす会ニュース」を発行してきた。約千人の登録者にメール発信するニュースは、一晩のうちに転送され約1万人に広がっていった。
 この会合は、2020年1月7日に開催される「基本合意10年全国集会(仮称)」の実行委員会だ。

 2010年1月7日。厚生労働省の講堂には、原告や弁護団、支援するめざす会メンバーが続々と集合していた。調印式は17時50分。原告71人と弁護団は、国(厚生労働省)との間で基本合意文書を締結した。国を代表して厚労大臣は、「障害者の尊厳を深く傷つけた」「心から反省を表明」し、「今日を新たな出発点として、障害者のみなさまのご意見を真摯に聴いて新しい制度をつくっていく。その前にできる見直しは進める」と約束した。
 4月21日、基本合意を受けて、14の地裁で勝利的和解が行われた。基本合意の約束が守られているかどうかを定期的に確かめていく検証会議がもたれ、その夕方、124人の訴訟団は、首相官邸へ。鳩山首相(当時)は「ご迷惑をおかけした。申し訳ないな、という思いでいっぱいだ」と語り、膝を折って、原告一人一人と言葉を交わした。

 この基本合意10年を、3つの視点で考えてみたい。 第1は、なによりも基本合意書そのものの大きな価値だ。「障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに対し、原告らをはじめとする障害者及びその家族に心から反省の意を表明するとともに、この反省を踏まえ、今後の施策の立案・実施に当たる」。国が約束したのは「原告らをはじめとする障害者及び家族」である。「障害福祉施策の充実は、憲法等に基づく障害者の基本的人権の行使を支援するものであることを基本とする」のだ。このため「適正な履行状況等の確認のため、原告団・弁護団と国(厚生労働省)との定期協議を実施する」はとても重い約束なのだ。
 第2は、障害者権利条約の実現のとりくみと連動する。今後の「新たな障害者制度全般の改革のため」、「障がい者制度改革推進本部」が設置され、日本で初めて当事者の本格的な参画による会議がもたれた。推進会議のスタートでは、担当大臣や政務官が次々に基本合意を強調した。そして、新たな総合的福祉制度が議論され、「骨格提言」がまとめられた。その後の政治のダッチロールはあれ、当事者参画の歴史は、権利条約実現の運動とともに未来をこじ開けるだろう。
 そして第3は、介護保険統合と「65歳問題」だ。「介護保険優先原則(障害者自立支援法第7条)を廃止し、障害の特性を配慮した選択制等の導入をはかること」を約束した。10年経って現状はどうか。しかし、岡山の浅田訴訟は地裁も高裁も全面勝訴して確定した。65歳になるにあたって介護保険申請をしなかったとのことで、障害サービスを打ち切られてしまったこの問題は、5年間かけて、岡山市の対応は不当とする判決が示されたのだ。判決文には、基本合意文書をもって、国は、「介護保険優先原則の廃止を検討することを約束した」ことが記されている。千葉の天海訴訟もつづく。
 10年は一昔。基本合意の今日的意義を新しい世代とも学びあいながら、スクラム組んで、前へ。
◆歴史もよくわかる<めざす会ホームページ>
http://www.normanet.ne.jp/~ictjd/suit/

2019年4月の活動記録・講師派遣

提言 障害のある人が就労を継続していくために必要なことは何か

~雇用水増し問題を受けて~工藤 正一


ディーセント・ワークの実現に求められる障害者の雇用・就労施策のあり方

―A型事業所利用者のヒアリング調査から―松井 亮輔


障害者権利条約 JDFパラレルレポートの経過と概要

赤松 英知


連載他の者との平等連載-メディアの可能性-

第15回障害理解に必要な発信とは山縣 章子


EUCOMS(ユーコムズ)のコンセンサス・ペーパーについて〔6〕

連載を終えるに当たって伊勢田 堯


トピックス・インフォメーション

連載優生思想に立ち向かう

第6回優生手術は人生を狂わせた-仲間と一緒に国に謝罪を求めていく-北 三郎


What's New!

優生保護法による強制不妊手術被害を受けた人に関する法成立 ―JD声明―


きょうされん40周年記念劇映画

「星に語りて~Starry Sky~」宮崎 木綿子


インフォメーション

JD政策会議2019 障害者権利条約パラレルレポートの到達点と課題



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〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

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