障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

19年4月26日更新

2019年「すべての人の社会」4月号

2019年「すべての人の社会」4月号

VOL.39-1 通巻NO.466

巻頭言 春によせて

NPO法人日本障害者協議会理事 内田 邦子


 「春のうららの墨田川…」の歌は、言うまでもなく武島羽衣(たけしま・はごろも)の作詞に瀧廉太郎(たき・れんたろう)が作曲したもので「花」は、日本人では知らない人はいないほどよく知られた歌です。

 その墨田川は、もとは荒川から赤羽(あかばね)の付近の岩淵水門から分岐して、東京湾に注ぐ全長23.5kmの川です。

 江戸時代には、桜で有名な日本堤や隅田堤は江戸市街地を洪水から守るために築堤され、下流では、神田川と合流しています。

 その神田川は、多摩川から井の頭を経て、神田川となり、江戸市街をくまなく水道としてめぐらし、江戸100万の市民の生活を支えていました。水道や循環型都市など江戸システムとして、最近、研究が進められているとのこと、とても興味深い話です。

 さて、隅田川といえば、両国には、江戸・徳川綱吉の時代に活躍した盲人鍼師(はりし)の杉山検校(けんぎょう=当時の視覚障害者の最高の官位)がいます。綱吉の鍼医だけではなく、視覚障害者教育のパイオニアでもありました。

 綱吉から「何かほしいものはないか」との問いに「目がほしい」との答えに本所(ほんじょ)一つ目の地を拝領したエピソードが伝えられています。そして杉山検校は、その地で職業訓練校であり鍼術講習所であった「杉山流鍼治導引学問所」を開設するようになります。

 後年、弟子によって、全国に45ヶ所に上る講習所が開設されるようになり、多くの優秀な鍼師が誕生していったそうです。教育内容も、基礎から系統立てて技術が学べるように、初期教育(按摩・鍼各々3年の計6年)、中期教育、後期教育、最終教育、とそれぞれに教科書もつくられて教育が施されたようです。

 世界的にも、1784年にフランスで、ヴァランタン・アユイが盲人に特別教育を行なったとされていますが、これより100年前の天和26年(1682年)のことで教育史上特筆すべき初の盲人教育だったといえるでしょう。

 明治時代になると太政官公布によって講習所は廃止されますが、視覚障害者の職業として、学校教育の中に反映されていきます。

 しかし、現在、健常者の鍼灸師が増え、視覚障害者の職業として、生活のみならず、健常者と同等にたずさわれ、適職として継がれてきたものが、視覚障害者の治療家が少なくなっていく状況に危うさを感じざるを得ません。とても残念であり、なんとかしたいものです。

視点 幸福度と生産性

NPO法人日本障害者協議会 代表 藤井 克徳


 今年もこの3月に、世界幸福度ランキングが国連から発表があった。日本は58位で(国連加盟国は193カ国)、昨年より4つ順位を落とした。日本が最も高かったのが2015年の46位で多少のアップダウンはあるもののじり貧の傾向にある。G7主要国では最下位で、台湾やシンガポールからも大きく水をあけられた。ちなみに、第1位は2年連続でフィンランド。デンマーク、ノルウェーがこれに続く。全体として、北欧や中部ヨーロッパの国々が上位を占めている。ランキングは、6つの評価の組み合わせで決まる。評価項目のみを列挙すると、一人当たりのGDP(gross domestic product:国内総生産)、健康寿命、社会の寛容さ、社会的支援、選択の自由、社会的かつ政治的腐敗の少なさである。日本は、長寿国の評判通り健康に生きられる年数は2位と抜群に高い。しかし、社会的支援や選択の自由、他者への寛容さとなると大幅に下がる。寛容さに至っては92位である。

 この幸福度に、他の国際データを重ねるとどうだろう。日本の実相が浮かび上がってくる。まず挙げたいのは、女性の国会議員の比率だ。2019年1月現在で、日本は10.2%(165位)。これに対して、スウェーデンは47.3%、フィンランド41.5%、ノルウェー40.8%、デンマーク37.4%と日本を大きく上回っている。

 次に、私たちと関係の深い障害関連予算との関係でみてみよう。いくつかの指標があるが、ここでは工業先進国で構成しているOECD加盟国での政府総支出費に占める障害関連支出の割合で比べることにする(2015年現在)。結論から言えば、34の加盟国中で33位という低迷ぶり。ノルウェーの7.7%やデンマーク5.5%、フィンランド4.2%、スウェーデン4 . 1 % に対して、日本は1 . 5 % に留まっている(OECDの平均は3.5%)。

 もう一つ紹介したいデータがある。国政選挙の投票率との関係だ。幸福度の上位でみると、いずれも直近の国政選挙でスウェーデンが87.2%、デンマーク85.9%、アイスランド79.2%、ノルウェー78.2%と軒並み80%前後にある。他方、日本は、2017年の衆院選で53.7%、2016年の参院選で54.7%だった(156位)。

 こうしたデータを合わせみると、いくつか気付かされる。明白なのは、日本は暮らしやすくはないということだ。低水準にある女性の政治進出や障害関連予算の分配率は、暮らしにくさと無関係とは思えない。低い投票率と暮らしにくさも深く絡んでいると言ってよい。若者を含む、市民それぞれが政治に関心を持ち、投票率を高めることが、幸福度を好転させる糸口になるのかもしれない。

 こんなことを考えながら、今年の総理大臣の施政方針演説や主要な政策文書を読み返してみた。ここ数年、一気に踊りだしたキーワードが、「生産性」である。この生産性、競争原理や規制緩和と結びついたときに恐ろしさを禁じ得ない。耳を澄ますと、「生産性のないもの食うべからず」が聴こえてきそうだ。どうみても、生産性に偏った政策と、寛容さや社会保障政策の充実を中軸に据えた幸福度のアップは両立しそうにない。

 実は、昨今クローズアップしている優生保護法の被害問題も、中央省庁による障害者雇用の水増し問題も、この「生産性」からひも解くとその本性が透けて見えてくる。生産性のない人が生まれてくるのを阻み、生産性のない人の雇用を排除したかったのである。これらの問題を正しく解決することは、障害者政策や人権政策の基準値に影響するだけではなく、市民社会の幸福度の好転とも関係するのだということを押さえるべきでは。

2019年3月の活動記録・講師派遣

障害者自室支援法訴訟の基本合意の完全実現をめざす会ニュース54

☆第10回定期協議開催 全国から元原告ら130人余が参加
基本合意と現状に沿った政策を求める! 2/25 厚労省会議室


優生保護法被害

JDF 院内フォーラム 2019.3.5 於) 参議院議員会館講堂


What's New!

全国初の大型福祉仮設住宅での生活
-平時の協力体制で発災時の支援も慌てず連携-全国身体障害者施設協議会


連載:優生思想に立ち向かう《5》

原告とその家族、多くの方々の声を未来を作る力に
-全国の優生保護法裁判 各地の状況と補償法-藤木 和子


他の者との平等連載-メディアの可能性-

第14回あの日から、まだ終わらない"宿題"村井 晶子


EUCOMS(ユーコムズ)のコンセンサス・ペーパーについて〔5〕

地域ネットワークの視点大澤 美紀


トピックス

JD連続講座3=パネルディスカッション


投稿

移動困難患者への移送費支給が、一転実現!大川 仁


私の生き方

私の今とこれから松永 裕介


連載エッセイ障害・文化よもやま話

第12回 戦争と障害者⑥ 療養所の中の精神病室(後編)荒井 裕樹


インフォメーション

JD政策会議2019 障害者権利条約パラレルレポートの到達点と課題


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