障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

19年3月19日更新

2019年「すべての人の社会」3月号

2019年「すべての人の社会」3月号

VOL.38-12 通巻NO.465

巻頭言 浅田訴訟全面勝訴!この成果をさらなる運動で・・・

NPO法人日本障害者協議会理事 白沢 仁


 「介護保険を申請していない」ことを理由に、65歳の誕生日を迎える直前、それまで受けていた障害福祉サービス(月249時間)を全て打ち切られた岡山市の浅田達雄さん。「岡山市は私に死ねというのか」と悲しみと怒りをエネルギーにして、2013年9月、市の決定取り消し等を求めて提訴しました。

 毅然とした弁護団・原告の主張、各地からの裁判傍聴や署名運動などの支援が続く中、2018年3月14日に地裁全面勝訴、これを不服とした岡山市の控訴に対する高裁でも同年12月13日に全面勝訴しました。そして、市が再びの控訴を断念したことで判決が確定。実に5年3ヶ月に及ぶ闘いの結果、見事、浅田さんの訴えは認められました。

 判決内容は、①岡山市の処分取り消し、②障害福祉サービスの支給の義務づけ、③慰謝料等の支払いを地裁・高裁ともに命じたものになっています。とりわけ注目すべきは、障害者自立支援法(現・障害者総合支援法)第7条の解釈を巡り、「いわゆる併給調整規定であり、二重給付の回避をその目的とする」と解し、決して優先原則を規定したものではないこと。また、移行手続きにあたっては「引き続き、原告の納得が得られるよう、介護保険給付に係る申請の勧奨及び具体的な説明を行うべきであった」(高裁判決では、原告が納得するまでの間、障害福祉サービスの提供を言及)とし、それにもかかわらず「自立支援給付を一切行わない旨の本件処分を行ったことは、第7条の解釈・適用を誤ったものであり、本件処分は違法というべきである」は大変重要です。

 今回の全面勝訴を受けて国(厚労省)がどう対応するのか。明確なのは運動しなければ何も変わらないということです。司法上の最終決着とはいえ、これがそのまま法運用に適用されるとは限らないということです。それゆえに、法解釈・移行手続きのあり方などの判決内容を国(厚労省)に働きかけ、法とその運用の見直しを求めていかなければなりません。何よりも「優先原則」の根拠になっている障害者総合支援法第7条を撤廃させ、制度選択できる規定などを明記させること、また国庫負担の増額等による保険料・利用料負担の軽減、せめて非課税世帯の無料化など、介護保険本体の見直しを求めることも、根本的な問題解決のためには必要です。

 2020年は、介護保険施行20年、障害者自立支援法違憲訴訟の「基本合意」締結10年にあたり、浅田訴訟全面勝訴を踏まえつつ、真に必要な介護保障のあり方を議論し、運動していく契機にしていくことを期待します。

視点 改めて「すべての人の社会」とは~千葉の虐待死事件をきっかけに思うこと~

NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実


 千葉県野田市で、1月24日、小学4年生の栗原心愛(みあ)さんが父親による虐待で亡くなった。昨年3月には、東京・目黒で5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが「パパママ、ゆるして」というメモを残して死亡した。児童虐待に大きな関心が集まり、二度と繰り返してはならないという思いを誰もが強くしたはずである。それなのに、また……。

 本人が望んでいないのに、一時保護を解除して父親の元に帰してしまった児童相談所。秘密を守ると約束したにもかかわらず、脅しに負けてアンケートを見せてしまった教育委員会。公的機関の対応のまずさが批判されており、それは当然のことである。子どもを保護する担当と虐待する家族に介入するセクションとを分離する、など児相の組織改編が具体化しつつある。また、地域の関係機関の連携の在り方も問い直されている。

 まず、「家族への介入」というより、このような「家庭への支援」が本気で検討されなければならないことを、千葉と目黒の事件は示しているのではあるまいか。千葉の場合も、母親がDVを受けており、一度は離婚した夫婦が再婚し、次女も生まれる中でこの事件が起こっている。2000年に児童虐待防止法が成立するまで、わが国の法律は「家庭に入らず」が大原則であった、ということはよく指摘される。「家庭」というプライベートな空間には、法律といえども立ち入ることができなかった。しかし、それでは子どもの命が守れない。そして、児童虐待防止法という枠の中だけでも、命を守り切れないことは明白である。

 批判されることも多い、「我が事・丸ごと」の地域共生社会であるが、ここでは「世帯丸ごと」の支援も強調されている。「8050問題」や「老障介護」など、1つの世帯で複合した課題を有する家庭には制度の枠内や行政サービスだけでは対応できない。

 地域の絆が弱いとされる都市部の自治体として、「東京らしい"地域共生社会づくり"」を2年にわたり検討してきた東京都は3月に報告書をまとめた。津久井やまゆり園事件も踏まえ、差別や排除を受けやすい障害者などを包み込む地域の在り方も議論された。

 委員の一人として筆者は障害者が地域で果たす役割を強調し、地域での当たり前の暮らしが住民の意識を変え、多様な存在が支え合う地域作りへと発展していくことを主張した。「地域共生社会の基本は『共創社会』」といった言葉も交わされ、多様な住民がそれぞれを尊重し、支え合う中で、新しい地域を共に創り出していくことの重要性が再認識された。人が生きていくとき、誰もが辛い思いや厳しさを体験することがある。その気持ちを受け止め、支えてくれる人が身近にいるという安心感が持てる地域であれば、孤立することを防ぎ、痛ましい事件を招かずにすむことにつながっていくはずである。

 優生保護法に基づく強制不妊手術、障害者雇用の水増し問題、JDの2018年度の連続講座は「障害者排除」をテーマに議論を深めてきた。このような厳しさに直面してきた障害分野だからこそ、これからの地域の在り方に積極的な提言ができ、むしろリードしていかなければならない立場だと考える。そこでは障害当事者の発言がさらに重みを増してくることを、連続講座でも実感させられた。こうした声を、児童福祉や外国籍の人への支援など、他分野へと発信し、連携していくことの必要性を痛感させられる。

 連続講座の最終回からもJDの活動はまさにその方向へと動き出しており、「すべての人の社会」の実現へと向かっている。さらに歩みを進めたい。

2019年2月の活動記録・講師派遣

連載 日本国憲法と私 第26回

津久井やまゆり園事件とドイツ憲法佐藤 久夫


障害者の参政権

視覚障害者の選挙情報の現状と課題―主に点字版について― 髙橋 秀治


障害者の参政権

聞こえない人の参政権 荻島 洋子、桐原 サキ


連載:優生思想に立ち向かう《4》

私の身体を返してほしい―優生保護法が犯した罪―飯塚 淳子(仮名)


連載 他の者との平等-メディアの可能性-

第13回 相模原事件から優生保護法へ宮城 良平


EUCOMS(ユーコムズ)のコンセンサス・ペーパーについて〔4〕

介入とリカバリー―有効性の視点から―小幡 恭弘


トピックス・読書案内

JD連続講座1、2終了。3月はパネルディスカッション

what's New! 

度重なる生活保護基準の引き下げに不服申し立ての嵐小久保 哲郎


介護保険体験記

私の65歳問題―介護保険サービス該当?内田 邦子


私の生き方第60回

川端 伸哉/かえで


インフォメーション

日本障害者協議会(JD)で購入できる冊子・DVD


賛助会員大募集中!
毎月「すべての人の社会」をお送りいたします。

■個人賛助会員・・・・・・・1口4,000円(年間)
■団体賛助会員・・・・・・1口10,000円(年間)
1部300円(送料別)からお求めいただけます。

▼お申し込みは下記JD事務局へメール、電話、FAXなどでご連絡ください。
〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
TEL:03-5287-2346 FAX:03-5287-2347

○メールでのお問合わせはこちらから office@jdnet.gr.jp
○FAXでのお申込み用紙はこちらから 【賛助会員申し込みFAX用紙】

※視覚障害のある方向けのテキストデータ版もございます。
※ご不明な点はJD事務局までお問い合わせください。



フッターメニュー