18年12月21日更新
VOL.38-9 通巻NO.462
NPO法人日本障害者協議会理事 佐藤 久夫
数年間の準備を経て、すでにほぼ9割の原稿が寄せられ、現在は残りの原稿の完成、内容の重複等の調整、索引項目の選定などの最後の編集作業に入っている。2019年の遅くない時期には日の目を見るものと期待される。
これは「幅広い関係者の学習・実践・運動の共通基盤」に資するべく、障害者権利条約を軸に、当事者視点、現場の実態を踏まえた総合的な事典を目指したJDの取り組みである。
具体的には、27の章に合計327項目の単語が選ばれ、100人を越える人々が執筆している。章は「教育」、「アクセシビリティ」、「インクルージョンおよび自立」、「医療」、「差別禁止」など条約に沿ったものが中心で、その他「一般原理」、「疾患と障害」、「支援方法と人材」など横断的な章も設けている。
私は編集委員の一人なので、寄せられた原稿の一部に目を通すことができ、ひと味もふた味も違った事典(辞典ではなく)が生まれるワクワク感を感じた。
例えば「視覚障害」の項では、従来視覚障害者の困難は読み書きと歩行といわれてきたが、パソコンと同行援護の普及でかなり改善されてきた。問題は職業であり、視覚障害者の割合はあん摩でも20%程度、はり、きゅうは20%を切った、と紹介されている。「要約筆記」の項では、1960年代からろう者の集まりに参加する聴覚障害者の中に手話を解さない中途失聴者がいることに気づいた健聴の手話関係者が、書いてサポートをしたのがはじまりだったという。
「人権問題と権利擁護(障害者に関する)」(大項目)は「人権とは、人が人であること自体から当然に認められる権利をいう。価値の究極の担い手は民族や国家という全体、集団ではなく個々の人間であり、全体はあくまでも個人のためにのみその存在意義があるという考えに立脚する。」という段落からはじまる。
ある程度理解していたつもりだった言葉を、リアルな実態、本質、歴史などを伴って学びなおし、自分の中での概念が変化し深まった印象を、多くの原稿を読んで感じることができた。それぞれの項目を最も適切な人に執筆していただいた結果であり、JDの加盟団体とネットワークの広さの反映であろう。
世界でもおそらく初めての障害者団体による事典の出版を待ちたい。
NPO法人日本障害者協議会副代表 薗部 英夫
レジスタンス運動に参加し、ナチス・ドイツの収容所に投獄されたコペンハーゲン大学法学部の青年=バンク‐ミケルセン(1919年~90年)。彼は、戦後、社会省に勤め、知的障害者親の会を手伝う中で、ノーマライゼーション(障害のある人に、障害のない人と同じ生活条件をつくりだすこと-すべての人に自由と独立を-)を提唱した。
これは世界の障害者運動に影響を及ぼし、「障害を理由とする差別を禁止」「障害者は保護される存在ではなく権利を持つ社会の主人公」「分け隔てられることのないインクルーシブな社会」を実現する障害者権利条約につながっている。
しかし、日本ではノーマライゼーションは「脱施設化」が強調されるあまり、同年齢の市民と同等の生活条件をつくりだすという側面が弱い。
デンマークでは、1960年代から、大規模施設ではなくより小さな、自由やプライバシーが尊重された「住まい」での生活を充実させた。1976年に生活支援法、98年に社会サービス法が成立し、「特別なニーズと配慮」も位置づけられた。
わたしは、顔が見えるような規模の町で、ノーマライゼーションがどう実現しているか、見て、聞いて、考えたくて旅を続けている。
9月中頃、人口3万人のヒレロズ自治体にある特別なニーズを有した青年・成人のための居住センターを訪ねた。デンマークでは、法によって65平米の個室・キッチン・バス・トイレの提供が当たり前となった。自己決定が大切にされ、どこにだれと住み、何を食べるか、学びや仕事、余暇活動にとりくむことが保障されている。
利用者は118人。18歳~70歳後半の知的障害のある人が10人ほどのグループごと4つの住宅で暮らす。24時間の支援が必要な人たちを支えるスタッフは120人。地域との交流も熱心だ。
「地域社会とのインクルージョンをどのように実現しているのですか?」と尋ねると、副施設長のクリスチャンは「それぞれの知的障害や身体機能によって、地域でできるだけ働くことができるように支援する。それが難しい人にはデイセンターで他者との交流がはかられる。この居住センターを利用する人たちは重い知的障害があり、全体からは少数だが、ここを必要としているのです」。
車いすに乗ったエリフさんが彼女の部屋を見せてくれた。プレスリーが好きで、ハード系のコンサートによく行くそうだ。「住みごこちはどう?」と聞くと、「好きなことができるし」「朝と夕はみんなといっしょに食べれるし」。
10月中頃、JDF障害者権利条約パラレルレポート特別委員会「第19条起草チーム」5人で埼玉・みぬま福祉会の施設を視察した。強度行動障害や最重度の人も一人ひとりの部屋はそれぞれに飾られ、10人ほどで一つのユニットに分かれて暮らす。
「グループホームを充実させる方向で制度は考えられないだろうか?」の質問に、「法人の二つのグループホームにも50人が暮らす。アパートで暮らす人もいる。でも知的障害が重い人の場合、生活の中で、その人が生きてきた経験やアイデンティティ、人生の尊さがわかって、それを支えられる専門性が必要です」「安定した職員数があることで、職員チーム、職員集団で支えることができる。そのことで福祉の労働は継続し、仲間も安心して暮らせるのではないでしょうか」と。
「住まい」だけにとどまらない「暮らし」。そこには、学び、働き、所得やリハビリ、政治参加や文化・余暇活動が必要だ。権利条約の第20条~30条はそのことを権利として総合的に保障することを明記している。みんなの智恵を結集したい。
信頼は品質の要石井 昌明
〔優生手術に対する謝罪を求める会〕の活動から(その1)米津 知子
リカバリーを重視した「公衆衛生」の意義杉本 豊和
第10回共感から共生へ板東 玲子
国連ESCAP インクルーシブ障害eラーニング教材 日本語版お披露目秋山 愛子
私の日常加藤 美来
第11回 戦争と障害者⑤ 隠された精神障害荒井 裕樹
【JD連続講座2018】
国連・障害者権利条約にふさわしい施策実現を求めて!
―深く潜む障害者排除の現実-私たちは、どう立ち向かうか !!―
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