障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

18年11月16日更新

2018年「すべての人の社会」11月号

2018年「すべての人の社会」11月号

VOL.38-8 通巻NO.461

巻頭言 「障害」を自分の問題として

NPO法人日本障害者協議会理事 太田 修平


 2020年のオリンピック・パラリンピック(オリパラ)まで、残り2年を切った。障害者スポーツ関係の特集や番組をこのところ見る機会が多い。先日、BSテレビでボッチャの世界大会の模様が録画中継されていた。ボッチャは脳性マヒなどの障害の重い人でもできるスポーツで、私も10年以上前からやっていて、興味深く見た。日本が出場した団体戦の決勝で、惜しくも銀メダルだった。ただこれらの番組を多くの人々は「ひとごと」として見ているのではないか。

 オリパラを前に、障害者スポーツやバリアフリー関係の報道が多くなる一方で、旧優生保護法による強制不妊手術の実態が次々と明らかにされていて、このところ、中央省庁の障害者雇用の水増し問題など、社会全体の意識を見るとき、「障害はない方がいい」「障害は厄介なもの」という否定的な考え方がうかがえる。

 いろいろな社会問題、差別がこの社会にあるが、もしかしたら障害の問題が最も解決が最後になるのではないかと私は考えている。性別や人種、民族あるいは出身による差別は、本当に"不条理な差別"である。一方「障害」の場合は、生産性がない、あるいは低い、見た目が奇妙、そして社会の支援が必要、等、社会の側から見たとき、一見差別することが理に適っている、とも言えなくはないからである。私は障害者が差別を受けても仕方がない、と言っているわけではない、他分野の差別と「障害」の差別とは異なる要素を含んでいる複雑な問題だ、と指摘したいのである。

 相模原殺傷事件の犯人は、その複雑性を巧みに突いて、犯行におよび、自己を正当化しているのである。

 「障害」は特別な問題ではない。人は誰でも年を取れば身体が不自由になり、介護が必要となっていき、認知症にもなっていくのである。高齢者に対する虐待や犯罪なども増え続けている。高齢者も尊厳を傷つけられている。テレビでユマニチュードという認知症の人たちへの対応の仕方について紹介していた。要するに介助する側に相手と目線を合わせるなど、しっかり受け入れているという姿勢が重要だとのことである。

 それと同じで、社会政策も「障害」を否定することなく、同じ一員として受け入れていき、特別視しないものにしていくことが問われている。 「障害」が否定されない社会は、高齢になっても幸せに生きていける社会なのである。

視点 改めて、「女性の立場」を考える

NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実


 あの森友・加計学園問題が注目された頃から、これまで「当然の信頼」を置いていた組織の位置づけが、根幹から揺らいでいる。

 障害者福祉に関わってきた我々にとって、障害者雇用の「水増し問題」は省庁や行政への信頼を失墜させた。9月号の「視点」で、JD代表の藤井克徳氏は、違和感や驚愕どころではない「恐ろしさ」を感じると述べ、省庁の「障害者排除」の姿勢を強く非難している。

 また、医学部が女子受験生に不利な判定をしていたという「不正入試」も、大学で働く者として、また、女性として驚愕する事実であった。いまどき、こんなことが行われていたのか、と信じがたい思いであった。それも1大学だけでなく、多くの医学部に広がりつつある。我々の世代は、「戦後、女性と靴下が強くなった」という言葉を聞きながら、まだ課題は多いにしても、「教育の平等」は入学試験では当然実現していると信じ切っていた。

 「出産・育児で医師の仕事から離れる女性が多いから」という理由には、本末転倒も甚だしい、という怒りにつながる。組織を牛耳っている「男の論理」を、許しがたいと感ずる一方、その愚かさにあきれ果ててもしまう。「医学部」というのは、「知性」だけでなく「人間性」も最高レベルの組織、との認識もあったと思う。そして、そうした評価に値する医師に、我々は数多く出会ってもいる。ほんの一握りの医学部の話であってほしい、と願わずにはいられないのだが……。

 そして、また考えさせられたのが、ノーベル平和賞をナディア・ムラド・バセ・タハさんが受賞したことである。イラクの少数派ヤジディ教徒であるがゆえに、「イスラム国」(IS)の過激派組織によって拉致された。しかし、自らが受けた性暴力の体験を語り、国連親善大使として活躍したことが評価されての受賞である。この報道の過程で、「性奴隷」や「人身売買」という言葉が飛び交った。今の日本で生きる女性には想像すらできない過酷な現実を、彼女は生きてきたのである。受賞に際してのインタビューなどでも、決して笑顔を見せないという事実も、その厳しい過去が推察される。

 7月号の「視点」で、目黒での虐待死など、子どもをめぐる痛ましい事件や事故に触れた。今回、国内的・国際的な女性の立場を振り返ると、障害者権利条約の第6条「障害のある女子」や、第5条「障害のある児童」などの条文が思い返される。障害との「複合的差別」である。「子どもであること」「女性であること」から厳しい体験をせざるをえないのに、そこに「障害」が加わるとどのようなことになるのか。児童虐待でも、障害がある子どもの方が障害がない子どもよりもはるかに虐待を受けやすく、より厳しい状況に追いやられがちである、との調査報告も複数出されている。

 さて、わがJDの藤井代表は、「ジェンダーバランス」という言葉をしばしば口にする。JDの理事は23人中、女性が7人である。まだ、三分の一にも満たないが、わが国の議員や企業の管理職に比べたらはるかに多いと言えよう。11月2日のJD憲法セミナーでは、7人の語り手のうち6人が女性で、「ジェンダーバランスが崩れた」との反省(?)しきり、である(笑)。

 障害者運動の中から、改めて女性や子ども、あらゆる差別について考え、真に誰もが尊重される、「すべての人の社会」の実現をめざしたい。

2018年10月の活動記録・講師派遣

連載 日本国憲法と私 第23回

語る資格はないけれど…木太 直人


連載 海外の障害者のくらし事情

第6回 自立した生活を目指して~ラオス人民民主共和国における障がい者の小規模起業支援~生田目 充


欧州発の精神保健改革

EUCOMS(ユーコムズ)の画期的なコンセンサス・ペーパー伊勢田 堯


連載 差別と抑圧の歴史

誰もが排除されない社会をめざして~出生前診断:ダウン症・中絶率100%の背景にあるもの~結城 俊哉


私たちの見た、学んだスウェーデンの最新教育事情

品川 文雄


トピックス

憲法25条集会

憲法25条を守り、活かそう!10.25中央行動大野 健志


私の生き方第56回

私の今とこれから小川 晃生


「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」への期待

髙橋 宏和


インフォメーション

JDF全国フォーラム 権利条約の実施と私たちの暮らし~「他の者との平等」をめざして~


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〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
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