18年10月22日更新
VOL.38-7 通巻NO.460
NPO法人日本障害者協議会理事 岩崎 晋也
今年の1月にイギリスは「孤独担当相」を新設しました。イギリスでは成人5人に1人が孤独を感じており、孤独であることによる健康被害が深刻と認識されたためです。アメリカの調査では、孤独は、たばこを1日15本喫煙するのと同等の、そして肥満である以上の健康被害をもたらすという結果を示しています。
またイギリスの調査では、障害者の半数以上が常に孤独を感じており、また高齢者や移民・難民の多くも孤独を感じています。孤独は単にその人の生き方の問題ではなく、社会的排除の指標の一つでもあるのです。
日本でも、若者から中高年にまで及ぶひきこもりの問題や、障害者や高齢者の孤独死などが問題となっていますが、日本は先進国の中でもっとも孤独の人の割合が多いという調査もあり、イギリス以上に深刻な問題と言えるでしょう。
筆者が関与している日本学術会議社会学委員会社会福祉学分科会では、9月に「社会的つながりが弱い人への支援のあり方について-社会福祉学の視点から-」という提言を表出しました。この提言は、孤独をもたらす社会的つながりの弱さの原因として、家族、職場、地域社会の流動化や不安定化を指摘し、新たな社会問題としてとらえる必要性を訴えています。その上で、これまでの社会福祉制度が、安定的な家族、職場、地域社会に人びとが帰属することを前提に作られており、この新しい社会問題に対応できないこと、そのため新たにコミュニティーソーシャルワーカーを全国配置することや、包括的な相談支援体制を組むために行政組織や法制度の転換などを提言しています。詳しくは日本学術会議HPに掲載されていますのでご覧ください。
社会的つながりの弱さという視点で福祉ニーズをとらえることは、これまで障害者とは認定されていない新たな障害者を顕在化させることにもなります。社会的つながりを欲しているのに、それが実現できないということは、まさに社会参加が阻害されていることを意味するからです。また障害者福祉サービスを利用しながら地域生活している方でも、社会的つながりが弱い人に共通する他者から承認されたいというニーズが見えてくるかもしれません。
今後は社会的つながりという視点で、障害者問題をとらえ直して見る必要もあるのではないでしょうか。
NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世
映画「夜明け前 呉秀三と無名の精神障害者の100年」の上映が始まった。日本精神衛生会ときょうされんの提携事業で、全国各地での上映活動が始まっている。今から100年前、精神病者監護法のもと、精神障害のある人は家族の責任で自宅に監置されていた。その実態を調査し、問題提起したのが、呉秀三と樫田五郎による「精神病者私宅監置ノ実況及び其統計的観察」(1918)である。その中で「我が国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸の外に。この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」と批判した。それから100年、日本の精神保健福祉は、未だに国際的な水準とは程遠い現実がある。
この映画上映を日本の精神保健福祉を考える好機としたいものだ。JD藤井克徳代表は「運動は自分と考えの遠い人たちと手をつなぐことが大事だ」と話す。一方、様々な障壁があることも事実だ。しかし、本年2月に視察の機会を得たベルギ―の精神医療改革では、意見の違いを越えて、精神医療改革が進み始めている。日本でもあきらめるわけにはいかない。
視察前に視察団団長の伊勢田堯先生からEUCOMS(European Community based Mental Health Service providers)Network がまとめた「地域におけるすべての人のためのリカバリー 互いから学び合う地域を基盤とする精神保健ケアの基本原則と鍵となる構成要素に関するコンセンサスぺーパー」(以下コンセンサスペーパー、日本語訳伊勢田堯)が届けられた。このコンセンサスペーパーでは、人権の視点が貫かれ、障害者権利条約の理念が土台に座っている。本稿では、ベルギーやコンセンサスペーパーから学びつつ、日本の精神保健福祉改革に向けて、5つの提案をしたい。
① 精神疾患や精神障害についての正しい知識や情報を広げていくこと
日本の精神医療は入院治療中心で組み立てられてきたことや歴史的に社会防衛的な考え方が強く、未だに偏見や差別が払拭されていない。正しい知識や情報を広げるためには、市民と精神障害のある人との積極的な交流が効果的だ。当事者や家族の力を大いに借りるべきである。
② すべての人のこころの健康を守る
生涯のうちにこころの不調を経験する人は、4人~5人に1人と言われている。ストレスを抱えやすい社会、孤立しやすい社会のあり方を見直すことが大前提だ。一方で、こころの不調を感じた時に身近にあるかかりつけ医に相談し、治療を受けられることが重要である。特別な人への特別な医療からの脱却である。
③ 地域で暮らしながら回復する
症状や問題行動へ着目することから、その人の得意分野や夢や希望を中心に、必要な支援を暮らしの場で利用でき、地域で暮らし続けながら回復を目指していくことを当たり前にすることである。人間には本来、回復する力、復元する力が備わっている。その力を妨げず、その力を発揮するための環境整備が必須である。
④ 家族ではなく社会で支える
これまでの政策は家族に多くの負担を強いてきた。そのことで家族間の関係を歪めてしまうこともあった。扶養義務のあり方も抜本的に見直す必要があり、社会制度を整えることで、その人らしい暮らしを実現するのである。
⑤ 共同創造(コ・プロダクション)への転換
患者は、自身の治療計画に専門職と対等に関わり、さらに対等性を担保するために必要な支援を受ける権利がある。また、政策決定についても専門家や行政担当者が案を作成し、当事者・家族に承認を求めるという審議システムを大きく改める必要がある。個々の組織活動も政策づくりにも共同創造の仕組みを導入することである。当事者のニーズに沿った政策づくりに舵を切ることだ。
基本的人権の尊重のために今なすべきこと黒澤 和生
共生社会が遠のいていく“障害者雇用水増し事件”伝田 ひろみ
投稿 皆が口に出さない現実三谷 雅純
カンボジアにおける地域に根付いたインクルーシブ開発の新しい取り組み佐野 竜平
一番取り残されがちな人をまず最初に(その2)秋山 愛子
第9回 障害を持つ長男に教えられたこと神戸 金史
生活者の視点に立った障害年金の支給を!-厚生労働省年金局と懇談-白沢 仁
私の今とこれから加藤 康士
第10回 戦争と障害者④荒井 裕樹
憲法25条を守り、活かそう!10.25中央行動
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