18年9月14日更新
VOL.38-6 通巻NO.459
NPO法人日本障害者協議会理事 戸髙 洋充
昨年11月、「重監房資料館」を初めて見学し衝撃を受けました。ハンセン病の療養所は、私の地元である熊本県にある国立の菊池恵楓園しか知らず、改めてハンセン病の歴史に触れ、わが国の負の遺産を目の当たりにしました。
見学した「重監房」は、群馬県草津町にある国立療養所栗生楽泉園の敷地内にかつてあった、ハンセン病患者を対象とした懲罰用の建物で、正式名称は「特別病室」と言われていました。しかし、「病室」とは名ばかりで、実際には治療は行われず「患者を重罰に処するための監房」として使用され、1938年に建てられたものです。1947年までの9年間に、特に反抗的とされた延べ93名のハンセン病患者が入室と称して収監され、そのうち23名が亡くなったと言われています。60年以上を経た現在、基礎部分を残すのみとなっています。展示室には実寸大に再現された房の一部や発掘された遺物が展示されていました。寒々しい房の中に入ってみると、長くは居られない圧迫される気持でした。
「らい予防法」廃止から20年たっても療養所から退所された方の社会復帰や、まだ入所されている方の高齢化(平均85歳)等、多くの問題が横たわっています。皆さんも草津温泉に行かれた際には、是非足を運んでいただきたい施設です。
ここでオーバーラップして来たのが、精神病者に対するわが国の施策です。1900年『精神病者監護法』により精神病者を座敷牢に閉じ込める隔離政策を始め、1915年に座敷牢を全国調査した呉秀三は「この病にかかる不幸とこの国に生まれた二重の不幸」と嘆きました。戦後、1950年に「精神衛生法」の施行により、半世紀も続いた負の遺産である『精神病者監護法』が廃止され、当然、座敷牢も廃止されました。座敷牢に代わる収容先が特殊病院としての精神科病院です。1958年に厚生省から『精神科特例』の通知が出され、医師と看護師の配置基準を一般病棟より少なくても良いとし、現在も、公立病院以外は若干の看護師の基準の見直しがあったものの、多くの精神科病院はこの特例基準で運用されています。この特例等により精神科病床数は増え続け、現在、世界の精神科病院の病床数の2割を占める事態になっています(日本の精神科病院の9割は民間)。
今、精神科病院の入院患者29万人のうち半数が65歳以上という現実に、呉秀三の「この国生まれた不幸」を100年経っても語らなければならない現実から目を逸らさないようにしなければ、と思います。
NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳
政府による改ざんやねつ造のたぐいは、だいぶ免疫がついていたはずだったが、今般の「水増し問題」はいささか次元を異にする。障害分野にとっては、これまでにない、そして言いようのない違和感を覚える。はっきり言って、恐ろしさを禁じ得ないのである。「水増し」が、あまりに大々的で、40年余の長きにわたって続けられてきたことも驚愕であり、大問題であるが、恐ろしさの正体はそこではない。正体の本質は、省庁に通底する「障害者排除」の姿勢である。
具体的に言えば、「新規の障害者は雇い入れたくない/しかし法定の雇用率はクリアしなければならない/しからば省内から障害者を探し出そう/それが難しい場合は「障害者」をつくり出そう」というものである。さらに深読みすれば、そこには「新たに障害者が入って来るとうちの省の戦力が低下してしまうのでは」「能力があるかどうかはわからないが何となく障害者はうっとうしい」「職場の雰囲気やバランスが崩れるのでは」などの考え方が透けて見えてくる。とにもかくにも、内部の「障害者」で必要な数値を埋めてしまい、新規の障害者雇用を極力抑えようというものである。
この段で、ふと頭に浮かぶことがある。それは、優生思想である。「理想の社会は強い者のみが残り、弱い者や劣った者は消えてもらいましょう」が重なってくるのである。余りの飛躍なのか、それとも無関係とは言えないのか。こうした考え方は、縦割り行政をあっさりと超えて、各省庁の人事部署に伝染していくこととなった。
今般の「水増し問題」が問うている重要なテーマの一つは、そもそも障害者雇用政策とは何かということである。障害者には、例外なく何らかの機能障害があり、多くの障害者はこの機能障害が労働力に影響を及ぼすことになる。障害者が職場で力を発揮しやすくするためには、機能障害を補う支援が決定的な意味を持つ。この「支援」こそが、一般雇用政策ではなく、障害者雇用政策といわれる所以なのである。
障害者権利条約では、「合理的配慮」という概念で、個々人に対応した支援を特段重視している。合理的配慮の不提供は差別に当たるとも明言している。それが過度な負担であれば免れるとされるが、範を垂れるべき政府の機関にあって、「過度な負担」の乱発は許されない。
政府の障害者雇用に漂うのは、「現状の条件(人的・物的環境)を変えない範囲での障害者雇用」である。合理的配慮の追及など、全くと言っていいほど感じられない。
ここで、あらためて政府を中心とする公的な部門での障害者雇用の意義について考えてみたい。第一義的には、障害者にとって安定した働く場が得られることである。国と自治体、独立行政法人が法定雇用率を完全に達成すれば、約5万人の障害者が公的な部門に就けるのである。
もう一つ重要なことがある。それは、公的な部門で働く障害者の存在そのものに、かけがえのない役割があるということである。個々の省庁からの政策発信に、障害者の存在は少なからず影響することになろう。政策の多くは、原局(原課)で練られることになる。素案づくりの過程で、障害者の視点が入るのとそうでないとでは決定的な差異が生じるに違いない。この他、省庁の物理的な環境にも、職員の市民に対する対応にも変化が生まれるかもしれない。もちろん、ここでの「障害者」は、内部から無理やり探し出したり、つくり出すものであってはならない。
前代未聞の不祥事を前にして、まず成さなければならないのは検証である。検証に際して最も大事になるのが、「何をするのか」ではなく、「誰がするのか」である。障害当事者の代表を加えた実質的な検証体制としなければならない。
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