18年8月13日更新
VOL.38-5 通巻NO.458
NPO法人日本障害者協議会理事 矢澤 健司
6月28日から7月8日頃にかけて、西日本を中心に北海道や中部地方など全国的に広い範囲で記録された台風7号および梅雨前線等の影響による集中豪雨が起こり、多くの被害者・被災者が出たことは心痛の思いです。気象庁は7月5日に臨時の記者会見を行い、「西日本と東日本では8日頃にかけて大雨となり、記録的な大雨になるおそれがある」と厳重な警戒を呼びかけました。台風以外の気象現象で気象庁が事前に記者会見を開いて警戒を呼びかけるのは異例でした。
最終的に、運用を開始して以来最多となる計11府県で大雨特別警報が発表されました。
災害情報が適切に住民に伝わったか、避難準備に十分な余裕があったか検証が必要だと思います。
東日本大震災、熊本地震、そして今回の西日本豪雨災害等で浮き彫りとなった課題は、「災害は忘れたころにやってくる」のではなく、「災害はいつでも起こる」災害大国日本であることを自覚することだと思います。
熊本地震では、東日本大震災の経験が生かされなかったことが多くの人から聞かれました。特に、避難所の問題は大きく、その環境は夏でも冬でも過酷な状態です。福祉避難所の未整備状態の問題もあります。
復興に何十兆円もかかるとしたら、その予算を災害が起こる前の平時に使えないものでしょうか?防災・減災を、まちづくりを基本として行なっていくことが求められています。学校の体育館や教室に冷暖房を完備することは、単に教育環境を改善するだけでなく、災害が起こった場合の避難所としての環境を整備することにつながり、避難者の健康やストレスを軽減することになります。学校だけでなく、病院や公共施設、障害者事業所など、あらゆる場に防災・減災を取り入れた考え方が求められると思います。
現在、JDFや日弁連などが障害者権利条約の日本政府報告に対するパラレルレポートを準備しています。権利条約の第11条に「危険な状況及び、人道上の緊急事態」についての項目があります。日本政府は、「避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針」を2013年8月に策定・発表し、また、2015年3月に仙台市で第3回国連防災世界会議が開催され、同会議では、障害者も防災の主要な担い手として、全体会議においてステートメントを行なったほか、ワーキングセッションにおける議論や関連事業に参加し、同会議で策定された新たな国際的な防災の取組指針である「仙台防災枠組2015-2030」においては、障害者の果たす役割の重要性について明記されました。防災・減災においては障害者の視点で、これまでの災害を検討し今後の計画を見直していくことが大切だと思います。
NPO法人日本障害者協議会副代表 薗部 英夫
「30歳頃、足で文字を書けなくなったので、足でワープロを使い始めた。42歳で障害が重度化して座ることができなくなり、寝たきりとなった。もうダメかと思ったが、人を介してもいいからとインターネットで情報発信した。パソコンは希望の道具だ!」。2000年、IT基本法の国会・参考人意見陳述で、鈴木さんの言葉を精一杯伝えた。
田園が広がる信濃川支流の新潟の小さな町で独り暮らしをしていた鈴木さんから、結婚を祝う会の案内が届いたのは2006年の秋。障害者自立支援法と平成の市町村大合併による大波が襲った年だった。彼を精神的にも支えていたのは、高校生の頃からホームページづくりを二人三脚で手伝った理香さんだ。二人の入籍までには、重度の障害、生計不安、年齢差などどれほどの困難があっただろう。祝う会では長渕の「しあわせになろうよ」を歌った。その年の暮れ、国連は障害者権利条約を採択した。
あれからどれくらいたっただろう。鈴木さんから「近況報告」メールが届いた。
「2016年11月末から2018年3月3日まで入退院を繰り返し、計10カ月の病院生活でした。今は自宅での生活を取り戻していますが、身体の状態は以前のようにはいかない。1日のうち自分の時間、好きなことができる時間はほとんどない。訪問看護とヘルパーは夕方4時半まで滞在しています」。
家計は深刻だ。「週2回の通院が大変。福祉タクシーにストレッチャーで乗るしかないので、一往復30分の乗車で約9千円の自己負担。一月で8万円近い。これは障害基礎年金の一月分だよ。タクシー券を使っても1回片道千円補助で、2カ月ほどで使い切ってしまう」「65歳になったら、障害基礎年金から月5~6千円の介護保険料が天引きされてる。障害者支援で介護を受けているのに、どうして"介護保険" 料が天引きなのか」。
そして、「医療現場は大変だぁ。ナースコールが自分で押せない私に看護師は時間を見て来てくれる。でもそれは私の都合ではない。必要な時は大声で助けを求めるしかない。すると、過密勤務もあり疲れがたまっているのだろう。看護師から厳しい言葉を聞くことがあった。"あなただけに対応してはいられないの。優先順位があるの" 。そんなこと言われなくてもわかってる」「それでも、病院は医療行為が必要な時すぐに対応できる。今の訪問看護には限界がある。30年間公的介護を主に在宅生活をしてきた私には、地域医療、介護ヘルパーなどの現状を考えると悲しくなる。介護労働者の働く環境は深刻さが痛いほどだ。でも人手不足からだろう、在宅介護の基本的なことさえ理解していない人が多くなっている。介護保険の度重なる改悪で"家族介護"も増えている気がする。私には相性も良く優秀な介護ヘルパーが、本人の家族介護を理由に辞めていった。むなしいよ」。
「入院生活で病院への支払いは月約9万円。在宅ではオムツ券が利用できるから自己負担分は1万円弱だが、入院だと費用の4万円はオムツ代だ。家にいれば、通院のための妻の移動費や雑費はゼロに近いが、福祉タクシー代は8万円…。ああ無情だよ」「生活にゆとりがない。生活にうるおいがなくなっている。心までも貧困だよ」。
はじめて北欧を旅した1993年、スウェーデンの小さな町で重度の障害者カップルに話を聞いたことがある。安定した所得(障害者年金)があり、介護体制が保障され、仕事があり、自己を表現し、社会から評価される暮らしがそこにはあった。
障害者権利条約を締約したこの国で、鈴木さんたちが、つつましいけれど、生き甲斐のある生活を求めることは「贅沢」なのだろうか。
教育を受ける権利と障害のある人、障害のない人杉本 豊和
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~あいつぐ生活保護の削減と「いのちのとりでアクション」~小久保 哲郎
色あせない百年前の提言藤井 克徳
第13回(最終回) あと半年 「真の障害者白書」の作成へ佐藤 久夫
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