18年7月20日更新
VOL.38-4 通巻NO.457
NPO法人日本障害者協議会理事 石井 昌明
25年程前、ソーシャルワーカーになりたての頃の研修で、何度か「鉄の寝台」の話を聞いた。その寓話は次のような内容であった。
「プロクルーステースは、ギリシャ神話に出てくるアッティカ(アテネ周辺の地域)の盗賊である。このプロクルーステースは、アテネ近郊のエレウシースの丘で宿屋を経営していた。そこには鉄の寝台があり、ここに宿泊する旅人は必ずその寝台に寝かされた。もし旅人の体が寝台からはみ出したら、その足を切断し、逆に、寝台の長さに足りなかったら、サイズが合うまで、体を引き伸ばした。この寝台のサイズにぴったりと合う人は誰もいなかった。」という、何とも酷い話であった。
ソーシャルワーカーは自分自身の基準にクライアントを当てはめて支援をしてはいけない。私の基準で援助することはクライエントを鉄の寝台に寝かすことと同じことである。と考えなければいけない。対人援助に就く者の戒めとして、心に刻んでおくようにとの講演であった。と記憶している。
この話には続きがある。 「この寝台にぴったりのサイズの人間が一人もいなかったのは、寝台の長さが調節可能だったからである。プロクルーステースは遠くから相手の背丈を目測して、寝台を伸ばしたり縮めたりしていた。」ということである。なんとも怪しげな話である。
人間が他の霊長類と異なるところは「想像する力」だと言われる。今日他人が寝ることになる鉄の寝台には、いずれ自分たちの孫や親族が寝ることになることは、容易に推察できる。他人に鉄の基準を当てはめることは、自分の未来に「鉄の寝台」を用意することだと早く気付くことが肝要である。私たちは未来に向かってより良い選択をする力があるはずである。
さて、現在にこの話を続けてみよう。
「時を経てプロクルーステースは宿屋の経営方針を改めたようである。彼は自分の宿屋に宿泊する賓客の要望を事前に入手し、高貴な客にはぴったりの寝台を準備するようになった。その功績からプロクルーステースは出世して、徴税長官になった。鉄の寝台はそれから二股寝台と呼ばれるようになったそうである。‥‥」どこかで聞いたような話である。
NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実
子どもをめぐる痛ましい事件・事故のニュースが続いている。5月7日には、新潟市で下校途中の大桃珠生さん(小2)が殺害され、線路上に遺棄された。昨年3月24日、松戸市でベトナム国籍のリンさん(小3)が、通学途上で殺害された事件では、逮捕された保護者会会長に検察が死刑を求刑した。2004年9月に、岡山県津山市で筒塩侑子さん(小3)が殺害された事件では、5月28日に服役中の受刑者が逮捕された。6月18日、大阪府高槻市では、地震で倒れたプールのブロック塀の下敷きになって、三宅璃奈さん(小4)の命が奪われた。どれも、心が痛むばかりである。
6月7日に報道された、目黒での船戸結愛ちゃん(5歳)虐待死の事件も胸がつぶれる思いである。「パパママ おねがいゆるして」とメモに残したという。紹介された結愛ちゃんの写真は、満面の笑顔で右手を突き出し、「生きるエネルギー」にあふれている、と感じさせられる。それだけに、この命が絶たれてしまったことが残念でならない。
6月17日の朝日新聞の続報では、結愛ちゃん自身が何度もSOSを発していたことが伝えられている。児童相談所に一時保護された2016年12月25日のクリスマスの晩、「パパにたたかれて怖いから、家には帰りたくない」と発見した女性に訴えている。
2017年2月に一時保護が解除されるが、3月にケガをさせられ、2度目の保護となっている。この頃、母に向かって、「パパママいらん。前のパパがよかった」とまで言っていたという。2度目の保護解除から1か月後の2017年8月、また病院であざが発見され、「パパにされた。ママも見てた」と訴えたが、母親が否定したので3度目の保護は見送られたという。そして、今年1月に香川県から目黒に引っ越し、満足に食事もさせられず、16.6キロあった体重が12.2キロにまでなって、3月2日に搬送先の病院で死亡した。何とも、納得できない経過である。
子どもの権利条約12条では、意見表明権が認められている。「締約国は、自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に意見を表明する権利を確保する。」この権利は、「年齢や能力にかかわらず、幼児や障害児を含んだすべての子どもに保障される」という見解が一般的である。結愛ちゃんの必死の訴えは、親の声の前に無視されてしまった、と言わざるをえない。児童相談所の対応も問題視されるが、障害がある人たちと向き合う私たちにとっても他人事ではない。
私たちは、国際障害者年を機に、障害がある人たちの地域生活を支えることに力を注いてきた。そのために、私たち支援者が頑張るだけでなく、市民の見守りや声掛けが大きな力を発揮することを実感し、地域の支援ネットワークを広げることに努めてきた。児童虐待や子どもの事件・事故を防止するためにも、この地域の見守りの重要性が叫ばれている。
特にこの20年ほどは、障害がある人も、子どももお年寄りも外国籍の人も、全ての人が地域に包み込まれ、役割をもって生き生きと暮らす、というインクルージョンの理念の実現をめざしてきた。このような蓄積を、改めて地域の子どもたちのために発揮することを考えなくては、ということを痛感している。
そして、障害者権利条約のもうひとつの理念ともいえる「多様性の尊重」、「みんな違って、みんな一緒」というキャッチフレーズの実現を、「子どもの見守り」といったことからも注目していきたい。このような場には、障害がある人たちも大きな貢献ができることを再認識したい。「共に生きる」を、痛ましい事件から再検討していきたい。
真の"積極的平和主義"にしていくために太田 修平
第4回 人生を変える学校 -ミャンマー・障がい者のための職業訓練校の現場から-中川 善雄
呉秀三と私(当事者)宮岸 真澄
第12回 障害者・家族の切実な実態をパラレポに-意見の違いを乗り越え大いに議論を!-家平 悟
点字による母子健康手帳の交付を求める私たちの思い菅野 恵子
インクルーシブ雇用議員連盟の提言(2018)が めざすところ勝又 幸子
革を通して自分らしさを表現 -製作を通して自分の思いを伝える-宗野 文
【JDサマーセミナー2018】 障害のある人のいのちと尊厳を学ぶ~あなたの中にある優生思想~
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