障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

18年3月27日更新

2018年「すべての人の社会」3月号



2018年「すべての人の社会」3月号

VOL.37-12 通巻NO.453

巻頭言 高次脳機能障害支援の今

NPO法人日本障害者協議会理事/NPO法人日本脳外傷友の会事務局長 東川 悦子


 小室哲哉さんの引退会見で、高次脳機能障害が注目されたようだ。
奥様がクモ膜下出血を発症され、介護にあたっておられるようだ。私は週刊誌を読まないので、会見の詳細は、わからないが、ニュース画面で見た彼は、介護疲れか、うつ症状になっておられるように感じた。
 国立障害者リハビリテーションセンターの高次脳機能障害・情報支援センターのWEBには、この後、20万件余りのアクセスがあったと、2月16日にあった全国協議会で報告があった。通常は年間で3万件余りに過ぎないのに。
 谷間の障害と言われて、障害・福祉制度の枠外に置かれ、支援施策がなかったことから、私たちが1997年に当事者家族会を立ち上げた。そして厚生労働省に陳情し、モデル事業の実施を要望し、診断基準が策定され、全国に相談支援機関が設立され、今では全国に100ヶ所余りの相談支援機関が設立されている。当事者家族会も当会(日本脳外傷友の会)に加盟する63団体のほか、東京には30余りの団体が加盟する東京高次脳機能障害協議会が存在する。しかし、各自治体の取り組み状況は地域格差が激しい。毎年の支援事業の予算も減少するばかりである。
 小室さんのように、奥さんがこの障害になった男性介護者は、突然のことにうろたえ、生活のすべてがのしかかってくることに戸惑う。日本の男性諸君の多くは、料理、洗濯、掃除など日常生活に疎うとい。おまけに医療・経済のすべてに責任を負わねばならず、妻を愛すればこそ、その変容に驚き、戸惑うのであろう。小室さんがうつ状態の中から頼りになる看護婦さんに心ひかれたとしても無理はない。
 私の場合は、息子の交通事故から、高次脳機能障害救済活動に入り、25年目である。
 後期高齢者となった今、世代交代をして、新たな活動が必要であることを痛切に感じて、2年前に理事長を引退した。しかし首都圏に事務所もない団体であるから、2年間だけ事務局長を引き受けたが、その最後の仕事として、男性介護者ネットワークを作ろうとしていた矢先に小室さんの引退会見があったのである。調べてみると、すでにこういう活動をされておられる方がいた。介護者支援法を作ろうという活動をされている団体も存在することを知った。このような団体ともJDは情報交換をして、身近な地道な活動を応援していただきたい。その橋渡しの役割くらいはまだ私にもできるのではないかと思っている。

視点 チョコの国で改革の風

NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳


 ベルギーと言えば、最近ではEU本部のある国として名高い。チョコレートの特産やサッカーの強豪国でも知られ、絵心のある人であれば巨匠マグリットを輩出した国として馴染みがあるかもしれない。それでも、全体としては控えめで穏やかなイメージではなかろうか。
 そのベルギーで、2010年を過ぎたあたりから骨のある動きが台頭している。それは、精神医療、精神保健に関する国をあげての改革である。始まってまだ7年余であるが、改革の内容とテンポは本物ではというのが国内外の関係者の共通のとらえ方になってきた。
 この「ベルギーの改革」だが、欧州先進国からみれば決して早くはない。むしろ後発と言えよう。ただし、日本の関係者は特別の眼差しをもってその行方を見守っている。その理由は、精神医療をめぐる実体が日本とベルギーとでとても似通っていて、ベルギーの改革が参考になるのではとする見方からである。最大の共通点は、いわゆる社会的入院問題が固定化の状態にあったこと、精神科病院の経営主体の多くが民間であったことである。
 改革は道半ばであり、結論を評するには至らない。しかし、明らかに変化が見受けられる。固定化は溶解し始め、精神科病床と平均在院日数は急減し始めた。病院の構造にも着手し、基本を一人部屋とする方向に向かっている。医療活動も、旧来の診察室や病室中心から一気に地域に飛び出した感がある。退院後の支援策として、住宅政策に支援を置いているのも特徴の一つである。
 そんなベルギーの改革を肌身で感じようと、2月下旬に有志のツアーが組まれた。本協議会の増田一世常務理事と私も参加した。噂にたがわず、改革の強風に触れることができた。以下、とり急ぎ強く印象に残ったことの一部を紹介する。
 まず驚いたのは研修の企画だった。講師陣の多彩さが改革の意気込みを象徴するようでもあった。障害当事者あり、家族あり、連邦政府のお役人やルーベン大学の調査部署担当者、番外編ではあったが事業団体の代表や元精神科病院職員も加わってくれた。もちろん、専門職である医師(精神科医と一般医)や心理療法士、作業療法士なども入れ代わり立ち代わり演台に立った。公式なスピーカーは30人余。夕食時などの番外編を含めると40人余の関係者から話を聞き、直に交流を深めることができた。
 4日間に及ぶ講師陣の話で(一部病院見学を含む)、一貫していたことがある。このことは、公式プログラムの後に訪れたゲール(精神医療の聖地として、また里親が多いことでも有名)での講義からも感じた。おそらくベルギー全土で浸透しているに違いない。それは、「精神医療のメインステージは病院ではなく地域である」であった。
 このことを端的に表していたのは、「精神科医の役割」と題した講義だった。講師の医師の口から「医師もモバイルチームの一員として地域に出るようにした。当座の目安は週に18時間出ること。近い将来は週35時間にすべき」というもの。私からの「それでは医師が診療室に全くいないも同然では」の問いに、明確に「イエス」と応じた。また、プライマリーケアという形で、まずはかかりつけ医(一般医)が精神医療と向き合うシステムが確立しつつある。このシステムにより、精神科医療と市民との距離が縮まり、精神科医療に力を入れることへの国民合意が得やすくなったなどがあげられていた。
改革の土台には、障害者権利条約やWHOなどの国際規範が据えられていた。このことは、改革の契機が財政削減策にあるのではなく、人権保障をベースとしていることを物語るものである。現に、医療機関中心から地域支援中心へのシフトにあって、精神障害関連の予算総体に変化はないとのこと。さて、この改革を日本にいかに重ねるかである。

2018年2月の活動記録・講師派遣

JDのうごき

バリアフリー法改正について、国交省と意見交換
JD連続講座…好評のうちに2回を終了


なるほど!ナットク4

障害者専用の理容室星川 安之


連載 日本国憲法と私

第17回 「核兵器廃絶」という国際的な大きな流れの中で・・・!白沢 仁


連載 海外の障害者のくらし事情

第2回 トルコ共和国でのシリア難民支援の現場から宮越 清美


連載 障害者支援の現場から…第27回

自然栽培が大切にしていること話し手:明石 誠一  聞き手:増田 一世


連載 障害者権利条約パラレルレポートへの道

第9回 障害者権利条約と日常課題の交差新谷 友良


連載 欧州便り

☆イギリスから② 欧州における障害者の人権に関する研究リサ・ワディントン


☆スウェーデンから② パーソンナンバーと障害者雇用紅山 綾香


私の生き方

第52回山下 智子


トピックス+読みたい1冊

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