18年2月22日更新
VOL.37-11 通巻NO.452
NPO法人日本障害者協議会理事 NPO法人筋痛性脳脊髄炎の会理事長 篠原 三恵子
2014年から筋痛性脳脊髄炎の会(以下、当会)で製作してきたドキュメンタリー映画「この手に希望を~ME/CFSの真実~」が完成し、昨年10月に開催した初試写会では、患者・家族・医師・製薬会社の方々から非常に良い評価をいただくことができました。「さあ、その普及に力を注ごう!」と思っていた矢先に、二つの件で緊急に対応せざるを得なくなりました。
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AMED(日本医療研究開発機構)の治療法の研究班が、筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)の治療ガイドラインを今春に発表するにあたり、当会は外部評価を依頼されました。ME/CFSはWHOの世界疾病分類において神経系疾患(ICD-10 G93.3)と分類されており、世界中で神経免疫系の病気として治療法開発の研究が進んでいるというのに、この研究班は疾患の誤った認識に基づいて、段階的運動療法や抗うつ剤を推奨しています。当会では記者会見を開いてガイドライン反対を表明し、当会の英語のHPでもこの問題を公表しました。やっと研究班は案を修正すると言ってきましたが、どこまで修正されるかは予断を許しません。
さらに、診療報酬の支払いの事務処理に使われる標準病名マスターにおいて、CFSは平成6年から「F480 その他の神経症性障害」に分類されていることが判明しました。実際に入院した患者さんが、CFSは精神疾患に分類されているという理由で、保険給付を断られたことから発覚しました。早速、厚労省の担当課と交渉を持ちましたが、WHOの疾病分類には載っていないのに、国内でだけF480に掲載された理由は、平成6年当時に病院等で診療していた医師たちが、F480を使っていたからとの説明を受け愕然としました。このことが、病気の誤解と偏見を広げた大きな原因の一つであることは間違いありません。
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私は1990年に米国でME/CFSを発症しましたが、当時すでに脳に異常のある病気であると発表され、免疫の薬の治験が開始されていました。それを思うと、日本の現状は30年近く遅れていると言えます。このような中、当会の働きかけで2年前から神経系疾患の研究のナショナルセンターである国立精神・神経医療研究センターにおいて本格的研究が開始され、成果が少しずつ見えてきました。また、冒頭に書いたように映像の力で病気の正しい認知を広げるためのドキュメンタリー映画が完成しましたので、この30年の遅れを取り戻すべく、諦めずに活動を続けていくつもりです。この病気の患者がどのような状況に置かれているのかを知っていただくために、皆さまに映画を広めていただけるようお願い致します。
NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実
また、痛ましい事件が起こってしまった。昨年末12月26日に、大阪府寝屋川市で柿元愛里さん(33歳)が衰弱死(18日死亡)していたことが報道された。小6の頃から自宅での監禁が始まり、その3年後には父親が改修したプレハブの部屋に閉じ込められていたという。2畳ほどの空間で、外から施錠され、室内に監視カメラ・簡易トイレが設置され、カメラのモニターとスピーカーを通して会話ができるようになっていた。部屋に冷房はあったが、厳しい今年の冬に、暖房はなかったという。
発見された時、愛里さんは身長145センチ、体重19キロ。体の脂肪が極度に少なく、体温を保つ機能が低下していたという。背中には床ずれがあり、自力では歩けなかったとみられる。当初は1日に2食だったが、昨年1月から1食に減らされ、急激に痩せていった。「暑い」と服を脱いでしまうので、数年前から季節に関係なく何も着ていなかった。監禁の理由は、精神疾患を発症し、暴れるからだったという。16歳の頃、複数の病院で統合失調症と診断されたが、市に相談はなく、障害者手帳も持ってはいなかった。
1月11日の朝日新聞では、監禁が始まった、小6の頃の学校の対応が紹介されていた。同級生が「異変」に気付き担任教師に尋ねたが、「事情がある」と言うばかりで詳しくは教えてくれなかった。クラス全員が愛里さんに手紙を書いたが、返信はなかった。中2の時も同級生が愛里さんの家に行くことを提案したが、担任は「そっとしておいてあげて」と答えただけだったという。教師が家庭訪問などしていたが、監禁の実態などは想像もしていなかった、と述べている。
大阪で障害者や高齢者の権利擁護活動に取り組む池田直樹弁護士は、この記事でコメントしている。「今回の事件で、学校に在籍していても地域社会の『隙間』に埋もれる子がいることが改めて浮き彫りになった。…長期欠席の子を把握し、SOSを見逃さない努力が求められる。」
今年2018年は、「二重の不幸」という言葉で、わが国の精神科医療を改革した呉秀三教授が、「私宅監置」の調査報告書を出してから100年目にあたる。「100周年」の記録映画を製作している中橋真紀人氏は、「撮影を進めているその時に、現代の『座敷牢』事件が報道され、大きな衝撃を受けました」と発信している(1月8日)。
筆者はこの事件から、障害者の権利条約第7条「障害のある児童」の条文を思い起こした。この条文は第6条「障害のある女子」とともに、「障害」に加えて「子ども」「女性」であるという「二重の差別」「複合的な差別」をなくすことも意図している。しかし、精神障害があり、小学生・中学生という年齢であったために、現代版「座敷牢」での暮らしを強いられていた女性(あるいは「三重の差別」か)が、今、この日本に居たのである。衝撃であり、無念でならない。
学校にも行けず、2畳の空間に20年も閉じ込められただけの生活…。この親でなければ、きちんとした治療、教育や福祉サービスも受けて、愛里さんならではの未来が開けたはずである。このような「不幸」をいかにして食い止めるか。
改めて「複合的差別」という視点からも、この事件を考えなくてはならない。福祉と教育、医療、司法分野などとの連携の在り方が、問い直されている、とも言えよう。
求められる 基本報酬の引き上げと常勤換算の廃止
-2018年度報酬改定緊急調査-小野 浩
第16回 憲法は時代と共に変わるのか?馬上 和久
第3回 架け橋になるためには佐藤 一
第5回 子育てを通して思うこと田丸 敬一朗
☆イギリスから① ダダフェストが伝える障害アートの力キャノン ルース グールド
☆スウェーデンから① 国民性とアクセシビリティ紅山 綾香
第8回 きょうされん パラレポ検討チームの取り組み宮﨑 木綿子
第51回明 正隆
第6回 「信濃路」を思う(その2)荒井 裕樹
呉秀三「精神病者私宅監置ノ実況」刊行100 周年記念
メンタルヘルスの集い(第32 回日本精神保健会議)
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