障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

18年1月16日更新

2018年「すべての人の社会」1月号



2018年「すべての人の社会」1月号

VOL.37-10 通巻NO.451

年頭にあたって

NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳


 昨年末の清水寺貫主による一文字は、「北」だった。これを決めた日本漢字能力検定協会は、その理由を「今の世相で北朝鮮問題は省けない。これを基本に北を選んだ」とした。最適かどうかは別として、「あなただったらどう表しますか」と問われたらどうだろう。すぐさまいくつか浮かんでくる。まずは前ぶれを意味する「兆」であり、もう一つと言われたら危うさの「危」をあげたい。

 その心は、戦争との距離感である。明らかに縮まっていると言ってよかろう。戦争と言うと、「ちょっとオーバーでは」「過剰すぎるのでは」などの声か聞こえてきそうだ。ところが、近代史にみる戦争前夜の市民の空気は、「心配はあったが、まさか本当に突入するとは」で共通する。このことで、ずっと頭の奥に残っているフレーズがある。それは、「もしヒトラーが政権を取ってすぐにアウシュビッツをやったら、我々ドイツ市民は彼をたたきつぶしただろう。それが、これくらいなら、これくらいならと見逃しているうちに手も足も出なくなった」。これは、ナチス時代に政治犯で強制収容所に収容され、奇跡的な生還を遂げたM・ニーメラーの戦後証言の一部である。

 私は、2015年の訪独で、ナチスドイツの蛮行の一つで、後のユダヤ人大虐殺のリハーサルとされている「T4作戦」(価値なき生命の抹殺を容認する作戦)の惨劇を知る機会を得た。遺族へのインタビューやガス室跡に立ちながらこみ上げてきたのは、「兆しの段階で何とかならなかったのか」だ。

 どんな戦争にも、どんな悪行にも、間違いなく端緒があり、兆があるはずである。兆の時点で食い止めていたら、20万人余に及ぶ知的障害者や精神障害者の犠牲も、600万人のユダヤ人虐殺もなかったかもしれない。決して大昔の出来事ではない。「T4作戦」を含む戦争関連の問題については、兆の観点からもっと関心を持つべきかと思う。

 今年は、憲法論議の先鋭化が予想される。不穏な兆を払拭する道はただ一つ、現行憲法を無傷で守り抜くことだ。不戦の誓いと戦力の不保持を明言した第9条をいささかも変質させてはならない。あの「ごくつぶし」(食べるだけで役に立たないという意味)、「非国民」呼ばわりをくり返さないために。「戦争を遠ざけよう」の一点で、障害分野のまとまりが求められる。他のことを後回しにしてでも、改憲問題に向き合い、必要な行動をとらなければなるまい。

2017年12月の活動記録・講師派遣

新春対談

“人権”分野進展の年に!林 陽子(弁護士)×藤井 克徳


なるほど!ナットク3

赤い椅子のある街星川 安之


新連載 海外の障害者のくらし事情

第1回 マタン“マ”スワンからマタンスワンへ ―ミャンマーにおけるCBR事業から見えてきたこと― 松島 拓


連載 差別と抑圧の歴史

第21回 精神医療史のなかの私宅監置(3) -私宅監置室から病院へ橋本 明


連載 障害者権利条約パラレルレポートへの道

第7回 情報公開と参加 ―JDの役割ととりくみ― 薗部 英夫


私の生き方

第50回 佐久間 桃子


トピックス+読みたい1冊

インフォメーション

JD2017 年度連続講座
憲法25 条・生存権に基づく障害者施策のあり方を問い直す!



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