17年10月20日更新
VOL.37-7 通巻NO.448
NPO法人日本障害者協議会理事 黒澤 和生
小田原城天守閣は小田原市のシンボルであり、城址公園は市民の憩いの場である。この地に学ぶ当大学の学生は、看護・理学療法・作業療法学科あわせて720名で、光栄なことに城址公園に隣接する敷地に校舎を構えている。当然のことながら、私も毎日、天守閣を仰ぎ、広大な公園を通って気持ちよく通勤している。理学療法学科の3年生は、「生活環境学」の授業の一環として、小田原駅周辺と城址公園等を車いすにより走行し、バリアフリーに対する意見や改善策をまとめるという体験を行なった。城址公園内においては広場の砂利が車輪の空回りを招き走行しにくいという意見が寄せられた。授業から外れるが、小田原城の天守閣には階段を上るしか方法がなく、車いすで天守閣に入るためには人海戦術が必要となるであろう。
そもそも城とは、戦いくさにおいて防御の拠点として整備されたものであり、中でも天守閣は城を象徴する建造物である。簡単に攻め込まれないような施しが各所に設けられたバリアだらけの場所である。城の存在は、スペクタクルな歴史ロマンに気分を高揚させ、城マニアや歴史好きの老若男女だけでなく、外国人観光客にも人気のスポットとなっている。簡単に天守閣に登れるバリアフリーの城など到底考えられないことであろう。
2016年4月1日より、障害者差別解消法が施行された。この法律は、障害による差別を解消し、誰もが分け隔てなく共生する社会を実現することを目的として制定された。法律をかざして議論するつもりはないが、調べてみると、現存している天守閣を持つ城は全国に60基を数え、その中でエレベーターが備えられている天守閣は、大阪城、名古屋城、唐津城、岡山城、熱海城の5か所である。中でも名古屋城は徳川家康が築城したことで有名だが、エレベ-ターは樹木にカバーされ、景観に配慮されている。また、唐津城は231段の階段を片道100円のエレベーターで昇ることができるとある。天守閣からの眺めは荘厳であり、誰でも天下を取った気分に浸れるに違いない。
障害の有無にかかわらず、家康が小田原城天守閣から眺めた景観を一度は眺めてみたいであろう。多くの方に味わってもらいたい反面、当時の景観を残してもらいたい気持ちが強いのは誰もが思うことではないだろうか?バリアひとつひとつに意味があり、それを取り除いたら城の意味がなくなるに違いない。もし、城主が生きていたら何と言うだろうか。歴代の城主に成り代わり想像しながら、21世紀の城のバリアフリーについていろいろと考えてみた。
NPO法人日本障害者協議会副代表 石渡 和実
2016年7月26日、相模原市にある津久井やまゆり園で、入所者19名が命を奪われ、27名が負傷するという凄惨な事件が起こった。筆者は神奈川県の検証委員長を務め、その経緯と残された課題については、昨年の本欄12月号で、自戒も込めて紹介させていただいた。だからこそ、この問題と取り組み続けなくてはという思いを強くしている。また、事件が風化しつつあるとの認識から、声を上げ続けなくてはと主張する関係者も多い。地元、神奈川県民の一人として、1年後の状況を報告させていただきたいと考える。
9月23日、「津久井やまゆり事件を考え続けて、『ともに生きる』の実現をめざす、みんなで交流のつどい」という集会が相模原市で開かれた。主催は、「津久井やまゆり園事件を考え続ける会」で、東京や神奈川の障害当事者、やまゆり園の家族、支援に携わっている人、議員、マスコミ関係者など、さまざまな立場の人が関わっている。筆者もメンバーの一人で、月1回ほどのペースで率直な意見を闘わしている。
9月の集会では、建て替えについて検討を重ね、8月2日に報告書を提出した、神奈川県障害者施策審議会の専門部会長である堀江まゆみ氏(白梅学園大学教授)が、公の場で初めて講演を行なった。
堀江氏は、部会に課せられた検討課題が2つあった、と整理された。1つは、「当事者不在」という言葉に象徴される、本人抜きで議論が進んできた経過を踏まえ、いかにして入所者本人の意思を確認するか、という点である。12回の検討会でも、「意思決定支援」に多くの時間を費やした。報告書のキーワードは「一人ひとり」で、この言葉が何度も登場し、本人の意思を尊重することを何よりも重視したという。国の「意思決定支援ガイドライン」を参考に、「神奈川バージョン」の具体的な支援システムを考案できた。今後は、これを確実に実践し、「一人ひとり」の意向に沿った支援を展開することが求められている、と何度も強調された。
そのためには、入所施設という1つの選択肢しかない、という状況では意向の尊重などありえない。いかに選択肢を増やすか、についても議論を重ねた。そこで、2つ目の課題が、県立施設の役割、である。家族会の意向として131人全員が津久井の地に帰る、との報道が注目された。これまでと変わらぬ入所施設ではなく、将来を見据えた施設のあり方が論議された。結果として、131人の居住の場は確保するが、津久井と横浜に小規模施設を分散整備し、グループホームの入居など、多様な選択肢を提案できるよう努めた。少人数の「コテージ」という概念を提唱し、「センター棟」では日中活動や医療的ケアを提供する。将来は、短期入所や地域移行に向けた体験の場として活用することなども示した。
こうした検討が続いている中で、横浜で暮らし始めた入所者や家族にも変化が出ているという。新しい場で体調を崩した入所者も多かったが、一方で、横浜ならではのMM21(みなとみらい)や金沢シーパラダイスへの外出、家族と過ごす機会が増え、本人にも家族にも変化が芽生えている。グループホームを見学したり、体験入居を考える家族も増えつつあるという。
本人を中心に、さまざまな立場の人が意見を交換し、本人の思いに沿った支援の形を実現したいこの事件を悲劇に終らせるのではなく、前へ進む力を生み出したい。そのために、「続ける」ことが大切である。そうした関係者の前向きの姿勢が、確実に地域を変えつつある。
~きょうされん「障害者支援事業所職員労働実態調査」の概要より~北條 正志
~香港とタイの活動から~永瀬 恵美子
第13回 地域での活動からつながる憲法と障害者権利条約
矢澤 健司
第2回 私たちのエンジェルベイビー 佐藤 真智子
第4回 ニュージーランドのパラレルレポートから佐藤 久夫
ろう高齢者施設の現状と課題 速水 千穂
第49回網本 万里奈
第4回 階も小幅に・・ 荒井 裕樹
ガマンくらべを終わらせよう。
生活保護でも大学に!下げるな、上げろ!生活保護基準(仮)
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