16年11月21日更新
VOL.36-8 通巻NO.437
NPO法人日本障害者協議会理事/法政大学現代福祉学部教授 岩崎 晋也
今年の4月から、障害者差別解消法が施行されました。この法律の画期的なことは、障がいをもつ人に「合理的配慮」をしないことが差別であると規定した点にあります。しかし「合理的配慮」とは何を意味するのか、正確に理解している人は残念ながら少ないのではないでしょうか。
先日、障害者差別解消法について市民の方にお話をする機会がありましたが、一番わかりにくいのが「合理的配慮」でした。その時に感じたのは、「合理的配慮」と一般的な「配慮」の違いがうまく伝わっていないということでした。例えば、レストランの利用を想定して合理的配慮を説明したときも、「そのぐらいの配慮は客商売だからやるのは当然だ」という声が出ました。お店が客へのサービスとしてなされる一般的な「配慮」の問題と理解されたのです。一般的な「配慮」であれば、「配慮」をするもしないもお店の自由です。しかし「合理的配慮」は、お店の自由の問題ではありません。障がいをもつ人からの「配慮してほしい」という声を門前払いすることなく、どのような「配慮」ならば実現可能で「合理的」であるか、対話をすることが求められているのです。この法律の目的は、差別する人を罰することではなく、あくまで一人ひとりの障がいをもつ人が社会に参加することを促進するための対話を促すものです。
この「合理的配慮」という概念が面白いのは、法律の考え方を広げる可能性がある点です。一般的に法律は、誰に対しても同じように適用されます。障がいがあろうがなかろうが、個々の差異を無視して一律の効力を持ちます。ですから「個々の状況に応じて異なる配慮をしなさい」ということをこれまでの法律では求めてきませんでした。しかし「合理的配慮」は、相互の差異を前提にして、社会参加のために何が「合理的配慮」なのか対話を法的に求めているのです。そして、こうした差異を前提とした「合理的」な配慮を必要としている人は、障がい者に限りません。社会の仕組みは、その社会のマジョリティが暮らしやすいように作られています。その仕組みでは居心地がよくない人々−女性、高齢者、シングルファミリー、外国人など-は、みな合理的配慮を必要としています。私たちの社会が、相互の対話を深め、すべての人にとって生きやすい社会に近づけるために、「合理的配慮」という考え方は役に立つのではないでしょうか。
NPO法人日本障害者協議会副代表 薗部 英夫
欧州は激動している。 街には移民、難民含め多文化な人たちが増えている。デンマーク=コペンハーゲン市内にある特別支援学校の校長は、子どもたちの6割が移民の子らだと言っていた。首都から離れた人口 3万人の小さな町の24時間ケアのある高齢者住宅から見えた古い病院は、「今は移民の人たちの住居になっています」。* 9月15日から10日間、北欧=スウェーデンとデンマークを訪問した。全国障害者問題研究会のよびかける研修ツアーは9年続いている。私には93年以来13回目となる北欧への旅だ。長いフライトのお供は、ブレイディみかこ『ヨーロッパ・コーリング』(岩波書店)。EU離脱を決めたイギリスの「地べたからのポリティカル・レポート」だ。 「欧州は右か左かでもなく上か下か」「英国の27%が貧困家庭。労働者の町のマンチェスターは47%」「健康寿命が短くなれば、国家が負担する介護、医療費も増大する。メンタルヘルス不全の国民が増えれば彼らが働けない間の生活補助や医療費もかかる」「下層の怒りが、EU圏からの出稼ぎ移民に向かっている」「英国にもスウェーデンと同じぐらい格差の小さい国だった時代があった。しかし、ここ数年で劇的に変化した」。
スウェーデンの人口は980万人を越えた。街々には活気がある。出生率は1.91(日本1.42)。自然増はあるものの、その多くは移民の増加だという。移民受入は人口の16%。首都ストックホルムでは22%だ。難民は人口比1%(EU最大)、約10万人を受け入れている。デンマークの難民への対応はスウェーデンとは異なるものの、移民受入は10%を越えた。
一昨年訪問したコペンハーゲン市内にある100人の軽度知的障害児が学ぶ学校でも、6割は17か国からの移民の子らで、母国語を教える専門教員が4人いた。保護者の多くは生活支援を受けていた。
そうした中でも、「子どもは宝=未来」だから、社会は、できるかぎり財政も人材も投入する。デンマークの教育への公的支出割合は、OECD諸国で第2位6.7%(スウェーデンは3位6.2%、日本は下から2番目の3.3%)。デンマークは1814年、世界で最初に義務教育を制度化した国だ。
「田舎町スーロン」は、デンマークにある34の自治体出身の重い知的障害のある人たち216人が、総勢700人のスタッフの支援を受けながら、14ブロックに分かれた「24時間ケアのあるグループ住宅」で暮らしている。4度目の訪問で顔なじみになったベテランの副施設長・トリーネに相模原の殺傷事件について意見を聞いた。
「絶対にあってはならないことです」「どういう人であっても命を奪うことはあってはならない。スーロンに暮らす毎日支援が必要な人は、外からみれば、"生活もできない人"と思われるかもしれない。でも、一人ひとりは生きている。違った人格をもち、支援する私たちのほうが学ぶことがあるのです」「"社会にはいらない!"と決めつけて、一つのグループを殺し始めたら、つぎはどんな"いらない"グループが殺されるの?ずっと殺されつづけてしまう。恐ろしいことです」 彼女の優しい顔がとても険しく見えた。
どんなに重い障害があっても、一人ひとりのいのちの絶対的価値を守る。これは北欧でも日本でも、たとえばノーマライゼーションを提唱してその実現をめざしたデンマークのバンク−ミケルセン、「この子らを世の光に」と実践した糸賀一雄らなど、多くの先輩たちがつないできた「いのちのバトン」だ。
一人ひとりのいのちの絶対的価値を我が事として、すべての人びとが安心して生きられる社会を!海も空も、そして経済も政治も、世界はつながっている。
第4回 二度と戦争が起きないように 佐々木 良子
相模原事件を考える緊急ディスカッション JD緊急企画として9月28日開催
第10回 治安維持法弾圧下の拘禁精神病 こころざしなかばで斃れた伊藤千代子 藤田 廣登
第4回 スポーツを通じて可能性を広げる 車椅子バスケットボールから学んだこと 増子 恵美
介護保険の現状と課題 服部 万里子
縛るな!!精神科病院で増え続けている隔離・身体拘束について考える集会 氏家 憲章
第42回 煙石 晴加さん 煙石 晴加
第4回自分自身を支える営み―「全生歌舞伎」に思うこと― 荒井 裕樹
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