障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

16年10月19日更新

2016年「すべての人の社会」10月号



2016年「すべての人の社会」10月号

VOL.36-7  通巻NO.436

巻頭言 戦後71年、憲法70年を考えよう

NPO法人日本障害者協議会理事 赤平 守 


101歳反骨ジャーナリストの死
 来たる11月2日(水)「JD 障害者のしあわせと平和を考えるシリーズ2-あなたにとって憲法とは?ともに学ぼう!語り合おう!」が開催されます。昨年のサマースクール「戦後70年と障害者」に続き、あえてこの時期に、この国の障害者福祉の歴史に立ち返り、学び、未来を見据える企画です。
 この企画が進行していた8月21日、「戦争絶滅」を訴え続けた反骨のジャーナリストむのたけじ(本名・武野武治)さんが、101歳で亡くなりました。私は昨年の「すべての人の社会9月号-特集・私の考える他の者との平等」の文末で、むのさんの言葉を引用させていただいていたので、その死は衝撃でした。ここで改めてその言葉を紹介させていただきます。「眠るなら目をつぶりなさい。考えるなら目を開けなさい。目をつぶって考える中身は大概くだらない。決断に向かって思考するとき、目は必ず見開かれて輝いている」です。

憲法の中の自由という言葉
 むのさんは、戦後、朝日新聞を退社、地元秋田に帰り、タブロイド判の週刊紙「たいまつ」を創刊、一貫して反戦の立場から言論、執筆活動を続けました。ジャーナリストとして、言論の自由と国民の自由を訴え続けた人生だったと私は思います。 日本国憲法には多くの「自由」という言葉が登場します。思想・信条の自由(19条)、信教の自由(20条)、集会・結社の自由・表現の自由(21条)、学問の自由(23条)、居住・移転の自由及び職業選択の自由(22条)、奴隷的拘束からの自由(18条)、・・・。

自由とは何か
 むのさんの講演は今年5月3日に東京都江東区で行われた「憲法集会」でのスピーチで「日本国憲法があったおかげで戦後71年間、日本人は1人も戦死せず、相手も戦死させなかった」と語ったのが、公の場での最後の訴えとなりました。 自由とは何なのか? 思想・信条の自由を考えるのなら、「誰かを憎む」とか「誰かは敵だ」と思いを巡らすという自由も否定はできません。しかし、真に自由を望むのならば、まさに他者との平等を考え、相手の心と人生を尊重すること。そして決して、力で相手の自由や権利を奪わないという大前提がなくてはなりません。だからこそJDは、戦後71年を遡り日本国憲法に目を向けます。最後に改めて、むのたけじさんが「たいまつ」に掲載した一説をご紹介します。「あなたは自由をまもれ、新聞はあなたをまもる」

視点 今、介護保険が危ない 障害者福祉も危ない

NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世 



 障害者総合支援法と介護保険 障害者自立支援法(現在の障害者総合支援法)が施行されて10年が経つ。障害ゆえに必要な支援にお金がかかる、障害の自己責任を強いる応益負担の制度が提案された時、私たちは"NO!" の声を上げた。そして、障害者自立支援法違憲訴訟が始まり、2010年1月、訴訟団と国(厚生労働省)は基本合意文書を交わした。基本合意文書には国の拙速な制度化、応益負担の導入によって障害者の尊厳を傷つけたことを反省すると明記された。同時に介護保険優先原則の廃止、介護保険との統合を前提としないことを新法制定にあたっての論点であるとした。 しかし、基本合意から6年、障害者総合支援法第7条には介護保険優先原則が残ったままだ。この影響は大きく、介護保険の利用料負担が重いため利用を制限したり、利用したい制度が利用できなくなったり、障害のある人の生活を直撃している。 一方、措置から契約へ、選択できる仕組み、介護の社会化を謳った介護保険だが、改正を重ねるごとに複雑な制度になり、軽度者を介護給付から外し、利用料も原則1割だったものが、すでに一部2割負担となり、現在の介護保険法改正の審議の中では原則2割とすることなどが検討されている。食費などの自己負担も増え、高齢者や介護者から悲鳴が上がっている。

 「我が事・丸ごと」がもたらすこと 昨年の障害者総合支援法の改正に向けた社会保障審議会(社保審)障害者部会での審議、現在進行中の社保審介護保険部会の審議の中で、たびたび登場しているのが、骨太方針2015、2016、経済財政諮問会議や財政制度審議会といった経済政策についての政策文書である。財務省や経済界の意向が社会保障制度の動向に強い影響を及ぼしているのである。 また、厚労省に「新たな福祉サービスのシステム等のあり方検討プロジェクトチーム」が設置され、2015年9月には「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」(図1)が示され、包括的な相談支援システム、高齢、障害、児童等への総合的な支援の提供、効果的・効率的なサービス提供のための生産性向上、総合的な人材の育成・確保が謳われた。さらに、2016年7月には厚労大臣をトップに「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部が設置され、地域包括ケアシステムの深化、「地域共生社会」の実現を目指すとし、対象者ごとの福祉サービスを「タテワリ」から「まるごと」へと転換し、医療介護人材の確保・養成として、医療福祉の複数資格の共通の基礎課程を創設することなどを提案している(図2、図3)。これらの動きは全て厚労省内部のものであり、当事者不在で進められている。 「丸ごと」は一見、耳ざわりよい言葉だが、この背景には施設などの設置基準、人員配置基準、報酬体系の見直しの検討があり、専門性を薄めて、さらに安上り施策を目指している。障害者支援の事業所、介護事業所ともに人材不足が深刻だ。合わせて、常勤換算方式の導入により、常勤職員の非常勤化が進み、実践現場に大きな影響が出ている。こうした担い手の問題に直面することなく、それどころか、生活支援には専門的な援助は必要ないので、ボランティアなどの行う事業に委ねていけばよいと考えられているのだ。

 日本の社会保障の危機 こうした状況の中で、介護保険部会では介護保険の普遍化が提案され、まさに「丸ごと」の仕組みが検討されている。介護保険と障害者福祉の統合という言葉は使わず、実質的な統合、なし崩し的統合が始まっている。障害分野で活動する私たちは、この介護保険をめぐる動きに他人事としてではなく、向き合っていくべきであろう。財政論を土台にした介護保険法の改正がこのまま進むと、日本の社会保障は音を立てて崩れていくような、そんな危険な状況であり、この動きと障害分野は無縁ではいられないことは自明である。

図1:新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン平成27年9月、図2:地域共生社会実現の全体像イメージ(たたき台)
図3:今後の進め方のイメージ(たたき台)


★出典:厚労省第1回「我が事・丸ごと」地域共生社会実現本部資料 平成28年7月15日(金) 


2016年9月の活動記録


連載 障害のある人とスポーツ

第3回 スポーツの力                        大日方 邦子       


連載 差別と抑圧の歴史 戦時下と戦争の傷跡

第9回 戦争から平和の時代へ                        藤野 高明        


連載 障害者支援の現場から

第24回 障害年金制度の現状と課題                        鈴木 裕貴        


提言

視覚障害者と鉄道事故                        内田 邦子        


連載 日本国憲法と私

第3回 僕にとっての憲法テラス                        結城 俊哉        


トピックス・インフォメーション


ささえあい つながり わすれない

熊本発・災害時の聴覚障害者支援の現状と課題                        森田 文子        


私の生き方

第41回 小林春彦さん                        小林 春彦        


春兆・四季ものがたり

秋編 妻・裕子さんとのおもいで                        品川 文雄        


表3インフォ
JD 障害者のしあわせと平和を考える シリーズ2 日本国憲法公布70 年
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〒162-0052 東京都新宿区戸山1-22-1 日本障害者協議会
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