16年8月23日更新
VOL.36-5 通巻NO.434
NPO法人日本障害者協議会理事 矢澤 健司
障害者権利条約が2014年1月20日にわが国で批准された。この条約は、単に障害者の権利のみを主張したものではなく、障害者が他の者(障害のない、いわゆる健常者)と同じ権利を持つことを繰り返し述べている。国際条約は憲法と一般法の間に位置しており、問題がある一般法を見直すきっかけになっている。障害者をめぐるいろいろな問題を、この権利条約に照らしてみることにより、具体的なヒントが明らかになる。今、私が注目している条文は第11条と第30条である。
第11条は「危険な状況及び人道上の緊急事態」 障害者を他の者と等しく、武力紛争や天災、火災等も含めた自然災害等における、避難ルートの整備や安全な場所への保護を行うために、災害対策基本法等を改正している。障害者を含めすべての人が安全で安心して暮らせる力強い社会を作るため、弱い人(高齢者、障害者、子どもなど)を支える社会にする必要がある。
第30条は「文化的生活、レクリエーション、余暇及びスポーツへの参加」
締約国が障害のある人に他の人と平等に、レクリエーション、余暇やスポーツも含めて文化的生活に参加する権利があることを認め、とりわけ、「自己のもつ創造的、芸術的、スポーツ等の潜在能力を磨き活用する機会を与えられるよう適切な措置をとる」こと、「手話や聴覚障害のある人の文化も含め独自の文化的及び言語的なアイデンティティー」を承認することを求めている。
余暇を楽しむことは、生きる喜びを与えるもので、障害があることによって実現できないバリアを取り払う努力が必要である。
2012年4月に児童福祉法の一部が改正され「放課後等デイサービス」が施行された。放課後活動は、家庭・学校以外の第三の活動の場として機能しており、全国的にも爆発的に広がっている。しかし、障害のある人は12年間の学校生活を終了した後、概ね社会へと進まざるを得ない状況である。職場や作業所等の新しい環境に移ったときにほっとできる場があるということは、当人にとってとても大事なことである。自分のことを分かってくれているスタッフや仲間がいることで気持ちのリセットができ、家に帰っても安定した生活ができる。青年・成人期の活動には放課後等デイサービスのような公的な支援が無く、各事業所の独自努力で行われている。生涯を通して成長して豊かな生活をしていくために権利条約の理念に添う新たな公的支援が必要である。
NPO法人日本障害者協議会代表 藤井 克徳
本誌が手元に届く頃には、ブラジルはリオデジャネイロでのオリンピックがたけなわであろう。遅れて手にした人は、パラリンピックにさしかかっているかもしれない。オリンピックやパラリンピックの話はさておき、ブラジルというと想い起こす音楽がある。ボサノバやサンバの響きとともに、耳に残っている曲に「酔っぱらいと綱渡り芸人」がある。暗黒時代とされた1960年代半ばから1980年代の政府を皮肉った曲で、「第二の国歌」と言われるくらい市民社会にひろがりをみせた。今も根強い人気があるという。
意味深な曲で、「酔っぱらい」とは当時のどうしようもないブラジル政権を指し、どうしようもない国家で生きていかなければならない大衆市民を「綱渡り芸人」としたのである。
それにしても、国家を「酔っぱらい」と揶や揄ゆするのは面白くも鋭い。歴史を顧みると、酔っぱらった国はブラジルだけではない。合法的な選挙であったにせよ、権力が集中すればするほど酩めい酊てい度が上がるというのが歴史の常である。あのヒトラーの場合もクーデターではなく、もとはと言えば選挙での圧勝だった。あっという間に大トラになってしまったのである。かつての日本の軍事政権の酔っぱらい方も似たようなものである。
酔っぱらった国々の過去をなぞると、そこに一つの共通点が浮かび上がる。それは、国家の酔っぱらいの表面化に先立って、市民のあいだに深刻な生活困窮が横たわっていたことである。「綱渡り芸人」が圧倒的に増えていたのである。やり場のない不満を抱えた市民は、一か八か(いちかばちか)の投票行動へと打って出る。そのあとエスカレートの一途をたどることは、歴史が証明するところである。
翻って現代日本はどうだろう。むろん酔っぱらってもらっては困るが、気がかりなことがある。それは、「綱渡り芸人」の増え方が半端でないことである。公表されている数字だけでも十分に裏付けられる。たとえば、生活保護受給者は2007年度以降連続増え続け、勤労者の月額実質賃金も6年前の水準に達していない。2015年の年間の自殺者は24,554人と高止まりのままで、相対的貧困線(年額122万円)以下での生活を余儀なくされている人が16.1%に上る。OECD加盟国(いわゆる先進国)の中で最も高いグループに属してしまった。しかし、これとて「道半ば」なのである。年内にも介護保険の二割負担や保険対象者のさらなる絞りこみ策が打ち出されるという。社会保障や社会福祉の最低基準となる生活保護制度のもう一段の引き下げについても、既定方針のように言われている。
「綱渡り芸人」で言えば、わが障害分野も黙ってはいられない。先のきょうされんの調査(本号6-7頁参照)では、福祉的就労にある者のうち61%が年収100万円以下(年金や工賃などすべてを合算)に閉じ込められていることがわかった。それらの大半は、「親丸抱え」の生活にある。さらに深刻なのが、人権侵害という他ない精神科病院での社会的入院状態の放置である。少なくない障害者が、いつの間にか綱渡りの達人になっているような気がする。
先の参院選は与党の大勝に終わった。新聞などの論調によると、その背景に現政権への期待度があったのではとしている。でも大勝に変わりはない。「綱渡り芸人」の急増と選挙の大勝を併せ見れば、薄気味悪さを覚えるのは筆者だけではあるまい。 話をオリンピック・パラリンピックに戻そう。政治風刺家の松元ヒロさんは言う。「東京誘致の際の"おもてなし"は気になる。要するに裏ばかりということか」と。"裏ばかり"はただのダジャレとは思えない。今の時代を読み解くキーワードとなろう。
第1回 尊重されるべき基本的人権 内田 邦子
第1回 パラリンピックの歴史と発展 田中 暢子
ー障害のある人の地域生活実態調査からー 八木橋 敏晃
第17回 隔離と身体拘束(その5・最終回) 長谷川 利夫
障害の理解を広げる運動 安永健太さんの死を無駄にしないために! 田中 洋子
安永訴訟最高裁決定に対する弁護団声明
熊本の現状と支援について(その2) 篠原 憲一
第39回 西川 泰弘さん 西川 泰弘
その生き方がアートですね。 関根 幹司
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