16年6月6日更新
VOL.36-1 通巻NO.430
NPO法人日本障害者協議会理事/公益社団法人日本発達障害連盟会長 金子 健
この4月1日、「障害者差別解消法」が施行された。国内各方面でそれに向けての体制が整えられつつあるが、私が関係する知的障害、発達障害のある子どもたちの福祉や教育の分野では、現実的な緊張感の高まりには程遠いような気がしてならない。
国連障害者権利条約の批准に向けての国内法整備の重要なステップの一つとして2013年に成立したこの法は、3年に及ぶ準備期間を経てようやく施行の運びとなった。2015年には閣議決定で「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」が示され、それに基づいて同年11月には文部科学省所管事業分野における「対応指針」が発表されている。
この中で、不当な差別的取扱いに相当し得る例として、障害者であることだけを理由にして学校への入学の出願の受理、受験、入学、授業の受講を拒むことなどを挙げている。さらに、障害のある児童生徒を学校が受け入れる際に求められる合理的配慮として、知的発達の遅れにより学習内容の習得が困難な児童生徒に対し、視覚的に分かりやすい教材を用意したりICT(情報通信技術)機器を使用することなどを示している。
これらの「配慮」は、これまでの長い教育実践の結果得られた知恵であり、教育現場では日々取り組まれている。一人ひとりの児童生徒のつまずきや困難に応じて特別の支援を行なってきた。それが特別支援教育である。その特別の支援を実現するために特別の場を用意するというのが日本のシステムであった。
ところが、国連障害者権利条約では、「一般的な教育制度から排除されない」とされ、これを受けて文科省中央教育審議会でも「障害の有無にかかわらず共に学ぶことを目指すインクルーシブ教育システムの構築」を提案し、学校教育法の改正によって、これまでの「一定の障害の基準に該当する児童生徒は原則特別支援学校に就学する」という規定を改めることになった。
しかし、一方で特別な配慮を強調するあまり「だから特別の場で」となり、共に学び育つという理念に逆行しかねない。一般の学校・学級で個別の配慮がなされない中で、この特別の場を求めて、在籍者が増加しているのが現状である。
さらに、共に学ぶことを実現するための基礎的環境整備や合理的配慮は、「過度の負担を課さない範囲」との規定が逃げ道にもなっている。
合理的配慮が、「合理的排除」をもたらすことになるのではないかと、懸念している。
NPO法人日本障害者協議会 常務理事 増田 一世
体より少し大きめの真新しい制服をまとう新中学生の姿、不安と期待を胸に出社する新社会人の姿が目にまぶしく映る季節となった。ずいぶん前に迎えた自身の新人時代をふと思い出す。私の職場にも新人を迎える。4月は1つの節目であり、3月までの活動を総括し、新たな事業計画を立て、昨年度のさまざまな課題も含め、さあ今年こそ……と思う。正月を祝う1月とはまた違った思いである。
生活、労働の実態は…
昨年、筆者が働く「やどかりの里」では、2つの調査を実施した。1つは、やどかりの里を利用しながら1人暮らしをしている人たち(83人)への訪問調査、もう1つは、40代で家族と同居している人たちへの状態調査(21人)だ。状態調査とは、自宅でその人の一番話したいことを聴き、聴いてきた話を調査団がいくつかの柱でまとめ、その生活や労働の実態を描き出す調査である。 やどかりの里は、精神科病院から出て街の中で暮らしたいというごく当たり前の願いを実現することから始まり、変化するニーズに対応しながら45年を積み重ねてきた。今回の調査もそれぞれの状態を明らかにし、これから求められる活動のあり方を考えていくためのものだ。 調査から見えてきた中で、いくつか印象深いことを紹介しよう。若年で精神疾患を発症した人の場合、親からの独立の時期と病気療養が重なり、働いて賃金を得ることが困難になり、仕事や結婚によって親の家を出るといった機会を逸してしまうことが多い。その後、病気が安定しているなら今のままでいいと、家族同居を続けている人たちがいる。背景にあるのは、成人した人が生活するには不十分な障害年金の制度、所得保障制度が脆弱なこと、必要な時に手助けを得られなかったことだ。一方、1人暮らしをしている人たちのほとんどが、1人暮らしに移る際に家族以外の手助けを得ていた。 誰かの力を借りつつ1人暮らしを送る人たちは、それぞれの生活上の工夫があり、たくましさを感じさせた。「1人暮らしはなにより自由だ」という声も多く、「1人暮らしになって家族との関係が良好になった」という人も多かった。 1人暮らしの人も家族と暮らす人たちも、今の暮らしを続けたいという願いが多かった。しかし、人は年齢を重ねていくし、家族の環境も変わらざるを得ない。いずれ頼るべき家族がいなくなった時、今と同じ暮らしを続けるのは困難だ。暮らし続けるために求められる支援は常に変化するのである。
孤立せず地域で暮らせる制度を
その変化に応じた社会制度を作っていくのは、本来国の責任であろう。障害者権利条約(以下、権利条約)第19条には、誰とどこで暮らすかを選択する権利、孤立しないために必要な支援を受ける権利が明記されている。第19条を具体化するためには障害者総合支援法の役割が大きい。しかし、国会で審議予定の障害者総合支援法案では、2つの調査で見えてきたさまざまな課題に応えることはできないのではないか。 こうした危惧を抱えるのは、筆者らだけではない。権利条約の締約国として、もう少しまともな法制度をという声が上がっている。法制度の審議システムにも問題がある。そうした問題を明らかにしようと、めざすべき方向性を改めて確認し合おうと、日比谷野外音楽堂で「ふつうに生きたいくらしたい! 障害者権利条約・基本合意・骨格提言の実現めざす4.21全国大集会」が開かれる。 新年度を迎えたばかりのこの時期、この集会に参集し、「ふつうに生きたい くらしたい!」を実現するために必要な法制度について考え、その実現に向けどう行動していくのか、次代を背負う人たちとともに気持ち新たに考える機会としたい。
東日本大震災5年目-検証を踏まえて障がい者対応を明らかに 佐々木 敦美
65歳と私の生活―積極的に自分らしく生きるための支援を― 内田 邦子
第5回 戦争と精神障害 ~未復員兵を取材して~ 青木 宏文
第1回 障害者権利条約の描く障害者像-国際基準から見た日本の障害定義- 新谷 友良
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JD連続講座 国連・障害者権利条約にふさわしい施策実現を求めて!
社会保障・障害者施策の転換期!その政策動向と影響を学ぶ!
第2回(3月22日)・3回(3月29日)を2週連続で開催
障害年金問題の今 ―私たちの取り組むべきことは何かを考える― 山口 多希代
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《生きていて良かった!》 品川 文雄
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