17年2月24日更新
VOL.36-11 通巻NO.440
NPO法人日本障害者協議会理事 佐藤 久夫
事件発生から半年が過ぎた。
厚生労働省や神奈川県の委員会の報告が出され、措置入院後のフォロー体制のあり方や関係機関の情報共有のあり方などが強調されている。しかし筆者にはもっと重要なポイントがあるように思われる。
その一つは、政府・総理大臣の対応である。事件直後に許し難い残虐な犯罪だと非難はした。しかし、重度障碍者に生きる価値はないとの植松容疑者の主張に答えてはいない。「犯行」を非難したが「犯行理由」を非難できていない。
新聞報道によると、官邸周辺は、そこに立ち入ると植松容疑者の主張が独り歩きする危険があるので、あえてふれないと説明した。そうした「大人の」対応も一理ありそうだが、すでに植松容疑者の主張が一人歩きしている現実がある。障碍者団体やマスコミは事件を風化させないよう問題提起を継続しているが、政府・政治の明確な関与が必要である。
この事件の特異性は「犯行理由」にある。植松容疑者は、衆院議長への手紙の中で、議長も安倍総理も自分の意見を理解してくれる、むしろ感謝してくれるはずだと期待していた。だからこそ実行後は2年以内に自由の身となり、5億円の支援金をもらい、新しい名前と戸籍で生きてゆけるよう確約してほしいと書いた。
したがって安倍総理等は、植松容疑者の「期待」はとんでもない考え違いだとはっきりと否定し、自らの障碍者観を表明すべきであろう。植松容疑者は自らを政府の協力者であり5億円をもらう資格があると思っているようだが、政府が実現しようとする共生社会にとっての許し難い妨害者でしかない、と表明すべきであろう。
私は、「犯行理由」への糾弾がなされないのは、政権関係者の間で考えがまとまらず、植松容疑者の考えを批判できないからなのではないかと思う。例えば老後の不安を訴える高齢者について「いつまで生きているつもりだ」と思ったと述べた閣僚がおり、重度障碍者について「この人たちにも人格があるのか」と言った知事もいる。
政権が明確なメッセージを出さないままでは、次の「政府の協力者」の出現が心配される。憲法、障害者権利条約、障害者基本法などの規定をふまえつつ、障碍者をどう見るのか、どのような社会を志向するのか、植松容疑者への政府からの反論を期待したい。
NPO法人日本障害者協議会常務理事 増田 一世
1月20日、第193回通常国会が開会した。同日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国の第45代大統領に就任した。何しろ経済政策だと主張し、憲法改正に意欲を見せる日本の首相、巨大企業をも恫喝し、アメリカファーストと何回も繰り返すアメリカ大統領…。
何とも言えず重苦しい気持ちが続いている。私たちが暮らすこの日本という国、視野を広げて、現状を冷静に見つめ、行動していかないと、取り返しがつかない事態になっていくのではないか。国際関係も多様性を認め合うという社会から、排除の論理が優先するような社会に傾斜し、人のいのちを奪い合うような争いがますます激しくなっていくのではないか。国の行方に不安があるからこそ、身近な地域でのつながり、あるいは考え方に多少の差異はあっても手をつなげる人の輪を広げていくことが大事だと改めて強く思うこの頃である。
さて、第193回通常国会で厚生労働省が提出予定の法案でいくつか気になる法案がある。ここでは、本紙10月号で取り上げた「我が事・丸ごと」地域共生社会だが、今国会で具体的な法案として提出されている「地域包括ケアシステムの強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案(仮称)」(新聞等では「地域包括ケアシステム構築推進法案」と報道)をみてみよう。この法案には2つの柱があり、Ⅰ.地域包括ケアシステムの深化・推進には、①自立支援・重度化防止に向けた保険者機能の強化等、②医療・介護の連携の推進(療養病床の見直し)、③地域共生社会の実現に向けた取組の推進、が含まれている。Ⅱ.介護保険制度の持続可能性の確保には、④所得の高い層の負担割合を3割に、⑤介護給付の総報酬割の導入、が盛り込まれている。最近よく見る一括法で、介護保険法、医療法、社会福祉法、障害者総合支援法、児童福祉法の改正が含まれている。
ここでは、Ⅰ‐③地域共生社会の実現に向けての内容に注目してみよう。住民と行政等との協働による包括的支援体制の制度化、高齢者と障害児者が同一の事業所でサービスを受けやすくするための新たな共生型サービスを位置づけるとある。1つの事業所で高齢者も障害者も利用できるような仕組みである。これで65歳問題が解決かと思うのは早計だ。ここに横たわる問題はいくつかある。まず、利用料問題だ。介護保険制度には利用料ゼロの人は存在しない。生活保護受給者も生活保護から介護保険の利用料が支払われている。もちろん、所得が障害年金2級だけの人にも利用料はかかってくる。また、障害支援区分と介護認定の問題もある。筆者の身近な人の中にも障害福祉サービスの生活介護事業を毎日利用していた人が、介護認定を受けた結果、週に1回のデイサービスしか受けられなくなった人がいる。制度はあっても利用できないという事態が考えられる。
最近、東京都豊島区が国家戦略特区制度を利用して、介護保険サービスと保険外サービスを組み合わせる「混合介護」を始めるべく準備中という報道があった。支給量では足りなかったら自費でサービスを買いなさいということになるのだろうか。混合介護によって生産性が上がると評価する向きもあるそうだ。お金のない人は地域の人たちの支え合いでということなのか…。
社会保障費を削っていく動きは顕著だ。削られていく社会保障費の中でそのパイの取り合いっこはごめんだ。私たちは国の税制自体を見直し、制度の谷間に陥る人がなくなるような社会のありようを考える時期に来ているのではないか。右肩上がりの経済成長が見込めなくなったとき、私たちはどんな選択をするのか、真剣に考える時だ。
第6回 「福祉まちづくり」に憲法の精神はあるのか 八藤後 猛
第25回 聴覚障害者の精神保健福祉を考える―現状と課題― 森 せい子
あマ指学校・養成施設非認定処分取消訴訟について 東郷 進
第7回 誰もが主役!アダブテッド・スポーツ―身体障害児・者とスポーツ― 齊藤 まゆみ
第12回 今、水俣から伝えたいこと
―水俣病胎児・小児性患者等の挑戦~ほっとはうすの実践に学ぶ~
加藤 タケ子
人生のサーフィン(65歳問題を抱えて) 石松 周
「6割」は「限定的」?精神障害者の「重度かつ慢性」切り捨て問題 長谷川 利夫
みんなで語ろう、学ぼう、楽しもう!~WA(わ)会の活動レポート~ 品川 文雄
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