15年11月26日更新
VOL.35-8 通巻NO.425
NPO法人日本障害者協議会 代表 藤井 克徳
「立法府に対して、そして政府や司法府に対して改めてお願いしたいのです。それは、『障害者権利条約に恥をかかせないで』ということです。『権利条約に恥をかかせないで』このことを訴えて意見陳述を終わります」、これは障害者権利条約の国会承認に先立って行われた、参院外交防衛委員会での私の意見陳述の最後の部分である(2013年11月28日)。
残念ながら、権利条約に恥をかかせるような事態が現実のものになろうとしている。来年2月を提出期限とする、権利条約の実施状況の日本としての初の政府報告書をめぐる動きがそれだ。外務省によって取りまとめられた政府報告書の原案が、9月から10月にかけて内閣府障害者政策委員会に示された。分野別に多少のでこぼこはあるものの、全体のトーンは、「うまくいっている」と言わんばかりである。関係者の多くは違和感を覚えたに違いない。
「うまくいっている」とすれば、この国の障害分野は現状のままでいいことになる。市民一般の暮らしぶりと比べて、欧米の関連政策と比べて、立ち遅れている日本の障害分野にあって、権利条約への期待は熱いものがある。それが現状でいいとなると、「権利条約の値打ちってこんなもの」ということになりかねない。
むろん、権利条約の価値はそんなものではない。どこかずれている。権利条約にきちんと向き合っていない日本政府の姿勢の方に問題があることは明らかだ。パラレルレポート(国連が正式に受け付ける政府報告書に対する民間からの報告書)でも反論はできるが、できることなら政府報告書とパラレルレポートの落差は小さい方がいい。報告書の作成を通して、官民の障害分野に関する現状評価をできる限り縮めていくことが望ましい。
あらためて考えたいのは、政府報告書の目的である。はっきりしていることは報告書も手段に過ぎないということである。本当の目的は、この国の障害分野の好転へのエネルギーにつながることだ。作成することを目的化してはならず、体裁などどうでもいいはずである。そう言えば、先に内閣府の招請で来日した国連障害者権利委員会の前委員長のロン・マッカラム氏はこう言っていた。「良質な報告書とは」との問いに、すかさず「正直さ」と。
この正直さこそが、初の政府報告書の生命線と言えよう。たとえば、長年の懸案である精神障害分野の社会的入院問題や「谷間の障害」などの実体と背景を率直に掲げたらどうだろう。国際的には弱点をさらけ出すことになるが、国内にあっては報告書への信頼が増すに違いない。そこに官民こぞっての改革に向けての新たなエネルギーが生まれてくるような気がする。正直さの程度が、良質の報告書であるかどうかの決め手になるように思う。
ところで、権利条約では政府報告書のあり方をどう規定しているのだろう。第35条が該当する条項である。要約すると、①批准後にとった措置、②それによってもたらされた進歩(成果)の全体状況、③国連が設定した指針をベースに、④作成にあたり障害者団体の意向を反映、⑤成果が上がらないとすればその困難の度合いや原因の明示、とある。条約全体の文脈からみて、加えておきたいポイントがある。それは、権利条約のなかでくりかえされている「他の者との平等を基礎として」の観点である。障害のある人をめぐる主要分野で、障害のない人とどのような格差が生じているのか、できる範囲でつまびらかにすべきだ。
時間はまだ残されている。政府報告書の最終とりまとめにあたっては、「正直」にこだわってほしい。合わせて、監視機能を有する内閣府障害者政策委員会の奮起を期待したい。
松井 逸朗
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第9回 子育ち・子育て環境と福祉のまちづくり~すべての子どもの育ちに向けて 植田 瑞昌
下山 洋雄
木犀の門
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