16年3月31日更新
VOL.35-12 通巻NO.429
NPO法人日本障害者協議会 代表 藤井 克徳
障害者差別解消法ならびに改正障害者雇用促進法(差別解消条項)が、この4月から施行される。批准された障害者権利条約(以下、権利条約)がもたらした本格的な成果物の一つと言えよう。法の施行によって国や自治体がどう変わるのか、交通業者や店舗を含む民間の事業者にどんな影響が及ぶのか、何より一人ひとりの障害者の日常の辛く不愉快な思いがどの程度なくなるのか、社会全体が試されるように思う。この法律の成立を後押ししてきた私たちにとっても関心と期待は大きい。
施行を目前にした今、あらためて成立過程をふり返り、顕在化している課題を考えてみたい。法律の力を正確に知るうえで、また次なる改正を展望するうえでも大切だと思う。次なる改正などというと、気が早いのではと言われそうだが決してそうではない。元々、完成度の低い法律であったことを想起してほしい。本来、下敷きにすべきだったのは、権利条約に加えて障がい者制度改革推進会議がとりまとめた「『障害を理由とする差別の禁止に関する法制』についての差別禁止部会の意見」(2012年9月)だった。残念ながら、中核部分において大きく乖離してしまった。
法律の制定というのは時の政治の影響を受けやすい。再度の政権交代の直後にあって(2013年初頭)、「差別禁止法は遠のいたのでは」とする空気が広がり始めた。その矢先に与党から立法化の話が浮上した。障害団体側は、「不十分ではあっても頭出しすることの意義は少なくない」で一致し、この動きを後押しすることにした。与党は、障がい者制度改革推進会議の言わばシンボル的な目標であった「障害者差別禁止法」の全面否定は得策ではないと踏んだに違いない。かと言ってもろ手を挙げての推進は本意ではなく、結局「完成度の低い法律」で落ち着いたというのが真相と言えよう。
なお、完成度の低さについては、当時、議論の渦中にいた与党議員自身が明言している。「本当は禁止法でいくべきだったが、いろいろあって解消法になってしまった。中途半端な法律であり、作り直さなければならない」(昨年暮れの話)と。このことは、国会の側も認識していた。障害者差別解消法の附則に「三年後見直し規定」を明記したことに加えて、衆議院附帯決議は「本法の施行後、特に必要性が生じた場合には、施行後三年を待つことなく、本法の施行状況について検討を行い、できるだけ早期に見直しを検討すること。」としている。
内容面の不十分さは、既に具体的な形となって表れている。典型的なのは、この法律を機能させていくうえで重要となる「障害者差別解消地域支援協議会」(第17条)の設置である。施行まで3年間の準備期間がありながら、市町村の設置率は1%台に留まっているとのことである。国の対応の遅れは言うまでもないが、その主因は設置が義務規定になっていないことに尽きる。公的な機関が担うとする、相談や紛争防止などの体制の整備についても同様である。「4月以降、苦情や相談は私たちが受けます」といったアナウンスは全く聞こえてこない。ともあれ法律はスタートする。活用しながら改良を図っていくことかと思う。バロメーターになるのは、苦情や相談の件数とみてよい。気がかりなのは、先行している差別禁止条例である。例えば、さいたま市の2014年度の相談件数は9件に過ぎない。辛いことや嫌な思いなどをありのままに、我慢することなく相談機関に持ち込むことを呼びかけたい。
本條 義和
五位渕 真美
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