障害の種別や立場、考えの違いを乗りこえ、障害のある人々の社会における「完全参加と平等」や「ノーマライゼーション」の理念を具体的に実現することを目的として、各種事業を全国的に展開しています。

14年11月19日更新

2014年「すべての人の社会」11月号


2014年「すべての人の社会」11月号

VOL.34-8  通巻NO.413

共感が生まれるとき

 NPO法人日本障害者協議会 理事 赤平 守 



 10月1日、運動会に審査員として参加してきました。私が審査員として行くのですからおわかり
でしょう。府中刑務所の運動会です。刑務所に運動会があることを知らない方もいるかもしれま
せんが、全国ほとんどの刑務所にこの行事は存在します。運動会というのは刑務所生活の中で、
受刑者にとっては特別な一日であり、私にとっても楽しみな一日なのです。

 連載*でも触れましたが、府中刑務所は日本最大の刑務所。運動会は全体を2つに分けて、
午前・午後に分かれて、工場対抗の形で行われます。私が講話を担当する養護工場の面々は
午前の部に参加予定だったので、朝8時半、曇天の下、来賓席で見守りました。

 刑務所は生きるための最低限は保障してくれる場所ではありますが、そのかわり、まさに意思
決定のもとの行動は許されない場所です。寝る、食べる、動く、話す、すべては規則の中で制限
されます。そんな制約された生活の中で、運動会は思い切り体を動かし、そして「応援合戦」では、
思い切り、腹の底から声を張り上げられる唯一の時間なのです。

 私の審査の対象はこの「応援合戦」と「入場行進」。まずは入場行進、いつも通りの半そでの
作業着の下から派手な刺青が見える人たち、多くの外国人受刑者、そして私の存在を横目でちらり
と意識しながら手足がうまく運べない養護工場の人たち。思わず、頬が緩んでしまいます。

 競技は60メートル走に始まり、ボール転がし、自転車のリム転がしリレー、風船割りリレー、障害物
競走、2人3脚リレー、スウェーデンリレー等を2時間余の中でスピーディに進行させていきます。皆、
必死に走り、勝てば喜び、負ければ悔しさを露わにします。メーンイベントは工場ごとの応援合戦。
これに合わせて工場ごとに1カ月近く前から練習するのです。今年、一番受けたのは、ある工場の
リーダー的な受刑者が「○○工場が負けたらば~?」と応援席に問うと、ドスの利いた声で「ダメよ~!
ダメ!ダメ!」というものでした。笑い転げながら、なぜか目頭が熱くなってしまいました。

 日々の制約や不安を忘れ、仲間を意識し、共感し合いながらエネルギーをぶつけ合うことを一時
だけ許される、それが刑務所の運動会なのです。それは直接、競技に参加できなかった高齢者や
障害者の受刑者にとっても同じことです。共感とは、対峙することからではなく、同じ目標に向かって
行動することから生まれるのだということを、毎年教えてくれる貴重な一日です。

* 2013年9月~2014年6月号連載「罪を犯した障害者の背景にあるもの」

2014年10月の活動記録


視点 トリエステ魂を目の当たりに公開中

         藤井 克徳           



What's New!第12回国連障害者権利委員会傍聴スケッチ
-韓国の審査を中心に-


提言

身近な地域での障害児支援を実現する課題
「障害児支援の在り方に関する検討会報告書」を読んで 
              中村 尚子           



連載「世界の当たり前を知る」第2回
精神保健……天動説の日本と地動説のイタリア

 
              大熊 一夫           



連載 私の考える「他の者との平等」

第4回 「制度の谷間」に置かれた難治性疾患患者も 社会参加できる社会に
              篠原 三恵子          



連載障害者支援の現場から…第10回
グループホーム一元化の問題と課題―総合福祉部会の骨格提言から見ると―

 
              光増 昌久          



提言

高齢障害者が直面する障害基礎年金問題 
             松本 正志         



第20回私の生き方


                         峰岸 真知子         


トピックス・インフォメーション


エッセイ パラボラアンテナ〔140〕 

特養に生きる

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