2001年度「JDジャーナル」

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このページでは、毎月本誌発行後、月別にて、
巻頭表紙・表紙写真の説明・もくじ・巻頭言の内容をご紹介しています。

2001年 4月 2001年 5月 2001年 6月 2001年 7月
2001年 8月 2001年 9月 2001年10月 2001年11月
2001年12月 2002年 1月 2002年 2月 2002年 3月

2002年3月号

JDジャーナル3月号表紙 VOL.21-12 通巻NO.261
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 この頃、チューリップも品種改良され、ピンクや花びらが丸まったものが出てきました。今まであったワイングラスのような形や、歌に歌われている色の、赤、白、黄色のチューリップも減ってきたと思います。昔からあったチューリップを大切にしていかないと、本当のチューリップを知らない世代が増えてくるのではないでしょうか。この写真のチューリップも少し品種改良してありました。

* Contents *

巻頭言 「構造改革」というリハビリテーション  
・・・JD理事/広報委員長 比留間ちづ子
特集 支援費制度を考える
T.サービス提供側からの意見
新たな支援費支給制度を考える
・・・日本知的障害者福祉協会 常任理事 玉井弘之
適切なサービスが提供できる支援費支給制度を
・・・全社協・全国社会就労センター協議会
支援費支給方式検討特別委員会委員 本庄義雄
支援費制度に思う
・・・全国地域生活支援ネットワーク 北岡賢剛
居宅生活支援を機能させるためには
・・・全国社会福祉協議会 支援費制度(居宅生活支援)に関する
合同検討会委員 阿由葉寛
U.支援費制度と市町村の役割
・・・日本福祉大学社会福祉学部 助教授 石川 満
V.当事者からの意見
居宅支援を要する重度障害者の立場から 全
・・・全国脊髄損傷者連合会 頸損部長 大濱 真
そうはいかないのだけれど
・・・千葉市手をつなぐ育成会 会長 久保田美也子
10 ●用語解説/支援費制度について
世界の動き 11 ポスト「アジア太平洋障害者の十年」をめぐる動きについて
 障害者権利条約をめぐる動きとポスト十年
・・・北星学園教授/RI副会長 松井亮輔
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・JD広報委員 大野智也
加盟団体紹介 15 社会福祉法人日本点字図書館
・・・館長 田中徹二
16 次号予告、活動日誌(1月)

* 巻頭言 *

■「構造改革」というリハビリテーション

JD理事/広報委員長 比留間 ちづ子

 「構造改革」という言葉に慣れてきたが、照準が不詳であり、障害分野も聖域ではないという認識から、障害者施策の後退が懸念されている。金融・経済不安や幼児虐待などに象徴される人心的不安を抱えた日本の社会においては、「構造改革」に国家的なリハビリテーションに向けた理念と方法論を含めた標語としての役割をもたせていると考えられる。

 おやっと思われるが、リハビリテーションとは元々法律用語で「復権」、「名誉回復」をめざすプロセスでありその理念でもある。したがって、もっている能力を発現すべく、多軸的な方法が投入され、それらが連関性をもって展開することになるというのは頷ける。

 しかし、リハビリテーションとするからには、目標設定と方法を明確に提示するというルールがなければならないが、「構造改革」は照準(目標)と手段を示せておらず、プログラムとして不安定である。これは問題把握力の低さであり、当事者すなわち国民と為政者間の情報バリアがあるためで、この次元の構造も改革しなければならないであろう。目標設定のための具体的情報、構成員の参加への理解と意志確認が重要であり、そこに戦略と方法論の共有が成立するのである。 

 さて、障害者施策運動については構造改革へのプログラムは明確である。目標は「完全参加と平等」、戦略は具体性をもち当事者の参加意識は大きい。本協議会が障害当事者、関係者の皆さんと検討の末、1998年にまとめた『障害者に関する総合計画提言』は(1)所得保障(2)施設制度・施設体系(3)職業リハビリテーション・雇用制度(4)地域生活と介護制度のあり方(5)交通アクセス・まちづくり・住居等(6)情報保障の6項目を基本課題としたが、その課題提示の明確さゆえに対策が進展したのだといえよう。

 JD主催による「新10年推進フォーラム2000」において、佐藤政策委員長(現副委員長)は1年間の成果として、(1)欠格条項への取り組み(2)著作権をめぐる動きと字幕放送の実現(3)交通バリアフリー法の制定(4)成年後見制度の施行を取り上げ評価した。これらの活動はすでに障害者のためだけではなく、誰にもやさしい社会づくり、町づくりに発展していたという評価もある。戦略の共有ができる明確性はここでも了解される。

 今後の課題である脱施設化と地域生活支援、精神障害も含めた統合施策、家族制度改革などについては、施策内容のグレードアップを含めて「構造改革」のプログラムを明示し進めていくことが必要であろう。

 最後に、もっとも大きな課題は「障害」とくくることの弊害の撤廃である。1人ひとりの必要に応じた支援や互助が地域や職場で自然に行われる、そんな「構造」をもつ社会へのリハビリテーションを願いたい。


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2002年2月号

VOL.21-11 通巻NO.260
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 僕は写真はアートだと思います。白いキャンパスに絵を描くように35ミリというフィルム面に自分の考えや思いを描くのが写真だと思います。ある日、写真を指導してくれている押川氏に花の他に何を撮ったらいいかと相談したら、光プラスティックを持ってきてくれました。時々ぶつかる作品づくりの壁があったからこそ、今まで撮り続けてこられたのだと思います。

* Contents *

巻頭言 1 私たちに間われるもの
・・・JD理事 勝又 和夫
特集 2 障害者施策と構造改革(PARTU)−21世紀、そのあるべき姿を問う−
行動するJD 10 2002(平成14)年度障害関係予算説明会等を開催 
・・・JD理事 青葉 紘宇
世界の動き 11 ポスト「アジア太平洋障害者の十年」をめぐる動きについて 
・・・エスキャップ社会問題担当官 高嶺 豊
lnformation 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ 
・・・JD広報委員 大野 智也
加盟団体紹介 14 社団法人全国難聴者・中途失聴者団体連合会 
・・・情報文化部長 高木 富生
15 正会員のイべント予定
16 次号予告・活動日誌(12月)

* 巻頭言 *

■私たちに問われるもの

JD理事 勝又 和夫

 今年の正月明けにある社会福祉法人から依頼され、その法人の経営する複数の施設の見学と職員研修会の講師を務めさせていただきました。

 久しぶりの新幹線で3時間強、途中からの景色の中は雪に覆われていました。私の田舎は、1メートル以上の積雪となる岐阜の奥飛騨地方ですが、私がもしそのまま田舎におり、見学した施設のようなところを利用していたら、またそこしか利用するところがなかったとしたら、どんなふうに思うだろうと考えつつ見学させていただきました。

 2003年度からの措置施設等における「利用契約制度と利用者に対する支援費支給制度」の始まりは、関係者の催す研修会等に定員をはるかに超える申込みがあり、どの会場も盛況を呈していると聞いています。「利用者が選択する福祉」「消費者保護の視点、での事業者評価と苦情解決システムの構築」「多様な事業主体の参入と規制緩和による量と質の向上」等、福祉施設経営者にとっては新たな環境への不安と心配がこうした動きに現われていると思います。

 こんな流れの中で、ある社会福祉法人では、経営する授産施設の利用者処遇について、これまでの固定工賃支払から出来高払への検討を始めたとか、他の社会福祉法人では、職員賞与を経営実績に基づくものとし、退職金についても大幅な引き下げが可能となるシステムにしたとの話を聞くようになっています。

 一見バラ色に見える社会福祉基礎構造改革に対する厚生労働省の説明の向うに、施設経営者は冬への備えとも思える準備を始めています。夏には緑で覆われて見えなかったものがこれを機会に見えるようになり、見えたことによって糺すことは重要なことですが、しかし、その結論が一方的により弱い立場にある人たちに被せられることがあってはならないと思います。

 冒頭に書かせていただいた職員研修会のしめくくりに「ここに参加している皆さんは、皆さんがもし障害者になったとして、この施設を利用したいですか」と尋ねさせていただきました。そこに働く職員、一人ひとりが、その施設を利用せざるをえない状況にある人たちの現実を自らの問題として捉え、より弱い立場の人たちを守る姿勢をもって存在してほしいと願って聞かせていただいたものです。

 この質間に何人かの人の顔に緊張感が見えたとき、私はこの法人は大丈夫だと爽やかさが残る思いで講演を終えることができました。


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2002年1月号

JDジャーナル1月号表紙 VOL.21-10 通巻NO.259
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 散歩していると、いろいろなものに遭遇します。とくに葉が少ない時期は木々の中から、「こんにちは」と思ってもみないものが顔を出してくれます。この実もちょうど僕の視線の高さの枝に、小さな子がブランコをこぐように、ぶらさがっていました。この実を見ていたら、幼い頃、母に抱かれて一緒にブランコで揺れたときを思い出しました。

* Contents *

巻頭言 1 アジア・国際会議によせて
・・・JD副代表 有馬 正高
特集 2 障害者施策と構造改革(PARTT)−21世紀、そのあるべき姿を問う−
−「世界同時不況」とセーフティネットのはりかえ戦略
私の論壇 7 JDを斬る(4)−日本における障害者運動の構造改革は?
・・・明治学院大学 社会学部社会福祉学科 教授 中野 敏子
Information 8 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・JD広報委員 大野 智也
トピックス 12 JD関係者が障害者施策推進本部参与に就任!
−心のバリアフリーを
・・・日本障害者雇用促進協会 副会長 河毛 二郎
−20年ぶりの風
・・・JD副代表 花田 春兆
加盟団体紹介 13 「奈良県障害者協議会」とその活動
・・・奈良県障害者協議会 会長 藤森 善正
14 社会福祉法人日本肢体不自由児協会の活動概要
・・・事務局
15 お知らせ・次号予告・活動日誌(11月)

* 巻頭言 *

■アジア・国際会議によせて

JD副代表 有馬 正高

 国際障害者年を契機に始まった人権を守る運動も20年が過ぎ、今年は「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラムに関連した行事が各地で開催される。DPI世界会議、RIアジア太平洋地域会議、RNN(アジア太平洋障害者の十年推進NGO会議)キャンペーン会議の3つの国際会議と、3つの国内推進キャンペーンの準備が関係者の間で進められている。本年10月の会議まで準備期間が1年を切り、いよいよ正念場という時期であろう。

 さらに、来年の2003年8月には、日本知的障害福祉連盟およびその構成団体の主催で第16回アジア知的障害会議が開催される。いずれも、アジア各国からの参加者を迎えて、ホスト国としての責任が重く感じられるところである。

 国際障害者年から今日にいたるまでの流れは、障害種別を越え、人間としての尊厳を共通認識する方向で進んできた。完全参加と平等という主題もその本質を示したものと感じてきた。しかし、人間には個性があり、障害はその一端であるということも当初から主張されていた。それは、必要な生活、希望する嗜好、支援する人との関係など、本人の立場や環境によってニーズが変化すると同時に、家族や地域がどんなニーズに応えられるかに差があるからである。そのような現実を反映して、多数の障害者団体が結成され、個々に適切なプログラムの教育というような方針が出され、ケアマネジメントが必要とされるようになったのであろう。

 国家であっても一部の人たちにとって絶え難いと感じられれば、よりよい方向をめざす運動や独立運動が発生する。21世紀の幕開けとなった昨年は、情報網の発展のなかで、アジアの局地で起こったことでもたちまちのうちに全世界に広汎な影響をもたらす時代になったことを感じさせた。国際会議において印象深いのは、文化、生活習慣、自然などの異なる国の人たちが自らをアピールし、また自国で得がたい何かを得て帰りたいという熱意のあふれる何人かの人たちに出会うことであった。今年から来年にかけて日本の国際会議に参加するアジア諸国の人たちが、どのような話題をもってくるか、そして日本に来て何を得たと感じて帰り将来に連なるか、責任があると同時に楽しみでもある。願わくば、経済のみ突出した島国の日本という印象を克服して、どのような困難をもつ人たちにも対応ができる社会のモデルを示せるようになりたいと願う。 


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2001年12月号

JDジャーナル12月号表紙 VOL.21-9 通巻NO.258
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 自然界というのはおもしろいものです。人間にできないことをやってくれます。それがこの網目模様のホオズキです。自然と昆虫たちが模様にしてくれました。
昆虫たちはどうして、こんな模様ができるのだろう。不思議で綺麗だったので写してみました。

* Contents *

巻頭言 1 知的障害者がはたらく
・・・JD理事/日本知的障害者福祉協会常任理事 玉井弘之
特集 2 障害のある人の生活と医療
3 T.障害者の生活と医療における現状と課題−障害のある人が求める医療制度のあり方について 
・・・JD広報委員/日本整形外科学会骨系統疾患委員会アドバイザー 君塚  葵
U.各団体からの声
5 −診療報酬改定には慎重さを求む    
・・・全国腎臓病協議会常務理事 小林 孟史
6 −広がる医療格差と谷間の疾患
・・・復生あせび会 あせび会(稀少難病者全国連合会)会長 佐藤エミ子
7 −内部障害者−オストメイトの現状
・・・日本オストミー協会事務局長 佐藤 五郎
8 安心して病院に行ける制度づくりを
・・・日本てんかん協会副会長 下川 悦治
9 医療を利用する立場から思うこと
・・・全国精神障害者地域生活支援協議会理事 釣舟晴一
10 狭間の弱者にも配慮した改革を
・・・全国LD(学習障害)親の会事務局長 山岡  修
加盟団体紹介 11 発達障害療育研究会
・・・副会長 高橋 彰彦
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・JD広報委員 大野智也
15 イベントのご案内
16 次号予告・活動日誌(10月)

* 巻頭言 *

■知的障害者がはたらく

JD理事/日本知的障害者福祉協会常任理事 玉井 弘之

 障害のある人々は、おおよそ25万2千人(2000(H12)年6月実雇用率1.49%)が民間企業で働いている。
 3年程前、生活支援ワーカーA氏の紹介で、北海道のある知的障害者のグループホームを訪問したとき、入居者のBさんが、手のひらのマメ(肉刺)の跡を見せながら「私は、小さな企業で煙突などブリキ加工をしているが、その技術は社内では右に出る人はいない。若い人が入社したときは、私が指導している」と自信をもって話された。

 しかし、いまでは障害者の就業も厳しい社会・経済環境の中に晒されている。先日、そのA氏にお会いしたとき、Bさんが勤める企業でも景気が悪いようで、「リストラ」の対象にならなければよいがと心配していた。

 1976(S51)年に、身体障害者雇用促進法(現「障害者の雇用の促進等に関する法律」)が改正され、知的障害者に対しても職業紹介に関する規定等を暫定的に適用された。しかし、1987(S62)年に、障害者の範囲が知的障害者に拡大されるまでは、「法定雇用率」の算定対象外であった。

 この雇用率も1997(H9)年4月に法改正によって、民間企業は1.8%となり、また法律上は、すべての規定が知的障害者に対しても適用されるようになった。

 これまで知的障害者の義務雇用を阻んできた理由としては、(1)障害判定の難しさ、(2)適職の未開発、(3)社会生活面での配慮の必要性が指摘されていたが、日本知的障害者福祉協会が実施する民間企業の人事担当者を対象にした「実務セミナー」では、企業サイドにも知的障害者の雇用に関心を持っておられる方々が多いのは意外であった。

 厚生労働省では、2002(H14)年度予算として、(1)職場適応援助者(ジョブコーチ)による人的支援事業の実施、(2)障害者雇用機会創出事業の推進(短期の試行雇用・3カ月と一般雇用への移行促進)、(3)障害者の再就職支援のため、公共職業安定所に「障害者求人開拓推進員」を配置するほか、(4)障害者就業・生活支援センター(仮称)による地域での就業支援等々障害者の雇用促進施策が盛り込まれている。

 国の財政も厳しいが、12月末の予算編成においては、これら障害者雇用施策のすべてを具現し、障害のある人々の初春のお年玉にしていただきたい。


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2001年11月号

JDジャーナル11月号表紙 VOL.21-8 通巻NO.257
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 私が、糸トンボを撮るのに一番大変だったのは、車椅子が動いたとき風が立つことでした。ゆっくりゆっくりと車椅子を進めてもトンボは気配を感じて逃げてしまいます。だから、私は、来そうだと思ったところでピントを合せてジーと待つことにしました。そして2時間待って撮れたのがこの写真です。

* Contents *

巻頭言 1 くらしに根づく北欧のIT事情
・・・JD理事 薗部英夫
特集 2 IT(情報技術)時代における生活を考える(PartU)
3 特集にあたって
・・・JD広報委員/特集担当 八藤後猛
知的障害野ある人のIT利用について
・・・香川大学教育学部附属養護学校教諭 坂井 聡
知的障害のある人のIT利用による就労の可能性
・・・ 東京コロニー・コロニー東村山印刷所 矢部洋子
精神障害のある人とIT利用について
・・・作業療法士 山根 寛
聴覚障害のある人のIT利用について
・・・広報委員会「JDジャーナル」編集部
ネットワーク社会におけるバリアフリー 〜視覚障害者のユーザーの立場から〜
・・・東洋大学法学部 三宅洋信
てんかん協会のIT活動について
・・・日本てんかん協会理事 原田秀逸
トピックス 11 JD関係者が障害者施策推進本部参与に就任!
−参与の会のさらなる充実に期待して
・・・全国特殊教育連盟理事長 三浦 和
ノーマライゼーションに想う
・・・国立身体障害者リハビリテーションセンター名誉総長 津山直一
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・JD広報委員 大野智也
加盟団体紹介 15 利用者の視点でよりよい福祉社会を
・・・車いす姿勢保持協会事務局長 鈴木寿郎
16 次号予告・活動日誌(9月)

* 巻頭言 *

■くらしに根づく北欧のIT事情

JD情報通信委員長 薗部英夫

  ストックホルム旧市街の西、ビジネス街の中にカフェ・ルブランはある。4人がけの丸テーブルが8つの喫茶店で、知的障害者のデイケアセンターだ。レジを担当する女性が一人。その横にはスタッフの女性がゆったりとかまえる。立ち上がってそわそわしているスキンヘッドの男性は飲み物の栓抜き専門のようだ。ウエイトレスは女性が2人。厨房にも5、6人が働いている。パスタ、ビーフストロガノフ、ミートパイにジャガイモ料理とわいわいドヤドヤと店を「占領」してしまった東洋人の行列にレジの女性はうつむきながら、画面に出てくるメニューの写真を指で押す。「**クローネです」と音声が出て、お金をもらうと、渡すべき釣り銭(お札やコインの写真)が表示されるので、それを一つひとつ一対一対応で処理するのだ(右写真/キャッシュレジスターに向かう知的障害のある人)。

 このシステムは、横浜のリハエンジニア・畠山卓朗さんとスウェーデンの共同研究で、わが国でも一部で実用化がはじまっている。本場で実際の現場を見てみたかったのだが、翌日、小学校跡地を利用したレストランにも同様のレジがあり、ここでは時間を区切って知的障害のある若者たちがレジをしていた。レジには担当者の顔写真が表示され、その顔写真を指で押すと、担当用にプログラムされた内容でレジとして機能するのだそうだ。

 レジスターに限らず、小学校の障害児の特別学級では、インターネットを活用した授業が行われていた。お宅を訪ねた重度の脳性マヒのある足でパソコンを操作する女性は、大学でITを学び、障害者のIT利用のコンサルタントを仕事としていた。「世界最強のIT国家」を合い言葉に「情報社会への参加」をめざしたスウェーデンは、この10年で景気回復と財政再建をなしとげている。そのポイントが、ハードウェア重視ではなく、人的なヒューマンウェアを大切にし、「いつでも、どこでも、だれでも、無料で」という教育システムを、障害者を含めた全市民を対象につくっているのだということが実感できた。

 そして技術立国・日本である。10万円を切る高性能パソコンが続々と登場しても、障害者の日常生活用具には依然として認められない。夜明け前は夜よりさらに暗いようだ。しかし、その闇の向こうに美しい夜明けはあると「希望の島」で確信できた。


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2001年10月号

JDジャーナル10月号表紙 VOL.21-7 通巻NO.256
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明  なぜか、シャッターチャンスを待っているときは、嫌なことを忘れます。
 それは幼い日、昆虫採集をしているような気持ちと同じかもしれません。実際に私は、昆虫採集をしたことはありませんが、たぶんこんな気持ちでしょう。そして、全神経を集中して写した1枚です。
 秋の風でコスモスの花が揺れて、とまりにくそうな蜂でした。

* Contents *

巻頭言 1 扶養規定考
・・・JD理事 青葉紘宇
特集 2 精神障害のある人の雇用支援施策のあり方をさぐる
3 (1)「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」の報告概要と残された課題
・・・法政大学現代福祉学部 助教授 岩崎晋也
5 (2)精神障害のある人の雇用支援施策のあり方に対する各団体からの意見
◆雇用支援における地域ネットワーク構築について今一歩踏み込んだ提言を
・・・きょうされん 精神障害部会 庄司 完
◆精神障害者の雇用支援施策のあり方をさぐる
・・・全国精神障害者家族会連合会 雇用就労委員・事業部長 村上 清
6 ◆「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」報告書を読んで
・・・全国精神障害者団体連合会 会長 山口弘美
◆人材育成と質・量の確保を−生活支援と雇用支援の有機的展開を求めて
・・・全国精神障害者地域生活支援協議会 副代表 武田廣一
7 ◆「精神障害者の雇用の促進等に関する研究会」報告書を読んで 
・・・全社協・全国社会就労センター協議会精神障害者部会 池山美代子
◆精神障害者の雇用義務制度と今後の課題
・・・日本作業療法士協会 平賀昭信
8 ◆事業の評価と実態の把握
・・・日本障害者雇用促進協会・障害者職業総合センター 主任研究員 松為信雄
◆支援ネットワークの構築を
・・・日本精神保健福祉士協会 常任理事 伊藤秀幸
9 ◆発作があっても働きたい!
・・・日本てんかん協会 常務理事 福井典子
◆精神障害者に対する雇用支援の方向  
・・・日本病院・地域精神医学会 理事 古屋龍太
行動するJD 10 精神障害者政策をめぐるJDの取り組み
・・・JD政策委員/日本精神保健福祉士協会 木太直人
加盟団体紹介 11 長野県障害者運動推進協議会の活動報告
・・・長野県障害者運動推進協議会 事務局長 原 金二
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・JD広報委員 大野智也
トピックス 15 みんな輝く社会へ、あなたの力で−2001年はボランティア国際年です−
・・・日本青年奉仕協会事業部長/2001年ボランティア国際年推進協議会事務局担当 村上 徹也
16 次号予告・活動日誌(8月)

* 巻頭言 *

■扶養規定考

JD理事 青葉紘宇

 人は成人に達すると親から離れ独立したの生活に移っていくが、障害者の中には家族の援助によって生活を築かざるを得ない人がまだ多数いる。その大きな原因は社会的介護の浸透が薄く、社会資源が乏しいためと言われて久しい。介護保険、基礎構造改革、成年後見制度を検討した時も、介護の社会化が中心的な話題となりながら、その後の施策が期待したように展開していない。遅々とした歩みに当惑すら感じる。日本のもっている硬さ故なのだろうか。

 日本の硬さが表現されている代表格の一つに民法が挙げられる。家族関連の中心的な条文を拾ってみたい。
<民法>
 730条 直系血族及び同居の親族は、互いに扶け合わねばならない。
 752条 夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない。
 877条 直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。

 家族を扶け合いの視点からみる人にとっては何も疑問は起きないだろう。しかし、この条文には、家族は万能ではなく限界をもつこと、援助を受ける側にとっても安易な援助はマイナスの要素をもってしまうこと、夫婦間や未成年の子どもと親の間でも社会的介護が不可欠な時代に入っていることなどの発想が微塵もない。自立や社会的介護を進める私たちにとっては、この規定は異質な世界をみる思いである。

 私たちは、家族にはなにものにも替えがたい機能がある事実、すなわち、社会的介護の不備を家族、とくに母・嫁・妻が担っていることを知っているが、介護の過度な負担が家族の大切な絆を逆に損なっている事実も知らなければならない。

家族の基本を規定している法律を改めることなく、解釈で新しい発想を導入して必要とする施策を展開する姿は日本の特性なのであろうか。従来の障害者施策がいつも中途半端なものに落ち着いてしまう原因の一つが、この辺りにあることに気づくべきである。

 施策が大きく動くためには、このままでよいはずはない。社会資源を少しずつ積み重ねる地道な努力を進める一方、民法の規定の持つ保守性を修正する運動を展開していく必要があるだろう。「成人になったら独立を」を合言葉に、私たちの足元を見直す運動を展開していくべきである。


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2001年9月号

JDジャーナル9月号表紙 VOL.21-6 通巻NO.255
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明  毎日沈む夕暮れ、それは決して同じ色の夕暮れではないでしょう。
 その場所に、ちょうどネコジャラシがあったので一緒に写しました。何だか自分が淋しいときに見ると、気持ちまで淋しくなってきます。でも心が元気なときに見る夕暮れは美しいから、きっと感動へと導いてくれるのだと思います。

* Contents *

巻頭言 1 障害者のニーズにもとづく施策を
・・・吉本哲夫
特集 2 本格始動!「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム
(1)3つの委員会の最新動向について
3   −記念事業に相乗効果を
・・・藤井克徳
4   −3つのキャンペーン事業 
・・・松友 了
5   −とどけ、上昇気流 パリアフリー2002
・・・牧田克輔
(2)募金特別委員会の取り組みについて
6   「草の根の手づくりの」募金活動とキャンペーン!
・・・松尾武昌
7   国民の皆さんの手による「草の根」募金運動を展開します!
8 (3)橋本龍太郎議連会長より、激励文届く!
9 (4)「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム組織図
10 「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念事業ぞくぞく開催決定!
トピックス 11 花田副代表をはじめ、JD関係者が障害者施策推進本部参与に就任!
−JDでの政策提言の経験を生かして、前向きに役割を果たしたい 
・・・清原慶子
−JDと障害者施策推進本部に期待する
・・・高橋儀平
nformation 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・大野智也
加盟団体紹介 15 福祉制度の未開拓分野、盲重複障害者の現状と課題
・・・山内 進
16 活動日誌(7月)、お知らせ

* 巻頭言 *

■障害者のニーズにもとづく施策を

JD副代表 吉本 哲夫

 先日、多摩のJR駅で80歳くらいの女性と駅員のやりとりを聞いた。「千葉までの切符をください」「自動券売機に金を入れて◯◯◯円のボタンをおせば切符がでてきます」女性はこのボタンがわからない。しかも、JR・私鉄・JRと乗り継ぎたいという。一緒に手伝ってどうにか切符を買うことができたが、「ひとりでは切符をなかなか買えないので、できるだけ外出は控えている」と嘆いていた。障害者の近距離用の切符は、本人も付き添いも子ども用の切符を利用することになっている。ところがこの切符で自動改札を通ると「違法」の発信がでるので、違法と間違えられて屈辱を感じるという人も多い。この問題は予算委員会で取り上げられたが、「改造費がかさむ」ことを理由に改善は進んでいない。バリアフリー法が制定されて2年目、自動券売機ひとつとってみても障壁はいっこうに改善されていない。科学の進歩が人権や暮らしの後退になるのではかなわない。

 先日、福田官房長官はバリアフリー関係閣僚会議を主宰する閣僚として、視覚障害者の女性とともにJR東京駅の視覚障害者用の券売機やエレベーターを利用するなど、駅構内を点検したと報じられた。この実地検分は、シュミット元西ドイツ首相が訪日の折「日本の公共施設はバリアフリーの取り組みが立ち後れている」と指摘されたことがきっかけになったといわれている。福田長官は、「バリアフリー化に努力する」と感想を述べていたが、実地検分はアイマスクをつけるなど視覚障害者と同じ条件で行われたのだろうか。

 同じ日、東京視力障害者の生活と権利を守る会はまちづくりなどの改善で東京都に申し入れたと新聞で報じられた。このメンバーは、「東京駅のエレベーターは、(点字)誘導ブロックに沿って歩いても行きつかないので利用したことはない。いつも階段かエスカレーターを利用している」と指摘している。交通バリアフリー法や政令・省令には、このような問題を解決する手だては具体的には示されていない。

 国際障害者年以来、障害者のための法・制度が数多く創設・改正されたが、依然として「制限列挙」方式となっており、部分的な改善はありながら、根本的には基本的人権の保障を基礎とした、自立、社会参加の促進にいたっていないという不満は消えない。今後予定されている障害者関係法の見直しにあたっては、障害者の参画など主体者としての意見が反映できるシステム化を切実に望むものである。


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2001年8月号

JDジャーナル8月号表紙 VOL.21-5 通巻NO.254
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 昔から早起きすると良いことがあると言われています。私は朝顔をどうしても写したくて朝早く起こしてもらいました。でも、ちょうど良い高さに朝顔が咲いていなかったのでグルグルとバッファロー号で走り回って探していると、皆光園の前の田んぼの中に咲いていました。あらかじめ被写体に目安を立てておくのですが、時々撮りたい花や昆虫に裏切られることもあります。

* Contents *

巻頭言 1 「最終年記念フォーラム」への期待
・・・板山賢治
特集 2 新しい役員体制が決定!−第9回協議員総会より
終わりのない障害者運動−日本障害者協議会の代表に就任して
・・・河端静子
3 小泉首相との「障害者施策に関する懇談会」意見書
開会にあたって−代表、顧問あいさつより
4 2001年度事業計画
6 第9回協議員総会報告
河端代表をはじめ新しい役員体制決まる!
特別企画 これからの障害者政策の動向
7 1.今後の特別支援教育について
・・・山岡 修
8 2.今後の障害者雇用政策について
・・・朝日雅也
9 3.支援費支給制度について
・・・高橋彰彦
レポート 10 WHO総会 国際障害分類改定版を決定!
・・・佐藤久夫
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・大野智也
加盟団体紹介 15 教育改革で聴覚障害児教育が危なくなる−全国難聴児を持つ親の会
・・・稲田利光
16 次号予告・活動日誌(6月)

* 巻頭言 *

■「最終年記念フォーラム」への期待

「アジア太平洋障害者の十年」最終年記念フォーラム
組織委員会 実行委員長 板山賢治

 2002年を前に日本の障害者団体およびリハビリ専門職関係者は、今、「3つの国際会議」と「3つのキャンペーン」の成功に向けて総力を結集しつつある!
 即ち、(1)第6回DPI世界会議札幌大会、(2)第12回RIアジア太平洋地域会議、(3)アジア太平洋障害者の十年推進キャンペーン大阪会議の開催であり、(1)欠格条項の撤廃および(2)市区町村障害者計画の総点検運動ならびに(3)情報バリアフリーキャンペーンの展開である。

 「『アジア太平洋障害者の十年』最終年記念フォーラム組織委員会」は、札幌・大阪の現地委員会と協力しつつ、前例のないスケールのフォーラム成功に向けて努力を続けている。
 他方、心ある有志議員による「障害者国際会議推進議員連盟」が結成されるとともに政府・障害者施策推進本部は、公式に支援の申し合わせが行われるが、前途は多難である。

<実現したい「3つの期待」>
 このフォーラムを通じて実現したいと思う3つの期待がある。
 第1は、日本の障害者組織・団体の連携、協働の強化への期待である。
 DPI札幌大会は、正に世界の障害者の代表者会議である。わが国もまたすべての障害者組織を挙げて迎えなければ、ホスト国としてのあり方が問われかねない。DPI日本会議からの申し入れと日本身体障害者団体連合会、日本障害者協議会の決断によって「フォーラム組織委員会」への総結集が実現した。このフォーラムを契機にわが国障害者組織の連携、協働がさらに強まることを期待したいと思う。

 第2は、障害者組織と専門職団体との連携の輪のひろがりへの期待である。
 アジア太平洋地域会議のRI関係者と推進キャンペーン代表が、大阪の地でDPI代表者と合同会議をもち、新世紀に向けての「共同宣言」を世界にアピールすることができたら、正に歴史的壮挙といえよう。さらにESCAP琵琶湖会議への参加をも実現し、リハビリ専門家と障害者団体との連携の輪をひろげるフォーラムにしたいものである。

 おわりに、組織委員会のモットーは、「草の根」の「手づくり」のフォーラムの実現である。前例のないスケールだけに、物心両面の課題は多いが、主唱団体を中核に障害者、専門職関係団体のメンバーによる手づくりのフォーラムをと念じている。それが、わが国障害者関係団体および専門職グループの実力を証明することになるからである。


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2001年7月号

JDジャーナル7月号表紙 VOL.21-4 通巻NO.253
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明 私がいつも散歩していると犬に吠えられます。きっと私の車椅子が走行車か戦車のように見えるのでしょう。だから恐くって吠えるのかもしれません。でも吠えない犬もいます。写真の犬は生まれたときから私のことを知っていて、そこの家の子がまだ小学生の時、犬を連れて私のところに遊びに来てくれました。散歩の時写した一コマです。

* Contents *

巻頭言 1 リュックサック方式−オランダの支援費?
・・・佐藤久夫
特集 2 障害者の介護、社会的自立をどう支えていくか
<座談会>障害者の介護、社会的自立をどう支えていくか
<寄 稿>介護システムのこれから
8  ◆精神障害者のケアと自立支援
・・・良田かおり
9  ◆障害<特性>を配慮した処遇を
・・・松友 了
10  ◆ALS等重度障害者の在宅療養上の課題 
・・・金沢公明
私の論壇 11 JDを斬る(2)/真のノーマライゼーションを
・・・大熊由紀子
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・大野智也
15 イベントのご案内他
16 次号予告・活動日誌(5月)

* 巻頭言 *

■リュックサック方式−オランダの支援費?

JD理事 佐藤久夫

 2カ月ほど福祉国家オランダの障害者政策を学んできた。オランダはこの20年間の世界のノーマライゼーションの発展からは取り残されてきたともいえる。手厚い障害者サービスを、一般の地域・職場・学校の中でどう提供するか。しかもそれを政府の一方的な旗振りによってではなく(スウェーデンなどではこれがかなり可能であったが)、利用者、サービス提供者、保険者(おもに介護保険と障害年金保険)の協力によってどう実現するか、が政府の課題となっている。 

 ここで「手厚い」障害者サービスというのは次のようなことである。日本の義務教育学齢児のうち特殊教育諸学校と特殊学級で学ぶ生徒の割合は約1%であるが、オランダでは約8%である。オランダでは知的障害児者入所施設に3.5万人(人口比0.22%)で、日本では11.7万人(人口比0.09%)である。精神病院(精神病棟含む)入院者数はオランダでは2,2万人(人口1万対14人)、日本では34万人(人口1万対27人)である。オランダでは障害年金受給者数(労災含む)が約95万人(人口比5.9%)、日本では約201万人(人口比1.6%、ただし件数であり重複を除いた実受給者数はこれより少ない)。

 以上の数字のうち、オランダでは精神病院入院者数を除いて増加傾向にある。もちろん、他方で普通の教室での援助付きの障害児教育は増え、グループホームや「援助つき自立生活」なども増えつつはある。障害年金は、職場から「能率の悪い」労働者を排除するために使われていると批判する人も多い。

 手厚いサービスが提供側主体で発展し、その結果利用者の社会への統合が損なわれたように思われる。政府はノーマライゼーションの促進を掲げてはいるが、保険財源を使って民間がサービスを提供している仕組みの中で、思うように転換はできていない。教育は税金を使っているが、義務教育レベルでもほとんどが私立学校であり「自由な伝統」を守っている。

 こうした中で、利用者の自己決定とそれを支援する新しい財政方式に期待が寄せられている。それは公的なニーズ認定の後、利用者個人に必要なサービス購入費を支給し、それを使って本人が(必要に応じて家族・支援者の支援のもと)サービスを選ぶものである。

 すでに在宅福祉サービスの分野では6年前から「クライエント附属予算」として在宅サービスについてはじめられ、まもなく入所施設も在宅サービスも選べるようになる。学校教育では児童が予算を運ぶ「リュックサック方式」と呼ばれ、ことしの8月1日から実施される。そのお金で特殊学校に行ってもいいし、普通学級での援助を求めてもよい。

 職業リハの領域でも、障害年金の基金を使ってこの方式を導入しようとしている。


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2001年6月号

JDジャーナル6月号表紙 VOL.21-3 通巻NO.252
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明  雨上がりは、とっても空気がきれいに感じます。そんな中バッファローで走っていると真珠のような水滴が、私の目に入ってきました。よく見ると水滴の中に景色が見えました。その景色を写したくって無我夢中でピントを合わせて撮った一枚です。
 あなたには水滴の中の景色が見えますか?

* Contents *

巻頭言 1 政党の非力さがもたらす5つめのバリア
・・・藤井克徳
緊急特集 2 障害者政策に関する7つの質問
−7政党(自由民主党、民主党、公明党、日本共産党、社会民主党、自由党、保守党)からの回答−
加盟団体紹介 11 車いす者の参加と挑戦
−医療の進歩で、家庭へそして社会へ(全国脊髄損傷者連合会)
・・・妻屋 明
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・大野 智也
15 イベントのご案内他
16 次号予告・活動日誌(4月)

* 巻頭言 *

■政党の非力さがもたらす5つめのバリア

JD常務理事 藤井 克徳

 「障害者対策に関する新長期計画」(1993年策定)の中で、旧総理府はわが国の障害がある人々が置かれている状況を「4つのバリア(障壁)」で言い表した。@物理的なバリア(歩行困難者などに対する道路や交通機関面の障壁)、A情報や文化のバリア(視覚障害者・聴覚障害者などに対する情報の伝わりにくさ)、B意識上のバリア(誤った障害観からくる無知や偏見)、C制度的なバリア(欠格条項など各種の資格制限)というものである。

 この「4つのバリア」をめぐってはその後も折に触れ議論が重ねられ、また障害分野を紹介する際の端的な言い表し方として広く引用されているようだ。最近の議論で目につくのは、全盲ろう者の福島智さん(東京大学先端科学技術研究センター助教授)らの意見で「4つのバリアの中でも最も肝心で深刻なのは制度的なバリアでは」とした主張である。まったく同感であり、障害分野の遅滞の主因を「市民意識のバリア」に矮小化されるようなことがあってはならず、そうした点からも福島さんらの主張は非常に的確であるように思う。

 ところで、「4つのバリア」を改めて問い直していくうちに妙な気分に陥ってしまった。たしかにクリアに言い表した「4つのバリア」ではあるが、今一つスッキリしないのである。結論として至ったのは、もう一つのバリアが存在するのではないかという思いであった。もう一つのバリア、それは「見通しを遮るバリア」である。

 鳴り物入りでスタートした障害者プラン(7カ年計画)も、早くも6年目に入った。年末になると前年度までの進捗状況が政府から発表されているが、いずれの施策項目も目標値に対して80%台、90%台という高い達成率を示している。にもかかわらず、障害分野にまともに身を置く者からすれば心は晴れない。なぜならば、いかに高達成率を示そうがそのことが実態の好転に何ら影響しないことを熟知しているからである。「見通しを遮るバリア」は、制度や施策の不備からくる将来不安というだけではなく、政府の状況認識と当事者のニーズや置かれている実態との余りの乖離の下でますます増大しているのではなかろうか。

 厚生労働省に見る貧寒な障害者行政は厳しく問われなければならないが、もう一つの不幸はこうした事態を座したまま看過している政治の不甲斐なさである。「見通しを遮るバリア」、それは政治によって形づくられたものであると断言してよかろう。


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2001年5月号

JDジャーナル5月号表紙 VOL.21-2 通巻NO.251
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明  散歩をしていると、蝶が何匹も羽ばたいていました。
 よく見るとキャベツがいっぱい皆光園の隣に作ってありました。その畑は少しバッファロー(電動式移動車の名前)が走る道より高いところにありました。蝶の愛のささやきを聞いていたら、キャベツの裏側が見えてきました。キャベツの葉脈に生きるすばらしさを感じて撮った一枚です。

* Contents *

巻頭言 1 ハンコと財布
・・・花田春兆
特 集 2 家族制度と障害問題
3 T.現状に合った家族制度への移行を
・・・調  一興
5 U.民法から見た家族制度と障害者等の問題
・・・田山 輝明
7 V.家族に代わるもう一つの支援
・・・小幡 秀夫
8 W.自立と独立の谷間
・・・寺田 純一
論 壇 10 JDを斬る(1)−21世紀のJDに期待する
・・・堀内生太郎
加盟団体紹介 11 全国精神障害者団体連合会と共に歩んだ10年を振り返って
・・・加藤真規子
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・大野 智也
15 イベントのご案内他
16 次号予告・活動日誌(3月)

* 巻頭言 *

■ハンコと財布

JD副代表 花田 春兆

 1回きりの経験だったと思うが、母校の卒業式で卒業生の全員に、各自の名前を彫った印鑑を同窓会を代表して贈る役を果たしたことがある。個人としての独立の自覚を促すという意味が込められていたのだ。
 自分のハンコと財布を持つことが、自他ともに個人として社会的に認められることの第一歩なのだろう。
 もっとも財布の方は、現在の世の中だからお小遣いをもらわないこともないだろうし、スクールバス通学の子でも財布くらいは持っているだろう。

 ところで、親の持っている財布、ましてや兄弟の持つ財布と、本人の財布が同じであろうはずがない。普通なら当然のこととして通るはずのものが、障害者対象には通用しにくい。
 兄弟だとてお財布は違うのだ。自分のお財布を家族に気兼ねせずに持ちたい…。戦後の在宅障害者の公的年金への要求運動は、ここから始まった。
 が、世間一般は家族があるのに…と思い、大多数の家族は家族で、世話しているんだから何も別に持たせることもあるまい…くらいの感情ですませてしまう。

 正直な話、年金運動の訴えの発信は、社会向けの方が家族向けよりも遥かにやりやすかった。
 ハンコと財布、この両方を奪ってしまうのが、かつての禁治産制度だろう。法律の条文や本当の狙いがどうであれ、重度障害者を名実ともに無能力者扱いすることを、いわば公認するのに役立ってしまっている。
 私の結婚相手になった彼女が、その家族から「よく考えろよ、おまえの相手は準禁治産者同様なんだぞ」とまで言われたそうなのだ。まさに社会的には人間扱いを受けられないことを覚悟しておけ、という宣告なのだ。

 余談はさて置き、この禁治産措置を活用(?)しているのは、むしろ家族であって、障害者本人は被害者に追い込まれているケースが多いのではないかと思われる。
 家族内であっても、成人すれば未婚の障害者だろうとなんだろうと、個々にハンコと財布を持つこと、持たせること、人権の確認もここからの出発になるのだろう。


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2001年4月号

JDジャーナル4月号表紙 VOL.21-1 通巻NO.250
カメラマン 田島隆宏(たじま たかひろ)
写真説明  朝起きると、庭が初夏の香りでいっぱいでした。
 こういう日は必ずっていっていい程、昆虫たちがよく花に蜜を集めにきます。そんな予感が的中したのか蜂が飛んできてくれました。
 興奮のあまりあわててシャッターを切った1枚です。

* Contents *

巻頭言 1 ITを引き寄せよう
・・・高橋 秀治
特 集 2 IT(情報技術)時代における生活を考える
3 T.「生活」に活かすという視点から情報通信技術を考えることの意義
・・・清原 慶子
4 U.障害者に関するIT(情報技術)施策への緊急提言
・・・薗部 英夫
V.それぞれの立場から考える「高度情報通信ネットワーク社会」と生活への影響、そして将来
7 −聴覚障害者への情報保障−まずは身近な情報保障から
・・・坂上 譲二
8 −ITは障害者と社会の関係を変える
・・・梅垣 正宏
9 −IT時代を生きる障害者の支援体制
・・・伊藤 英一
10 −自分らしく働く
・・・堀込真理子
加盟団体紹介 11 家族として学んだ体験と知識を伝え、精神障害者と家族の生活を応援する
−(財)全国精神障害者家族会連合会の活動概要−
・・・桶谷   肇
Information 12 団体・地方・行政の動き、トピックス、お知らせ
・・・大野 智也
トピックス 15 精神障害者の芸術文化活動に関する調査研究事業報告
・・・太田 好泰
16 次号予告・活動日誌(2月)

* 巻頭言 *

■ITを引き寄せよう

JD情報通信委員長 高橋 秀治

 今日、情報技術(IT)の活用は「すばらしい」という段階を通り越して、すっかり日常的になってきた。インターネットを介しての電子メールの交換は、時と場所の如何によらず、瞬時にして世界を駆けめぐるようになっている。それは障害者の社会参加にも大きな役割を果たしており、政府は、こうした情報技術が広く国民に普及するようIT基本法を設け、その利用の恩恵を国民すべてが受けられるようにと気配りをするほどになった。

 これはとてもよいことであるが、現実はどうだろう。
 一口に情報といっても、障害者がそれを利用する場合、その対応は一様ではない。視覚、聴覚、肢体、知的障害者および病床にある人など、それぞれの障害分野に見合ったきめ細かな施策がないとそれは活きない。

 一方、政府の展開する研究開発などの事業は、勢い大企業のプロジェクトにゆだねられることが多い。「障害者への配慮も忘れないように」との勧告はあっても、マーケットとして狭い障害者の手元には届きにくい面がある。よほど強力な指導がないと、ITの恩恵が障害者に届くのは二の次、三の次になる恐れがある。ここに、ITを引き寄せるための私たち自身の現実を踏まえた発言と運動が必要になるにはいうまでもない。

 JDは1998年8月に発表した『障害者に関する総合計画提言』の中で「情報保障」の一章を起こし、今日の状況を予測しつつ、いくつかの課題を示した。主要政策項目として、@日常生活用具にコミュニケーション機器を含める、A情報料金を安くする、B情報公開をすすめ情報提供システムを整備する、C著作権法を見直す、Dコミュニケーション支援のための人材の育成、E地域での情報センターの整備、F障害者自身が研究開発に参加する、など13項目を提言した。これらは、一人ひとりの障害者がITに関われるように促し、それができるような制度的保障を求めたことにつきる。すべて今日的問題であり、その根底にはこの分野におけるノーマライゼーションの実現への願いが込められている。

 この提言をもう一歩深めて具体化したものが3月に発表したJDの「IT施策への緊急提言」である。本協議会は、数年来パソコンボランティアの育成と活用を実施し、ITを社会参加の道具として活動する障害当事者の支援を続けてきた。この機会にもう一度、行政や大企業がIT施策を進めるとき、障害当事者の声に耳を傾けて展開されることを切望している。


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