「総合計画提言」を踏まえ、その後の社会状況の変化に対応すべき課題をもって行われた「所得保障制度に関する特別委員会」の2年間の経緯と、そこでの検討内容を下記のようにまとめて報告いたします。
T.はじめに
U.提言
V.提言をもとにした今後の実際的行動への提案
W.JD(理事会)へのお願い
日本障害者協議会が1998年に行った「総合計画提言」の「所得保障」に関する要旨は次の2点にあった。
@稼得能力の喪失の度合いが高い重度障害者の「生活できる所得の保障」を、「社会的自立」を基本として確立すること。働ける障害者には、障害を理由に低賃金にとどまることのないような経済保障が必要であること A「皆年金」の理念に立ち返り、「年金を基本にした所得保障制度の確立」をすること。併行して、既存の所得保障制度(年金・生活保護・手当)の問題点を明らかにし、ライフステージを基に、「経済的関連サービス」の改善をもはかること以上を提言の基本として、年金・生活保護・手当制度に関する具体的な改善に向けての提言を行っている。
しかし、この「提言」をもとにした年金審議会への障害年金改正への要望書提出、「学生無年金障害者」の審査請求を支援する運動などにおいても、また、各政党、厚生省(現厚生労働省)の2局1部との交渉などにおいても、手ごたえは薄かった。これらの経験から、「提言」を更に進めるためにも、理論的整理(学習)と随時「要望書」の提出や交渉を行うなどの運動(実践)を継続させる必要性を痛感させられ、(学習)をし、(実践)をする場としての位置づけで、1999年9月から当委員会活動が始まった。
2000年3月に成立した「年金制度改正法」では、JDを始めとする障害者団体の強い要望を受けて、審議過程においては各党議員から「無年金障害者の解消」を求める質問が相次いだ。しかし、それらの改善は全く盛り込まれることなく、学生の特例納付猶予制度が新設された。この制度は学生無年金障害者を減らす可能性と同時に、申請免除制度(1/3の国庫負担分が保障されていた)の対象から学生がはずされ、後日徹底して徴収されるという負担の強化を生み出すことにもなった。
続いて「社会福祉基礎構造改革関連法」が成立し、障害者の福祉サービスは、2003年に「措置」から「利用契約」に移行し、「支援費支給制度」が導入されることに決まった。しかし、障害者をとりまく福祉的環境は、高齢者に比べてもいまだ、在宅での生活支援のための福祉施策・サービスが不足し、家族扶養・介護に任されている状況は変わっていない。選べるだけの福祉サービスがない問題と同時に、サービス利用の基本に置くべき障害当事者の所得保障の改善・確立への論議が全くなされないままに2003年が近づくことへの不安と疑問は強まった。さらに、2005年問題(障害者福祉の介護保険への統合が論点の一つとなっていたが・・・)は、こうした障害者の現実を国がどうとらえ、介護保険との関係において課題をどのように整理できるかにかかっている。と同時に、障害者団体側が2003年、2005年問題を通して、所得保障の問題を軸に、家族扶養から切り離した障害者の「社会的自立」とは何か、そのために解決すべき課題が何かを明確に提起し、社会的合意をどのように取りつけていけるかにかかっている。
一方、以上のような国民全体にかかわる制度・施策の変化により、より顕在化されるのが高齢者、障害者の低所得層の問題である。関連して、2000年度には生活保護制度に関する検討委員会が厚生省(現厚生労働省)内に設置され、生活保護制度見直しの検討が進められた。2001年度には国レベルでの低所得層の実態調査が実施され予定であり、制度発足後、初めての抜本的見直しへの期待を抱かせる新しい局面をも迎えている。
こうした状況の変化と種々の制約の中で当委員会での討議は重ねられたが、いくつもの限界があった。最大の壁は、障害種別・障害程度別・地域別によって、年金・生活保護・手当の実情が異なり、問題の共通項が見つけにくいことであった。もう一つの壁は、各障害者団体とも家計調査(収入・支出の関係、及び、社会的諸活動への参加も含めて本当にいくら必要なのか)が実施できていないため、自らの問題点を明らかにできず、普遍化することができないところにあった。
上記のように限界の多い委員会活動ではあったが、次の視点と課題を共有することができた。
@どのように重度の障害があっても、その「社会的自立」と人間的諸権利の実現を可能にするための「社会参加型の生活ができる所得の保障」の整備・確立を目指す
★ここで言う「社会的自立」「社会参加」については以下のように考える | |
社会的自立とは…… | 地域で、親・きょうだいの扶養・介護から独立し、社会的諸サービスを利用しながら、同世代の人々と同じような計画性のある経済生活と社会参加できる生活を営むこと |
社会参加とは…… | 基本は人間的諸権利の実現にある。どのような障害があっても、同世代の人々と同じに教育・就労・情報・政治、そして人間的交流と文化的諸活動の機会と環境と参加が保障され、個々の内在している能力を最大限に発揮しながら、意欲を失うことなく、社会的存在としての自己を成長させていくこと |
Aそのために、所得保障の各制度(生活保護・手当など)における扶養親族による「扶養義務関係の廃止」を、今後の重要な課題とする
B医療・住宅・介護・雇用に関しての制度・施策を別途利用し、これら総合的な生活保障の基本施策としての所得保障制度の位置づけを明確にし、限定する
C所得保障制度は「年金を基本とすべき」であるが、@Aを実現し、Bを視野に入れた所得保障の確立に向けて、社会保険と租税の関係を弾力的に再構築していくなどの努力を厚生労働省に求めていく
D以上のような視点と課題をもとに、成人障害者の尊厳と社会的自立への社会的合意を求めていく
E今後、財源問題(年金財源調達や社会保障費総枠での所得保障諸制度の割合など)への提起が必要であり、そのための経済学・社会保障研究者などの協力を得る努力が必要。何故なら、年金支給総額に占める障害年金支給総額(わずか6%)や無年金障害者救済にかかる費用(予測として年間約900億)や、また、生活保護費の国家予算に占める割合(わずか1.4%)などを正確に明示し、「無年金障害者を救済すると年金が破綻する」「生活保護受給者が増えると国の財政が歪む」などの世論形成を阻止し、実態に即した検討を国・障害者団体が行うようにすることがより重要になるからである
F支援費支給方式に伴う新たな障害程度区分の設定に関しては、JDなど障害者団体が長年要望してきた障害年金などにおける障害認定基準の改善への意見を反映させ、かつ@で挙げた社会的自立、社会参加の実現を指標に入れた新たな障害評価基準への議論と研究を開始するなど、抜本的な改訂作業を前提に行うべきであること
1998年に行った「総合計画提言」と、今回の「所得保障制度に関する特別委員会」で共有された視点と課題をもとに、下記を提言する。
@どのように重度の障害があっても、地域の生活を基本とし、「社会的自立」と人間的諸権利の実現を可能とする「社会参加型の生活ができる所得の保障」への整備・拡充を行う
★ここで言う「社会的自立」「社会参加」については以下のように考える | |
社会的自立とは…… | 地域で、親・きょうだいの扶養・介護から独立し、社会的諸サービスを利用しながら、同世代の人々と同じような計画性のある経済生活と社会参加できる生活を営むこと |
社会参加とは…… | 基本は人間的諸権利の実現にある。どのような障害があっても、同世代の人々と同じに教育・就労・情報・政治、そして人間的交流と文化的諸活動の機会と環境と参加が保障され、個々の内在している能力を最大限に発揮しながら、意欲を失うことなく社会的存在としての自己を成長させていくこと |
A「社会的自立」の基本は、家族扶養からの自立であるため、所得保障(生活保護・手当など)における扶養親族による「扶養義務関係を廃止」する
B総合的(医療・住宅・介護・雇用など)施策から構成される生活保障において、その基本施策としての所得保障制度の位置づけを明確にし、限定する
@障害者の「社会的自立」の実現のために、所得保障制度(生活保護・手当など)における扶養親族による「扶養義務関係を廃止」する
A所得保障は「年金を基本とした所得保障制度の確立」に置くべきである。その前提には、「国民皆年金」を達成するために登場した国民年金制度の主旨の再確認と、制度が生み出した「無年金障害者」の解決が必要である
B「社会的自立」が実現し、「社会参加型の生活ができる所得の保障」の水準は、国が定めた最低生活費である生活保護基準(1類+2類+「障害者加算」)を参考にするが、「障害者加算」については障害による生活費の膨張と、社会参加のための費用などを科学的に算出したものとすること・・・そのための障害者の家計調査を国の責任において、障害者団体と協力して実施すべきであること
C「社会的自立」が実現し、「社会参加型の生活ができる所得の保障」の水準は年金で満たすべきであるが、水準との不足部分が生じる場合は、生活保護制度の活用、或いは、新たな社会手当制度を創設して補填すること
D生活保護制度については、『補足性の原理』(扶養義務調査、資産調査など)の抜本的改正、世帯認定の緩和(同居障害者を世帯分離の対象とする)、住宅扶助の大幅引き上げなどが必要である。加えて、生活保護の運用にかかわる職員の専門性の向上と確保が不可欠であり、申請や運用場面で障害者に対する権利侵害が生じることのない体制への改革を行うこと
E新たに登場した介護扶助(生活保護での介護保険への加入・利用の保障)のように、医療保険、住宅施策、雇用促進における経済的保障など、他制度利用ができるようにし、生活保護を受給しながらも、生活保護への依存を軽減する方向での制度・施策の整備をはかること
F福祉サービスの「利用契約」への移行(2003年)との関連で、厚生労働省に対して障害者の所得保障制度に関する考え方や方向性などの意見と省内での検討事項の開示を求める
G支援費支給方式に伴う新たな障害程度区分の設定に際しては、社会的自立、社会参加の実現を指標に入れ、障害年金や手帳制度の障害認定基準の改訂と連動させた障害評価基準への抜本的改訂を前提に行うこと
@要望活動Aフォーラム
- 当委員会の「提言」をもとにしたJDとしての要望書を作成し、関係省庁、各政党へ提出
- 生活保護制度に関する「検討委員会」や「実態調査」へ向けての要望書の提出
- 年金局(国民年金、厚生年金)、財務省(共済年金)に対して年金別、障害種別、等級別、都道府県別の障害年金に関する統計資料の公開を求めて、正確な実態を把握する
- 厚生労働省に対して障害者雇用促進と所得保障の関係に対する意見を求める場をつくる など
- 当事者を中心とした各障害別の生活実態(家計)を踏まえた「所得保障」に関する提言と意見交換を軸とした集会
- 障害者の「社会的自立」と「社会参加」を、「所得保障」と「扶養義務」の関係から問い直すための集会
- より明確に、所得保障やサービス利用料自己負担につきまとう「扶養義務」撤廃をメインにした集会
- 成人障害者にとっての「生活保護」をテーマにした集会
- 「障害者雇用促進」と「所得保障」の関係をテーマにした集会 など
以上、2年間にわたる委員会活動の経過と提言および今後への実際的行動への提案をし、当委員会は解散をいたします。
今後、障害者の所得保障制度の確立には、個々の障害者団体ごとのとりくみや各団体が連携しての行動と併行して、社会的合意を求めていく努力が必要です。そのためにも、財源問題に踏み込んで課題を明らかにしていかなければなりませんが、障害者団体だけでは限界があることも委員会活動を通して自覚させられました。これらを踏まえて、次のことをお願いいたします。
@今回提案した提言や実際的行動を推進し、2003年をはさんで今後、より顕在化してくる諸課題(施設・在宅福祉サービス利用料自己負担における扶養親族の関係など)への対応に迫られることが予想される。これらも含めてJD内に所得保障問題の受け皿ともいうべき核をつくることが重要である。継続的にとりくみ、課題を整理しながら理事会や加盟団体へ情報を提供し、必要に応じて行動につなぐなど各団体が連携・協力しあう関係を作っていくための主軸となる必要があること
A財源・財政問題を踏まえた具体的数字を用いて、間違った方向での世論形成は防ぎ、社会的合意を得ていくために経済学・社会保障研究者との協力関係をJDとして求め、強化していく必要がある。これらの協力者の力を借りながら、@に関する対応も可能になること
「提言」へのご検討に加えて、以上の二点につきまして、是非取り上げていただきたくお願いたします。