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「大阪児童殺傷事件」に関する全精連役員会の見解

2001年7月7日

全国精神障害者団体連合会
代表 山口弘美

 今回の大阪児童殺傷事件は想像を絶する事件であり、死亡された方負傷なさった方への深い哀悼の意を表します。当事者団体である全精連も大きな打撃をうけております。この様な事件が2度とおこらないように日本の精神医療のあり方に政府としても事後策としての刑法改正、新法制定の方向に動くのではなく、根本的な医療全体のあり方として考えていってもらいたいと思っています。

 まず第1に考えられることは、日本の精神病院の問題があります。病院の治療自体のあり方、40万近くの入院者の中でチーム医療が行なわれているのがどれくらいあるでしょうか。また、精神科特例の問題もあります。病院の中で患者がどういう処遇をうけているか、あまりにも医者中心の動きだけしか見えてきません。外国から見れば、日本のこの入院患者の多さは驚きに値すると思います。また、病院が本当にユーザーである患者にどれくらい時間をかけ治療を行なっているか、もっと質の高い医療を提供する必要があります。この事を考える事は新法、触法精神障害者の専門法等を論ずる以前にやらなければならない事です。

 第2に病院から退院した人へのアフターケアの問題です。病院の訪問看護はどれくらいの間隔で行なわれているのか、退院後の服薬の指導もきちんと行なわれ、医療機関としての地域のささえにどれだけのお金を使わせているのかも問題にしなければなりません。
 また、保健所の職員の精神障害者へのアフターケアはどうなっているのか、実際的に地域で暮らす精神障害者の支え手になっているのかどうか、保健所の増員も含めて、質の高い訪問活動が必要であると思います。また、地域での精神障害者への相談機関を多くつくる必要があると思います。

 第3に、精神障害者の犯罪を検察官決定により不起訴処分にする率があまりにも高すぎる点であります。(79%前後あります)裁判を受ける権利として裁判の中からすべて犯罪の因果関係をきちんとし、かんたんに措置入院に持っていってはいけないと考えます。安易な精神鑑定をすべきではなく、重大事件に関してはきちんとした判断の中で判決を出し、病気との因果関係がなければきちんと刑事処分にすべきであります。

 第4に精神障害者の雇用の問題です。この偏見除去を推進する必要があります。今回の事件のような場合はまず病気と犯罪の因果関係を実証した上でマスコミも報道すべきであって、事件は入院歴、通院歴だけで報道すべきではないと考えます。今回の事件で精神障害者への雇用は妨害され、首を切られた会社員もいます。正看護婦でありながら職場転換された人もいます。彼の犯した犯罪が日本にいる216万人に達する精神障害者に対して大きな影響を与えました。彼は殺傷した十数名の人に謝罪するだけでなく、216万の精神障害者にも謝罪すべきです。現に障害者プランを立て社会復帰に力を注いできた施設や作業所、グループホームにも反対運動があったり、つぶされてきている作業所があります。彼は、日本の精神医療に対しても大きな後退を引き起こしてしまったのです。

 第5に司法介入についてですが、私たちは簡単に司法の介入を認めるべきではないと思います。裁判所も公平であると言い切れるでしょうか。彼らの前に現れる精神障害者は事件を起こした人達です。作業所やグループホーム、地域で必死に生きている精神障害者はそれより遥かに多くいるのです。裁判所も地域も精神医療を深く勉強すべきです。彼らにも偏見があります。現に私の友人で裁判官をしていて分裂病にかかり判事補から判事に任官できなかった人がいます。彼はいま弁護士をしていますが、いまも持っているのが精神障害者への偏見です。司法介入は、精神の病いと地域で必至に生きている精神障害者を正しく理解するのが前提条件です。その上で、はじめて司法介入を考えるべきです。

 今後、政府与党間で話が行われていきますが、刑法改正、新法導入、保安処分には、絶対反対です。それより前にカナダなどの先進国での地域ケアシステムを考えていくことで犯罪への予防を図るべきであると考えます。

全国精神障害者団体連合会
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