●info0706

大阪での児童殺傷事件に関する声明
「わが国に生まれたる不幸」に
決別する新たなきっかけに

団体名 きょうされん
(旧称・共同作業所全国連絡会)
理事長 立岡  晄

 大阪府池田市で発生した児童殺傷事件は、社会を大きく震撼させました。社会復帰を目指して頑張っている精神障害者とその家族、全国各地で障害者の地域生活の実現に向けて日々活動している関係者もまた大きな衝撃を受けました。
 何よりも、被害に見舞われた児童、教職員の方々、そしてそのご家族のご心痛ははかり知れないものがあると思います。ここに、心からの弔意とお見舞いを申しあげます。

 さて、事件発生からこの間、大量の報道がなされ、精神障害者の施策をめぐって新たな動きが顕在化しつつあります。こうした中で、障害のある人々の働く場・生活の場づくりを探求してきた「きょうされん」として、次の5点にわたって意見を述べたいと思います。

(1)事件報道のあり方について

 被疑者の障害(疾病)の事実、犯罪と障害(疾病)の因果関係が、明確でないにもかかわらず、事件当初から被疑者の通院歴や服薬の状況について報道がなされ、あたかも精神障害者による犯罪であると決めつけたかのような報道に対して、遺憾の意を表します。また、連日かつ大量の報道は、精神障害者に対する市民の不安と偏見・誤解を必要以上に増幅させるものであり、この点についても深く憂慮します。
 精神障害について、誤った理解がなされないよう、各報道機関に対し正確な知識と確実な情報、そして冷静で公正な視点に基づいた報道を強く望みます。

(2)精神病・精神障害に対する正しい理解を

 向精神薬の進歩とともに多くの精神疾患は、他の疾患と同様、適切に服薬することで安定した状態を維持できるようになっています。現在わが国には217万人の精神障害者が存在していると言われていますが、その中には社会復帰を果たし、地域で生活している人たちも数多く含まれています。旧態依然とした偏見や誤解が、精神障害者の社会復帰・社会参加の妨げとなる場合が少なくありません。報道機関のみならず、市民のみなさんの精神病・精神障害に対する正しい理解とあたたかな対応をこの機会に改めてお願いします。

(3)地域医療体制の確立を

 精神障害と医療は決して切り離せないものでありながら、社会的入院、精神科の他科との大きな格差が残る医療制度など多くの課題が山積しています。とくに地域医療体制と精神科救急体制の早急な整備の必要性について述べたいと思います。精神障害者が地域で生活するということは、健康な人と同様、時に過度のストレスにさらされるリスクを負うことも意味します。退院後も、本人のSOSにすばやく対応できる体制を整えることはもちろんのこと、アウトリーチ(いわゆる「出前」の医療活動)機能を備えた医療制度を視野に入れ、地域の中で一時的にしろ精神障害者が医療的空白に置かれないようなシステムを整備することが必要です。

(4)共同作業所の有用性と地域生活支援システムの飛躍的な拡充を

 今回「きょうされん」は緊急調査を行ないました。この結果、共同作業所(小規模作業所・通所授産施設)を利用している精神障害者の検挙者発生率は0.07%で、これは国民全体の検挙率0.25%よりはるかに低く、また、精神障害者全体の検挙者発生率0.09%よりも更に低いことが明らかになりました。このことは地域の社会資源につながっていることが如何に大切であるか、共同作業所などの社会福祉施設・職業リハビリテーション施設の有用性を示すものだと思います。精神障害者に対する地域生活を支援する施策の現状は、医療施策と比べ、また身体障害者や知的障害者の施策と比べ、余りに貧寒な実態にあります。グループホームなどともあわせ、地域型の社会資源の飛躍的な増設を希望します。

(5)国際的な原則・水準に基づいた法制・施策の整備を

 精神障害者に対する法制や施策に関しては、国際的な規準が数多く示されてきました。例えばWHO顧問医によって行われた「日本における地域精神衛生―WHOへの報告」は、3分の1世紀も以前のものでありながら医療システムや福祉施策のあり方について、今なお示唆に富む内容を含むものです(いわゆるクラーク勧告・1968年)。また、1991年11月、国連は「『精神病者の保護及び精神保健ケアの改善』に関する決議」を採択しました。このなかで「すべての患者は、自己の健康に関するニーズに適合した医療的及び社会的ケアを受ける権利を有し、または他の病気の者と同一の基準に従ったケア及び治療を受ける権利を有する。」(原則8ケアの基準)と明確に述べています。
 今回の事件を機に刑法改正や特別立法の動きが取り沙汰されていますが、今なすべきは部分的で対症療法的な議論ではなく、体系的で本格的な精神障害者施策を確立していくことです。その際、前記したような国際水準に基づいて対応していくことが肝要です。
 「わが国十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに、この国に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」は、呉 秀三が1918年に唱えた言葉です。今回の不幸な事件が「・・・この国に生まれたるの不幸・・・」と決別する、新たな端緒となることを切に願います。

2001年7月6日

団体名 きょうされん (旧称・共同作業所全国連絡会)
 東京都中野区中央5-41-18-5F
TEL 03-5385-2223 FAX 03-5385-2299 E-mail LED04205@nifty.ne.jp


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