障害者福祉の新たな法制度の確立をめざして−障害者福祉法への試案− /1997年1月31日


目次



□はじめに


 わが国における障害者施策は、「国際障害者年」(1981)ならびにこれに続いて展開された「国連・障害者10年」(1983〜1992)を通して大きな発展をみることができました。これらの経緯を受けて、1993年より「アジア太平洋障害者の10年」が新たに設けられ、同年12月には障害者基本法の制定、1995年5月の総理府による市町村障害者計画策定指針に続いて、12月にはわが国の障害者分野初の数値目標・年次計画が盛り込まれた「障害者プラン」が策定されました。また、1996年7月には厚生省大臣官房に障害保健福祉部が新たに設置され、わが国の障害者施策は新たな局面にさしかかりつつあります。

 しかしながら、国際障害者年において掲げられたメインテーマである「完全参加と平等」ならびに「ノーマライゼーション」などに照らしてわが国の障害者がおかれている現実をつぶさに顧みるとき、まだまだ多くの課題が山積みしていると言わざるを得ない状況にあります。とくにこの時期、立法ならびに行政機構のあり方に深く立ち入っていくことが求められているのではないでしょうか。

 今回まとめられた「障害者総合福祉法」への試案は、1995年5月より検討をおこなってきたものです。障害者施策の実施主体が市町村へと移行する中で、障害種別による制度間格差の撤廃、福祉サービス根拠法である3法(身体障害者福祉法・精神薄弱者福祉法・精神保健及び精神障害者福祉に関する法律)の分立状態と縦割り行政による制度の谷間におかれている難病・自閉症・てんかん等の障害者問題の改善に対しては、早急に対応がなされる必要があります。

 今回の「試案」は、これらの諸問題の解決を前提に、あるいはそれを目指して提起されたものです。しかしながら、必ずしも充分討議がなされたとは言い難い問題も多く、今後さらに検討を進めなければなりません。とともに、「障害者総合福祉法」の実現のために、関係各位のご理解はもちろん、障害者およびその家族を中心とした当事者が、より一層協力して推進していく必要があります。

 本試案作成にあたりご助成くださいました財団法人安田火災記念財団に心より感謝の意を表します。


□障害者福祉法への試案


<はじめに>

 わが国には障害者を対象とした福祉サービスの根拠法として、障害種類別・年齢別に、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、精神保健福祉法、児童福祉法、老人福祉法の5つがある。とくに障害種類別の分立はつぎの問題を生み出しており、地方分権化が進む中にあって、国の強力なバックアップが必要であり、総合的障害者福祉法が求められている。

 第1に、目的、対象、サービスを異にする3法の分立状態は、自立と社会参加(障害者基本法)を共通目的とする今日の国民の要求、時代の要請に対応しにくい。総合的な法の中で必要に応じて障害種別のサービスを設けるべきである。

 第2に、福祉サービスの地方分権化、施設福祉から地域福祉への重点の変化に対応しにくい。市町村障害者生活支援事業(障害者プラン)などの実現にとって縦割り制度は足かせである。市町村のサービスを自宅か身近な場所で受けられるよう、障害種別(や年齢)で区分せずニーズに応じた共同利用とすべきである。

 第3に、障害種類別の法体系は専門化・特殊化に眼目があり、対象の限定を志向しているために普遍化と拡大の要求に応じにくい。総合的な法を制定し、高次脳機能障害や難病をはじめとする多くの「谷間」の障害をなくす必要がある。

<総 則>

(目的)

 この法律は、日本国憲法第25条の理念および障害者基本法第3条の理念に基づき、障害者の自立と社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動への参加を促進するため、障害者を援助し、その福祉の増進を図ることを目的とする。

(社会参加の機会の保障等)

  1. すべて障害者は、社会を構成する一員として、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が実質的に保障されるものとする。
  2.  すべて障害者は、その個別の必要に応じて本法の援助を受ける権利を有する。

(国、地方公共団体および国民の責務)

  1. 国及び地方公共団体は、本法の目的を達成するため、本法に規定する施策を積極的に実施しなければならない。とくに重度障害者の地域生活を支えるため必要な社会福祉従事者を質量ともに確保するよう努めなければならない。
  2. 国は、障害者への援助にかんする不公平が生じないよう、地方公共団体に対する財政上の措置、その他必要な措置をとらねばならない。
  3. 障害者に関する施策は、個人の尊厳及び自己決定の権利を尊重しつつ行なわれなければならない。
  4. 国民は、障害者が社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加することに対して、社会連帯の理念に基づきすすんで協力するよう努めなければなら ない。

<障害者の定義および手帳制度>

(障害者の定義)

 この法律で障害者とは、身体的または精神的障害にともない、日常生活または社会生活が制限されているため、この法による援助の必要な者をいう。

 (注)援助の必要性の判定は、援助の申請に基づいて援助の実施機関が行う。

(手帳)

  1. 本法の福祉サービス(ホームヘルパーなど)およびその他、国・自治体等による諸サービス(税控除、在宅投票、駐車禁止除外標識交付、公営住宅優先入居、通院医療費公費負担など)の利用手続きの簡便化のため、援助メニューの一種として手帳の制度を設ける。
     (注)手帳は各種サービス利用の簡便化のための制度であり、サービス利用の絶対要件とはしない。とくに福祉サービスでは手帳に依存せず独自のニーズ評価を行うことを原則とする。ただし手帳をもって「障害の証明」(機能障害および日常生活・社会生活能力の制限が存在することの証明)書類に代えることができる。「その他、国・自治体等による諸サービス」は手帳を提示するだけで、あるいはその他の証明書の提示によって、受けられる。
  2. その名称は「障害者手帳」または「社会サービス手帳」とする。
  3. 障害者(15歳未満の児童の場合は親権者等)の申請に基づいて、都道府県知事が発行する。
  4. 障害の状態が変動している場合でも必要に応じて手帳の対象とするため、手帳の有期認定制度を設ける。永続が見込まれる場合には期限を設けない。
  5. 機能障害の状態および日常生活・社会生活能力の制限の状態を総合的に評価する認定基準を省令で設ける。また障害の程度等級として、「重度」と「その他」の2区分をする。手帳には機能障害の分類と障害の程度を明記する。
    (注)現行の対象者に加えて、補聴器を必要とするすべての人や職業生活に制約を受けている慢性疾患患者も含めるなど、対象者の拡大を図る。評価は障害者援助センター等において学際的なチームによって行う。
  6. 障害の程度等級を含む認定基準は、福祉サービスおよびその他の社会サービスの必要度(すなわち社会生活の困難度)を反映したものとする必要があるが、障害(機能障害と能力面の障害)が不変でも環境面が時代とともに変化すると社会生活困難度も変化するので、認定基準の定期的見直しを行う。
     (注)厳密にいえば、同じ障害でも、その人の住む地域、その人の職業などによって社会生活困難度は異なる。また、一つの基準・等級表で目的の異なる各種のサービス・割引の必要度を示すことにも無理がある。しかしこれらの問題を解決しようとすると、多くの種類の評価判定基準が必要となり、かつ頻繁に再判定を必要とするなど、複雑で実効性が乏しくなる。また社会生活困難度を障害の等級とすると、雇用率上の重度障害者として採用された人が就職したとたんに軽度障害者とされるなどの問題も生じる。したがって社会生活上の困難度と障害の等級とは、個別事例の等級判定で関係づけるのでなく,統計的な相関をもたせるのが適切である。その際国民の一般的な生活水準との格差を重視する。

<援助の実施機関等>

(障害者福祉審議会)

  1. 国は中央障害者福祉審議会を置く。
  2. 都道府県障害者福祉審議会を置き、その下に不服審査部会を設ける。
  3. 市町村は市町村障害者福祉審議会を設置するよう努めなければならない。
  4. 障害者福祉審議会は障害者基本法による協議会の部会とすることができる。
  5. 障害者福祉審議会の委員の3分の1以上は障害者団体代表をもってあてる。
  6. 障害者福祉審議会は諮問に答えるほか、調査し、意見具申をする。

(援助の実施者)

 この法律に定める障害者への援助は原則として市町村が行う。

(都道府県の業務)

  1. 市町村のサービス水準向上のための情報提供およびその他の援助と指導
  2. 市町村間の連絡調整
  3. 障害認定機構およびサービス調整の中核としての障害者援助センター(旧更生相談所)の設置・運営
  4. 手帳の判定・交付
  5. 更生医療機関の指定など

(国の業務)

  1. 障害者援助事業に関する基準の策定
  2. 都道府県への指導等
  3. 委託事業(精神障害者社会復帰センター等)

(障害者福祉司)

  1. 市町村は障害者福祉司を置かねばならない。
  2. 都道府県は障害者援助センターに障害者福祉司を置かねばならない。
  3. 障害者福祉司は、障害者への相談援助を行うとともに、市町村および都道府県の職員に対する専門的技術的指導を行う。
  4. 障害者福祉司は、社会福祉士または社会福祉主事の中から任用する。

(民生委員の協力)

 民生委員は本法の施行に関して市町村に協力する。

(障害者相談員)

  1. 市町村は障害者への相談を障害者相談員に委託することができる。
  2. 市町村長は幅広い障害者団体の意見をきいて障害者相談員を委嘱する。

(不服申し立て)

 本法に基づく援助の決定及び実施に不服がある者は、都道府県障害者福祉審議会不服審査部会に対して審査請求をすることができる。

<障害者福祉施策の体系>

基盤的施策 障害判定(訪問判定を含む)と手帳の交付
情報提供・相談援助(行政、全施設、相談員)
障害者情報ネットワーク事業
障害者のニーズ調査
障害者団体の育成
障害者理解の促進とボランテイア活動の条件整備
機能障害の軽減・生活動作自立のための施策 更生医療
障害者健康診査事業
補装具
日常生活用具
障害者リハビリテーション施設
従来の身体障害者更生施設、精神薄弱者更生施設、
援護寮等をもふくみ盲重複・ろう重複等にも対応。
補装具製作施設
生活の場に関する施策 グループホーム事業(重度者対応含む)
障害者生活施設
グループホームも生活施設も法的には一本化し、運用で特定の障害を中心とするものや介護より看護を重視する難病者用施設なども設ける。
日常生活支援施策 居宅介護等事業(ホームヘルパー、給食、入浴)
デイサービス事業
ショートステイ事業(レスパイト含む)
地域福祉拠点施設事業
障害者生活支援事業
移動・コミュニケーション施策 ガイドヘルパー事業
手話通訳者・要約筆記者事業
視覚障害者情報提供施設
聴覚言語障害者情報提供施設
就労支援施策 社会適応訓練事業(職親委託事業)
障害者通勤寮
福祉工場(就労重視、高工賃志向)
社会就労施設(訓練と福祉就労、従来の授産)
盲人ホーム
売店設置・たばこ小売り人許可・製作品購買
その他の社会参加促進施策 社会参加促進事業(社会活動総合推進事業を含む)
自立生活センター事業
重度障害者通所活動施設(デイサービス施設等)
障害者福祉センター(現A型、B型を含む)
障害者休養センター(更生センター)
国際交流促進事業
障害者の視点による生活環境点検事業

(注)障害者の希望によるニーズ評価、援助プラン作成、援助コーデイネーター(ケースマネージャー)の活用が望まれるが、まだ詳しい内容が不明なので表示は避けた。

(施設利用者の意見の反映)

 障害者福祉施設においては、施設を利用する障害者の意見を施設運営に反映させるために、施設を運営する法人の役員に利用者またはその保護者の代表を加えること、利用者自治会の結成とその活動を支援すること、苦情処理のための第3者機関を設けること、その他効果的な措置をとるよう努めなければならない。

<費 用>

(国、地方公共団体の費用負担)

 本法に規定する障害者福祉施策の費用の負担は、国2分の1、都道府県4分の1(政令市は2分の1)、市町村4分の1とする。

(利用者からの費用徴収)

  1. 市町村は障害者の援助に要した費用のうち、食費・住居費など障害と関係なく必要とされる一般的費用の部分を当該利用者から徴収することができる。
  2. 費用徴収の範囲は利用者またはその配偶者とする。

□「障害者福祉法」の制定に関する研究委員会 委員名簿

委員長 佐藤 久夫(日本社会事業大学教授)
副委員長 松友 了(全日本手をつなぐ育成会常務理事)
副代表 吉本 哲夫(障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会会長)
委員 朝日 雅也(日本職業リハビリテーション学会理事)
岩崎 晋也(共同作業所全国連絡会)
上田 敏(日本リハビリテーション医学会常任理事)
氏田 照子(日本自閉症協会理事)
岸野 洋子(全国障碍者自立生活確立連絡会)
小坂 一郎(鉄道弘済会社会福祉部長)
坂本 秀夫(全国難病団体連絡協議会事務局長)
島本 久(全国精神障害者家族会連合会総務部長)
鈴木 勇二(日本てんかん協会会長)
高橋 一(日本精神医学ソーシャルワーカー協会事務局長)
福地 周一(福岡市障害者関係団体連絡協議会副会長)
長谷川 三枝子(日本リウマチ友の会理事)
三重 多美子(東京都身障運転者協会理事)
茂木 俊彦(全国障害者問題研究会全国委員長)
八宗岡 峰起子(全国難病団体連絡協議会副会長)
吉田 勧(日本てんかん協会常務理事)
専門委員 小澤 温(大阪市立大学生活科学部人間福祉学科助教授)
河野 康徳(昭和女子大学教授)
指田 忠司(障害者職業総合センター研究員)
清水 圭子(元目黒区障害福祉課勤務)
矢島 里絵(都立大学人文学部社会福祉学科助手)
記録 小倉 明子(横浜市瀬谷区役所)
赤坂 真美(日本社会事業大学大学院)

※役職等は委員委嘱時になります。


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