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<分科会 V>
自己決定・自己選択の理念を明確に―障害者介護のゆくえ―これでいいのか「障害者排除法」
−社会参加を阻む法律の壁=欠格条項 をなくそう−


発言者 尾上 浩二 (自立生活センター・ナビ代表)
小田島栄一 (ピープルファーストはなし合おう会)
服部  隆 (全国精神障害者団体連合会)
根来 正博 (全日本手をつなぐ育成会政策委員)
平岡久仁子 (日本ALS協会幹事)
橋本みさお (さくら会会長)
進 行 太田 修平 (障害者の生活保障を要求する連絡会議事務局長/
JD政策副委員長)

もくじ

介護保険と障害者の介護保障  


<発言者> 尾上浩二(自立生活センター・ナビ代表)

 1994年の高齢者介護保険・自立生活支援システム研究会の報告書では、さまざまな社会参加をする自立生活を支えるのが介護保険といわれていましたが、実際に法律ができ、しくみが決まってくると、最初の理念と違っている部分がたくさんでてきました。
 1つは自立の考え方です。介護保険では介護を必要としない状態を自立といいます。ADLの自立と自己決定に基づく自立生活では、意味が大きく違います。
 2つめは、介護保険には社会参加、コミュニケーション支援、雇用や就労、移動サービスについては一切含まれていません。
 3つめは、家族支援なのか本人支援なのかです。重度の障害があっても一人暮らしやパートナーとの生活ができることが、サービスモデルのあり方だと思いますがそれがないのです。
 4つめは、利用者本人の意志・自己決定に基づくサービス選択かどうかです。例えば要介護認定が最大の5で36〜37万円のサービスが使えるとしても、すべてをホームヘルパーに使えるしくみではありません。
 5つめは、ケアマネジメントの内容・手法の違いです。介護保険のケアマネジメントは専門家が、今あるサービスをどう組み合わせるかという手法です。これに対し、私たちはホームヘルプはもとよりガイドヘルパー、手話通訳や要約筆記のようなコミュニケーション支援、住宅や雇用支援、ピープルファーストの人たちの自己決定を支援するファシリテーター等、自立と社会参加全般の支援を行います。本人の自立支援計画を策定するしくみが必要なのです。
 6つめは、障害者特有のニードをふまえた供給体制の育成・認知の問題です。90年代はさまざまな在宅サービスが整備されてきた時代といわれ、この背景には障害者運動の功績があります。介護保険ではサービス指定業者の多様化といわれますが、私たちが積み上げてきたような障害者の自立や社会参加を理解する供給主体が出てくるのでしょうか。もし出てこないなら、行政の責任と同時に私たち当事者運動にとっても大きな課題ではないかと思います。
 感情的に全面否定や全面賛成ということではなく、介護保険でカバーできる範囲がどの程度なのか、その意義と限界性についての議論や障害者施策としてどうしていくのか、という議論が重要なポイントであると思います。

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知的障害者の立場から  


<発言者> 小田島栄一(ピープルファーストはなし合おう会)

 僕は2年前に自立生活をしました。自分で考えて自分で判断して、東京のピープルファーストの人たちとみんなで闘っていきたいと思っています。自分がピープルファーストで活動して講演に行ったりするときに一番困るのは、ヘルパーがお手伝いに来てくれなかったら遠くに行くことができないことです。それをやってくれるのが支援者だと僕は思っています。
 また、無理矢理施設に入れるのはよくないと思います。その子にとって自分がどういうことがいいのかを親が決めることはやめてほしいです。何でもできないからだというけれど、その子も大きくなればなんでもできると思います。お金の使い方でも施設では、いくら使うの、何に使うのと職員の顔をいちいちみるのが嫌でした。「あんたちょっと使い過ぎよ」とか「あんた少しこの頃たるんでるよ」とか言われると、自分も腹を立てやっぱり乱暴します。そんなことが昔はありました。

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精神障害の立場から 


<発言者> 服部 隆(全国精神障害者団体連合会)

 現在日本には160万人の心の病をもった方がいます。ノイローゼとか神経症をいれるともっとたくさんいると思います。我々はいろいろな制約を受けて暮らしています。偏見や差別、欠格条項などはたくさんあります。
 私はここ数年、全国精神障害者団体連合会に携わってきました。全国からくる電話による相談のピアカウンセリングや情報発信は大切な仕事です。地域により精神障害者が置かれている立場は違います。理解を示すところは当事者や援助者の活動が活発です。その反対に理解されず家に閉じこもっている人たちもたくさんいます。安心できる場所が不足しています。一つの光として東京都社会福祉協議会の地域福祉権利擁護事業として精神障害者も対象になったことです。しかし、人的資源と社会的理解が得られないのが現状です。

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介護保険と知的障害者


<発言者> 根来正博(全日本手をつなぐ育成会政策委員)

 知的障害の場合、入所施設の措置は、介護者または保護者である親の将来への不安解消策として使われてきた側面が否めません。アセスメントといっても本人の把握の仕方すら手法として確立しておらず、サービス提供も用意された箱(施設)の中だけで滞りなくすまされるわけです。本人は「どう暮らしたいか自分で決めたい」と思っていますが、それに答えるだけの環境がまったく整っていません。必要なのは、個別なニーズに個別に対応するしくみですが、ここが一番難しい。意志能力がないと片づけられている場合もあるため、自己決定・意思確認についてもっともっと掘り下げた対応が必要です。
 介護保険に絡む点では、ホームヘルプ居宅派遣事業を拡充していく必要があると思います。ただし、ホームヘルプサービスというと高齢者対応だけだと思われている部分があります。介護保険が始まるにあたり、老人局で一括予算として計上されていたホームヘルプの障害者用の予算が分別され、200億円分確保されています。国の方向として知的障害は、本人支援の視点でのホームヘルパーの拡充を打ち出しています。国としては本人支援の視点で、そこまで言い切ってはいませんが、可能性として例えばグループホームとかアパートで一人暮らしの人へもヘルパーを供給していく。しかし、実施主体は市町村なのでその意向次第です。 また、知的障害の分野ではガイドヘルパーを確立していく必要があります。さらに重要なのが本人支援だけでなく、そこへたどりつくまでの家族支援です。家族だけで家でみるのではなく、家のようなタイプの預かる拠点を用意し(高齢者でいうデイサービス、ショートステイ)、不定期、不定量の対応に即応する形で整えていくことが必要になります。そうしていくことが地域での生活を支え、自立へ向かうための生活基盤が、家族と営む部分を支援することで完結するのではないかと思います。市町村は介護保険で高齢者のヘルパー養成に精一杯で、知的分野のヘルパーまでできないというのが本音のようです。その意識を変えていくことから始め、道のりは遠いと思いますが、ホームヘルパーの活用等により少しでも道のりを埋められればと思います。


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難病の立場から


<発言者> 平岡久仁子(日本ALS協会幹事)

 筋萎縮性側策硬化症(ALS)は、全国で約4500人の方が難病患者としての登録をしています。ALSは介護保険の対象に特定疾病で加えられますが、ALSの患者に限っていえば、さまざまな生活のための支援がほとんど組み込まれていないと感じています。
 まず、ホームヘルパーにも吸引行為を認めてほしいのです。気管切開すれば必ず何分かおきに吸引が必要です。決められた時間内だけのヘルパー派遣では命が保てません。第二に、コミュニケーション方法に慣れた人を確保することです。全身性障害者の介護人派遣制度は、実施していない市町村がたくさんあります。実際の時間単価、実施要項を含めかなりの差異があり、必ずしもこの制度が十分機能しているとはいえません。全国的な普及と時間単価の引き上げが重要です。また、介護保険が導入された際、介護人派遣制度と2本立てで使えるかどうかが問題です。次に半日ないし1日近く滞在できる訪問看護体制も必要ではないかと思います。それと福祉機器の開発です。ALSの患者は日々障害が進行し、昨日まで使えた福祉機器が今日は使えないこともあります。PT、OTの地域での活動を進めてほしいのです。介護保険は基本をカバーする制度と理解し、障害者福祉分野では特殊な介護の十分な上乗せをお願いしたいと思います。
 それでは、当事者の橋本さんからお話しいただきます。通訳(※)は介護者が口の形を読みながら行います。

<発言者> 橋本みさお(さくら会会長)

 マイクをもっているのが夜勤の学生で、もう1人の方が視線ヘルパーです。 今、4500人の患者で24時間他人介護が成立しているのは私だけです。医療依存度が大変高く、ヘルパーが吸引できないため吸引行為にしばられています。慢性的な介護者不足です。

※通訳は、橋本氏がかすかに動く口でつくる母音の形を読み取り、ア行から横に行を言い進める。橋本氏が瞬きによる合図を送り、1字ずつ拾っていく。通訳になれるまで2〜3カ月かかるという。

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JDとして


<発言者> 太田修平(JD政策副委員長)

 介護保険については、JDの介護制度に関する研究会を中心に、再度厚生省との折衝を持っていきたいと考えています。
 自立と社会参加が保障される障害者の介護制度を実現することを柱に、医療モデルの介護保険では対応できない部分について、障害者施策からきちんとサービスしていくよう要求を言い続けていきたい。介護保険は医療モデルといわれますが、社会モデルの介護制度と改めて強調しておきたいと思います。障害者の介護保障施策を通じて高齢者の施策を変えられるような運動という展望を持っていいのではと思います。

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