発言者 | 金井恵美子 | (社会保険労務士) |
菊池江美子 | (東京・無年金障害者をなくす会) | |
調 一興 | (日本障害者協議会代表) | |
助言者 | 吉本 哲夫 | (障害者の生活と権利を守る全国連絡協議会会長/ 日本障害者協議会副代表) |
進行 | 池末美穂子 | (日本福祉大学社会福祉学部教授/ 日本障害者協議会所得保障制度に関する特別委員長) |
堀井 恵一 | (東京都知的障害者育成会) |
<発言者> 金井恵美子(社会保険労務士)
老後の所得保障として年金があります。公的年金には一号から三号まで番号がついていますが、番号によって年金の取り方も給付の仕方もちがいます。本当にこれで平等といえるのかと疑問に思っています。さらに問題なのは、収入がないために毎月の保険料を支払っていなかった人が障害をもったとき「障害基礎年金」がもらえないのです。
国民年金は、平成三年から強制加入になりました。無収入である学生は、申請免除があります。この手続きをしていれば障害をもったとき、申請免除期間は保険料を納めた期間の三分の一として「老齢基礎年金」に反映されました。
平成十一年改正案では、強制加入は同じですが、申請により保険料は猶予(学生納付特例期間)という仕組みに変わろうとしています。申請の手続きが済んでいれば、障害をもったとき、全員が「障害基礎年金」の対象となるわけですが、申請を忘れていた人は無年金となるという落とし穴があるのです。また、学生納付特例期間は「老齢基礎年金」には反映されません。改正案もこれまでの繰り返しになってしまうのではないかと危惧しています。
<発言者> 福井典子(日本てんかん協会理事)
介護保険は障害者施策の分断を図るものだと懸念されてきましたが、そのとおりのことが今起こっています。第二号被保険者については十五の特定疾病に限ってしか介護の対象にされません。六十五歳以上の人は、まず介護保険の認定を受けてサービスが提供されることになるわけですが、ガイドヘルパーなど介護保険にないサービスは引き続き障害者施策からサービスを受けることになるのです。これまで障害者が受けてきたサービスが低下しないよう要求していかなければいけないと思います。
介護保険では民間企業が介護サービスを担う自治体も多いわけで、個別の障害者への対応、知識、技術などに不安を感じています。再三にわたる運動や交渉の結果、ようやく厚生省より自治体に向けて介護保険と障害者施策との適用関係について「業務連絡」が出ました。しかし、これは基本的な内容を示しただけで根本的な対処にはなりません。障害者の特性にあった社会保障政策の必要性を強く訴えていきたいと思います。
<発言者> 菊池江美子(東京・無年金障害者をなくす会)
「学生無年金障害者審査請求運動」は兵庫県尼崎市の無年金障害者の会から始まりました。一九九八年一月、八名の無年金学生が起こした集団裁定請求を皮切りに、現在まで三つのグループに分かれて集団請求が行われており、全国で三十九名の無年金学生がこの運動に参加しています。障害の内訳としては、肢体不自由、視覚障害、精神障害です。一九九八年七月には「学生無年金障害者の審査請求を支援する会」が結成されています。
いま、第一次から第三次まで三十九名全員が審査請求を終わっています。三十九名全員の公開審理を検討しているところです。公開審理で無年金の問題が解決できるとは思っていませんが、障害者の所得保障がおざなりにされてきたことがこの運動の背景にあります。集団で取り組み、お金のかからないだれでもできるシステムを使って大きな運動にしてきました。
今後はこの学生無年金障害者問題を通して、障害者の自立を達成するための運動をどう広げていくのかが問われることになるのだと考えています。
<発言者> 調 一興(JD代表)
所得保障問題は極めて重要な問題です。障害のある人はこれを突破しない限り自立できません。
地域で生きていくということは、「衣・食・住」が必要なのです。衣・食だけでは暮らしていけません。住宅に関する何らかの所得保障がなければ本当の意味での所得保障にはならないのです。
作業所のなかには、デイセンター的にやっているところもあるので一概には言えませんが、いま、授産所で働いている知的障害者の平均収入は一カ月一万円、精神障害者は七〜八千円、身体障害者が二万円程度です。地域で暮らしている人たちも家族の収入の中でなんとか生きているのです。経済的に自立できない状況です。そういう現実なのです。
政府はノーマライゼーションを掲げています。しかしながら中身は何もありません。私はそれは許せないと思うのです。そういう意味で日本の障害者手帳導入制度は全面的に見直すべきだと思います。私は障害三級ですが、私にあう仕事があればハンディキャップはありません。条件があえばきちんと仕事ができるという障害者は大勢いるのです。たとえば、ろうあの方のコミュニケーションや情報の保障をすることによってかなりの方が企業に就職することが可能となるでしょう。また、バリアフリーを実現することによって、職業的なハンディキャップがほとんどなくなるという方もおられるでしょう。一生懸命努力しても生活ができない人にこそ、所得保障をきちんとして、地域で暮らせる状態をつくるべきだと思います。
ノーマライゼーションというのは、あたりまえを普通に楽しめる、他の人と同じように生活できる条件をつくるということなのです。相当な決意をもってかからないと、この所得保障の問題は議論するだけに終わってしまいます。腹をすえて議論してください。